鋼・合成構造物の性能照査の手引き

1.はじめに

 平成21年度に改訂された「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)1)」(以下,「鋼・合成標準」)では,従来の仕様規定型から性能規定型の設計標準に移行したほか,新たな技術を取り入れ,適用範囲の拡大を行いました.この改訂に伴い,これまでに鋼鉄道橋規格(SRS),性能照査例および設計プログラム(VePP-SC)を整備してきました.
 今回,「鋼・合成標準」による設計を支援する設計ツールとして,「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)性能照査の手引き」(以下,「本手引き」)を新たに作成しました.この手引きは,「鋼・合成標準」を基にして性能照査を行う際,設計の考え方,照査方法の詳細,標準とする構造仕様について参考となる事柄を資料としてまとめたものです.以下,その概要についてご紹介します.

2.本手引きの構成

 本手引きの構成および「鋼・合成標準」に関連する設計ツール,その他の指針類,規格類の関係を図1に示します.本手引きは,性能照査編,構造仕様編および参考資料の3つから構成されています.性能照査編は,「鋼・合成標準」で示している性能照査型設計に対応した内容を新たに記載したものであり,構造仕様編と参考資料は,昭和62年に刊行された「建造物設計標準(鋼鉄道橋)の手引き2)(以下,「旧手引き」)」を基にして,加筆・修正および項目の追加を行い,再編成したものです.
 本手引きは,「鋼・合成標準」に記載されていない事項で設計・施工上重要と考えられる事柄を中心に記載しており,これを使用することで,より円滑な性能照査や品質の向上につながると考えています.

  • 図1 本手引きの構成と「鋼・合成標準」関連の設計ツールの関係
    図1 本手引きの構成と「鋼・合成標準」関連の設計ツールの関係

3.各編の内容

 本手引きの各編における記載内容を以下に簡単に示します.また,本手引きに記載した事項の一部を抜粋したものを,各項目の設定経緯とともに表1に示します.

(1)性能照査編

性能照査編は,「鋼・合成標準」に基づく照査における具体的な方法や従来から便宜的に用いられていた照査方法を示したものです.例えば,安全係数をはじめとする各種の係数等の設定方法や,中間補剛材等を設計する際の腹板板要素の具体的な照査方法などを記載しています.

(2)構造仕様編

構造仕様編は,「旧手引き2)」における「鋼橋設計内規」を基本として,構造,断面,材料等に関する仕様的な事項のうち,設計や施工の実務において重要と考えられる事項を示したものです.例えば,気温が著しく低下する地域に使用する溶接桁の鋼材の品質や,下路プレートガーダーの鋼床版のボルト継手の詳細などを記載しています.

(3)参考資料

参考資料は,これまで「鋼・合成標準」の付属資料で示していた事柄や,「旧手引き2)」に盛り込まれていた,国鉄時代から多く実施された設計や施工に関する事例を示したものです.例えば,図面の記載例やすみ肉溶接技量試験の例などを記載しています.「旧手引き」との対応についても示しています.
  • 表1 「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)性能照査の手引き」目次(抜粋)
    表1 「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)性能照査の手引き」目次(抜粋)

4.おわりに

 以上,「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)性能照査の手引き」についてご紹介しました.本手引きに記載されていない事柄に関しては,関連する他の手引き等によることとなりますが,ご不明な点がありましたら,どうぞお気軽にお問い合わせください.
 本手引きが,鋼・合成構造物の円滑な性能照査および品質向上の一助になれば幸いです.

参考文献

1) 国土交通省鉄道局 監修,鉄道総合技術研究所 編:鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物),丸善,2009.
2) 鉄道総合技術研究所:建造物設計標準(鋼鉄道橋)の手引き,1987.

