鉄道構造物等設計標準(軌道構造)について

1.はじめに

 軌道構造については,これまで全体を網羅した体系的な設計標準がありませんでした.これに対し,国土交通省のご指導により,平成18年度より(財)鉄道総合技術研究所(当時)を事務局とする,「軌道構造設計標準に関する委員会」(委員長:東京大学大学院家田仁教授)が設けられ,足かけ4年にわたる審議を経た後,本年12月に国土交通省から鉄道構造物等設計標準(軌道構造)(以下,「設計標準」という.)として通達されます.ここでは,この新しい設計標準について紹介します.

2.本設計標準の特徴

 本設計標準の特徴は以下のとおりです.

(1) 軌道部材,バラスト軌道,直結系軌道,ロングレール,分岐器を網羅した初めての設計標準である.

 これまで,国が定めた軌道に関する設計標準としては,バラスト軌道については設計標準(案)が国から示されていました.軌道部材については,JISにおいて製品の規格は定められていましたが,設計に関わる基準は定められていませんでした.また,直結系軌道については,国鉄時代に定められたA型軌道スラブ設計指針(案)(現、A型軌道スラブ設計要領)が,現在でも準用されています.今回新たに定められる設計標準は,これらを全て網羅し,性能照査型設計という統一された考え方のもとで設計を行うことを目的とするものです.

(2) 性能照査型の設計法である.

 性能照査型の設計とは,設計者が構造物に対する具体的な要求性能を定めて,これを満足するよう設計する方法をいいます.国の技術基準省令の性能規定化に合わせて,土木構造物の設計標準は,順次性能照査型設計法に移行してきました.これに合わせて軌道構造の設計においても,初めて性能照査型設計法が取り入れられ,軌道を支持する構造物と同一のルールによる設計が可能となりました.表1に,軌道構造の要求性能の例を示します.また,性能照査の方法には,原則として限界状態設計法を用いることにしています.これも,軌道構造の設計標準には初めて取り入れられたものです.

  • 表1  軌道構造の要求性能の例
    表1  軌道構造の要求性能の例

3.設計標準による設計の流れ

 図1に,バラスト軌道,直結系軌道,分岐器類について,設計の流れと各章との対応を示します.
 軌道構造の設計では,まず基本的な軌道構造を選定します.次に,この軌道構造において使用する軌道部材を仮定し,限界状態設計法に基づき応答値を算定して,その応答値が要求性能から定められた限界値以内であることを照査します.限界値を満足しない軌道部材については,再度部材仮定し直して,性能照査を行います.さらに,仮定した軌道構造に対して,限界状態設計法に基づき応答値を算定して,その応答値が要求性能から定められた限界値以内であることを照査します.限界値を満足しない場合には,再度軌道構造を見直します.

  • 図1  設計標準による設計フロー各章との対応
    図1  設計標準による設計フロー各章との対応

4.おわりに

 性能照査型設計の導入によって,設計者の裁量により合理的,かつ自由度の大きい設計を行うことができるようになります.新たに敷設される軌道についてはもちろんですが,既設線軌道の強化の際などにも,積極的に活用していただくようお願いします.
 なお,本設計標準の制定に伴い,鉄道総研では以下の日程で講習会を開催いたしますので,ふるってご参加下さい.また合わせて丸善出版㈱より本文,解説,付属資料をまとめた書籍を発刊します.

(記事:古川 敦)

鉄道構造物等設計標準(基礎構造物)について

1.はじめに

 平成13年に国の技術基準である「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(国土交通省令第151号)」の中で,鉄道に関する技術基準を従来の仕様規定から性能規定への改正が示されています.これを受けて,各種設計標準が性能規定および照査を包含した性能照査型設計標準に改められてきました.
 このような経緯により,基礎構造物の設計の技術基準に性能照査型設計法を導入することを目的として,国土交通省の指導のもと平成17年3月に学識経験者,鉄道事業者等から成る「基礎構造物・抗土圧構造物設計標準に関する委員会(委員長:日下部治 茨城高等専門学校校長,幹事長:古関潤一 東京大学教授)」が設置され,その後3年半に亘る審議を重ねてきました.その結果,最終委員会において最終成案「鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物(以下,新基礎標準と呼ぶ)」を得,平成23年12月に国土交通省鉄道局長より通達されました.本報では,本標準の改訂のポイントを概説します.

