公益財団法人への移行を機に、変えるべきもの、変えるべきではないもの

 鉄道総研は内閣総理大臣から認定書をいただき、平成23年4月1日に公益財団法人に移行しました。移行後約1年が経過いたしましたが、新しい公益法人制度の要点は以下の通りです。

 ・これまでは主務官庁に公益性を認められたものだけが法人格を得ることができました。新制度では、法人法の要件を満たせば登記のみで一般財団法人を設立することができ、一般財団法人のうち認定法に定められた基準を満たしていると認められる法人は、公益認定を受けて公益財団法人になることができます。なお、鉄道総研のように既に設立していた法人は、平成25年11月末までに一般財団法人か公益財団法人に移行申請しなくてはなりません。

 ・公益財団法人に認定されるためには、公益目的事業を行うことを主たる目的とすることなどの基準に適合する必要があります。公益目的事業とは、学術及び科学技術の振興を目的とする事業などであって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものであり、その事業に要する費用は事業費及び管理費の合計額の100分の50以上でなければなりません。

 ・評議員会は株式会社では株主総会に相当する最高の意思決定機関となり、評議員会の位置付けや開催方法が変更となりました。評議員は大変忙しい方々ばかりですが、代理出席や書面表決などは認められなくなり、評議員会に出席していただかなくてはならなくなりました。
 以上のように、法人の運営については大きな変更となりましたが、研究開発については基本的に大きな変更はなく、基本計画-RESEARCH2010-に則り推進しています。

 一方、鉄道総研の置かれた状況を見てみると、
 ・JR会社の中には研究機関を持つ会社もあることなどから、研究開発について鉄道総研に対するニーズは多様化しており、JR会社などとの役割分担を行い研究開発の効率化を図る必要がある。

 ・国鉄改革後に入社した鉄道総研採用職員が数年のうちには大半となる見込みであり、技術断層が生じないよう鉄道技術の継承を着実に行うとともに、鉄道の現場を熟知し、鉄道事業者のニーズに即した研究開発などを行うことができる逞しい研究者を養成するため、JR会社など鉄道事業者とこれまで以上に積極的に人事交流を行う必要がある。
 などの課題を抱えています。

 鉄道総研は公益認定を得ることができましたが、反面、鉄道におけるさらなる安全性の向上をはじめとする研究開発の充実を図るなど、公益という重い責任を果たしていく必要があります。公益財団法人への移行を機に、「変えるべきもの」「変えるべきではないもの」の見極めを行い、鉄道技術に関する総合的な研究所としてJR会社をはじめ鉄道事業者などからの負託に応え、鉄道の持続的発展に寄与するべく全力を尽くす所存です。

(理事 澤井 潔)

事故時の人の挙動をイメージする

はじめに

 現在、列車衝突時の安全対策について車内設備の観点から研究を行っています。この研究分野では、列車が他の列車や自動車等に衝突することを1次衝突と呼び、その衝撃により車内の人が車内設備や他の人と衝突することを2次衝突と呼んでいます。対策を考えるうえで人の挙動をイメージするということは非常に大事なことであると考えています。そこで、2次衝突の人の挙動をイメージしてもらうため、具体例を挙げて説明したいと思います。

1次衝突直後の人の挙動をイメージする

 図1のa)で示すような、踏切で列車が速度60km/hで大型トラックに衝突する事故状況を考えます。1次衝突直前に車内で人が移動していないとすると、同乗者から見た(車内から見た)この人の速度は0km/hで、車外から見ると列車と同じ60km/hで移動しています。1次衝突後に列車は減速しますが、慣性の法則により人は60km/hの速度でそのまま移動しようとします。このような慣性は衝突事故に限らず普段の列車内でブレーキ時に体験しているかと思います。1次衝突後、列車が減速して例えば32km/hになった場合は、人と手すりや床面との摩擦影響を無視すると車内から見た人の移動速度は図1のb)で示すように28km/hとなります。つまり、1次衝突後の列車の減速が大きいほど、車内の人の移動速度は大きくなります。列車の減速は、1次衝突速度、衝突物の特性、列車の特性等に依存します。例えば、上記と同様のトラックに速度30km/hで1次衝突した場合に減速して10km/hになると仮定すると、車内から見た人の移動速度は20km/hになります。これらの挙動から前者は28km/h、後者は20km/hで2次衝突する可能性があることが分かります。これらの速度における2次衝突とはどの程度危険なのでしょうか?

