湿潤時の車輪・レール間の粘着力に及ぼす表面粗さと温度の影響

1.はじめに

 湿潤時の車輪とレール間の粘着力は乾燥時と比べ小さく,その力が車輪の駆動力より小さくなると空転が,制動力より小さくなると滑走が発生します.粘着力の大きさには車輪とレールの表面粗さや温度が影響を及ぼすことが分かっていますが,現状ではその影響についての知見が十分ではありません.そこで,その影響を調べることを目的として室内試験装置を使用した試験を行ったのでその結果について紹介します.

2.室内試験

 使用した試験装置は図1の構造をもつ2円筒試験装置であり,車輪とレール輪の粗さと,車輪,レール輪および水の温度とを設定後,図2の手順および表1の条件によって試験を行いました.この試験では,車輪とレール輪にすべりを与えることで,図3のようなすべり率とトラクション係数(接線力/垂直力)の関係を得ることができます.ここで,1%程度のすべり率でほぼ頭打ちとなるトラクション係数を粘着係数と呼びます.車輪とレールの粘着特性についてはこの粘着係数を評価することが重要であり,これが小さいほど車輪とレールが滑りやすい状態と言えます.

 一連の試験では,粗さと温度を複数通りに組み合わせました.粗さは自乗平均粗さでおよそ0.1~3mまで,温度は表2の通り加熱,常温,冷却の条件としました.

  • 図1 試験装置
    図1 試験装置
  • 図2 試験手順
    図2 試験手順
  • 表1 運転条件
    表1 運転条件
  • 図3 試験結果の例
    図3 試験結果の例
  • 表2 温度条件
    表2 温度条件

3.結果

 試験の結果を図4に示します.横軸に合成粗さ,縦軸に粘着係数をとっています.合成粗さとは車輪とレール輪の粗さ付与後の自乗平均粗さをRqw(μm), Rqr(μm)としたときで表される数値です.また,4本の破線は温度条件A,C,DおよびFの試験結果の傾向を示しています.図4から分かることは以下の3点です.

  • 合成粗さが1~3m程度で粘着係数が極大もしくはほぼ一定となる
  • 粘着係数が極大もしくはほぼ一定となる領域では,試験輪が高温であるほど粘着係数が大きい
  • 合成粗さが1m程度以下では,合成粗さが小さくなるに従い粘着係数が減少し,温度の影響が小さくなる

 これらの結果は,過去の研究と比較して付与する粗さの精度を上げ,かつ条件別に温度を大きく変化させたことにより得られた知見です.

  • 図4 試験結果
    図4 試験結果

4.おわりに

 本試験は実寸法・実形状の車輪とレール,または実車両と軌道を用いた試験とは異なるため,必ずしも粗さ,温度と粘着係数の関係を定量的に評価できたわけではありません.しかし定性的には,一定以上の粗さを表面に付け,高温状態を作り出せば比較的大きな粘着力を得られることや,粗さの効果には限界がありそうなことが分かりました.今後この結果を実用に活かすためには,まずは試験結果の現象を論理的に説明することが重要であると考えています.

 なお,本稿で紹介した実験や結果の詳細については以下の文献を参照してください.

(参考文献)

谷本啓,陳樺:湿潤時の車輪・レール間の粘着力に及ぼす表面粗さと温度の影響,鉄道総研報告,Vol.28,No.12,2014.

(記事:谷本啓)

在来線ホームのホーム柵近傍における圧力変動の測定

1.はじめに

 ホームからの旅客の転落事故防止にはホームドア等の設置が有効です.一方,ホームドア等自体にも,風荷重や群集が水平方向に作用させる荷重などに対する耐力が必要とされます.これらの想定される様々な外力は,ホームドア等の機器の設計やホームドア等を支持するホーム構造の設計において重要な意味を持ちますが,その発生条件や外力の大きさなどの実態については明確ではない部分もあります.

 そこで,ホームドア等に作用する様々な外力の実態を把握する一環として,ホームドア等が設置されるホーム端部近傍において,列車が通過する際に生じる圧力変動の測定を実施しました.今回は,ホームドア等の普及が進められている在来線を対象とし,特に通過頻度が高いと想定される通勤型車両の通過時を対象とした圧力変動の測定を実施しました.

