ロングレール化による既設鋼橋への影響

1.はじめに

 近年,軌道保守の省力化,騒音の低減等を目的とした軌道のロングレール(以下,LR)化に対するニーズが高まっています.また,鋼橋ではレール継目近傍において疲労き裂が発生しやすいことから,鋼橋の保守の観点からも,レール継目を無くすLR化はニーズが高いものとなっています.

 一方で,鋼橋上においてLRを敷設すると,温度変化によって生じるレールと橋梁との相対変位により,締結装置のふく進抵抗力に応じたLR縦荷重が,レールおよび鋼橋に作用します.ここで,1970年頃より以前に設計された既設の鋼橋については,このLR縦荷重を考慮して設計されていないため,LR化に当たっては当該鋼橋がLR縦荷重に耐えられるかをあらためて確認する必要があります.

 当研究室では,既設鋼橋上においてLR化がより適切に図れるよう,LR縦荷重の実態と既設の鋼橋への影響について検討してきました.本稿では,その結果について一部紹介します.

2.ロングレール縦荷重の実態

 LR縦荷重は,ふく進抵抗力,伸縮継目(以下,EJ)の位置,さらに複数連の鋼橋ではその径間の箇所によって,その大きさが異なります.これらをパラメータとして,実橋においてLR縦荷重を1年間計測し,設計標準における特性値(以下,設計特性値)と比較した結果を図1に示します.なお,対象とするA橋梁,B橋梁は,ともに支間が約20mの上路プレートガーダー(以下,DG)で,B橋梁端径間は固定支承の近傍にEJが配置された可動区間となっています.

 測定結果は,LRの不動区間では設計特性値以下でしたが,可動区間では設計特性値を大幅に上回っていました.これは,LRによって鋼橋に生じる軸力が,不動区間では鋼橋上で向きが反転し相殺されるのに対し,可動区間では全て一方向に作用する上,実際の締結装置のふく進抵抗力が設定値よりも大きく生じることが原因です(図2).なお,ふく進抵抗力が設定値よりも大きくなるのは,締結装置の過緊締や長年の供用による錆の影響などによるものと考えられます.

 このように,鋼橋上をLR化する場合は,不動区間ではLR縦荷重の設計特性値を見込んでおけば十分であることが確認できました.一方で,固定支承の近傍にEJを配置するような可動区間とする場合は,LR縦荷重が過度に大きくなる可能性があるため,注意が必要です.

  • 図1 LR縦荷重の実橋測定結果
    図1 LR縦荷重の実橋測定結果
  • 図2 鋼桁に生じる軸力分布とふく進抵抗力
    図2 鋼桁に生じる軸力分布とふく進抵抗力

3.既設鋼橋への影響

 鋼橋上をLR化する場合,前述のとおりLR縦荷重が軸力として鋼橋に作用するため,例えばDGでは,主に主桁と固定支承部においてその影響を確認する必要があります.

 1970年以前の既設DG(標準設計で支承構造は線支承)に対して,実際にLR縦荷重の照査を行うと,主桁は照査を満足するものの,線支承部では図3に示すように特にリブ前面のモルタルが支圧破壊するという照査結果となります.つまり,このようなDGでは鋼橋上をLR化することができないことになります.

 一方,過大な水平荷重が作用した線支承部において,リブ前面のモルタルが支圧破壊したという報告はこれまでにありません.そこで,線支承部の実際の破壊形態を室内載荷試験により確認しました.その結果,水平荷重に対して,支承端部を支点とした浮き上がり挙動に伴うリブ下端のモルタルひび割れで破壊することが分かりました(図4).また,その時の耐力は線支承部に作用する水平荷重と鉛直荷重によって評価できることも明らかとなりました(図5中の□印).

 図5には,既設DGの標準設計における水平荷重(LR縦荷重+制動始動荷重)と鉛直荷重の関係もプロットしています(図中の△もしくは▽印).いずれも,耐力の点線よりも下方にあり,既設DG上においてLR化しても問題ないことも明らかとなりました.なお,下路プレートガーダーにおいても,同様の支間(30m程度まで)であれば,LR縦荷重に対して線支承部は耐力を有していますが,下路プレートガーダーでは主桁と線支承部以外にも,縦桁やブレーキトラスについて照査する必要があります.

  • 図3 LR縦荷重に対する線支承部の照査
    図3 LR縦荷重に対する線支承部の照査
  • 図4 水平荷重に対する線支承部の破壊形態
    図4 水平荷重に対する線支承部の破壊形態
    図5 線支承部の耐力
    図5 線支承部の耐力

4.おわりに

 本検討では,主に支間30m程度までの標準的なプレートガーダー形式の鋼橋を対象としましたが,今後はより支間の長いトラスなどについても検討していく予定です.

