勝木塩害実験所における絶縁物の課電暴露試験

 勝木塩害実験所は、新潟県村上市勝木に位置しており、道路を隔てて日本海に面しております。当該地域周辺は、冬期になると日本海に停滞する低気圧の影響により、海から強い季節風が吹き付け、海塩粒子が部材の表面に付着する、いわゆる「塩害」を受けやすい環境にあります。このため当該地域周辺は、最も塩害の影響が大きい環境とされる特殊地区に指定されており、鉄筋構造物、金属部材、絶縁物の耐塩害性能の評価・検証に適しております。

 絶縁物は、汚損されても乾燥状態では抵抗値は低下しませんが、雨や霧などで絶縁物の表面が湿潤状態になると、抵抗値が著しく低下して漏れ電流が流れ、絶縁破壊の原因となります。このため実験所内の試料用暴露架台には無課電架台と課電暴露架台があり、課電暴露架台には交流4kV、6kV、20kVおよび直流1.5kV、3kVの各課電設備を備えており、連続した絶縁物の漏れ電流測定が可能です。本設備では、鉄道総研の研究テーマの他、鉄道各社様やメーカー各社様が作成された供試体の課電暴露試験等を実施しております。

 最近の鉄道総研のテーマとしては、「高圧がいし性能劣化評価手法」や「変電所機器の劣化診断」を実施しており、汚損度と絶縁物の劣化状況の検討を行っております。汚損度の測定方法としては筆洗い法がよく用いられておりますが、累積汚損の測定が不可能かつ測定に手間が掛かることから、代替手法の検討を行っております。一例として、腐食センサーであるAtmospheric Corrosion Monitor(以下ACM) センサーの測定結果を用いて、絶縁物の漏れ電流の関係を検討することで、汚損の把握や漏れ電流の予想ができないかを検討しております。

  • 図1 がいしの暴露課電状況
    図1 がいしの暴露課電状況
  • 図2 ACMセンサーの出力と漏れ電流の測定(例)
    図2 ACMセンサーの出力と漏れ電流の測定(例)

(記事:き電 柴田 直樹)

新しいフィードフォワード制御によるパンタグラフの接触力変動低減手法

 鉄道車両の高速化において、パンタグラフから発生する空力音を低減することは沿線環境の観点において重要な課題であり、舟体の形状を滑らかにするなどの対策が施されています。しかし、舟体形状の平滑化はパンタグラフの設計に対して制約を与えることになり、これによって電車線に対するパンタグラフの追随性能が損なわれる傾向にあり、近年ではすり板を多分割化することによる追随性能の改善が図られている例もあります。鉄道の更なる高速化に伴う空力音低減を実現するために舟体形状を更に平滑化し、なおかつパンタグラフの集電性能向上をも実現する手法としてアクティブ制御機構の導入は有望と考えられるため、鉄道総研ではその開発を進めています。

 電力ニュース2012年12月号では、フィードフォワード制御によるパンタグラフの接触力変動低減手法を紹介しており、300km/hの走行を模擬した状態において接触力変動を無制御時の30%程度に低減できることを示しました。この手法では、電車線の支持点間隔および車両の走行速度から得られる接触力変動の卓越周波数に基づいて制御信号を生成している(フィードフォワード制御)一方で、制御信号の振幅と位相(これらを制御パラメータと称します)については接触力信号を参照しながら最適値を自動的に探索しています。この手法では、制御パラメータの変化に対する接触力変動の変化の度合い(これを感度と称します)に基づいて、制御パラメータの更新を繰返し、徐々に最適値へと収束させるため、接触力変動を十分に低減できるパラメータを得るまでに500秒程度の時間を要していました。そこで、この手法を改良し、制御パラメータの収束時間を短縮可能な手法を提案しました。

 この新手法では、感度に基づいて制御パラメータを変更する点は従来手法と同じですが、制御信号と接触力変動との関係式を併用することにより、最適な制御パラメータを理論的に求めるため、制御パラメータの収束速度が劇的に向上しています。そのため、従来法のように制御パラメータを小刻みに修正する必要がなく、自動調整のプロセスを開始してから、20秒程度の間に3、4回のパラメータ調整を行うことで、従来法と同等の制御効果を得ることが可能となりました。図に示すグラフは、パンタグラフの舟体を1Hz(180km/hの走行における径間周期の変動に相当)で加振した実験における接触力変動の振幅値を示しており、従来法と比較して30分の1程度の時間で、従来法と同程度の接触力変動に低減する様子が確認できます。

 今後は、新手法の外乱に対するロバスト性を検証するとともに、鉄道総研のパンタグラフ総合試験装置を用いて走行を模擬した状態における手法の妥当性の検証を進める方針です。

  • 図1 制御パラメータ自動調整過程おける接触力変動の推移
    図1 制御パラメータ自動調整過程おける接触力変動の推移

(記事:集電力学 小林 樹幸)

電車線ビームの耐震効果

 高架橋上の電車線柱を建替える際、最新の耐震指針で地震荷重を照査すると現状より高強度な電車線柱が要求される場合がありますが、その一方で、基礎強度との関係から電車線柱が選択しうる強度には上限があります。単独柱として条件を満たす電車線柱が存在しない場合は、上下線の電車線柱をビーム接続する方法が解決策の一つですが、その方法も万能でないことに注意が必要です。

 新幹線高架橋の標準装柱を例に、最新の耐震指針に基づいてビーム有無による地震荷重の違いを評価しました。図1に装柱図を示します。新幹線で一般的なヘビーコンパウンド架線とし、直線区間で横張力は無視、径間は45mとしました。電車線柱、ビームはともにSTK400の鋼管を想定しました。