(記事:斉藤雅充)

水素・エチレン混合ガスを用いたレールのガス圧接

1.はじめに

 日本では,ロングレール化のためのレール溶接法として,テルミット溶接,ガス圧接,フラッシュ溶接,およびエンクローズアーク溶接の4工法が適用されています.このうち,ガス圧接の適用比率は全体の30%を占めており,軌道メンテナンス体制を維持する上で不可欠なレール溶接法であると言えます(図1).しかしながら,現行のガス圧接作業において燃料ガスとして用いられているアセチレンガスは,産業界における需要減少および原材料価格の高騰に伴って生産コストが上昇しており,製造メーカーの採算状況如何によっては,供給が滞る可能性があります.また,アセチレンガスは酸素との燃焼反応に伴い炭酸ガスが発生するため,環境に与える影響が懸念されます.このような中,鉄道総研では,将来においてもガス圧接の利用を可能とするため,世の中が水素エネルギー社会へ移行しつつある状況を鑑み,水素・エチレン混合ガスを用いたレールガス圧接法の開発に取り組んできました.ここでは,当ガレールガス圧接法について紹介します.
  • 図1 各レール溶接法の適用状況(JRグループ)
    図1 各レール溶接法の適用状況(JRグループ)

2.水素ガスをレールガス圧接作業に適用するための取り組み

水素ガスは燃焼速度が非常に速いため,加熱特性に優れた集中性の高い火炎が得られます.しかしながら,エチレンガス等の炭素化合物を混合した場合でも,火炎の集中性が比較的高いため,火炎形成領域が狭く,接合端面の酸化を低減する上で重要となる接合部のシールド性が現行法で用いるアセチレンガス燃焼炎に比べて劣るという問題点があります.そこで,当水素・エチレン混合ガスをレールガス圧接作業において適用可能とするため,レールのガス圧接試験を通し,燃焼条件および加熱バーナ構造の適正化に関して検討を進めました.図2 に,レールガス圧接試験の実施状況を示します.
  • 図2 レールガス圧接試験の実施状況
    図2 レールガス圧接試験の実施状況

3.水素・エチレン混合ガスを用いるレールガス圧接法の接合施工条件

 JIS60kg 普通レールを接合対象とした一連のレールガス圧接試験により,溶接欠陥の存在しない健全な継手を作製可能な接合施工条件を提案するに至りました.提案した水素・エチレン混合ガスを用いるレールガス圧接法の標準仕様を図3 に示します.加圧力および圧縮量は,いずれもアセチレンガスを用いる現行法で普通レールを接合する場合の標準条件と同一です.また,加熱関連機器以外については,現行法での使用機器をそのまま適用できます.
  • 図3 水素・エチレン混合ガスを用いるレールガス圧接法の標準仕様(JIS60kg 普通レール)
    図3 水素・エチレン混合ガスを用いるレールガス圧接法の標準仕様(JIS60kg 普通レール)

4.試験継手の性能

 提案した接合施工条件により作製したJIS60kg 普通レール試験継手を対象に実施した組織観察試験,静的曲げ試験,曲げ疲労試験等の結果,当試験継手は現行法による継手と同等の性能を有していると判断されました.図4 に,試験継手を頭部上向姿勢(HU)および頭部下向姿勢(HD)の静的曲げ試験(支点間距離1m,中央集中荷重)にそれぞれ3 本ずつ供した結果を示しますが,いずれの継手もJIS60kg 普通レールガス圧接部の曲げ基準値を上回っています.
  • 図4 静的曲げ試験結果
    図4 静的曲げ試験結果

5.炭酸ガス排出量の試算

 水素・エチレン混合ガスの適用により期待される環境負荷低減効果を評価するため,当レールガス圧接法をJIS60kg 普通レールの接合に適用した場合の炭酸ガス排出量を試算し,現行法における排出量と比較しました.表1 に試算結果を示しますが,当レールガス圧接法の適用により,炭酸ガス排出量を現行法のおよそ1/3 程度に削減できることがわかります.
  • 表1 炭酸ガス排出量の試算結果
    (JIS 60kg 普通レール接合時)
    表1 炭酸ガス排出量の試算結果(JIS 60kg 普通レール接合時)

6.おわりに

 主要なレール溶接法の一つであるガス圧接技術を将来に継承するため,水素・エチレン混合ガスを用いるレールガス圧接法の開発に取り組み,実用上問題のない継手を作製し得る接合施工条件を提案するに至りました.当レールガス圧接法は,現行法に比べて炭酸ガス排出量を大幅に削減でき,さらに,現行法で用いるセチレンガスボンベを水素・エチレン混合ガスボンベに置き換えるだけでガス供給が可能となるため,現行法と同等の作業性を確保できます.