2.改訂のポイント

 新基礎標準では,(1)性能照査型設計法の導入,(2)地盤抵抗モデルと設計限界値,(3)材料等の適用範囲の拡大,(4)新工法基礎の導入を主な改訂の柱としました.

(1)性能照査型設計法の導入

 コンクリート標準では,表1に示すように構造物の要求性能,性能項目と作用の組合せを定め,施工中および設計耐用期間内の性能の経時変化を考慮して,照査がなされています.ただし,「耐久性の検討」を満足する場合は,環境の影響による性能の経時変化を考慮しない照査方法を用いることができます.新基礎標準においても,これらの考え方と整合を図りました.新基礎標準の章構成を表2に示します.
 鉄道構造物としての要求性能は,構造物種別によらず線区毎に同一として整合を図ることが必要と考えらます.そのため,コンクリート標準と同様に「安全性」,「使用性」及び「復旧性」を構造物の要求性能とし,構造物の一部を成す基礎構造物特有の性能項目を別途定めました(表3).

  • 表1  構造物の要求性能と設計作用の主な組合せ
    表1  構造物の要求性能と設計作用の主な組合せ
  • 表2  新基礎標準の章構成
    表2  新基礎標準の章構成
  • 表3  構造物の要求性能と基礎構造物の性能項目,照査指標
    表3  構造物の要求性能と基礎構造物の性能項目,照査指標

(2)地盤抵抗モデルと設計限界値

 新基礎標準では,ケーソン基礎や連壁基礎の水平地盤反力係数と杭基礎のそれの整合性を図るとともに,地震時の杭の水平地盤反力度と水平変位の関係が,明らかに過小評価であったことから見直しを行いました.基礎構造物の抵抗力と変位の関係の概略図を図1に示します.表3で示した構造物の要求性能に応じた基礎構造物の性能項目に対して,設計限界値(鉛直,水平,回転,部材)を定めました.同表には基礎構造物の照査指標の例も示しています.これにより同一線区に存在する各構造物間の性能レベルを一致させることが可能となりました.

  • 図1  基礎構造物の荷重変位関係と性能項目毎の設計限界値
    図1  基礎構造物の荷重変位関係と性能項目毎の設計限界値

(3)材料等の適用範囲の拡大

 コンクリート標準の材料の適用範囲を勘案し,基礎構造物に用いる材料の適用範囲を拡大しました.例えば,18~50N/mm2の設計基準強度を有するコンクリート,あるいは50N/mm2超の設計基準強度を有するコンクリート,高流動コンクリート,高強度鉄筋,大径鉄筋,高強度せん断補強鉄筋,機械式鉄筋継手,鉄筋定着板,機械式鋼管継手などです.ただし,これらはそれぞれ多種・多様の製品が存在することから,施工性や品質確認の他,性能の確認方法を明らかにした上での使用を前提としています.

(4)新工法基礎の導入

 旧基礎標準では,直接基礎,打込み杭,場所打ち杭,中掘り根固め杭,深礎杭,鋼管矢板基礎,連壁基礎が導入されています.一方,最近開発された新工法基礎の中には,地盤抵抗特性や部材特性の他,施工毎の品質が明らかにされ,旧基礎標準や耐震設計に準じ実設計・実施工済みの工法もあります.したがって,これらの実績等も勘案し,鋼管ソイルセメント杭,プレボーリング根固め杭,回転杭,シートパイル基礎の4工法を導入しました.

3.おわりに

 新基礎標準は性能照査型設計標準ですので,設計者の技量によって合理的,かつ自由度の大きい設計を行うことができます.一方,新基礎標準で提示された設計諸数値は,これを保証する適切な基礎の施工法や施工管理手法の条件,さらに鉄道構造物の維持管理の条件を明確にすることで設定しています.したがって,設計者は闇雲に設計諸数値を用いて,応答値の算定や照査を実施するのではなく,設計図等に設計の前提条件をまとめていただき,照査の前提条件が施工に反映されるよう心がけるのが大切であると考えています.
 なお,鉄道総研では以下の日程で講習会を予定しておりますので,ご参加くださいますようお願い申し上げます.また,合わせて丸善出版㈱より本文・解説・付属資料をまとめた書籍を発刊します.

