プレストレストコンクリート桁の非破壊検査法

1.はじめに

 ポストテンション式プレストレストコンクリート(以下,PC)桁は,その特徴から河川や道路との交差部などのスパンの長い橋りょうに多く用いられており,鉄道では10,000連以上が建設されています.供用開始から長期間経過したPC桁の一部には,主にPCグラウトの品質および施工不良に起因したグラウト充てん不良が生じている場合があります.PCグラウトの充てん不良は,将来的にPC鋼材が腐食,破断する危険性があり,破断した事例も報告されています.このため,PCグラウトの充てん状況の調査は,PC桁を維持管理するうえで,重要な調査となっています.

2.従来のPCグラウト充てん調査

 これまでPCグラウト充てん調査は,PC桁を削孔し,目視もしくはCCDカメラ等でPCグラウトの充てん状況を確認する手法が用いられてきました.この削孔調査では,PCグラウトの充てん状況を直接確認できるため,正確な判定が可能となりますが,削孔した箇所の充てん状況しか確認できず,また削孔作業によってPC桁を損傷させてしまう可能性があります.したがって,PC桁を損傷させることなく,非破壊でPCグラウトの充てん状況を確認できる手法の開発が求められています.

3.非破壊検査法によるPCグラウト充てん調査

3.1 X線透過法

 X線透過法は,検査対象とするPC橋りょうに放射線(X線)を一定時間照射し,フィルムを感光させることで,空洞の有無を判定する手法です.X線の透過性は物質の密度に応じて変化するという性質があります.つまり,透過度が高い部分は画像が濃く,透過度が低い場合は画像が薄くなることから,画像の濃淡でPC橋りょうのシース内部の空洞の有無を診断する方法です.
 図1のような試験体で測定したところ,X線が透過するコンクリートの厚さが300~400mm程度であれば,図2のような濃淡が確認できます.なお,放射線を用いるため十分な安全管理が必要となります.


  • 図1 X線透過法による測定
    図1 X線透過法による測定
  • 図2 X線透過法の実験結果
    図2 X線透過法の実験結果

3.2 インパクトエコー法

 インパクトエコーを用いた非破壊検査法は,図3に示すようにPC橋りょうの表面に加速度センサーを設置し,その近くで鋼球により打撃し,反射波を受信することで弾性波の反射した位置の深さを測定します.測定結果と部材厚およびシース位置を比較することにより,シース内部の空洞の有無を判定する手法です.ただし,シースが鉄筋に近い表面付近に配置された場合,判定精度が低下する可能性があるので注意が必要です.


  • 図3 インパクトエコー法の概要
    図3 インパクトエコー法の概要

3.3 超音波法

 超音波法は,図4に示すように発信側センサーから超音波を入力し,シースから得られた反射波をもう一方の受信側センサーで計測することで,この反射波の卓越振動数を用いてPCグラウトの充てんの有無を判定する手法です(図5).この波形によって測定する箇所の厚さに依存せずに,短時間での測定が可能になります.ここで,入力波に対して得られる反射波には,鉄筋や骨材からの反射波やコンクリート表面を伝わる波も含まれているため,得られた反射波から,シースからの反射波のみを抽出することが重要となります.これまでの超音波法では,測定方法や波形の分析の場面で測定者の経験に依存した判定になることが多かったのですが,最近の取組では,それらのルールを体系化することで,計測精度が向上することを確認しています.


  • 図4 超音波法の概要
    図4 超音波法の概要
  • 図5 超音波法による充てん判定
    図5 超音波法による充てん判定

4.導電塗料によるPC桁の変状検知法

 3章では,PCグラウト充てんの有無の調査のための非破壊検査法を紹介しました.次に,PC鋼材の腐食,破断などに伴う,PC桁の変状に対する導電塗料を用いた検知法の開発を紹介します.導電塗料とは,通電可能な塗料のことで,図6のような実験でひび割れの有無と通電の関係について検証しました.PC桁はひび割れの発生を許容していませんが,PC鋼材の破断などによりプレストレスが低下し,ひび割れが発生する可能性があります.導電塗料をPC橋りょうの表面に塗布することにより,通電の有無によりひび割れの有無を検知することができます.
 鉄道総研では導電塗料とデーター転送装置を用いて,24時間体制で構造物の変状をモニタリングする手法についても取り組んでいます(図7).


