雪崩の検知方法について

1.はじめに

 鉄道開業以降,全国の多雪山間線区において列車の運行を阻害する多くの雪崩が発生しています(過去60年間に少なくとも3500件以上発生).こうした雪崩による被害を軽減するため,これまでにも雪崩の発生予測に関する研究が行われていますが,依然として,時間的・場所的に正確な雪崩の発生予測技術は確立されていません.そのため,鉄道分野においては,主に雪崩防護工(雪崩止柵,雪崩擁壁,雪崩覆,雪崩防止林など)を施工して線路支障を軽減させる方法の他,雪崩検知装置によって雪崩の発生をとらえ,列車を即座に抑止する方法がとられてきました.特に後者については,防護工の施工が困難な箇所では非常に有用な方法であり,重大事故を未然に防ぐ上で重要な設備となっています.

2.雪崩検知方法の紹介

 近年,雪崩の発生予測に関する研究と並行して,雪崩検知に関する研究が積極的に進められています.ここでは,研究段階の成果も含めて,国内外でみられる雪崩の検知方法について紹介します.

(1)地震計方式

 雪崩の流下により生じる地盤の振動を地震計でとらえることにより,雪崩の発生を検知する方法です.ノルウェーやアイスランドなどで使用実績があります(主に道路の雪崩監視として使用).

(2)マイクロホン方式

 超低周波マイクロホンを積雪内に埋設し,雪崩によって発生する低周波を計測することにより,雪崩の発生を検知する方法です.現在,スイスの研究機関を中心として雪崩の発生場所や雪崩規模の推定に向けた研究が行われています.

(3)画像認識方式

 斜面を見渡せる箇所にカメラを設置し,画像の変化をとらえることにより,雪崩の発生を検知する方法です.これまで,土石流や落石の検知方式として採用された実績があります.

(4)ドップラーレーダ方式

 流下する雪崩の雪煙をドップラーレーダでとらえることにより,雪崩の発生を検知する方法です.アラスカ鉄道では雪崩が頻発する斜面にドップラーレーダと地震計を併設し,雪崩監視を行っています.

(5)グライドメータ方式

 斜面積雪の移動量(グライド量)をグライドメータと呼ばれる計測器でとらえることにより,雪崩の発生を検知する方法です.グライドメータは,主に歯車式(歯車の回転量からグライド量を求める方法,図1)とそり式(積雪底面にそりを設置し,その移動量からグライド量を求める方法)の2種類に分類されます.日本の研究機関を中心として,現在,雪崩発生の前兆であるグライド量の時間変化をとらえる試みが行われています.


  • 図1  歯車式グライドメータ

3.日本の鉄道における雪崩検知方法

 日本の鉄道においては,鉄道省仙台鉄道局によって開発された雪崩警報装置が1922年2月に奥羽本線赤岩・板谷駅間の6箇所(総延長約200m)にはじめて設置され,その後,全国の雪崩危険箇所で使用されるようになりました.上記の装置は,雪崩危険斜面の線路脇に支柱を設置し,そこに張られた電線(検知線)が雪の通過によって切断されることにより,雪崩の発生を検知するものです.検知線が切断された場合は,列車を抑止するため,警報を発報する仕組みになっています.これまでに全国で126箇所,総延長15.2kmにわたって設置された実績(1962年度)があり1),現在においても防護工の施工が困難である一部線路において,同様の雪崩警報装置が設置されています2)

4.振動センサを利用した(総研式)雪崩検知方法

 日本の鉄道において用いられてきた雪崩警報装置は,ときによって雪の重さで検知線が切れてしまう,また現場へ行かないと雪崩の規模がわからないなどの課題がありました.そこで鉄道総研では,上記の課題を解決するため,振動センサを用いた新たな雪崩検知方法・装置(図2)を開発しました3).本検知方法は,線路の脇に設置した検知ポールに雪崩が当たることによって生じる振動を小型振動センサ(検知ポール内蔵)によってとらえ,雪崩の発生を検知するものです(図3).本検知方法の最大の特徴は,検知原理が単純であるため,装置を簡単かつ安価に構成できることです.また,小型の振動センサ(直径9mm,高さ6mm)と軽量かつ耐候性の良いFRP製のポールを使用したことで,検知部(検知ポール)の小型・軽量化を実現することができました.そのため,現場施工も従来の雪崩警報装置に比べて容易になっています.性能の面においても,雪崩の発生を検知する機能に加えて,雪崩規模に応じた4段階の警報出力機能を有していることから,列車の運転抑止に関する判断の他,現地の線路除雪作業や点検作業の必要性の有無,およびそれらの作業規模等を早期に判定できるようになりました.

