平成21年度 全国発明表彰の受賞について


平成21年 7月31日
財団法人鉄道総合技術研究所

財団法人鉄道総合技術研究所の役職員が全国発明表彰を受賞しましたのでお知らせいたします。
 なお、表彰式は、7月29日(水)15時から ホテル オークラ(東京都港区)において行われました。

1.平成21年度 全国発明表彰 特許庁長官賞 および 発明実施功績賞
特許庁長官賞
  受賞業績: 鉄道車両用セミアクティブ制振装置の発明
  受 賞 者: 財団法人鉄道総合技術研究所
 車両構造技術研究部 車両振動 研究室長 佐々木君章
 車両構造技術研究部 車両運動 主任研究員 下村 隆行
 車両構造技術研究部 車両振動 主任研究員 鴨下 庄吾
株式会社 テス葛西 健一 氏
カヤバ工業株式会社中里 雅一 氏
カヤバシステムマシナリー株式会社亀井 俊明 氏
カヤバ工業株式会社川崎 治彦 氏
カヤバシステムマシナリー株式会社露木 保男 氏
発明実施功績賞
財団法人鉄道総合技術研究所 理事長垂水 尚志
カヤバ工業株式会社 代表取締役社長山本  悟 氏
 
2.平成21年度 全国発明表彰 発明賞
  受賞業績: 塩分吸着剤による鉄筋の防錆技術の発明
  受 賞 者: 財団法人鉄道総合技術研究所
 材料技術研究部 コンクリート材料 主任研究員 飯島  亨
株式会社 ジェイアール総研エンジニアリング 代表取締役社長立松 英信 氏
日本化学工業株式会社輿水  仁 氏

写 真: 特許庁長官賞を受賞した車両振動研究室長 佐々木 君章
写 真: 特許庁長官賞(発明実施功績賞)を受賞した 理事長 垂水 尚志


写 真: 発明賞を受賞した コンクリート材料 主任研究員 飯島 亨


特許庁長官賞
 
受賞業績:鉄道車両用セミアクティブ制振装置の発明
受 賞 者:佐々木君章  (ささき きみあき  財団法人 鉄道総合技術研究所)
下村 隆行  (しもむら たかゆき 財団法人 鉄道総合技術研究所)
鴨下 庄吾  (かもした しょうご 財団法人 鉄道総合技術研究所)
葛西 健一 氏   (かさい けんいち  株式会社 テス)
中里 雅一 氏  (なかざと まさかず カヤバ工業株式会社)
亀井 俊明 氏   (かめい としあき  カヤバシステムマシナリー株式会社)
川崎 治彦 氏  (かわさき はるひこ カヤバ工業株式会社)
露木 保男 氏  (つゆき やすお   カヤバシステムマシナリー株式会社)
 
特  許:鉄道車両の横振れ制振用ダンパおよび制振システム(特許第2872919号)
 
発明実施功績賞
受 賞 者:垂水 尚志  (たるみ ひさし  財団法人 鉄道総合技術研究所)
山本  悟 氏 (やまもと さとる カヤバ工業株式会社)
 
【業績】

鉄道車両では「ダンパ」と呼ばれる部品が台車と車体の間に取り付けられており、適度な抵抗力を発生することで車体の揺れを抑えているが、高速化すると左右振動が増加して乗り心地が悪化する。振動が増加する主な原因は波長の長い線路の不整(狂い)による振動に車両が反応するようになることや、トンネル内で車体に直接作用する空気力による振動が増えるためである。
 前者は台車から車体に伝わる振動なので、ダンパの抵抗力を小さくすると車体の揺れが小さくなるのに対して、後者は車体に直接力が加わるので、抵抗力を大きくしないと揺れを抑えることができない。車両が高速になるほどこの乖離は大きくなるため、通常の懸架方式では両方を満足するのが難しくなり、新幹線の300km/h運転実現に際しては乗り心地の悪化が大きな問題となっていた。
 本装置はこの問題を解決するために開発された。ダンパが発生する抵抗力を車体の振動に合わせて制御するもので、鉄道車両では世界初の実用振動制御システムであり、現在では新幹線などに広く普及している。本装置は台車と車体の間に取り付け抵抗力を変化させる「可変減衰ダンパ」、車体の加速度を検出する加速度センサ、および制御装置から構成され、加速度信号を積分した車体振動速度に比例して制御力を発生する「スカイフック制御」を用いている。制振制御のエネルギーを直接外部から加える方式を「アクティブ制振」というが、本方式はダンパ特性の制御で必要な力を発生させ、外部エネルギーを利用しないため「セミアクティブ制振」と呼ぶ。特に空力振動に対して大きな改善効果を発揮する。
 振動制御に乗り心地改善効果があることはそれまでにもわかっていたが、鉄道車両は高い安全性が要求されるため、故障時の安全性への危惧などから採用されていなかった。本システムは万一故障しても通常のダンパと同じ特性になる「フェールセーフ性」を油圧回路やセンサの開発により実現し、鉄道車両の振動制御の道を開いた。