  • 図6 導電塗料によるひび割れ検知実験
    図6 導電塗料によるひび割れ検知実験
  • 図7 構造物におけるひび割れモニタリングの一例
    図7 構造物におけるひび割れモニタリングの一例

5.おわりに

 本報告では,PC桁の非破壊検査法について紹介しました。最近は,PC桁に限らず,長期に供用された鉄道土木構造物の維持管理方法が非常に注目されています。鉄道土木構造物を長期間活用していくためには,構造物がどのような状態にあるかを適切に判断したうえで,維持管理する必要があります。その際,今回紹介したような非破壊法が活用されればと思います。

(記事:堀 慎一)

鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物(平成25年改編)の出版

1.はじめに

 平成23年12月に国土交通省鉄道局長から鉄道構造物等設計標準(土留め構造物)(以降は「土留め標準」と記載します)が通達されましたが,この通達時に,他の設計標準に幾つかの変更があり,鉄道構造物等設計標準(土構造物)(以降,「土構造標準」)では条文の一部削除が行われております。また,平成24年9月には鉄道構造物等設計標準(耐震設計)(以降,「耐震標準」)が通達されており,設計地震動等が改定されています。
 鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)は平成19年1月に発刊されましたが,この度増刷を行うに際して上記の削除や変更を反映した改編を行いました。以下ではその概要について紹介いたします。

2.土留め標準通達に伴う記載の変更

 土留め標準の通達に伴って土構造標準から削除される項目を表1に示します。これまで土構造標準に記載されていた盛土補強土擁壁,切土補強土擁壁,補強土橋台は,従前の鉄道構造物等設計標準(抗土圧構造物)に示されていた抗土圧擁壁,抗土圧橋台と等価な指標で設計が行えるよう,土留め標準に移管されました。これに伴い,内容の重複を避けるために土構造標準の8~10章が削除となっています。また,「7章 補強土一般」では従前は,盛土補強土工法として補強盛土・盛土補強土擁壁・補強土橋台,地山補強土工法として補強切土・切土補強土擁壁について記載されておりましたが,今回の改編では補強盛土と補強切土に関連する記述のみを残し,本章と「3章 盛土」・「4章 切土」に従って設計を行うこととしております。土留め標準の通達に伴う土構造物・土留め構造物の掲載標準の変更を図1に示します。
 これに伴って,鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)では上記に関連する解説(解説図や解説表も含む)と付属資料の削除が行われています。


  • 表1 土留め標準の通達に伴う土構造標準の削除項目
    表1 土留め標準の通達に伴う土構造標準の削除項目
  • 図1 土留め標準制定に伴う土構造物・土留め構造物の掲載標準の変更
    図1 土留め標準制定に伴う土構造物・土留め構造物の掲載標準の変更

3.耐震標準への対応

 土構造標準では,地震動の取扱いについて「2.7.3 地震による作用」の記述があり,基本的には耐震標準によることとしています。
 土構造標準では,これまでL1地震動を変動作用,L2地震動は偶発作用として取り扱っておりましたが,改訂された耐震標準では設計地震動や設計地震動によって生じる全ての作用を地震作用と定義されていることから,鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)では改編に合わせてこれに沿った記述に書き改めています。
 また,L2地震時の盛土体の滑動変位量をニューマーク法によって算定する際には,従前は,鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)の解説図2.7.1に示される「土構造物用暫定波」を用いることとしておりました。今回,耐震標準の改訂により,鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震設計)では,新たに「ニューマーク法に用いる地震動(土構造物照査波)」を用意しています(付属資料12-2に記載)。これは,ニューマーク法による盛土の滑動変位量が,地震観測記録に対してニューマーク法を適用した結果(滑動変位量)の非超過確率90%を概ね満足するように,地表面設計地震動に対してバンドパスフィルターを施したものとしています。
 図2に示す適合みなし仕様の性能ランクⅡの盛土に対して,高さおよび地盤種別ごとに算定される滑動変位量の比較を図3に示します。土構造物暫定波を用いてときと比べ,土構造物照査波によって算定される盛土の滑動変位量は小さくなっていることから,合理的な盛土の耐震設計が可能となると考えられます。
 この改訂に伴って,鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)の解説図2.7.1と付属資料11の一部,および付属資料12が削除されています。