  • 図1 列車衝突前後の人の挙動 (衝突速度60km/hの場合)
    図1 列車衝突前後の人の挙動
    (衝突速度60km/hの場合)

2次衝突時の速度をイメージする

 速度をイメージしやすくするために、どれ位の高さから鉄球を落下させると20km/hあるいは28km/hに達するのか、運動エネルギーと位置エネルギーの関係から求めました。図2で示すように20km/hの場合は約1.5mの高さから、28km/hの場合は約3mの高さから落下した際の地面への衝突速度と同等であるということが分かりました。3mというと建物の種類にもよりますが、一般の住宅を考えると2Fのベランダ位の高さでしょうか?足から落ちた場合大きな怪我はなさそうですが、頭から落ちた場合は大怪我をしそうな気がします。約1.5mの高さからの落下は、3mと比較するとたいした怪我はなさそうですが、地面の硬さによっては大きな怪我が発生することが想像できます。

  • 図2 鉄球の落下高さと速度の関係
    図2 鉄球の落下高さと速度の関係

おわりに

 列車衝突時の車内の人の挙動をイメージしてもらうため具体例を挙げて説明しました。このイメージするということは対策を考えるうえで実は非常に大事なことであると考えており、今回ご紹介しました。

(人間工学 中井一馬)

気持ちを伝える

はじめに

 2011年4月から人間工学研究室に配属になりました。鉄道総研に入社する前には東北大学で博士研究員として従事しておりました。専門は心理学で、主に人と人とのコミュニケーションについて研究してきました。昨年の東日本大震災の際には仙台でちょうど引越しの準備をしていました。非常に大きな地震でしたが、周りの方々と助け合って何とか無事に過ごすことができました。地震の際に改めて実感したのが、新幹線の便利さです。仙台から東京まで新幹線なら2時間もかからず、安全で快適な移動が可能です。震災直後、新幹線が動かない状況で東京まで移動するためには大変な労力が必要でした。新幹線を含め安全で利便性の高い鉄道が、私たちの生活を根っこの部分から支えてくれていたことを実感しました。このような鉄道の研究に従事する責任を自覚し、技術開発に貢献していきたいと考えております。今後とも宜しくお願い致します。

思ったよりも気持ちは伝わらない

 さて、話題は変わりますが自分の気持ちや考えは、どのくらい人に伝わっていると思いますか。先に答えを書いてしまいますと、思っているよりも自分の気持ちは相手に伝わらないことがわかっています。
 こんな場面を想像してみてください。あなたは何人かの友人とババ抜きをしています。自分の手札を確認してみると、そこにはババ(ジョーカー)がありました。あなたは自分の手元にジョーカーがあることが友人たちに伝わらないように冷静さを装いましたが、皆にジョーカーを持っていることを見透かされているような気がして仕方ありません。
 しかし、実際にはよほど動揺しない限り、ジョーカーを持っていることを相手に見透かされてしまうことはほとんどありません。自分が勝手に「気持ちが伝わってしまっている…」と思ってしまうのです。
 隠しごとなどをしている状況で、実際には自分の気持ちが相手に伝わっていなくても、相手に気持ちが伝わってしまっているだろうと過大評価する傾向を「透明性の錯覚」と呼びます。この傾向は隠しごとなどの自分の気持ちが相手に気づいて欲しくない状況だけで生じるものではなく、逆に相手に気づいて欲しい状況にも生じることがわかっています。
 再びこんな場面を想像してみてください。あなたは友人たちからよく飲み会幹事をお願いされます。その都度引き受けていますが、本当は毎回幹事をするのが大変で嫌になっています。こんなに嫌そうに引き受けているのになぜ友人たちは自分に幹事をお願いしてくるのかが理解できず悩みの種です。
 このような自分の気持ちに気づいて欲しい状況においても、「幹事は大変なので毎回はやりたくない」という気持ちが相手に伝わっているだろうという透明性の錯覚が生じることがよくあります。しかし、友人たちとしては、いつも幹事を引き受けてくれるし、幹事業が好きなのだろうと思って、毎回幹事をお願いしている可能性があります。