5.おわりに

 今回紹介した雪崩警報装置・方法は雪崩の発生を検知するものであり,雪崩の発生そのものを抑止するものではありません.それ故,雪崩による被害を軽減させるには,雪崩検知後,迅速な対応を取る必要があります.鉄道総研では,これまでに雪崩警備期間の設定方法4)についても検討・提案を行っていますので,そちらも併せてご参照下さい.

  • 図2  雪崩検知ポールおよび周辺機器
    図2  雪崩検知ポールおよび周辺機器
  • 図3  総研式雪崩検知方法のイメージ
    図3  総研式雪崩検知方法のイメージ

参考文献

1)引田精六:なだれに備えて,新線路,Vol.18,No.3,pp.14-15,1964.

2)箱守和重:除雪設備の概要,新線路,Vol.47,No.11,pp.20-23,1993.

3)飯倉茂弘ほか:振動センサを利用した雪崩発生検知システムの開発,雪氷,Vol.62,No.4,pp.367-374,2000.

4)栗原靖ほか:斜面積雪の安定性指標に基づく雪崩警備方法,鉄道総研報告,Vol.25,No.7,pp.19-24,2011.

(記事:栗原 靖)

変状発生因子のばらつきを考慮した劣化予測手法の開発

1.はじめに

 高度経済成長期に建設された鉄筋コンクリート(RC)構造物では,経年劣化に伴う,かぶりコンクリートのはく落等の変状が散見されます.このような変状は,特に側道や交差道路上において第三者被害を及ぼす可能性があるため,的確な対処が求められています.しかしながら,コンクリート構造物の変状は,ばらつきの大きい現象であるため,その発生や進行を予測することは容易ではありません.このような背景から,本研究では,供用中の鉄道高架橋等を対象とした現地調査を実施し,変状発生因子のばらつきの定量化を試みるとともに,これに基づき,確率的に部材および構造物全体の変状を予測する手法を開発しました(図1).

  • 図1  劣化予測手法の手順
    図1  劣化予測手法の手順

2.変状発生因子のばらつきの定量化

 維持管理実務において,劣化予測を困難にしている大きな原因は,フィールドにおける変状発生因子のばらつきです.そこで変状発生因子のばらつきを把握するために,既往の調査データに加え,JR4社11線区の81構造物を対象とした現地調査を実施し,構造種別,部材種別,変状の原因毎に,平均値やばらつきの程度を調査し,データベースとして整理しました.また併せて,劣化予測において各変状発生因子が変状の進行に及ぼす影響を,変状原因毎に明らかにしました.

3.変状発生因子のばらつきを考慮した劣化予測

 検討目的に応じた二つの予測手法を提案しました.

(1)メッシュ分割法

 部材レベルでの局所的な変状発生箇所の把握や耐力の低下を把握するための手法です.対象部材を数百mm四方のメッシュに分割し,メッシュ単位で現地測定を行うとともに,鋼材の腐食深さを指標とした劣化予測を行います(図2,図3).その際,鋼材の腐食速度を,目視による一定面積毎の変状発生率を用いて同定し,ばらつきの影響を極小化します.測定データが十分でない場合には,前述のデータベースの,対象構造物と同じ環境条件にある構造物,部材のデータを参考に,ばらつきを仮定して予測を行います.本手法では,構造物における経年毎の変状の箇所,程度を予測することができます.

  • 図2  劣化予測モデルの概要
    図2  劣化予測モデルの概要
  • 図3  メッシュ分割法の例
    図3  メッシュ分割法の例

(2)モンテカルロ法

 構造物や線区全体の劣化予測や,設備投資計画の策定等に適した手法です.各変状発生因子を独立変数として,モンテカルロシミュレーションにより劣化予測を行います(図4).鋼材の腐食速度を目視による変状発生率で補正するプロセスは前法と同様ですが,劣化予測には乱数により発生させた数千個の仮想測定点を用います.変状発生率の評価単位は,援用する測定データの密度に応じて,部材,構造物,線区等,任意に設定することができます.測定データが十分でない場合には,前法同様にデータベースに基づき仮定を行います.検討例は,限られた測定データから,各高架橋の高欄毎(8m単位)のはく離,はく落変状率を予測したものです.