参考文献

小林裕介他:ロングレール化に伴う既設鋼橋への影響評価,鉄道総研報告,Vol.27,No.6,2013

(記事:福本守)

線路上空建築物における鋼管群杭の杭頭補強方法

1.はじめに

 線路の上空部分を利用する橋上駅等の建築物(以下,線路上空建築物)では,地中梁がなく線路階の階高が高い等の構造的特徴を考慮した「線路上空建築物(低層)構造設計標準2009」1)(以下,低層標準)が策定されており,駅舎の設計等に広く利用されています.線路上空建築物の基礎構造に小口径の羽根付き鋼管を群杭として利用する場合には,水平力作用時において柱脚の回転に伴って群杭には押込み力と引抜き力が同時に作用(偶力と呼ぶ)するため(図1),一般建築に比べて杭頭には大きな軸力が作用することになります.つまり,杭頭には偶力による軸力に加えて曲げやせん断力に対して抵抗する必要がありますが,このような外力に対する杭頭接合部の設計基準等はありませんでした.特に,低層標準では線路空間の安全性の確保の観点から柱脚接合部について層降伏時においても弾性範囲内と規定しており,群杭利用の場合には柱脚だけでなく杭頭接合部においても十分な耐力を持たせる必要があります.本報告では,杭頭接合部の補強方法の提案し,性能の確認実験を行いましたので報告します.

  • 図1 線路上空建築物の群杭利用
    図1 線路上空建築物の群杭利用

2.群杭基礎構造の杭頭の仕様

 建築分野での杭頭接合部については「建築基礎構造設計指針」2)(以下,基礎指針)において言及しており,鋼管杭を用いる場合には,杭頭部を杭径程度埋め込むことで杭頭がほぼ固定であることが記載されています.しかし,線路上空建築物に群杭構造を適用する場合には,先に述べたように一般建築に比べて大きな軸力作用下での曲げやせん断力に対して十分な耐力を確保する必要があるため,安全性を高める目的で鋼管杭は杭径の1.5倍程度埋め込むこととしました.ただし,過去に実施した杭径の1.5倍の埋込長を有した杭頭接合部実験3)では,支圧ひび割れの拡大による杭の抜出しが起因となり耐力低下を引き起こしたことから(図2),杭頭には支圧に対する抵抗要素を適切に配置する必要があることが分かりました.そこで,図2で示した支圧ひび割れに抵抗するために,「鋼構造接合部設計指針」4)(以下,接合部指針)の埋込柱脚の側柱の考え方を杭頭接合部に準用することとして,後述する鋼管杭を囲うように配したU字型補強筋による補強方法を提案しました.また,杭頭接合部の縮小モデル実験を行い,提案した補強方法の効果について検証しました.

  • 図2 杭頭の破壊状況
    図2 杭頭の破壊状況3)
  • 図3 試験体概要と加力方法
    図3 試験体概要と加力方法

3.杭頭接合部実験概要

 試験体概要と加力方法を図3に示します.試験体は杭頭を囲うように配したU字型補強筋の配筋量と配筋方法をパラメータとした3体です.試験体JP-1は,接合部指針の耐力式を準用してU字型補強筋を配した杭の曲げ降伏先行型の試験体であり,試験体JP-2は試験体JP-1に対してU字型補強筋量を1/2に減らした試験体,試験体JP-3は試験体JP-1と補強筋量は同等ですが,U字型補強筋を高さ方向に集中配置した試験体です.U字型補強筋以外の使用材料や寸法等は共通です.加力方法は,水平荷重の方向により作用する軸力が異なるため,軸力を正側(外向き)載荷時には引抜き軸力,負側(内向き)載荷時には押込み軸力を一定に保持した状態で水平力による漸増正負交番載荷を行いました.

4.杭頭接合部実験結果

 水平荷重-水平変形関係を図4に示します.負側の載荷については全ての試験体でほぼ同等の挙動でしたが,正側の載荷の最大耐力については杭頭補強筋を分散配置した試験体JP-1が最も高く,JP-1>JP-3>JP-2でした.いずれの試験体も設計用荷重(想定している2層の線路上空建築物の杭頭接合部に作用するせん断力で100kN)に対して十分な耐力を有しており,また杭の全塑性耐力(中詰コンクリートは除く)以上の結果となりました.ただし,試験体JP-1及びJP-3に比べて試験体JP-2では杭の全塑性耐力時において剛性低下していることから,設計で想定する層降伏時において杭が全塑性耐力に至る場合には,試験体JP-1もしくはJP-3の補強量が適していると考えられます.

  • 図4 水平荷重-水平変形関係
    図4 水平荷重-水平変形関係

5.まとめ

 接合部指針に準拠し提案したU字型補強筋を用いて杭頭を補強した場合の配筋量やその配置の違いが杭頭接合部の構造性能に及ぼす影響を確認し,提案した補強方法により杭頭接合部が早期に引抜かれることなく最大耐力まで安定した挙動を示すことが分かりました.今後は,低層標準の補足資料としてまとめるとともに,次期改訂の際に本文に組み込んでいく予定です.