言葉で気持ちを伝えてみる

 相手が自分の気持ちを気づいてくれるのを受け身で待っていても、なかなか気づいてくれません。そんなときには、「態度」で気持ちを伝えようとするのではなく、きちんと「言葉」で自分の気持ちを伝える必要があるのではないでしょうか。幹事の例は、実は大学時代の私の友人の経験です。何かのきっかけで幹事を毎回やるのは大変だと友人から言われたときに、大変申し訳なく思ったことを今でも反省しております。自分の気持ちが相手に伝わらないと悩んだときには、自分が態度だけで気持ちを伝えようとしていないか、言葉で気持ちを伝えているかについて確認してみるとよいかもしれません。

おわりに

 どのように気持ちを伝えるのかの次は、どのような言葉で伝えるかが大事になってきます。現在、輸送障害時の駅係員や車掌の案内放送に関する研究等に携わっており、このような心理学の知見を生かした成果に貢献していきたいと思います。

(人間工学 菊地史倫)

心を整えて、安全を守るには

 スポーツの分野では、十分な技術を持った選手が、感情面をコントロールできないために、いつものプレイが出来なくなる(=スランプに陥る)ことがしばしば発生します。このような事態はスポーツに限らず、一般の労働現場でも発生しており、安全性に悪影響を与えています。本稿では、感情のコントロールと安全性の関係について解説します。

感情のコントロールと安全

 イライラしているとき、様々なプレッシャーを受けて焦っているときに普段なら出来るはずの作業が上手くいかなくなる経験はありませんか。感情のコントロールが上手くいかないと、意識レベルが過度に高まることがあります。焦りや怒り、緊張などの不快な感情は意識レベルを高め、エラーの確率を高める危険性があるのです。
 旧国鉄の鉄道労働科学研究所で活躍した橋本邦衛は意識レベルを5段階(0~Ⅳ)に分類しました(表1)。フェーズⅢを基準にして、それより上でも下でもエラーは発生しやすくなるとしています。

  • 表1 意識フェーズとエラー率
    表1 意識フェーズとエラー率

 また意識レベルが変わらなくても、感情のコントロールが上手くいかないと、物事の見方や考え方、動作が変化することがあります。焦ったり、慌てたりといった不快な感情を持っている状態では、視野が狭くなること、発想が単純化して一つの方法にこだわること、複数の物事を総合的に考えられなくなること、動作が硬直化すること、など様々な変化が生じます。このような状態では危険な事態の兆候を見逃しやすくなる、トラブルへの対応が考えられなくなる、思うような作業が出来なくなるなど、事故の危険性が高まります。
 このように、不快な感情を上手くコントロールできない状態はエラーを起こしやすく、事故につながりかねない危険な状態であるといえます。

快の感情で心を整える

 緊張しているときに、いくら「焦るな」と自分に言い聞かせても、上手くいきません。では、どのように不快な感情と付き合えばよいのでしょうか。
 一つは、不快な感情を消そうと頭の中だけで頑張るのではなく、具体的な行動を取ることで心地よい快の感情を呼び起こす方法です。例えば、筋肉をリラックスさせる、温かい飲み物を飲む、甘いものを食べる、子供や動物の写真を見るなどは快の感情を引き起こす効果があることが確認されています。このようにして引き起こされた快の感情は、不快な感情の悪影響を緩和することが出来ます。
 このように具体的な行動を起こすことで感情の状態を変えていく手法は、臨床心理学や医学の分野でもバイオフィードバックや行動療法などの研究で実証されており、科学的に十分な効果があることが確かめられています。