  • 図2 試算を行った適合みなし仕様の盛土(性能ランクⅡ)
    図2 試算を行った適合みなし仕様の盛土(性能ランクⅡ)
  • 図3 新旧地震動による滑動変位量の比較
    図3 新旧地震動による滑動変位量の比較

4.おわりに

 以上,鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)の主だった改編について紹介いたしましたが,設計実務での混乱を招かないよう,条文や解説,付属資料の番号は改編後も従前のままとしております。従って,改編後は一部番号に欠番が生じることをご了承ください。また,改編以前の鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)を多くの方がお持ちかと思いますが,新たに購入いただく必要はなく,改編に伴う変更点や文言の修正を取り纏め,鉄道総研HPに掲載する予定ですのでご確認ください。

(記事:松丸貴樹)

テルミット溶接を用いたレール頭部補修方法

1.はじめに

 近年,シェリングきず等のレール頭部損傷がレール折損の主因となっており,その管理に多大なコストが費やされています.このような頭部損傷の補修を目的として,国内ではガス溶射肉盛法,海外では被覆・半自動アーク溶接法が実施されていますが,いずれも高度な技量を必要とし,施工時間も要するため,作業時間に制約がある中では適用が困難です.そこで,本研究では簡便かつ比較的短時間で施工が可能なテルミット頭部補修溶接法に着目し,溶接施工条件を検討すると共に溶接部の仕上り検査方法および判定基準を提案することを目的としました.

2.テルミット頭部補修溶接法の概要

 図1にテルミット頭部補修溶接法の施工手順を示します.まず,シェリングきず等の損傷箇所をガス切断で切取り,切断面をグラインダー研削した後,浸透探傷検査で残存きずを確認します.本工法では図1(d)に示す使い捨てルツボを使用し,モールド内に注入されたテルミット溶鋼が凝固した後に余肉を押抜き,グラインダーで研削仕上げが施されます.本溶接法では,レールを破線しないためにレール緊張器を必要とせず,通常のテルミット溶接施工1口に要する時間で損傷レールの補修が可能となります.そのため,施工コストはレール交換および後日設定替えを実施する場合に比べ,わずか5分の1程度に留まる試算となります.このようにテルミット頭部補修溶接法は多くの利点を持つ溶接法ですが,材料供給メーカが推奨する現行条件では,図2に示すように,頭頂面のショア硬さ分布が不均一となり,さらに断面上における溶接金属の溶込み量が部分的に不足する等の問題を生じます.そこで,これら問題点の改善に関して検討を進めました.


  • 図1 テルミット頭部補修溶接法の施工手順
    図1 テルミット頭部補修溶接法の施工手順
  • 図2 現行条件の問題点
    図2 現行条件の問題点

3.硬さ分布改善手法の検討

 硬さ分布改善手法として,ガス圧接部の後熱処理作業で使用されている冷却装置を用いた溶接直後の強制空冷による方法を検討しました.送風量を2条件(2.8m³/min,2.2m³/min)として,押抜き直後からレール頭部温度が300℃以下となるまで空冷処理を施した際の硬さ分布を,図3に示します.送風量2.8m³/minでは溶接中心部が48HSと顕著に硬化しましたが,送風量2.2m³/minでは,溶接中心部が44HS程度となり,経年レール母材とほぼ同等の硬さ分布が得られました.


