膜上家の新工法の開発

1.はじめに

 現在,ホーム上家で使われている屋根材には,主にスレート・折版・膜材の3種類あります.このうちスレートについては,老朽化が進んでいる駅が多いことやメンテナンス性が悪いことから,今後折版や膜材への葺き替えが多くなると考えられます.また,膜材については,意匠性や採光性に優れているという特長がある一方で,スレートや折版とも共通の課題である豪雨時の雨樋のオーバーフローや,スレートや折版に比べ長い施工期間が汎用化に向けた課題として挙げられます.そこで,これらの課題への対応を目的として2種類の新工法を開発し,各工法の安全性・施工性について確認しました.

2.雨樋のオーバーフロー対策

 豪雨時の雨樋のオーバーフロー対策として,屋根自体に谷樋機能を持たせることで金属谷樋をなくした新工法(図1, 以下樋一体型工法)を提案しました.この新工法は,雨水処理上,膜屋根の弱点となっている金属の樋と膜屋根の接合部をなくすことで,雨仕舞いを改善するとともに,現場におけるメンテナンスの省力化にもつながると考えられます.本研究ではこの新工法について,安全性や施工性,コスト等の確認・算出を行いました.

  • 図1 樋一体型工法のイメージ
    図1 樋一体型工法のイメージ

(1) 安全性の検討

 建築場所については,積雪量450mm以下の地域を想定した試設計を行いました.これは,関東地方では東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県,茨城県の全域に適用できる値です.また,基準風速については36m/s以下(海岸線までの距離500m超)の地域を想定しました.これは,上記5都県のうち東京都島しょ部(鉄道なし),千葉県一部地域を除き対象範囲内となる値です.
 荷重については,表1に示す組み合わせについて計算を行いました.なお,積雪荷重・地震荷重については建築基準法に,風荷重については旧建設省告示に準じています.結果として,樋一体型工法は,既存の膜屋根と同等の構造安全性を有することを確認しました.なお,積雪地域においても,積雪荷重に応じた構造とすることで本工法は適用可能です.


  • 表1 検討した組み合わせ荷重
    表1 検討した組み合わせ荷重

(2) 施工性の検討

 樋一体型工法については,既存技術を用いて施工可能であることを確認しました.また,樋一体型工法と一般的な膜屋根工法(以下,一般工法)について現場施工費を比較したところ,樋一体型工法は谷樋に関わる金属工事が削減されるため,一般工法よりもコストダウンできることを確認しました.なお,本比較では,施工条件の想定は樋一体型工法,一般工法とも,夜間き電停止時間は2.5時間/日,ホーム上は高所作業車による作業,軌道上はローリングタワーの組払しとしています.

3.施工性向上対策

 膜屋根に固有の課題として,現場での張力管理等が必要となるため,スレートや折版に比べ施工期間が長くなってしまうことが挙げられます.そのため,乗降客数の多いターミナル駅等では適用例が増えつつありますが,地方閑散線区等では導入されにくいのが現状です.そこで,本研究では膜屋根の工期短縮策として,プレファブ型の膜屋根による新工法(図2, 以下プレファブ工法)を提案し,安全性や施工性,コスト等の確認・算出を行いました.

  • 図2 プレファブ工法のイメージ
    図2 プレファブ工法のイメージ

(1) 安全性の検討

 プレファブ工法の安全性・施工性については,樋一体型工法と同様の条件で安全性を確認しました.その結果,プレファブ工法は,既存の膜屋根と同等の構造安全性を有することを確認しました.なお,積雪地域においても,積雪荷重に応じた構造とすることで本工法を適用することは可能です.

(2) 施工性の検討

 プレファブ工法についても,既存の技術を用いて施工可能であることを確認しました.また,プレファブ工法と一般工法について現場施工費のコスト比較を行ったところ,現場近くのヤードで鉄骨仮組み,塗装,膜張りが可能であれば,プレファブ工法は一般工法と比較して条件によっては10%以上のコストダウンが可能となり,ヤードでの作業を昼間8時間/日,ホーム上でのき電停止作業を夜間2.5時間/日とすると,き電停止作業日数も一般工法の半分程度で施工可能であることを確認しました.

