構造物技術研究部は，コンクリート構造，鋼・複合構造，基礎・土構造，トンネル，建築の5つの研究室から構成され，構造物に関する研究開発業務，コンサルティング業務，受託業務を行っております．職員32名，出向受入24名，研究補助7名，総勢63名を擁する大所帯で，部員一同，鉄道の業務に役立つ研究成果の発信を心がけています．具体的には，鉄道構造物に関する技術基準整備，構造物の性能と経済性に配慮した工法開発，構造物の維持管理や耐震に係わる技術開発，交通振動や居住環境などに環境に関わる技術開発などに取り組んでいます．

　今年度の主な活動は，まず，技術基準整備に関しては，複合構造物設計標準の改訂が予定されているため，これに対応して講習会や設計ツールの準備を進めるとともに，トンネル設計標準の改訂に向けた検討を進めます．また，研究開発に関しては，構造物のメンテナンスやリニューアル技術の開発を重点的に進めており，構造物の健全度診断，延命化などについて，現場のニーズに迅速かつ的確に対応していきたいと考えています．さらに，構造物の耐震診断や補強などの耐震技術につきましては，鉄道地震工学研究センターと連携して取り組みを強化していきたいと考えております．

　以上，部員一丸となって鉄道の安全性確保と持続的発展のために努力する所存でございます．今後とも，ご指導，ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします．

（メンバー：谷村幸裕，小島芳之，小林裕介）

　軌道技術研究部は，部長1名，部付2名，軌道構造15名，軌道・路盤7名，軌道管理9名，レール溶接5名の4研究室・計38名（出向受14名及び兼務6名を含む．）体制で，軌道技術に関する研究開発を進めています．今年度もよろしくお願いします．

　平成27年度の重点実施課題として，鉄道総研の新しい基本計画RESEARCH2020の開始とともに将来指向課題の子テーマ9件に着手し，軌道のメンテナンスの改善や軌道と車両の相互作用改善のための新たな技術開発を実施します．合わせて，JR各社からの指定課題や国際規格への対応等を進めます．以下，具体的な内容をご紹介します．

（１）安全性の向上

　安全性に関わる将来指向課題の子テーマ2件「脱線防止ガードの性能評価，その管理と機能改善策」，「簡易な動的軌間・平面性モニタ装置の開発」に着手します．合わせて，関連する指定課題４件を実施します．また，様々な機会を通じ，事故防止技術を開発・普及します．

（２）保守コスト削減

　保線のコスト削減については，将来指向課題の子テーマ4件「AE法によるレール疲労き裂検知技術の開発」，「保守用車速度で計測可能な分岐器検査カメラと診断法の開発」，「リスク・ベース・メンテナンスに基づく軌道の保守・維持管理法の開発」，「分岐器構造を考慮した走行シミュレーションの開発」に着手するとともに，関連する指定課題12件を実施します．

（３）地域鉄道の保守の改善

　これまでに培ってきた保線コスト削減のノウハウを体系化し，地域鉄道に対応した低コストの軌道保守策を提案します．合わせて，国土交通省の補助により「地域鉄道に対応した軌道構造改良計画システムの開発」を実施します．

（４）国際化への対応

　ISO/TC269（鉄道）およびTC17（鋼）において，合成まくらぎおよびレールの規格制定を進めます．合わせて，海外研究機関との交流を深め，日本の保線技術のプレゼンス向上を目指します．

（メンバー：古川敦，神山雅子，渕上翔太）

　防災技術研究部は，雨，風，雪などに起因する自然災害の防止・減災を目的とした研究開発と，地盤，地質などに関わる調査・評価技術や列車走行に伴う地盤振動などに関する研究開発を行い，JR各社をはじめとする鉄道事業者の業務に役立つ成果の提供に努めていきます．

　当部は，研究部と気象防災研究室，地盤防災研究室，地質研究室の3研究室から構成されています．研究部は部長と浦越副主任研究員（兼務）の2名です．

　今年度から新たな将来指向課題「鉄道の防災・減災技術の高度化」を5年計画で進めます．この課題では，近年強大化する自然外力に対する減災技術を検討します．防災部では今年度は「突風等の局地気象現象による災害に対する減災技術」と「局地的短時間強雨等による災害に関する減災技術」の2課題を進め，気象レーダーによる気象現象の検知に基づいた気象災害の危険度評価手法や列車の運転規制方法等について検討します．この他に，防災技術研究部主管として実用的な研究開発3件，基礎研究13件の研究開発テーマを設定しています．これらのテーマの対象の内訳は，雨に関するテーマ3件，風に関するテーマ3件，雪に関するテーマ4件，火山災害に関するテーマ1件，メンテナンスに関するテーマ3件および地盤環境に関するテーマ2件です．

　このような研究開発のほか，災害時の復旧支援等コンサルティング業務や受託研究等のご依頼に対しても迅速・的確にお応えし，皆様のお役にたてるよう研究部一丸となって努力していきます．今年度もご指導，ご協力のほどよろしくお願いします．

