機械施工に対応したレール締結装置の開発

1.はじめに

 スラブ軌道用の直結8形レール締結装置は,敷設実績や信頼性,レールの調節性から広く使用されていますが,レール交換等の軌道作業時に締結ばねおよび締結ボルト・ナットの着脱が必要であり,軌道の保守・管理の観点からレール締結装置の緊締・緩解作業の機械化の障害となっています.そこで,本研究では機械施工を実現するため軌道作業時に締結ばねを一時的に移動し保持する「プリセット状態」を実現するレール締結装置を開発しました.また,併せて開発したレール締結装置の板ばねの締結状態を施工機械により判定する指標について検討しました.

2.開発したレール締結装置設計の前提条件

 本レール締結装置の開発にあたり,設計の前提条件を次に示すように定めました.
① タイプレートより下側は,現在敷設されているものから変更しない.
② 締結ボルト・ナットにおけるトルク管理が不要,または省力化される機能を有する.
③ 締結ばねにプリセット機能を有する.
④ レール交換時の機械施工に対応する.

3.開発したレール締結装置の概要

前提条件を踏まえて開発したレール締結装置の板ばねと締結ボルトの概要を示します.

3.1 板ばねの概要

 板ばねは,発生応力やスラブ軌道用レール締結装置に求められるふく進抵抗力の観点から,現行の直結8改形(低)レール締結装置の板ばねの断面形状を基本とし,かつ,前提条件である締結ばねのプリセット機能を実現するための形状を検討しました.これにより,締結ボルト・ナットを緩解して完全に取り外すことなく板ばねをレール交換に支障しない位置に移動でき,その位置で締結ボルトを緊締することで板ばねをタイプレートのショルダー部に固定する機能を実現しました.図1に設計した新型レール締結装置用の板ばねの外観を示します.


  • 図1 開発した板ばね
    図1 開発した板ばね

3.2 締結ボルトの概要

 プリセット機能に対応するための締結ボルトの形状検討を行いました.従来の直結8形レール締結装置の締結ボルト底部をレール側に拡幅するとともに,締結ボルトの底部上面に球面の一部となる加工を施し,板ばねの姿勢変化に応じて締結ボルトとタイプレートとの接触状態が常に一定となるようにしました.また,締結ボルトの先端には機械施工時の作業性向上を目的として,締結ばねを保持するチャックに対応可能な形状を施しました.図2に設計した締結ボルトの外観を示します.


  • 図2 開発した締結ボルト
    図2 開発した締結ボルト

3.3 プリセット機能の概要

 図3に設計した板ばねと締結ボルトにより実現するプリセット機能の概要を示します.所定の締結状態にあるレール締結装置(図3(a))の締結ボルト・ナットを緩解し(図3(b)),板ばねをレールと反対側のレール直角方向に移動させ,板ばねの上ばねに施した長穴の端部と締結ボルトが接触した状態で,かつ,下ばね先端がタイプレートショルダー部で固定された状態(図3(c))でナットを緊締することによりプリセット状態を実現します.また,本レール締結装置の適用にあたり,レール交換時に確実に板ばねと接触させないことを目的としてレールガイド機構(図4)を考案しました.

  • 図3 プリセット機能の概要
    図3 プリセット機能の概要
  • 図4 レールガイド機構
    図4 レールガイド機構

4.性能確認試験の概要と結果

 試作した板ばねと締結ボルトを用いて直結8形レール締結装置を組み立て,各種性能確認試験を実施しました.表1に実施した性能確認試験の試験項目を示します.なお,いずれの項目とも新規に開発したレール締結装置に対して実施する項目です.
 特にふく進抵抗力試験においては,上ばね・下ばねの間隔(開口量)を複数設定し,レール高低調整量を最大および最小の状態で試験を行った結果,開口量9mmの場合にスラブ軌道で必要とされるふく進抵抗力を満足することが明らかとなりました.この結果に基づき,本レール締結装置に用いる板ばねの開口量を9mmと定めました.また,その他のいずれの試験項目についても新型レール締結装置の実軌道への適用に関し耐久性および走行安全性上問題のないことが明らかとなりました.
 ただし,本レール締結装置の適用にあたっては,実軌道への試験敷設を実施して締結ばねの発生応力の測定,経過観察等を行い実使用環境下でも十分安全で問題が生じないことを確認する必要があると考えます.

  • 表1 性能確認試験の実施項目
    表1 性能確認試験の実施項目

5.レール締結装置の締結状態の判定指標

 開発したレール締結装置の板ばねの「締結状態」を施工機械によって判定する方法とその指標について,板ばねの「上ばねの変位量」および「ナット回転角」に着目し,現行の管理指標である締結トルクとの比較を中心に検討を行いました.その結果,図5に示す例のように,本レール締結装置の締結状態の判定指標としては上ばね変位量が最も再現性があり信頼性の高いことが分かりました.ただし,上ばね変位量を指標とする場合は,施工機械上から上ばね変位量を確実に検知する手法を検討する必要があります.また,ナット回転角はレール高低調整量が把握できれば再現性が高く上ばね変位量に次いで信頼性が高いものの,その初期条件である手締め状態の設定方法については今後更に検討が必要です

  • 図5 締結状態の判定指標の例(上ばね変位量と緊締トルク)
    図5 締結状態の判定指標の例
    (上ばね変位量と緊締トルク)

6.まとめ

 本レール締結装置については,今後試験敷設を行い実軌道への適用性を確認する予定です.

