補強盛土一体橋梁(GRS一体橋梁)

はじめに

 従来の橋桁・橋台からなる橋梁は,長期的な維持管理の問題として支承部の腐食や橋台背面盛土の沈下という問題があり,また地震時の橋台自身の沈下や傾斜,支承部の損傷による機能不全,背面盛土の過大な沈下,場合によっては落橋等の問題がありました(図1).
 従来形式の橋梁の課題の解決として,背面盛土を補強土構造とする補強土擁壁橋梁や,支承部をなくした インテグラル橋梁が開発されてきました.しかしながら,補強土擁壁橋梁については支承部の問題が,インテグラル橋梁については背面盛土の沈下の問題が残ったままであり,インテグラル橋梁においては,外気温の変動による桁の膨張・収縮に伴う背面盛土の沈下,土圧の上昇による躯体の損傷等の問題もありました.このような従来形式の橋梁の課題を解決するために,補強材を介してインテグラル橋梁と背面盛土を一体化する補強盛土一体橋梁(Integral Bridge with Geosynthetic-Reinforced Soil)を開発しました.


  • 図 1 従来型橋梁の課題
    図 1 従来型橋梁の課題

補強盛土一体橋梁の概要

 補強盛土一体橋梁は,背面補強盛土(補強盛土工法を併用したセメント改良アプローチブロック)と直接基礎形式のインテグラル橋梁による構造形式を基本とし,背面補強盛土とインテグラル橋梁は,補強材を介して一体化された構造となっています(図2).従来の橋桁・橋台形式と比較し,支承部のメンテナンスが省略可能になること,長期的な背面盛土の沈下が抑制されること,背面盛土との一体化により構造境界が無くなることによる走行安全性の向上等の効果が期待されます.また,地震に対しては,構造的弱部となる支承部が無くなることや,ラーメン構造化により反対側の壁体背面盛土の受働抵抗が期待できることから耐震性が向上し,津波等による落橋防止にもつながります.一方,インテグラル橋梁の外気温の変動による橋桁の膨張・収縮に伴う課題についても,インテグラル橋梁と背面補強盛土を面状補強材で一体化することによる橋梁の水平変位の抑制が期待され,また,背面補強盛土の自立性による沈下や土圧増加の抑制が期待されます.


  • 図 2 補強盛土一体橋梁の概要
    図 2 補強盛土一体橋梁の概要

実物大試験橋梁による性能確認

 鉄道総研の盛土試験場に補強盛土一体橋梁の実物大試験橋梁を構築し,長期動態観測,繰返し載荷試験,正負交番水平載荷試験等を実施しました.写真1に実物大試験橋梁の施工状況,写真2に完成状況,写真3に載荷試験状況を示します.
 L2地震動を想定した正負交番水平載荷試験時の橋梁天端の変位量を図3に示します.水平荷重については2000kNまで250kN毎に荷重を増加させ,各荷重ステップで3回の繰返し載荷を行いました.2000kN以降は+側へ2300kN,-側へ2600kNまで単調載荷を実施しました.正負交番水平載荷試験の載荷方向,変位計測位置を写真2に示します.
 橋梁の水平変位は,L2地震動相当(水平震度1.0程度)である+2200kN 時において背面側に19㎜,-2200kN時で前面側に16㎜であり,また残留変位量は+2200kN載荷後に背面側に4㎜,-2200kN載荷後に前面側に5㎜と非常に小さい変位量であることが確認されました.これは一体橋梁の背面が補強土体であることから,地震時の水平力に対して,主働側変位に対してはジオテキスタイル,受働側変位に対しては,壁体背面の補強土体が抵抗したものであり,本構造形式の高い耐震性が確認されました.
 また,載荷試験後の背面盛土の残留沈下は約2~4mmと小さなものであり,列車の走行性に関して大きな問題となるような沈下は発生していないことが確認されました.躯体の損傷についても壁体とハンチ部の打継目箇所に軽微なクラックが確認された程度でした.
 これらの載荷試験結果より,本橋梁が非常に高い耐震性能を有していることが実証されました.


  • 写真1 試験橋梁施工状況
    写真1 試験橋梁施工状況
  • 写真2 試験橋梁および水平載荷試験時変位量
    写真2 試験橋梁および水平載荷試験時変位量

  • 写真3 載荷試験状況
    写真3 載荷試験状況
  • 図3 水平載荷試験時の橋梁天端水平変位量
    図3 水平載荷試験時の橋梁天端水平変位量

おわりに

 補強盛土一体橋梁は,すでに北海道新幹線で1橋梁施工済みであり,また,三陸鉄道において津波の被害を受けた高架橋区間において,長スパン橋梁を含む3橋梁が施工中です.今後は,これまでの研究成果を基に作成した「補強盛土一体橋梁の設計・施工指針(案)」を用いて本工法の更なる普及に努めたいと考えています.
 なお,補強盛土一体橋梁に使用するジオテキスタイル補強材については,実物大試験・動態観測・載荷試験等によって性能を確認した二軸同一強度の面状補強材の使用を基本としています.