  • 図3 空冷前後のショア硬さ分布
    図3 空冷前後のショア硬さ分布

4.溶込み量の増加手法の検討

4.1 予熱条件の変更

 予熱時間の延長による投入熱量の増加により,溶込み量の増加を試みました.なお,通常の予熱炎で時間を延長した場合,バーナ先端が過熱状態となり逆火に至る可能性があるため,過熱対策として予熱炎の圧力を下げ,ライザー側モールドのゲイト穴を拡大しました.表1に改良前後の予熱条件,図4にモールドの改良状況を示します.上述の対策によって過熱を防ぎつつ,長時間予熱が可能となり,投入熱量を大きく増加することが可能となりました.その結果,当該予熱条件で作製した試験体では,図5に示すようにいずれの部位も溶込み量が大きく増加しました.

  • 表1 予熱条件
    表1 予熱条件
  • 図4 モールド改良状況
    図4 モールド改良状況
  • 図5 改良予熱条件による断面マクロ組織
    図5 改良予熱条件による断面マクロ組織

4.2 湯流れ経路の変更

 現行モールドの湯流れは湯口からライザーへと一方通行に抜けるため,ライザー側の溶込み量が少なくなると考えられます.そこで,通常の湯口に加えて,プラグに設けた丸穴から注湯することで,ライザー側の切取り面に溶鋼を直撃させる方式(プラグ併用注湯)を検討しました.図6に加工プラグの設置状況,注湯経路模式図および断面マクロ組織の一例を示します.溶込み量の少ないライザー側に設置した3箇所の丸穴からの注湯により,いずれの領域においても溶込み形状が均一になると共に,十分な溶け込み量が確保されました.

  • 図6 プラグ併用注湯のプラグ設置状況,遊湯経路模式図および断面マクロ組織例
    図6 プラグ併用注湯のプラグ設置状況,遊湯経路模式図および断面マクロ組織例

5.仕上り検査方法および判定基準

 図7に示す溶接中心から30mm位置に融合不良が発生した試験体に対して,超音波探傷検査を実施しました.その結果,頭頂面からの一探触子法で3級,頭部二探触子法で2級のきずエコーを検出しました.当該溶接部の融合形態より,欠陥の検出には頭頂面からの一探触子法が優れていること,また,既往の研究成果より,検出した欠陥の判定には二探触子法が優れていることから,以下のような仕上り検査方法と判定基準を提案します.
① 欠陥の検出を目的として頭頂面からの一探触子法で溶接部全体を走査
② きずエコーを検出した場合,エコー反射源に対して頭部二探触子法を適用
③ 判定は頭部二探触子法で行い,欠陥等級2~4級を不良

  • 図7 融合不良の一例
    図7 融合不良の一例

(記事:伊藤太初)

地震後の早期運転再開に資する鉄道路線上の詳細な地震動推定手法

1.はじめに

 地震発生の際に路線上の揺れが大きく,鉄道施設や走行中の列車の安全性が懸念される場合には,可能な限り早く列車を停止させます.その後に,徒歩巡回等により軌道や鉄道構造物の安全性が確認されれば,列車の運転が再開されます.この安全確認では目視で軌道や構造物などに変状がないことを確かめるため多大な時間を要する場合があり,運転再開までのダウンタイムの短縮を図るには的確かつ効率的に安全確認を行う必要があります.そのためには対象路線沿線の地盤震動特性を詳細に把握し,地震発生時に地震計位置以外の地震動を素早く正確に推定することが重要となります.本研究では,宮崎県中部沿岸部に位置する全長約7kmの宮崎リニア実験線をモデル路線として,線状に連続したS波速度構造および地震動の推定を試みました.推定地震動と観測地震動の比較による精度検証を行った結果,本研究で行った線状連続のS波速度構造および地震動の推定に対する手法の有効性が確認されました.

2.地震観測および地震計設置地点のS波速度構造の推定

 モデル路線として選定した宮崎リニア実験線の中間(以下,サイトA)と南端(以下,サイトB)の2地点(図1)に地震計を設置し2011年1月から2012年12月まで地震観測を行いました.また、上記の2地点におけるS波速度構造の推定を行いました.S波速度構造は表面波探査およびアレイ微動探査から求めたレイリー波の分散曲線に対し,理論値と整合するよう逆解析を行うことにより推定しました(図2).両地点の離隔距離は約4kmですが,地下構造は大きく異なっています.なお,推定したS波速度構造を検証するため,図2の矢印で示す境界面の入力地震動を1次元重複反射理論により計算し比較したところ,S波到着直後の両地点の地震動波形は概ね等しいことが確認されました.この結果,推定したS波速度構造の信頼性が確かめられました.