2.測定の概要

 測定は,図1に示すようなホーム縁端のうち列車進入側に設置された既存の安全柵の内側からおこないました.測定点は,図2に示すようにホームドア等が設置されることの多いホーム端から0.4m付近を中心に配置しました.また,同図に示すように,可動式ホーム柵のようなハーフハイト型のホームドアを想定して,ホーム床から0.1m,0.6m,1.1mの異なる3つの高さで測定を実施しました.

  • 図1 測定点の配置(平面)
    図1 測定点の配置(平面)
  • 図2 測定点の配置(断面)
    図2 測定点の配置(断面)

3.測定の結果

 図3は,測定結果のうち,最大の圧力変動が計測された測定点P2における圧力波形です.圧力変動のピーク値(0-P値)は約100Paであり,このときの進入速度は約72km/hでした.その他の測定結果のうち,圧力変動のピーク値(0-P値)を測定点の高さ別に分類したものが図4です.測定点P2(高さ0.6m)および測定点P3(高さ0.1m)では,同レベルの圧力変動が計測されました.また,測定点P1(高さ1.1m)において計測された圧力変動のピーク値(0-P値)は,他の高さの測定点に比べて低くなっています.

 次に,圧力変動のピーク値(0-P値)を測定点の距離別に分類したものが図5です.最もホーム端部に近い測定点P3で圧力変動が最大となり,測定点P4,測定点P5と,ホーム端部からの距離が長くなるのに伴い,計測される圧力変動も低くなっています.

  • 図3 測定点P2における圧力波形の例
    図3 測定点P2における圧力波形の例
  • 図4 ホーム端部おける高さ別の圧力変動のピーク値(0-P値)
    図4 ホーム端部おける高さ別の圧力変動のピーク値(0-P値)
  • 図5 ホーム端部おける距離別の圧力変動のピーク値(0-P値)
    図5 ホーム端部おける距離別の圧力変動のピーク値(0-P値)

4.列車通過時のホーム端部における圧力の予測

 ホームにおける高速列車通過時の圧力変動に関しては,明り区間における圧力変動の予測式1)を基本形として,半覆上家の部材に与える影響を対象とした式(1)に示す予測式2)が考案されています.この予測式は主に新幹線(適用範囲230~360km/h)を対象としているため,在来線における通勤型車両の通過時(70km/h付近)にも適用できるか確認をおこないました.今回の測定で得られた圧力変動のピーク値(実測値)と,測定条件を式(1)に代入し得られた圧力変動のピーク値(計算値)を比較した結果を図6に示します.結果は概ね良好に対応しており,補正係数の修正により在来線(通勤型車両)にも予測式が適用可能であることがわかりました.

  • ホームにおける高速列車通過時の
    圧力変動のピーク値の予測式2)
    ホームにおける高速列車通過時の圧力変動のピーク値の予測式2)
  • 図6 既存の予測式の適用結果
    図6 既存の予測式の適用結果

5.今後の予定

 今回の測定から,新幹線とは異なる速度域,異なる先頭形状を持つ通勤型車両に対しても,既存の圧力変動のピーク値の予測式が適用可能であることがわかりました.今後は,より速い速度で駅部を通過する通勤型車両を対象として,ホームドア等に作用することが想定される外力を調べる予定です.

参考文献

1) 菊地勝浩, 飯田雅宣:列車通過時圧力変動の簡易な数値計算法, 日本機械学会論文集(B編), 71巻708号, pp.58-65, 2005

2) 武居泰, 飯田雅宣, 伊積康彦:圧力変動の予測,鉄道建築ニュース, 8巻693号, pp.14-15, 2007

(記事:山本昌和)

ステレオ画像撮影による岩塊形状の取得手法

1.はじめに

 鉄道沿線での落石被害を防ぎ安全・安定輸送を確保するために,不安定な岩塊を定量的・効率的に検出する手法が求められています.そこで遠隔から対象岩塊の振動特性や形状情報を取得し,岩塊の崩落危険度を効率的,定量的に評価する手法の研究に取り組んでいます1).図1に本手法の概要を示します.本稿では,その一環として模型ヘリコプター(マルチコプター)とそれに搭載したステレオカメラから成るステレオ画像撮影システムを用いた,岩塊の3次元形状情報の取得手法を紹介します2)