(記事:野中隆博)

分岐器の弾性支持化に対する評価手法

はじめに

 分岐器は,構造が複雑であることや様々な長さのまくらぎが短い区間に敷設されていること等から,軌道変位が生じやすく保守量の多い箇所の一つとなっています.一般に分岐器は弾性構造をもっていないことから,弾性まくらぎや弾性式レール締結装置の使用等によって分岐器に弾性を付与することが,軌道変位の抑制に対する有効な対策になると考えられます.しかし,これまで分岐器に弾性を付与する際の評価方法は確立されていませんでした.
 そこで本研究では,弾性支持化等の分岐器の支持条件が車両や軌道の挙動に与える影響を評価するため,図1のような分岐器を対象とした車両の走行シミュレーションモデルを構築しました.さらに,分岐器種別やまくらぎの支持条件等の条件を任意に設定できるシステムを構築しました.このモデルを用いることで,分岐器走行時の輪重変動やレール変位を求め,分岐器に弾性を付与した際の事前評価が可能となります.


  • 図1 分岐器走行シミュレーションモデル
    図1 分岐器走行シミュレーションモデル

解析モデル

(1)軌道モデル

 図2に示すようにレールとまくらぎはFEM梁要素でモデル化します.レールとまくらぎ間,まくらぎと地盤間はばねで連結されており(以下「レール支持ばね」,「まくらぎ支持ばね」という),地盤は剛体としています.レール支持ばねは軌道パッドとレール締結装置,まくらぎ支持ばねはまくらぎパッドと道床ばね1)2)3)4)等の合成ばねに相当します.


  • 図2 軌道モデル
    図2 軌道モデル

(2)車両モデル

 車両モデルは,図3のように車体,台車,輪軸を剛体でモデル化し,軸ばね,まくらばねおよび台車牽引リンクをばねでモデル化しています5).各ばね定数や取付位置,重心位置は車両諸元に基づいています.また,本モデルは車両走行時の上下荷重を軌道に与えることを目的としているため,軸ばね,まくらばねのローリングのみ考慮しています.


  • 図3 車両モデル
    図3 車両モデル

解析モデルの自動作成

 本解析モデルは,図4に示す作成画面に分岐器形状を入力することで自動作成が可能です.また,レール・まくらぎ物性値,レール・まくらぎの支持ばねも,要素毎に設定可能です.


  • 図4 解析モデルの作成画面
    図4 解析モデルの作成画面

シミュレーション結果

 シミュレーション結果の一例として分岐器は在来線用12番片開き分岐器(図面番号T60 片12-101)のものを示します.軌道はバラスト軌道としています.車両は通勤型車両を想定した諸元を用いており,対向走行で速度を100km/h としました.
 分岐器走行シミュレーションのレール変位と輪重の結果を図5に示します.一般的な分岐器を想定して、一般区間をPCまくらぎ、分岐器区間を合成まくらぎとした場合を細線で示しています。また、弾性を付与した場合を想定して,分岐器区間をまくらぎパッド付き合成まくらぎとした場合を太線で示します.結果から,分岐器区間にまくらぎパッドを敷設した場合,レール変位は0.05mm程度大きくなり一般区間との差が小さくなります.輪重に関しては差異がみられるものの,最大輪重に関しては同程度です.


  • 図5 まくらぎパッドを敷設した場合のシミュレーション結果
    図5 まくらぎパッドを敷設した場合のシミュレーション結果

おわりに

 分岐器走行シミュレーションモデルを構築し,分岐器の弾性支持化に伴う輪重変動やレール変位の変化等を評価しました.これまでに分岐器の弾性支持化やまくらぎ間隔の変更等の検討および実践されていますが,それらの効果を事前に検証する方法がありませんでした.本シミュレーションモデルを用いることで,それらの事前評価に活用することができます.

文献

1)佐藤吉彦,梅原利之:線路工学,日本鉄道施設協会,1987年2月

2)加藤八洲夫:レール,日本鉄道施設協会,1978年1月

3)須田征男,長門彰,徳岡研三,三浦重:新しい線路,日本鉄道施設協会,1997年3月

4)新版軌道材料編集委員会:新版軌道材料,鉄道現業社,2011年5月

5)日本機械学会:鉄道車両のダイナミクス,電気車研究会,1994年12月

(記事:清水紗希)

模型ラジコンヘリコプタ-を用いた岩盤斜面の空撮測量システム

はじめに

 鉄道の落石被害の予防を目的として,沿線斜面に存在する不安定な岩盤ブロックを遠隔非接触計測で検出する手法の開発に取り組んでいます。同手法では,図1のように,非接触振動測定システム「Uドップラー」による振動計測で岩塊の力学的安定性を推定します。その際に,岩塊の形状や背面周辺の外観情報が得られれば,推定精度を高められますが,斜面下方からは測量や目視が難しい場合が少なくありません。そこで,岩盤斜面への計測ターゲット形成を目的として開発したラジコン模型ヘリコプター(以下,模型ヘリ)を活用して,簡易な岩盤斜面の空撮測量システムを開発しました。