  • 図1 宮崎リニア実験線における地震計設置地点
    図1 宮崎リニア実験線における地震計設置地点
  • 図2 推定S波速度構造
    図2 推定S波速度構造

3.対象路線上に沿ったS波速度構造の推定

全長約7kmの宮崎リニア実験線に沿った線状連続のS波速度構造を推定する目的から,単点微動測定を約100m間隔で実施し,得られた単点微動測定データから全82地点のH/Vスペクトル比を求めました.図3に宮崎リニア実験線のキロ程に対する各H/Vスペクトル比のコンター図を示します.本研究では,この図に○で示す各H/Vスペクトル比の卓越部に基づき速度構造を推定することとし,卓越周波数の0.5倍から2.0倍の範囲を再現する速度構造を遺伝的アルゴリズムによる逆解析から求めました.はじめに,北端から南方へ向けてサイトAの推定地下構造の層厚とS波速度に±10%幅の拘束を設けて観測されたH/Vスペクトル比を説明できるS波速度構造の推定を連続的に行いました.次に,南端から北方へ向けてサイトBの推定地下構造に基づき,同じ拘束条件でS波速度構造の推定を連続的に行いました.図4にH/Vスペクトル比を用いて推定した宮崎リニア実験線の路線に沿った線状連続のS波速度構造を示します.図中の(A1)184~219はサイトAモデル区間の1層目かつ推定S波速度が184から219m/sであることを表しており,(A2)428~459なども同様の表現です.連続的にS波速度構造を推定した結果,両区間の境界位置においてサイトAモデル区間の第1層および第2層,サイトBモデル区間の第1層は不連続な速度分布となりました.一方,サイトAモデル区間の第3層とサイトBモデル区間の第2層はS波速度が640から750m/sと類似しており,ほぼ同じS波速度を持つ連続した層であると推測されます.そして,この層の深さは終点方(南方)になるに従い深くなっていると考えられます.また,サイトBモデル区間では深さ450mから500m程度に速度境界層がありますが,本研究ではサイトAモデル区間においてこの層の存在を確認できませんでした.

  • 図3 H/Vスペクトル比のコンター図
    図3 H/Vスペクトル比のコンター図
  • 図4 線状連続の推定S波速度構造
    図4 線状連続の推定S波速度構造

4.対象路線上に沿った地震動の推定

 推定した線状連続S波速度構造を用い,宮崎リニア実験線に沿った線状連続の地震動推定を行いました.はじめに線状連続にS波速度構造を推定した単点微動測定地点において,推定S波速度構造と1次元重複反射理論により基盤面から地表面への伝達関数を算出しました.次に,参照点の地表にて観測された地震動から算出した基盤入力波は宮崎リニア実験線全線で同一であると仮定して,算出済みの伝達関数を用いて地表面の波形を計算し,地震動指標を求めました.検討に用いた地震動は,図1に示す2011年4月9日21時57分の種子島南東沖の地震(M5.8)です.図5に宮崎リニア実験線のキロ程と推定した水平2成分合成の地表面最大加速度を示します.本研究では,2つの地震観測地点のうちサイトBは地震観測データの参照点,サイトAは推定精度の検証点という位置付けになります.図5のサイトAにおける実測値と推定値はよく一致しており,地震動推定の結果が良好であることが認められました.

  • 図5 線状連続の推定地震動
    図5 線状連続の推定地震動

5.おわりに

 本研究の手順を用い,対象路線沿線のS波速度構造を連続的に推定しデータベース化しておくことで,地震発生時において,地表面の地震動などを即時的かつ詳細に把握することが可能になります.これらの推定情報は,列車の運転再開判断の支援などに活用できると考えられます.

(記事:岩田直泰)