(記事:弟子丸 将)

無線通信簡易型地震計の開発

1.はじめに

 鉄道では,地震計で計測された地震動指標値を基準として列車停止や運転再開の判断を下しています.計測された地震動指標値が一定の閾値を超過した場合には,徒歩などにより地震計間の線路設備について巡回点検が行なわれますが,運転再開までの時間の大部分をこの巡回点検に費やしています.特に大きな地震が発生した後など活発な余震活動が続いている間は,地震動指標値が閾値を超過するたびに,巡回を行います.この際,簡便に地震計を設置して,より密に地震動強さの空間分布を把握することができれば,安全性を確保しつつより効率的な巡回を実施することが可能となり,状況によってはスピーディーな運転再開ができるようになります.以上のような考えから,簡易に設置・観測を行なうことが可能な無線通信簡易型地震計(SPOT:Sensor POd for Train system,以下SPOT地震計と呼ぶ)を開発しました.以下,本稿では開発したSPOT地震計の性能の紹介と加振試験結果,さらに,SPOT地震計を用いた自然地震観測結果を報告します.

2.SPOT地震計の性能

 SPOT地震計の外観を図1に示します.SPOT地震計は主に通信部と測定部から構成されています.消費電力を極力抑えているため,1日1回地震計処理が起動した場合,単一乾電池4本で概ね1ヶ月以上の動作が可能です.地震計筐体の大きさは208mm×200mm×97mm,重量は1280g(電池を除く)と非常に小型軽量になっています.また,屋外での使用を想定して,地震計筐体は保護等級IP67(防塵防水型)のペリカンケースを使用しています.通信部には,NTT docomoのXiサービスおよびFOMA通信を用いており,GPSモジュールによる測位とNTPによる時刻校正を行っています.測定部には3成分のMEMS加速度センサーを使用しており,センサーのサンプリング周波数は100Hz,測定レンジは±2G,分解能は1mG/digitです.
 SPOT地震計は,観測値があらかじめ設定したトリガレベルを超えた場合に,演算した強震度指標値と波形データを携帯網を通じてWebサーバに送信し,同時に地震計内に保存します.強震動指標値として演算するのは,計測震度相当値とJR用加速度値(5Hzハイカットフィルター処理を施した水平2成分合成加速度の最大値)です.送信された情報はPC等でWebサーバにアクセスすることで確認できます.Webサーバ上の表示画面と記録された波形データをそれぞれ図2と図3に示します.図3を見ると,常時±5gal程度の揺れを示した記録となっています.これは使用しているセンサーのノイズ特性によるもので,比較的弱い揺れは正確に測定することが出来ないことが分かります.

  • 図1 SPOT地震計の外観
    図1 SPOT地震計の外観
  • 図2 webサーバー上の表示画面
    図2 webサーバー上の表示画面
  • 図3 webサーバー上の波形データ
    図3 webサーバー上の波形データ

3.加振試験によるSPOT地震計の性能検証

 SPOT地震計の性能を確認するために,SPOT地震計と気象庁検定済みの計測震動計を振動台に並べて設置し,加振試験を行いました.加振試験によって得られた計測震度相当値の比較を図4に示します.その結果,計測震度2.5以上の揺れに対して気象庁検定済みの計測震度計との誤差が±0.1以下となることが確認できました.一方,計測震度2.5未満の揺れに対しては,先述した通りセンサーのノイズ特性の影響により,計測震度計の試験結果と差異が認められます.ただし,SPOT地震計の用途が,構造物等に被害を及ぼす可能性のある大きな揺れの観測であることを考えれば,十分な性能を有していると考えられます.

  • 図4 加振試験における計測震度相当値の比較
    図4 加振試験における計測震度相当値の比較

4. SPOT地震計を用いた自然地震観測

 SPOT地震計と気象庁検定済みの計測震度計による自然地震の並行観測を行ないました.その結果,観測期間中,3つの地震に対して強震動指標計算処理が行われ,波形データが記録されました(2012年1月1日 鳥島近海 M7.0,2012年1月28日 山梨県東部・富士五湖 M5.5,2012年1月29日 山梨県東部・富士五湖 M4. 7).このうち計測震度2.5以上の揺れを観測した地震(1月1日 計測震度2.8,1月28日 計測震度2.5)の波形を図5に示します.この記録では,計測震度計との誤差がいずれも計測震度で±0.1以下,JR用加速度値で±5%以下となり,SPOT地震計が十分な精度を有していることを示しました.

  • 図5 観測波形の例(フィルタ処理後)
    図5 観測波形の例(フィルタ処理後)

5. まとめ

 簡易に設置,地震観測を行なうことを目的に開発したSPOT地震計の機能と,加振試験による性能検証やSPOT地震計を用いた自然地震観測の結果について報告しました.今後は,観測データの蓄積や実際の使用環境に近い状況での稼働確認により信頼性の検証を行ないながら,鉄道の現場等での導入促進を図りたいと考えています.

(記事:伊藤賀章)