参考文献

1)鉄道総合技術研究所編:線路上空建築物(低層)構造設計標準2009,(社)鉄道建築協会

2)日本建築学会:建築基礎構造設計指針,2001

3)清水ら:1柱-2杭形式RC接合部の繰り返し載荷実験,日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道),pp691-694,2013

4)日本建築学会:鋼構造接合部設計指針,2012

(記事:清水克将)

複数台の保守用車の運用効率化を考慮した軌道保守計画システムの開発

1.はじめに

 鉄道線路(軌道)の保守には,保守工種に応じた様々な専用機械(保守用車)が使用されますが,導入には多くの費用がかかるため,数台の機械を複数の保線区で共用し,広範囲に運用して用いられることがあります.これらの保守用車の年度運用計画の効率的な作成を支援するための保守計画モデルを構築し,システム化しましたので,以下に紹介します.

2.計画作成の対象とする保守用車

 本システムでは,道床交換に用いる道床交換機[NBS],道床安定作業車[DGS],軌道変位(狂い)保守に用いるマルチプル・タイ・タンパ[MTT],レール削正に用いる削正車による軌道保守の計画を作成します.このうち,NBSは古道床を撤去して新道床を敷設する車両であり,DGSは道床交換後に軌道に振動を与えて道床を安定化させるために新幹線で用いられる車両です.また,MTTはバラスト軌道における軌道変位整正のための機械であり,削正車はレール表面の疲労層や凹凸を除去するための機械です.

3.道床交換計画システム

3.1 システムの概要

 本システムは,各道床交換作業の箇所,実施日を考慮し,各NBS,DGSの各保線区への配備と担当作業の年度計画を日単位で作成します.本システムの画面例を図1に示します.

 入力データとして,NBS等の台数や各NBS等の検査計画,各保線区間の距離,道床交換の箇所,実施日等を与えます.そして,制約を考慮しながら,各車両の保線区間移動距離の総和が最小になるように,各NBS等に交換作業を割り当てて計画を作成します.本システムでは,NBS,DGSの計画を別々に作成できる他,各々の計画を1回の処理で作成することもできます.

3.2 システムの適用例

 本システムを用いて,3台のNBSと4台のDGSが9保線区で共有・運用されている線区における過去の年度の道床交換計画を作成しました.

 NBSによる道床交換として93作業を与え,また各NBSの検査時期,保線区の組み合わせ(計7検査)を与えました.そして,システムにより,全作業にいずれかのNBSが割り当てられ,総移動距離が3419.5kmの計画を得ました.これを当時の実績と比べると,交換作業と担当NBSの組み合わせは98%の作業で一致し,当時の総移動距離より1.4%短くなりました.

 同様に,DGSを用いる道床交換(169作業)と各DGSの検査時期,保線区の組み合わせ(計14検査)等の条件を与えた結果,全作業にDGSが割り当てる計画を得ました.計画と実績の一致率は93%と高く,総移動距離はシステム出力の方が3.6%短くなりました.

 なお,いずれの計画も約10秒で得ることができました.

  • 図1 道床交換計画システムの画面例
    図1 道床交換計画システムの画面例

4. MTTの運用を考慮した保守計画システム

 MTTによる軌道変位保守計画の作成については,既に稼働中のシステムがありますが,1台のMTTを対象に計画を出力するものであり,複数台のMTTを運用する場合には適用できませんでした.そこで,複数台のMTTの運用を考慮した計画システムを開発しました.

4.1 システムの概要

 本システムでは,図2に示すように,保線区別に保守対象箇所選択処理で軌道状態を考慮して保守箇所を選定した後に全保守箇所を集約し,複数台MTT運用計画処理により各保線区へのMTT配備時期をMTT回送距離が最小になるように得ます(距離が同じ計画が複数存在する場合には,期待される軌道状態が最良になる計画を選択します).そして,再度保線区別に保守スケジュール作成処理を行い,維持できる軌道状態が最良になるように各保守箇所への保守時期を決定します.

 なお,複数台削正車の運用を考慮したレール削正計画システムも同様の考え方に基づいています.

4.2 システムの適用例

 7台のMTTが運用されている線区データに本システムを適用し,年度保守計画を試作成しました.

 まず,保守対象箇所選択処理により得られた保守箇所は当時の保守箇所と71%の箇所で一致し,状態の不良な箇所を適切に選択できました.次に,複数台MTT運用計画処理により,当時の実績における距離より30%短い総移動距離の計画を得ました.最後に,保守スケジュール作成処理により各保線区での保守計画を作成しました.得られた計画に基づいて保守した際に予想される軌道状態(バラスト軌道区間平均)の推移を図3に示します.システム出力によれば,軌道状態は年度初より年度末の方が良く,また良化の程度が当時の実績より大きいことから,システムの出力の精度は高いと考えられます.

  • 図2 複数台MTT保守計画システムの構造
    図2 複数台MTT保守計画システムの構造
  • 図3 軌道状態推移比較
    図3 軌道状態推移比較

5.おわりに

 今回,複数台の保守用車の運用効率化を考慮した保守計画システムを試験的に作成しました.今後は,実証試験等を行って実用化を目指します.

(記事:三和雅史)