  • 図1 岩塊の崩落危険度評価のイメージ
    図1 岩塊の崩落危険度評価のイメージ

2.ステレオ画像撮影システム

 図2に本研究で用いたステレオ画像撮影システムを示します.このシステムでは,6つのローターを持つマルチコプターに,一定の間隔で設置した二台のカメラ(ステレオカメラ)を搭載しており,この左右のカメラで同期撮影することでステレオ画像を取得します.搭載したカメラは280万画素で毎秒26フレームの撮影が可能です.マルチコプターにはGPSとIMU(慣性計測装置)が搭載されており、自立飛行が可能です.

  • 図2 ステレオ画像撮影システム
    図2 ステレオ画像撮影システム

3.ステレオ画像相関法

 図3にステレオ画像相関法の原理を示します.撮影されたステレオ画像は,画像相関法に基づき3次元点群データに変換されます.この手法ではステレオカメラで撮影した左右の画像中の対応点(ステレオ対応点)とカメラのパラメータから三角測量の原理で3次元座標を取得します.ステレオ対応点は撮影画像の輝度分布から自動で検索します.カメラパラメータは撮影前にキャリブレーションを行うことで取得しておきます.この手法を用いることで,1枚のステレオ画像から比較的短時間で高精度な3次元点群データを取得することができます.

  • 図3 ステレオ画像相関法の原理
    図3 ステレオ画像相関法の原理

4.ステレオ画像の重ね合わせ

 ステレオ画像による3次元点群データの作成では,画像に死角があるとその部分の点群を作成することができず,またカメラ解像度の制約から,撮影範囲が広くなるほど精度が低下するという課題があります.それに対し複数のステレオ画像から作成された3次元点群データを重ね合わせることで,広範囲で死角のない高精度な3次元形状情報の取得を可能にします.重ね合わせを行うためには,異なる座標系を持つ点群の座標系を統一する必要がありますが,本手法では式(1)に示すような座標変換行列(Affine行列)を作成し,順次点群の座標変換を行います.

  • 数式     (1)

ここで, は変換後の座標, は変換前の座標, は線形変換行列要素, は平行移動行列要素です.この行列は2つの点群データ間に共通する3点の対応点の座標から求めることができます.

  • 図4 岩塊の3次元計測の様子
    図4 岩塊の3次元計測の様子
  • 図5 作成した3次元点群データの例
    図5 作成した3次元点群データの例

5.実岩塊を対象とした測定実験

 図4に本システムを用いて行った実岩塊の3次元計測の様子を,図5に取得したステレオ画像から作成した3次元点群データの例を示します.計測ではステレオカメラの基線長を700mmとして撮影を行いました.マルチコプターを用いることで複数の角度からの安定した撮影が可能であり,岩塊形状の詳細な特徴を捉えた3次元点群データを取得できました.また撮影した複数のステレオ画像から作成した3次元点群データを重ね合わせることで,死角をなくした広範囲の3次元点群データを取得でき,斜面下方からでは視認できない岩塊の形状を把握できました.この計測により,本システムを用いて実岩塊の3次元形状が取得可能であることが確認されました.

6.おわりに

 ステレオ画像計測システムを用いた岩塊の3次元形状システムを開発し,その実岩塊への適用性を確認しました.取得した3次元点群データを基に作成した3次元解析モデルを用いた数値解析を実施し、岩塊安定性評価手法の高度化に応用しています2)

参考文献

1)上半文昭,斎藤秀樹,太田岳洋,石原朋和,大塚康範,馬貴臣, 澤田和秀,深田隆弘: 非接触振動計測による岩塊崩落危険度定量評価システムの開発,第 13 回岩の力学国内シンポジウム講演論文集, pp.43-48,2013.

2) 上半文昭,箕浦慎太郎:空撮画像による岩塊形状の取得及び数値解析モデル化の検討,鉄道総研報告,Vol. 28,No. 12,pp47-52,2014.

(記事:箕浦慎太朗)