 図2にビーム無し、G3地盤、構造物全体系の折れ曲がり点に対応する震度(kheq)0.7、ロッキング率1.35の電車線柱の線路直角方向の地震荷重を示します。電車線柱の設計モーメント2倍(247kNm)より荷重が小さな場合は評価○(安全)、大きな場合は評価×(破壊)と判定できます。図3はこの評価のしきい値となる構造物等価固有周期Teqに注目し、線路平行方向の結果と組み合わせた判定早見図の例です。直角方向、平行方向ともに評価○の領域Bのみが安全と判定されます。図4は同様の条件で作成したビーム有りの例です。図3と図4の領域Bを比較すると、ビーム有りの場合は直角方向の地震荷重が小さくなるため安全な範囲が拡大(0.6→0.5s)していますが、平行方向ではビームの質量増加により縮小(0.5→0.8s)しています。したがって、ビーム接続では線路平行方向の地震荷重の増加を考慮し、対象箇所の等価構造物固有周期Teqが安全な領域を逸脱しないよう注意する必要があります。

  • 図1 装柱(左:ビーム無し 右:ビーム有り)
    図1 装柱(左:ビーム無し 右:ビーム有り)
  • 図2 地震荷重(ビーム無し)
    図2 地震荷重(ビーム無し)
  • 図3 判定早見図の例(ビーム無し)
    図3 判定早見図の例(ビーム無し)
  • 図4 判定早見図の例(ビーム有り)
    図4 判定早見図の例(ビーム有り)

(記事:電車線構造 本田 誠彦)

電車線金具を想定したFRPの脆性破壊再現試験

 FRP(エポキシ系GFRP)は電車線金具にも絶縁目的で多用されていますが、ガラス繊維で強化されているにもかかわらず、強度が低下して、もろく割れるような破壊(脆ぜい性せい破壊)を生じることがあります。図1は循環電流防止形曲線引金具での例です。そこで、現象確認と対策検討のため、試験での再現を試みました。

 試験方法を図2に示します。横張力が加わった曲線引金具を想定し、循環電流防止形曲線引金具に使用されているものと同じ供試FRPに、引張荷重と曲げ荷重を同時に所定期間加え続けました。FRPの脆性破壊はポリマがいし心材での例が既に知られており、放電で水分と空気中の窒素が反応し生成する硝酸が促進要因とされているので、試験環境は空気中、蒸留水中、硝酸水溶液中(濃度1mol/L)の3とおりとしました。硝酸ではリベット穴からの浸入を想定した低液面での試験も行いました。所定期間の荷重負荷後、図2の状態から荷重を加えて破壊し、強度低下と破面の状態を調べました。

 試験一覧と試験結果を表1に示します。空気中(試番4、5)に比べ、硝酸中(試番9~15)では液面の高低にかかわらず強度が著しく低下しました。また、蒸留水中(試番6~8)でも強度が著しく低下している例がありました。一方、荷重を与えず硝酸に浸したのみ(試番1~3)では顕著な強度低下は見られませんでした。

 破面の状態を図3に示します。空気中および硝酸中(無荷重)では、正常なFRPを外力で強制的に破壊した場合の様相、つまり破面に繊維のささくれ....が見られます。一方、著しい強度低下を示した硝酸中および蒸留水中では脆性破面の様相(割れるような壊れ方)を呈しています。

 試験の結果、硝酸と荷重の同時作用下で脆性破壊が再現したほか、蒸留水中でも脆性破壊に類似した現象が認められました。防止策としては、FRP使用部の防水を確実にするなど、水や硝酸との接触を避ける構造にすることが有効と考えられます。

    • 図1 FRPの脆性破壊例
      図1 FRPの脆性破壊例
    • 図2 脆性破壊再現試験方法
      図2 脆性破壊再現試験方法

  • 表1 試験一覧と試験結果
    表1 試験一覧と試験結果
  • 図3 破壊試験後の破面の状態
    図3 破壊試験後の破面の状態

(記事:集電管理 菅原 淳)

(ワンポイント講座)交流ATき電回路の変圧器二次側電流測定法

 上下線を有する交流ATき電回路では、上下線間の電流が複雑に回り込むことにより、図1に示す様にき電回線側のT相とF相の電流が必ずしも一致しないことがあり、T相単独で電流を測定したのでは列車の負荷を正確に把握出来ない場合があります。そこで、電流合成CTを使う、あるいは図2に示す様にT相とF相の測定配線を同時にクランプする(電流の向きはたすき掛け)などによる工夫(T-F合成)を施す必要があります。

 一方、交流き電用変圧器の二次側回線については、T相とF相の測定配線を合成する必要がある場合と、不要な場合があります。通常、交流き電用変圧器には3つの種類があります。表1に3つの変圧器の特徴を示しますが、スコット結線変圧器とルーフ・デルタ結線変圧器では両座が電気的に絶縁されているのに対し、変形ウッドブリッジ結線変圧器では両座が電気的に接続されていることから、各二次巻線のインピーダンスのわずかな違い等により両座間に循環電流が流れることが知られています。循環電流は定格電流の数%程度なので測定精度に大きな影響は与えませんが、両座間のATを介してT相とF相の電流に不平衡をもたらす場合があります。

 上記を鑑み、変形ウッドブリッジ結線変圧器の変電所においては、変圧器二次側電流測定の正確を期するべく測定回路にT-F合成を施すことが求められます。

  • 図1 T相とF相での電流回り込みの例
    図1 T相とF相での電流回り込みの例
  • 図2 クランプ電流計への配線を工夫
    図2 クランプ電流計への配線を工夫
  • 表1 交流き電用変圧器の種類及び変圧器二次側電流測定時のT-F合成必要性
    表1 交流き電用変圧器の種類及び変圧器二次側電流測定時のT-F合成必要性

(記事:き電 赤木 雅陽)