(記事:山本隆一)

航空レーザ測量データに基づいた斜面崩壊要注意箇所抽出手法

1.はじめに

 山間線区では鉄道に隣接して自然斜面が分布することが多く,集中豪雨や台風などにより,これらの自然斜面が崩壊し,鉄道に影響をおよぼすことがあります.斜面崩壊が発生する可能性がある箇所は鉄道沿線に広く分布し,また鉄道用地外に位置する場合も多くあります.斜面崩壊の発生が懸念される要注意箇所を逐一把握するためには,沿線に分布する自然斜面について様々な調査を行う必要がありますが,これには膨大な時間と労力を要するため,これを実施するのは容易ではありません.このため,沿線の広範囲を効率的に調査し,斜面崩壊の要注意箇所を抽出する手法が確立できれば,鉄道の安全・安定輸送に資することができると考えられます.
 一方,近年のリモートセンシング技術の発達により,航空機や人工衛星などに搭載されたセンサを用いて,地表面に関する様々な情報を定量的に取得することが可能になりました.これらの技術を用いることで広範囲を一度に調査することができ,また得られたデータを解析することで地表面の状況を定量的かつ客観的に評価することが可能になると考えられます.
 そこで,リモートセンシング技術のひとつである航空レーザ測量により作成した数値標高モデルなどを用いて,鉄道沿線で斜面崩壊の発生が懸念される要注意箇所を抽出する手法について検討を行いました.

2.航空レーザ測量

 航空レーザ測量とは,航空機に搭載したレーザースキャナから地表にレーザを照射して地表の標高を計測する技術で,これにより得られるデータには数値標高モデル(Digital Elevation Model:DEM)や数値表層モデル(Digital Surface Model:DSM)があります。DEM は地表面の標高値の,DSM は地表面の標高に土地被覆物(森林や建物など)の高さを加えた値のメッシュデータです(図1).使用したDEM とDSM のメッシュ間隔は1m であり,これらのデータを解析することで,地表面の形状や植生に関する詳細な情報を抽出することができます.
  • 図1 DSM とDEM の違い
    図1 DSM とDEM の違い

3.斜面崩壊の要因

自然災害の要因としては,地形・地質・植生・地下水などの素因や,降雨・地震等の誘因が挙げられます.このうちどのような素因が斜面崩壊の発生に寄与しているかを明らかにするため,日本各地で発生した500箇所余りの斜面崩壊について,空中写真判読および現地踏査により検討しました。その結果,①斜面の傾斜が30°以上,②集水地形などの斜面形状,③伐採,が各地で共通する素因として挙げられることが分かりました。

4.斜面崩壊の要注意箇所の抽出

 抽出した素因のうち,斜面の傾斜についてはDEM から算出できる“傾斜量”という値を用いて数値化することができます。また,斜面の形状については斜面の水平断面と垂直断面の凹凸を表す指標である平面曲率と縦断曲率という指標を用いて斜面の形状を区分する手法を開発しました(図2).伐採などの植生の状態については,DSM からDEM を減算することで得られる数値樹冠モデル(Digital Canopy Model:DCM)を用いて区分する手法を開発しました(図3).
 これらの数値化した素因を斜面崩壊への寄与度に応じて重みづけし,重ね合わせることで,斜面崩壊の要注意箇所を抽出しました(図4).抽出結果については,一部の地域について現地踏査を行い,結果の妥当性を確認しています.DEM とDSM があれば簡易な手順で斜面崩壊の要注意箇所を抽出することが可能です(図5).
  • 図2 斜面形状の区分
    図2 斜面形状の区分
  • 図3 植生の区分
    図3 植生の区分
  • 図4 斜面崩壊要注意箇所抽出結果
    図4 斜面崩壊要注意箇所抽出結果
  • 図5 抽出フロー
    図5 抽出フロー

5.おわりに

 簡易な手順で広域的かつ客観的に斜面を評価する手法を開発しました.本手法による抽出結果をもとに,防災対策を行う際の詳細な調査を行う箇所を絞り込むことが可能です(図4).今後は抽出結果のさらなる検証と,その他の素因を含めた抽出手法の開発を行い,より精度の高い抽出結果が得られるよう検討する予定です.

(記事:長谷川 淳)