4.おわりに

 膜上家の降雨時の雨樋のオーバーフロー対策として,屋根と樋が一体になった新工法(樋一体型工法)を開発し,安全性,施工性について検討しました.その結果,安全性,施工性の点で実用化可能であり,現場施工費も一般的な膜屋根工法よりも削減できることが分かりました.また,膜上家の施工性向上策として,プレファブ型の膜屋根による新工法を開発し,安全性,施工性について検討しました.その結果,安全性,施工性の点で従来と同等以上の性能を有し,現場施工費も一般的な膜屋根工法に比べて条件によっては10%以上削減できることを確認しました.
今後は,本テーマの成果を活用し,ホームドアと膜屋根でホーム空間を覆ったシェルター型のホーム上家の開発に取り組む予定です.

(記事:伊積康彦)

発生バラストを用いた路盤改良工法の開発

1.はじめに

 鉄道の土路盤上のバラスト軌道において,道床・路盤が不健全な箇所は,通常のタイタンパー補修ではその効果が持続せず,保守費の増大を招いています(図1(a)).そのため,そのような箇所は,新しいバラストに交換すると共に,置換工法等で路盤表層を改良することにより,道床・路盤の健全化および保守周期の延伸化を図ることができます(図1(b)).一方で,置換工法のような路盤改良は,路盤材の締固めが不十分であると,十分な改良効果が得られないことがあります.また,線路内工事では,使用する重機に制限があり,特に狭隘な線区では一晩あたりの施工延長の延伸が困難となります.そこで,鉄道総研では,発生バラストを路盤材の骨材として利用し,低強度グラウトを充填することで路盤改良層を構築する新しい路盤改良工法(以下,「グラウト充填工法」と称す)を開発しました1).本工法は,道床交換の際に発生する道床バラストを活用することで環境負荷の軽減を図るとともに,発生土の搬出時間を短縮することで一晩あたりの施工延長の延伸を目指したものです.本稿では,新しい路盤改良工法の改良効果を検討するため,実物大模型試験を行いましたので報告します.

  • 図1 路盤改良の概要
    図1 路盤改良の概要

2.グラウト充填工法の概要

 図2にグラウト充填工法の充填概要を示します.本工法の低強度グラウトはセメント・促進剤・水からなるA液と,硬化剤・水からなるB液の2液を体積比1:1で混合して充填するものです.2液式にすることでゲルタイムを数分程度に調整できることから隙間から,漏出の恐れが小さく,充填の際の型枠が不要となります.また,グラウトの充填作業は普通作業員で対応可能であり,充填機材はすべて汎用性の高く入手が容易なものとしました.

  • 図2 グラウト充填工法の概要
    図2 グラウト充填工法の概要

3.実物大模型軌道の載荷試験による施工性と効果の確認

 粘性土路盤および砂質土路盤に対して,グラウト充填工法の路盤改良効果を確認するため,実物大模型を用いた繰返し載荷試験を行いました.砂質土路盤では排水条件の悪い箇所を改良した条件で,粘性土路盤では軟弱路盤を改良した条件でそれぞれ検討しました.
 模型路盤は,設定した地盤反力係数(K30値)と同等となるようにFEM解析を用いて層構成を決定し,幅3.5m,長さ7m,深さ2.5mの土槽内に構築しました.砂質土路盤は,比較的高い路盤剛性を想定してK30値を90MN/m3の条件に設定し,路盤改良層厚は200mmとしました(図3).また,粘性土路盤は,軟弱路盤を模擬し,軌道変位進みが比較的大きくなるようにK30値を50MN/m3としました.路盤改良層厚は新設線の砕石路盤と同等の路盤剛性となるように300mmとしました(図4).構築した各路盤上に,まくらぎ1本,道床厚200mmのバラスト軌道を設置しました.載荷条件を表1に示します.降雨による滞水の影響を検討するため,繰返し載荷試験中にバラスト軌道上で散水を行いました.
 図5に路盤変位振幅の推移を示します.粘性土路盤の場合は,路盤改良により路盤剛性が増加し,路盤変位振幅が半減していることわかります.一方,砂質土路盤の場合は,路盤改良による路盤変位振幅の変化が小さいことがわかります.これは,砂質土路盤の剛性が比較的高いためであると考えられます.
 図6にまくらぎ沈下量の推移を示します.粘性土路盤の場合は,路盤変位振幅と同様に,路盤改良効果でまくらぎ沈下量が半減していることがわかります.砂質土路盤の場合は,路盤変位振幅の低減はわずかでしたが,まくらぎ沈下量が4割程度低減していることがわかります.
 ここで,文献2によると,列車走行時の路盤変位振幅が1.0mm程度以上であると軌道沈下の進みと高い相関関係にあり,1.0mm以下ではその関係は見られないとされています.つまり,粘性土路盤は,路盤変位振幅が1.0mm以上で路盤剛性が小さいためにまくらぎ沈下量が増大し,路盤改良により剛性が増加したことで,路盤変位振幅およびまくらぎ沈下量が低減したものと考えられます.一方,砂質土路盤は,路盤変位振幅が1.0mm以下で路盤剛性が比較的高い路盤ですが,排水条件が悪いために路盤が変形しやすく,まくらぎ沈下量が増大したものと考えられます.そして,このような排水不良箇所に対して路盤改良を行うことにより,改良効果が得られることがわかりました.また,透水性の高い砂質土路盤にもグラウト充填工法が適用可能であることを確認しました.

