平成22年度 文部科学大臣表彰の受賞について

 財団法人鉄道総合技術研究所の職員が文部科学大臣表彰を受賞しましたのでお知らせいたします。

 なお、表彰式は、4月13日(火)12時から京王プラザホテル(東京都新宿区)において行われました。

1.平成22年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)
受賞業績:構造物検査用遠隔非接触振動計測システムの開発注1
受 賞 者:鉄道力学研究部
構造力学研究室 主任研究員
うえはん ふみあき
上半 文昭
2.平成22年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
受賞業績:架線・バッテリーハイブリッドシステムの研究
受 賞 者:車両制御技術研究部
駆動制御研究室長
おがさ まさみち
小笠 正道
車両制御技術研究部
駆動制御研究室 副主任研究員
たぐち よしあき
田口 義晃
3.平成22年度 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
受賞業績:大地震時の地盤と土留め構造物の動的相互作用の解明の研究
受 賞 者:構造物技術研究部
基礎・土構造研究室 副主任研究員
わたなべ けんじ
渡邉 健治
注1:本件は、東京大学 生産技術研究所 都市基盤安全工学国際研究センター長 目黒 公郎 氏との共同受賞。

平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の決定について(文部科学省Webサイト 報道発表)

受賞業績等と受賞者からのコメント

平成22年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)

受賞業績:構造物検査用遠隔非接触振動計測システムの開発
受 賞 者:上半 文昭 (うえはん ふみあき 財団法人 鉄道総合技術研究所)
目黒 公郎 (めぐろ きみろう 国立大学法人 東京大学 生産技術研究所)
【業績】
 社会基盤の老朽化が進み、自然災害も多発する我が国では、効果的な構造物検査技術の開発が必須課題である。現状では目視点検中心の検査体系がとられているが、検査結果の精度と客観性に課題がある。より客観的・定量的な手法として振動計測による非破壊検査法の普及が期待されるが、高所等へのセンサ設置が必要で、コストと安全面の課題がある。
 本開発では、構造物の振動変位を遠隔非接触で精度良く計測し、構造物を検査できるシステムを実用化した。レーザドップラ速度計の筐体に振動計と角度計を内蔵して計測結果を補正する手法を開発し、屋外環境での計測精度を向上した。レーザ反射ターゲットを遠隔形成する手法も開発し、より遠方からの計測を可能にした。
 本開発により、外乱の影響を受けやすい屋外環境において、1〜100m離れた遠隔地から常時微動や車両通過時振動などを計測することが可能になった。振動計測作業から高所作業、線路近接作業、足場の架設などが排除され、安全性と作業効率が飛躍的に向上した。
 本成果は、目視検査に代わる安全、安価で定量的な構造物検査手法を提供するものであり、我が国における社会基盤の維持管理体系の合理化に寄与している。

主要特許:特許第4001806号 「構造物の振動特性の非接触計測による同定方法および装置」
【上半 文昭からの受賞コメント】
 遠隔地からレーザを照射するだけで構造物を検査できるという考えに懐疑的な声も多々聞こえる中、信じて支えて下さった皆様のご協力により、表彰対象のシステム「Uドップラー」を実用化することができました。新しいシステムの導入を決断し、より有効な活用法を共にご検討いただいた多くのユーザの皆様にも心より感謝申し上げます。今後、センシング・モニタリング技術や情報通信技術の導入が加速し、構造物の検査・診断体系が大きく様変わりするものと予想されます。私も技術開発によって、新体系の構築に貢献していきたいと思います。 photo

(関連研究)構造物振動の非接触振動測定システム

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平成22年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)