職場全体で心を整える

 もう一つの方法は、そもそも不快な感情が発生しない環境を作ることです。例えば未経験の事態(異常時など)には焦りや緊張が生じやすいことが知られています。ですが、対応訓練を繰り返し行うことで経験を積めば、トラブル発生時にも慌てず自信を持って行動することができます。また、ヒューマンエラーが起きた時に過度な責任追及をせず、その後の適切な対応を正しく評価するような職場では、作業者がミスをしてしまったというショックを乗り越え、その後の適切な対処が促されるようになります。困難な事態に陥った際には経験不足や心的ショックにより強い不快感情が発生して、本来出来るはずの具体的な対処が出来にくくなります。そのような状況を防げるようあらかじめ対策しておくことが大切です。
 感情に配慮することは、決して安易な慰めではありません。より高い安全性を得るために、心を整えることを意識してみてはいかがでしょうか。

(安全心理 北村康宏)

メタボと腸内細菌

 メタボリックシンドローム(メタボ)は、内臓脂肪型肥満を共通の要因として高血糖、脂質異常、高血圧が引き起こされる状態で、近年のメタボ該当者の急激な増加は高カロリー摂取と運動不足によるエネルギーバランスの不均衡が原因であるとされています。一方、最近行われた調査より、腸の内部に生息する細菌がエネルギー代謝に関与することが示され、なかでも脂肪蓄積量に影響を及ぼし肥満やメタボとの関連性があるという考え方も出てきました。ちなみにヒトの腸内には、一説によると1,000種類、100兆個の細菌が存在するといわれています。

調査事例とマウスを利用したメタボ研究

 肥満と腸内細菌の関係を調べた調査の一例を紹介します。12人の肥満者がおこなった一年間の減量プログラムを通じて糞便中の細菌種を調べたところ、減量の前後で腸内細菌の種類が変化し、その変化は食事のカロリーとは相関せず、体重減少率と相関があることを見いだしました。
 このようなヒトを対象とした調査では、被験者数、調査項目等が限られ充分な情報を得ることが出来ないことが多いため、マウスを用いた試験が実施されています。この試験には腸内細菌を持たない「無菌マウス」が利用されています。この無菌マウスの腸内に、他のマウスの腸内細菌を移植した場合の変化を観察することによって、腸内細菌とメタボの関係をより直接的に調べることが出来ます。
 まず、通常マウスと無菌マウスの体脂肪を比較したところ、通常マウスの方が42%多いことが分かりました。次に、通常マウスの盲腸から細菌を採取し、無菌マウスに移植しました。すると2週間後には体脂肪が57%増加しました。この結果より、移植した細菌の働きにより食餌からのエネルギー獲得量と脂肪合成量が増加したと考えられます。一方、無菌マウスに高脂肪食餌を与えても肥満になりにくいことが分かりました。更に、正常マウスと肥満マウスの盲腸の細菌を採取し、それぞれを無菌マウスに移植する試験を行いました。その結果、肥満マウスから移植を受けたマウスは、正常マウスから移植を受けたものと比べ、体脂肪量が多くなりました。これらの試験から腸内細菌の違いが体脂肪蓄積量に影響する直接的な証拠が得られました。

腸内細菌を利用してメタボ改善

 腸内細菌数を増やすことによってメタボを改善しようとする試みも行われています。フルクトオリゴ糖はいわゆるプレバイオティクス(腸内の善玉菌を増やす食品成分)として知られ、これをマウスに摂取させることによって腸内ビフィドバクテリア菌数の増加と高脂肪食餌を取ることによる血中内毒素の上昇を抑えることが観察されました。ヒトの場合には、体脂肪の減少、血清脂質濃度と食後血糖値の低下が観察されたという報告があります。また、腸内細菌の一種である乳酸菌をマウスの餌に配合することによって内臓脂肪量が顕著に減少したという報告があります。乳酸菌の一種であるラクトバチルスを0.1%配合した餌を4週間与えると、乳酸菌を含まない餌を食べたマウスに対して内臓脂肪量が半減していました。ヒトを対象とした調査結果でも、ラクトバチルスを含む脱脂粉乳を12週間投与することによって体重、BMI、腹囲、内臓脂肪および皮下脂肪が有意に減少すると報告されています。これらの結果は乳酸菌がいわゆるプロバイオティクス(健康に良い効果をもたらす善玉菌)としてメタボの予防・改善に効果があることを示しています。

おわりに

 平成21年の国民健康・栄養調査報告によると、40~74歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボかその予備群と考えられています。
 今後の研究によってより効果の高いプロバイオティクスが発見されるかもしれません。しかしながら、適度な運動とバランスの取れた食事がいちばんの予防だと考えられますので、厚生労働省の示す食生活指針などを参考にしてみたらいかがでしょうか。

  • 表 メタボ該当者・予備軍の割合(%)
    表 メタボ該当者・予備軍の割合(%)

参考文献

1)園山慶、2010、メタボリックシンドロームと腸内細菌叢、腸内細菌学雑誌、24、193-201.