  • 図3 実物大模型試験概要(砂質土路盤)
    図3 実物大模型試験概要(砂質土路盤)
  • 図4 実物大模型試験概要(粘性土路盤)
    図4 実物大模型試験概要(粘性土路盤)

  • 表1 載荷条件
    表1 載荷条件
  •  図5 路盤変位振幅の推移
     図5 路盤変位振幅の推移
  • 図6 まくらぎ沈下量の推移
    図6 まくらぎ沈下量の推移

4.まとめ

 発生バラストを路盤改良層の骨材に活用してグラウトを充填する路盤改良方法を開発し,実物大模型試験で本工法の路盤改良効果を確認しました.

参考文献

1)中村貴久,桃谷尚嗣,伊藤壱記,村本勝己:発生バラストを活用した既設線路盤改良工法の開発,鉄道総研報告,Vol.27,No.4,pp23-28,2013
2)関根悦夫,村本勝己:営業線路盤の支持力特性に関する研究,鉄道総研報告,Vol.9,No.7,pp19-24,1995

(記事:中村貴久)

高速鉄道PC桁の上反り制限に関する検討

1.はじめに

 PC桁の外ケーブル補強工法は,道路橋等において既に手法が確立されており,2007年度までに75の補強事例が報告されていますが,鉄道橋に関しては施工事例が報告されていません1).この背景には,鉄道橋では,設計活荷重の改訂が行われていないこと,主ケーブルの破断事例の報告が少ないことが挙げられますが,一方でグラウト不良に起因するPC鋼線の破断も懸念されており,工法の適用性の検討が進められています.高速鉄道PC桁へ外ケーブル補強を適用する場合,補強圧縮力の偏心や,クリープの再進展に伴う桁の上反りの発生とこれによる列車走行性への影響が懸念されます.そこで,本研究では,高速列車走行に対する上反りの限界値を推定し,外ケーブル補強の適用性について検討しました.

2.解析方法

 検討には,車両と構造物との動的相互作用解析プログラムDIASTARS IIIを用いました.図-1に車両の力学モデル(31自由度)を示します.車両諸元は現在主流の軽量高速車両を参考としました.
 図-2に車輪とレール間の鉛直方向の力学モデルを示します.車輪とレール間のモデルでは,それぞれの幾何形状を考慮して接触位置と接触角を算定し,接触力をHertzの接触ばねにより表現しています.
 構造物の力学モデルには,概略評価用の半正弦波モデルと詳細評価用の相互作用モデルを用いました.
 図-3に構造物の半正弦波力学モデルの概念図を示します.半正弦波モデルでは,桁のたわみ形状を半正弦波に固定してモデル化しました.ただし桁の両端の角折れに対しては,弾性床上の梁の理論式に基づく緩和区間を設けました.
 図-4に構造物の動的相互作用力学モデルの概念図を示す.動的相互作用モデルは桁全体を梁要素でモデル化しました.桁の基本固有振動数は新幹線PC桁の標準設計を参考に70Lb-0.8及び40Lb-0.8と仮定しました.桁の減衰定数ξは2%としました.桁の外ケーブル補強による上反りを想定する場合は,動的相互作用力学モデル上に,図-3で示した半正弦波を桁の上反りとして入力しました.
 数値解析による走行安全性の評価は,輪重減少率を用いて行いました.輪重減少率の制限値は,単線,定員積載で実際の営業線での上反り管理を行うことを想定し,15%を用いました3).乗り心地の評価は,同様に最大片振幅0.5m/s2を用いました3).加速度の評価点は台車直上の車体床面としました.これらの制限値は,営業線の軌道管理に影響を及ぼさないよう,通常の橋梁設計よりも厳しく設定しています.