  • 図1 岩盤斜面の遠隔非接触計測
    図1 岩盤斜面の遠隔非接触計測

空撮測量システムの概要

 模型ヘリなどのUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)は,簡易な上空からの情報収集装置として測量や災害調査の分野で大変注目されています。図2 に開発した空撮測量システムの概要と用途を示します。空撮装置は,全長1.6m,機体重量7.8kgの26ccガソリンエンジン模型ヘリ(農薬散布に使用される産業用無人ヘリの寸法1/2,重量1/9程度)にステレオビデオカメラを搭載したものです。1回の給油で約15分の連続飛行が可能で,地上局で撮影画像のリアルタイムでの確認,撮影の開始・停止を行えます。岩塊に接近して様々な方向から動画を撮影し,死角(データの抜け)がない岩塊形状を取得することを目的として開発しました。
 鉄道では,架線支障や線路への墜落が懸念されますが,近年,UAVの姿勢制御や自立飛行に関わる制御技術が格段に進歩しました。本空撮装置もGPSとIMU(慣性計測装置)で制御されており,外乱の作用や操縦信号の途絶が発生しても常に姿勢を保ち墜落を回避します。経路指定による自立飛行も可能です。適切な計画,安全対策下で熟練者が操縦する場合,鉄道近傍でも使用できるレベルにあると考えます。


  • 図2 空撮測量システムの概要と用途
    図2 空撮測量システムの概要と用途

ステレオ画像相関法

 各種のパラメータが等しく既知のカメラを図2(b)のように光軸を平行にして基線長bの間隔で配置し,ある点Pを撮影します。その際に,焦点距離fの位置にある各カメラの画像に写る点Pの位置を各カメラ座標上の点P1(u,v),P2(u’,v’)とするとき,三角測量の要領で点Pの座標(X,Y,Z)が式(1)で求められます。ここで,点Pの座標は左側カメラの座標系を基準にしています。

 開発したデータ解析システムは,ステレオカメラが撮影した左右画像上の対応点を自動探索し,撮影対象の表面形状を3次元の位置情報と色情報を持った点群データとして算出できます。得られた岩塊の形状データは,岩塊の質量や重心の推定,数値解析モデルの自動作成などに活用します。

ステレオカメラユニットの開発と機能確認

 予備実験として,市販のステレオカメラを模型ヘリの前頭部に設置して空撮実験を行ったところ,振動によるカメラの不具合や画像のブレが発生しました。そこで,図3に示す防振機能付きのステレオカメラユニットを製作し,模型ヘリの脚部に設置しました。ステレオカメラは,基線長を500mm~700mmに変更でき,130万画素のステレオカラー画像を撮影速度15fpsで撮影する仕様としました。
 図4に示す脚部とカメラ部の2箇所の飛行中の振動を計測し,防振効果を確認しました。図5に計測された加速度応答を示します。脚部に対してカメラ部の振動が十分に低減されることが確認できました。また,図6の要領で,寸法が既知の模型を対象とした撮影実験を実施したところ,ブレの影響が少ない空撮画像が得られました。撮影画像を解析して求めた模型寸法の測距誤差は,撮影距離3.0m未満の地上撮影で平均0.1%,距離3~11mの空撮時で平均1.3%でした。


  • 図3 ステレオカメラユニット
    図3 ステレオカメラユニット
  • 図4 機体とカメラの振動計測位置
    図4 機体とカメラの振動計測位置

  • 図5 脚部とカメラ部の加速度応答
    図5 脚部とカメラ部の加速度応答
  • 図 6 模型の空撮実験状況
    図 6 模型の空撮実験状況

現地計測実験

 実岩盤斜面の空撮実験を実施しました。特徴的な形状の岩塊を測量対象とし,3~10m程度離れた位置からその形状を空撮し,表面形状の3次元点群データを算出しました。図7に空撮状況を,図8に算出された3次元点群データを斜面の斜め上方からの視点で2次元表示した結果を示します。3次元点群データを良好に算出でき,斜面下方から視認できない背面クラックの把握や岩塊スケールの推定に活用できることが確認できました。別途実施した岩塊の光波測量結果に対する測距誤差は約1.6%で,岩塊の概略形状の取得を目的とする場合,十分な精度を有していることが確認できました。


  • 図7 実岩塊の空撮状況
    図7 実岩塊の空撮状況
  • 図8 3次元点群データ(2次元表示)
    図8 3次元点群データ(2次元表示)

おわりに

 空撮測量システムは,山間部の落石発生源の調査や災害後の情報収集に利用できると考えます。今後も,システムの改良および岩塊形状データを活用した崩落危険度評価の精度向上の研究に取り組みます。なお,本研究は,国土交通省技術開発補助金を受けて実施しました。

(記事:上半文昭)