 
 
【佐々木 君章(受賞者代表)からの受賞コメント】

新幹線の300km/h運転実現を目指して各種の開発が進められていた1994年ころ、空力振動による乗り心地悪化という新しい問題がクローズアップされてきました。この揺れに対しては、従来のサスペンション設計では有効な対策がなく、営業列車として世界初の鉄道車両用振動制御システムとなる本件の開発に取り組みました。前例がないため、安全性の向上に最も苦心しました。時間的には非常に厳しいスケジュールの連続でしたが、関係各位の熱意・ご協力のおかげで目標を達成し、実用化にこぎつけることができました。心より感謝申し上げます。




発明賞
 
受賞業績: 塩分吸着剤による鉄筋の防錆技術の発明
受 賞 者: 飯島 亨   (いいじま とおる  財団法人 鉄道総合技術研究所)
立松 英信 氏 (たてまつ ひでのぶ 株式会社 ジェイアール総研エンジニアリング)
輿水 仁  氏 (こしみず ひとし  日本化学工業株式会社)
 
特  許: 塩素イオン補修剤(特許第2083426号)
 
【業績】

塩分に起因する鉄筋の腐食は、コンクリート構造物の耐久性や強度を低下させる深刻な問題である。この現象から構造物を守るために、塩分や水を遮断する材料を表面に塗布する処理が行われてきた。しかしながら、コンクリート中に塩分が残り、水分も増加し、却ってコンクリートの劣化を助長することも少なくない。塩分による腐食を完全に抑制するためには、コンクリートからできるだけ塩分を抜き取ることが望ましい。
 そこで最初に、鉄筋の腐食を抑制する有効な方法としてコンクリート中の塩化物イオン(Cl−)を固定し無害化する物質を化学的に合成した。この物質はカルシウム−アルミニウム系の複合水酸化物で塩化物イオンを吸着する陰イオン交換物質としての作用を期待したものであり、「塩分吸着剤」と呼んだ。この吸着剤は、水酸化カルシウム層Ca(OH)2のカルシウム(Ca2+)の一部をアルミニウム(Al3+)で置き換えた構造を持ち、層に過剰の正電荷を帯びたものである。すると、正電荷を補償する相当量の陰イオンを層間に導入することができ、鉄筋の腐食抑制効果を持つ陰イオンとして亜硝酸イオン(NO2−)を選択した。この物質が塩化物イオンに接すると、イオン交換反応により塩化物イオンを吸着し亜硝酸イオンを放出する。この二つの効果により鉄筋の腐食を確実に抑制することができる。
 次に、実際に使用する補修材料として塩分吸着剤を含む防錆ペーストと防錆モルタルの二種の材料を準備し、接着力と作業性を改善するためにエマルジョンを添加した。これらの材料を用いる方法を塩害抑制工法(SSI工法)と名付け、以下の要領で施工する工法と位置付けた。まず、鉄筋が露出するまでコンクリートを取り除き鉄筋表面の錆を除去する。次いで、その表面に防錆ペーストを塗布しさらにその周囲に防錆モルタルを施工する。最後に高耐久性のモルタルで断面修復して完成させる手順である。SSI工法はこれまで多くのコンクリート構造物に適用され、長期に亘ってその有効性が維持されている。

 
 
【飯島 亨(受賞者代表)からの受賞コメント】

 「コンクリート構造物の塩害対策の決め手として、コンクリートから塩化物イオンを抜き取る物質はできないか」。このニーズに対して、化合物の合成を始めました。まずはビーカーの中で合成される生成物を分析し、さらに改良を加えて、塩分吸着剤を開発しました。この塩分吸着剤は国分寺市光町生まれです。次に補修材料とするため、メーカーと検討を繰り返して工場製品として商品化できました。今回の受賞は、鉄道総研はもとより協力会社、メーカーなどの多くの方のご指導・ご協力の賜物であります。ここに心より感謝を申し上げます。



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