  • 図-1 車両の力学モデル
    図-1 車両の力学モデル
  • 図-2 車輪とレール間の鉛直方向の力学モデル
    図-2 車輪とレール間の鉛直方向の力学モデル
  • 図-3 構造物の半正弦波力学モデル
    図-3 構造物の半正弦波力学モデル
  • 図-4 構造物の動的相互作用力学モデル
    図-4 構造物の動的相互作用力学モデル

3.解析結果

 図-5に1次共振時の時刻歴波形の例を示します.輪軸走行軌跡から,スパン1/4,3/4付近で上反りの相殺効果が確認できるものの,中央付近では桁の共振により振幅が増加し波形も高周波にシフトしていることが分かります.このため,スパン1/4,3/4付近には輪重変動,車体加速度とも半正弦波の場合には見られない新たなピークが出現し,波形が乱れ挙動が複雑となっています.このような場合には,桁の上反りが必ずしもたわみを相殺しないことが分かります.
 図-6に外ケーブル補強で用いる限界値を示します.変位標準3)と同様に半正弦波モデルをベースとして列車速度ごとに制限値を設定しましたが(例えば,列車速度260km/hではLb/10000+3mm),桁剛性が低く共振により挙動が複雑となるような場合には,動的相互作用解析で検討すべきであると言えます.


  • 図-5 時刻歴波形の例(Lb=50m,上反りLb/10000,基本固有振動数40Lb-0.8)
    図-5 時刻歴波形の例
    (Lb=50m,上反りLb/10000,基本固有振動数40Lb-0.8
  • 図-6 外ケーブル補強で用いる限界値
    図-6 外ケーブル補強で用いる限界値

4.考察

 提案した限界値を用いて外ケーブル補強の高速鉄道PC桁への適用性について検討しました.ここでは,新幹線の70種類の標準桁を検討対象としました.検討では,有効プレストレス力の10%を外ケーブル補強により新たに付与すると仮定して,PC桁の上反り量を求めました.また,外ケーブル補強を実施する直前,軌道は水平に整備されていると仮定しました.熟材齢のPC桁のクリープ係数は,十分な実証データが得られていないため,クリープ係数φ=0と,新設設計のφ=2.6を用いました.
 図-7に外ケーブル補強による上反り量の算定結果と限界値の比較を示します.10%の有効プレストレス力の付加に対して,クリープ係数φ=0の場合には,概ね限界値以内に収まっています.一方,φ=2.6を用いると限界値を超える場合がみられ,特に剛性の低い多主桁の場合にその傾向が強いことが分かります.ただし,本研究で用いた乗り心地の限界値は,超過しても列車の運行を即座に阻害する性質のものではなく,また通常は,レール締結装置でもある程度の調整は可能となっています.実務では,非構造部材の剛性の影響等も含めて,これらの影響を総合的に勘案して補強設計を行う必要があります.


  • 図-7 外ケープル補強による上反り量の算定結果と限界値の比較
    図-7 外ケープル補強による上反り量の算定結果と限界値の比較

5.まとめ

 数値解析により,列車走行性から定まる上反り量の限界値を算出し,外ケーブル補強による上反り量の試算値と比較しました。本研究の内容が今後の維持管理業務の一助となれば幸いです.本研究の一部は,国庫補助金を受けて実施されました.

参考文献

1) プレストレスト・コンクリート建設業協会:外ケーブル方式によるコンクリート橋の補強マニュアル(案)[改訂版],2007
2)プレストレスト・コンクリート建設業協会:外ケーブル方式によるコンクリート橋の補強実例図集[第2版],2007
3)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(変位制限),2006

(記事:曽我部正道)