受賞業績:架線・バッテリーハイブリッドシステムの研究
受 賞 者: 小笠 正道 (おがさ まさみち 財団法人 鉄道総合技術研究所)
田口 義晃 (たぐち よしあき 財団法人 鉄道総合技術研究所)
【業績】
 電車はブレーキ時に運動エネルギーを電気エネルギーに変え、架線を通じて他電気車に供給する電力回生ブレーキを用いているが、近傍に他電気車が在線しない場合は回生ブレーキが動作しない「回生失効」を起こす。本来なら回収再利用できたかも知れないはずのエネルギーを無駄にしていることになる。
 本研究では、回生信頼度モニタ装置を作成して営業電車での回生動作状況を把握し、信頼度向上とエネルギー有効再利用の観点から、架線下を走る電車にもバッテリーを搭載する電源ハイブリッド化することを提唱した。回生先の電源が複数箇所となるハイブリッド方式はそれまでになく、単に回路を構成しただけでは負荷状態に応じた実時間の分流制御ができない。そこで回生仮想パンタ点電圧を用いた多電源ハイブリッド回生制御方式を発案し、システムを具現化して試験電車を製作し、実路線上で営業ダイヤによる走行を行なった。
 本研究により、電車走行時の回生絞込みはなくなり、既存インバータ電車と比較して最大約30%の消費エネルギー削減結果を得た。
 本成果は、電化鉄軌道システムのさらなる消費エネルギー削減、副次的には架線レス走行による架線保守費の低減や景観重視地区での融和、さらには電化区間と非電化区間などのような異電源区間への直通による公共交通機関の活性化に寄与することが期待される。
【小笠 正道からの受賞コメント】
 研究開始の1998年当時は、架線下を走る電車にわざわざバッテリーを搭載する必要性をなかなかご理解頂けませんでしたが、今では多くの方に回生有効利用の当技術の意義を感じ取って頂いております。「仮想パンタ点電圧との差分パワー吸収制御」を、理論だけでなく具現化すべく進めてきた結晶の1つが、鉄道総研の外でも走行できるHi-tram(ハイ!トラム)の実現です。ここに至るまで予算面の奇跡も含め、重要な局面ごとに最適任の方々にご支援頂きました。今回の受賞はご関係頂いた全ての方の力の結集によるものであり、あらためて心より感謝申し上げます。

(関連研究)架線・バッテリーハイブリッドLRV(LH02形)の研究開発

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平成22年度 文部科学大臣表彰 若手科学者賞

受賞業績:大地震時の地盤と土留め構造物の動的相互作用の解明の研究
受 賞 者: 渡邉 健治 (わたなべ けんじ 財団法人 鉄道総合技術研究所)
【業績】
 大地震時に擁壁、橋台等の土留め構造物に倒壊や崩壊が生じ、耐震上の弱点箇所と指摘されてきた。しかしながら、大地震時に地盤−構造物の境界領域において発生する力(地震時土圧)の発現メカニズムが未解明であり、大地震時において土留め構造物の耐震性能を評価できる設計法が確立されていなかった。
 そこで、過去の実験や被災事例で得られた知見から、地震時土圧が地盤と土留め構造物の動的相互作用により発現していることに着目し、系統的な振動実験を繰り返し行った。実験では新しく開発した画像解析技術により、従来は不可能であった地震時の地盤の破壊現象を定量的に評価した。その結果、地盤と土留め構造物の動的相互作用を解明し、地震時土圧の算定手法、土留め構造物の地震時変形量の算定手法を確立した。
 本研究成果は、鉄道構造物や鉄道以外の構造物の耐震設計法へ応用されることが期待される。
【渡邉 健治からの受賞コメント】
 平成7年の兵庫県南部地震における土木構造物の被害を見て、土木工学を専攻することを決心し、一貫して地盤工学に関する研究に取り組んできました。今回、幸運にも名誉ある賞をいただいた背景には、ひとつのテーマに対して腰を据えて継続して研究できる環境があったことが大きかったと思います。そのような恵まれた環境を提供していただき、手厚い御指導をいただいた研究室の上司・先輩の皆様には大変感謝しております。今回の受賞を励みに今後も日々の努力を重ねて、微力ながら鉄道や広く社会に貢献できる研究者になれるよう努めていきます。
(関連研究)「Shaking table tests on seismic earth pressure under large earthquake loads (和文:大地震時における地震時土圧に関する振動実験)」が(社)地盤工学会・国際会議若手優秀論文賞を受賞

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写真:表彰式式場で表彰状を手にする
科学技術賞(開発部門)を受賞した 上半 文昭
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写真:表彰式式場で表彰状を手にする
科学技術賞(研究部門)を受賞した
小笠 正道(右) と 田口 義晃(左)
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写真:表彰式式場で表彰状を手にする
若手科学者賞を受賞した 渡邉 健治

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