(生物工学 志村 稔)

身体寸法値と姿勢

はじめに

 人間工学という単語から「使う人の身体寸法値を考慮して製品などを設計すること」をイメージする人は少なくないでしょう。この身体寸法値について考えてみましょう。
 ユニバーサルデザインという単語が多くの人に知られるようになりました。鉄道の現場でも、さまざまな利用者を想定して製品やサービスをデザインする考え方が広く浸透していると思われます。大きな人から小さな人、力が強い人から非力な人、動きが速い人からゆっくりな人、いろいろな視点があります。さまざまな人たちが計測した多くのデータが公開されており、私たちのような研究者をはじめとして、製造業の設計担当者などがこれらのデータを活用しています。その典型的な例が「身体寸法値」です。しかし、身体寸法値を具体的な製品設計などに使用するときには注意が必要です。

姿勢が違えば

 読者の皆さんも健康診断などで身長を測ることがあるでしょう。そのときの姿勢を思い出してみてください。身長計のポールにぴったりと背中をつけ、足をそろえて背筋をしっかり伸ばし、前方を水平に見た状態で測っているはずです。一方、日常の立ち姿勢を考えてみると、軽く足を開いて体の力を抜いているのではないでしょうか。すでにお気づきだと思われますが、前記の2種類の立ち姿勢の間では、地面から頭の頂点までの高さがわずかに異なります。当然のことですが、眼の高さなども異なってきます。
 例えば、読みやすい位置に文章を掲示することを考えた場合、自然な視線が水平よりわずかに下方向になることも含めれば、いわゆる身体計測で得られるような眼の高さとの差は小さくありません。これが腰の曲がった高齢者を対象とする話になってくると、計測用の背筋を伸ばした姿勢で測られた眼の高さと自然な姿勢の眼の高さの差が大きくなり、自然な姿勢を考慮することがより重要になってきます。

運姿勢と眼の高さの計測例

 人間工学グループでは、運転室の設計に関わる寸法値の1つとして、座っている姿勢の眼の高さを測ったことがあります。現役の運転士30人と一般の人52人に協力してもらい、座高を測るときのように背筋をきちんと伸ばした姿勢と制御ハンドルを握って自然に前方を見ている運転姿勢について眼の高さを測りました。その調査では、図に示すように、模擬運転台での自然な運転姿勢の眼の高さは、背筋を伸ばした姿勢の約95%程度になることがわかりました。運転士も一般の人もほぼ同じ結果でした。
 なお、眼の位置を設計に取り入れる場合は、自然な運転姿勢によって眼の高さが変化するだけでなく、前後方向の位置も変化することを考慮する必要があります。また、姿勢はイスの形態や作業卓の高さなどにも影響を受けます。そのため、計測環境の設定に注意を向ける必要があります。

おわりに

 人間工学の視点を取り入れた設計などに長く携わっている人にとっては、姿勢を考慮することは当たり前のことかもしれません。しかし、多様な体格を考慮することには意識が及んでも、姿勢の違いによって身体寸法値が変わることに意識が及ばない人もいるのではないかと思います。実際に何かを設計する際にはこの記事を思い出していただき、そこで使われている身体寸法値が、自然な姿勢に基づいているものかどうかを確認していただければ幸いです。
 人間工学グループでは、製品設計における身体寸法の計測や活用に関するご相談をお受けすることができます。お気軽にご相談ください。

  • 図 背筋を伸ばした姿勢と運転姿勢における眼の高さの違い
    図 背筋を伸ばした姿勢と運転姿勢における眼の高さの違い

(人間工学 藤浪浩平)