  • 図4  モンテカルロ法の例
    図4  モンテカルロ法の例

4.おわりに

 本研究で提案した定量的な劣化予測手法は,全般検査や個別検査における健全度評価の深度化や,維持管理計画における予防保全効果,ライフサイクルコストの評価等に活用できると考えています.本研究が維持管理実務の一助となれば幸いです.

(記事:轟俊太朗)

岩盤斜面中の落下岩塊の大きさの推定法と安定性評価法

1.はじめに

鉄道沿線で発生する斜面災害の一つに落石があります.落石は降雨,凍結融解,地震など様々な誘因で発生するため,他の斜面災害にくらべて,発生時期や発生箇所を予測することが困難な現象といえます.落石には,岩盤斜面から岩塊が剥離する剥落型落石,崖錐斜面等から転石が浮き出し転落する転落型落石がありますが,ここでは前者の剥落型落石を対象としています(図1).このような落石の発生源となる岩盤斜面の安定性を評価するために,鉄道事業者では現地調査等を実施していますが,調査対象とする斜面が多いため,調査に多大な労力と時間を要しているのが現状です.また,現状では専門技術者の目視観察による判断に基づく場合が多く,評価の再現性や定量化などに課題があります.そのため,通常の点検時に岩盤斜面の安定性を定量的に評価する方法の開発が望まれています.
 以上を背景とし,岩石の引張強さと密度から落下岩塊の最大の長さ(La)を簡易に推定し,その推定値と現地観察される岩塊の長さ(Lb)を比較して岩塊の安定性を評価する方法について検討したので,紹介します.なお,ここでは剥落型落石が発生し易い溶結凝灰岩の斜面を対象に検討した結果を示します.

  • 図1  岩盤斜面の状況の例
    図1  岩盤斜面の状況の例

2.落下岩塊の大きさの推定法

 溶結凝灰岩は柱状節理といわれるほぼ垂直方向のき裂が発達するため,この斜面には柱状の岩塊が多数分布します.その柱状の岩塊上部のみが岩盤とつながり,宙ずり状態となっている不安定な岩塊が多数認められます(図1).この状態は,柱状岩塊と岩盤との間の引張強さで岩塊が保持されているとモデル化できます(図2).図2から,引張強さStの岩塊が上部の引張強さのみで自重Wを保持できる条件は,

StAWLAρg     (1)

StLρg     (2)

となります.(2)式から岩盤に保持される岩塊の最大の長さLa

LaSt / ρg     (3)

と表されます.(3)式は落下岩塊の最大の長さLaが岩石の密度と引張強さから推定できることを示しています.そこで,図3には任意の引張強さ,乾燥密度から岩塊の最大の長さを求めるノモグラムを示します.

  • 図2  岩盤斜面の状況の概念図
    図2  岩盤斜面の状況の概念図
  • 図3  ノモグラムによる落下岩塊の最大長さの推定
    図3  ノモグラムによる落下岩塊の最大長さの推定

3.引張強さの低下程度の推定

 一般に,岩石は風化により強度が低下するので,不安定な岩塊が岩盤斜面から剥離する場合,剥離する部分も風化にともない強度が低下していると考えられます.そこで,風化による引張強さの低下程度を,新鮮な岩石の引張強さに対する風化した部分の引張強さの比で表すと,図4のように目視で観察される風化程度が強くなると引張強さが低下することがわかりました.このように図4から新鮮な岩石の引張強さと目視観察による風化程度より岩塊の剥離する部分の引張強さを推定することができます.

  • 図4  風化による引張強さの低下程度
    図4  風化による引張強さの低下程度

4.不安定岩塊の安定性評価法

 2章,3章で述べた結果に基づいた安定性評価の流れを図5に示します.まず,新鮮な岩塊の引張強さと目視観察による風化程度を把握し,図4から剥離する部分の引張強さを推定します.次に,この引張強さと密度から図3を用いて落下岩塊の最大長さ(La)を求めます.岩盤斜面に分布する不安定な岩塊の長さ(Lb,図6)と最大長さ(La)を比較することにより,図5に示すように対象とした岩塊の安定性を評価することができます.今後はこれらのことを現地測定などで検証し,精度を高めていく予定です.

  • 図5  不安定岩塊の安定性評価の流れ
    図5  不安定岩塊の安定性評価の流れ
  • 図6  現地観察される岩塊の長さ(Lb)
    図6  現地観察される岩塊の長さ(Lb

(記事:石原朋和)