(記事:神田政幸)

鉄道構造物等設計標準(土留め構造物)について

1.はじめに

 平成13年に国の技術基準である「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(国土交通省令第151号)」の中で,鉄道に関する技術基準を従来の仕様規定から性能規定への改正が示されています.これを受けて,各種設計標準が性能規定および照査を包含した性能照査型設計標準に改められてきました.
 このような経緯により,抗土圧構造物の設計の技術基準に性能照査型設計法を導入するために,さらに「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物」に示された補強土擁壁や補強土橋台等の補強土構造物も抗土圧構造物と比較対象の構造形式であることから鉄道事業者の利便性を図り,同一の照査指標により両者を統一的に取扱うために,国土交通省の指導のもと平成20年3月に学識経験者,鉄道事業者等から成る「土構造物設計標準(土留め構造物)に関する委員会(委員長:龍岡文夫 東京理科大学教授)」が設置され,その後1年半の審議を重ねてきました.その結果,最終委員会において最終成案「鉄道構造物等設計標準・同解説 土留め構造物(以下,新土留め標準と呼ぶ)」を得,平成23年12月に国土交通省鉄道局長より通達されました.本報では,本標準の制定のポイントを概説します.

2.本標準のポイント

 新土留め標準では,表1に示す構造物を取り扱います.設計実務者は擁壁で有れば,抗土圧擁壁あるいは盛土補強土擁壁(切土補強土擁壁)を選択します.一方,橋台で有れば,抗土圧橋台あるいは補強土橋台を選択することになります.新土留め標準では,(1)性能照査型設計法の導入,(2)応答値の算定法と設計限界値を主な制定の柱としました.

  • 表1  新土留め標準で取り扱う土留め構造物
    表1  新土留め標準で取り扱う土留め構造物

(1)性能照査型設計法の導入

 新土留め標準の章構成を表2に示します.新土留め標準においても,コンクリート標準に示す「安全性」,「使用性」及び「復旧性」を土留め構造物の要求性能とし,土留め構造物特有の性能項目を定めました.抗土圧擁壁と抗土圧橋台の要求性能,性能項目,照査指標を表3,4に示します.

  • 表2  新土留め標準の章構成
    表2  新土留め標準の章構成
  • 表3  抗土圧擁壁の要求性能,性能項目,照査指標
    表3  抗土圧擁壁の要求性能,性能項目,照査指標
  • 表4  抗土圧橋台の要求性能,性能項目,照査指標
    表4  抗土圧橋台の要求性能,性能項目,照査指標

(2)応答値の算定法と設計限界値

 表5に例として抗土圧構造物の構造形式と特徴を示します.擁壁は盛土端部等の土構造物の付帯構造物として,橋台は橋梁群の端部で使用されます.擁壁の場合は地震時に慣性力に比べて土圧の影響が大きく,橋台は桁等による慣性力の影響が大きくなります.さらに隣接する橋梁との目違い,折れ角等の相対変位が重要な照査指標となります.したがって,擁壁と橋台の応答値算定法や設計限界値を区別し,擁壁は土構造物に,橋台は橋梁・高架橋に整合を図りました(表3,4). 表6に抗土圧構造物の地震時のモデル化,応答値算定方法を示します.その他の補強土擁壁,切土補強土擁壁,補強土橋台も基本的に同様の考え方になります.

  • 表5  抗土圧構造物の構造形式と特徴
    表5  抗土圧構造物の構造形式と特徴
  • 表6  抗土圧構造物の地震時のモデル化,応答値算定方法
    表6  抗土圧構造物の地震時のモデル化,応答値算定方法

3.おわりに

 新土留め標準は性能照査型設計標準ですので,設計者の技量によって合理的,かつ自由度の大きい設計を行うことができます.擁壁,橋台は地盤材料を用いて構築するため,地盤材料の選定,盛土の施工方法や施工管理方法が特に重要となります.したがって,設計者は設計図等に設計の前提条件をまとめていただき,照査の前提条件が施工に反映されるよう心がけるのが大切であると考えています.
 なお,鉄道総研では以下の日程で講習会を予定しておりますので,ご参加くださいますようお願い申し上げます.また,合わせて丸善出版㈱より本文・解説・付属資料をまとめた書籍を発刊します.

(記事:神田政幸)