（メンバー：太田岳洋，浦越拓野）

　鉄道地震工学研究センターは，鉄道地震工学に関する研究リソースを「集約」するとともに，鉄道地震工学の「拠点」となることを目的に2014年4月に設置された新しい組織です．地震解析，地震動力学，地震応答制御の3つの研究室から構成されており，地震工学分野のメンバーを中心に，建築，電力，車両力学などの多彩なメンバーが集結しています．

（１）早期地震警報，地震・地盤挙動評価，構造物～電車線柱～車両の挙動評価，津波など地震に関連するあらゆる問題を研究対象として今年度も取組みます．また新たに，①昨年度構築した“地震災害シミュレータ”と“早期地震検知”を融合させた，リアルタイム高機能鉄道地震被害予測シミュレータの開発，②超巨大地震に対するレジリエンス（危機耐性）の実現を目指した研究開発に取組みます．

（２）研究センターでは，通常の研究部とは異なり，研究開発業務以外に鉄道地震工学の拠点としての活動も行っています．情報の「拠点化」に関する成果の1つとして，今年度の4月から『鉄道用地震情報公開システム』の配信を開始します．本システムは，地震発生直後に得られる公的機関の地震情報を研究センターに集約し，鉄道事業者用に即時分析して公開するものです．運転再開支援の基礎資料などとして活用して頂きたいと思っています．また，本研究センターの活動や今後の展望等をご紹介し，鉄道事業者との情報交換を行う場として，昨年度，第1回アニュアルミーティングを開催しましたが，今年度も開催する予定です．

（メンバー：室野剛隆，岩田直泰）

　コンクリート構造研究室では，橋りょう，高架橋をはじめとする各種コンクリート構造物の設計，施工および維持管理に関する研究開発を担当しています．

（１）技術基準の整備

　「鉄道構造物等設計標準」のうちコンクリート構造物に関連する技術基準類について，関連研究室と協力して基準ならびにマニュアル類等の整備を行っています．「鉄道構造物等設計標準（開削トンネル）」については，関連研究室と協力し，側壁など土圧を受ける鉄筋コンクリート部材のせん断耐力やひび割れ幅の算定法について検討を進めます．その他，コンクリート構造物のはく離・はく落問題など，維持管理標準に関係する検討を行っています．

（２）研究開発

　コンクリート構造物の維持管理および設計に関する研究を，関連部署と連携しながら実施しています．維持管理に関連する研究としては，コンクリート構造物の検査方法の効率化や変状予測に関する技術開発を行います．設計に関連する研究としては，コンクリート部材に用いるあと施工アンカーやコンクリート構造物の長期変形に関する研究のほか，津波を含めた耐震対策の研究開発を進めています．また，コンクリート構造物の設計や維持管理に活用するシミュレーション技術の研究も実施しています．

　なお，既設構造物の変状調査，耐震診断，補修，補強，改良ならびに新設構造物の設計，施工に関する受託，コンサルティング業務を，現場のご要望に応じて随時実施しています．

（メンバー：岡本大，田中寿志，仁平達也，渡辺健，笠裕一郎，笠倉亮太，轟俊太朗，鬼頭直希，藤岡慶祐，田中章，古屋卓稔，大野又稔）

　鋼・複合構造研究室は，鋼構造物および鋼とコンクリートの複合構造物の設計，施工，維持管理に関する研究開発を担当しています．今年度は以下のような課題を中心に研究開発に取り組んでいきます．

（１）技術基準の整備

　「鉄道構造物等設計標準」のうち鋼・複合構造物に関連する技術基準類について，関連研究室と協力して技術基準ならびにマニュアル類等の整備を行っています．「鉄道構造物等設計標準（鋼とコンクリートの複合構造物）」は，条文通達後に速やかに設計標準の発刊，講習会の開催および計算例の出版等を行います．また，「同設計標準（開削トンネル）」については，関連研究室と協力し，鋼製連壁の本体利用等の照査法の検討を進めます．さらに，「鉄道構造物等維持管理標準（鋼・合成構造物）」の補足資料として，鋼橋の維持管理に有用な情報を盛り込んだ「手引き」の完成を目指して検討を進めます．

（２）研究開発

　鋼・複合構造物の低コスト化，合理化，延命化等をキーワードとして，既設鋼橋の診断，対策等の維持管理に関する検討，既設鋼橋の地震時の評価および補強に関する検討，複合構造物（SRC構造物，CFT構造物）の設計および維持管理に関する検討等を行っていきます．

　この他，現場のニーズに沿ったコンサルティング業務，受託業務等も随時実施しています．国鉄時代からの鋼鉄道橋の図面を一式取り揃えていますので，維持管理や設計の際に参考としてご利用下さい．

（メンバー：池田学，小林裕介，斉藤雅充，福本守，網谷岳夫，猪股貴憲，吉田善紀，和田一範）

　基礎・土構造研究室は，地盤もしくは地盤と接する新設の構造物の調査・設計・施工のほか，既設の構造物の維持管理（検査・補修・補強）に関わるコンサルティング業務，技術基準の整備・普及業務，研究開発業務を担当し，地盤工学に精通した専門家17名（工学博士4名，技術士3名）で構成されます．以下に今年度の主な目標を紹介します．

（１）技術基準

　国土交通省鉄道局より「基礎標準」，「土留め標準」，「耐震標準」が通達され，平成26年度から新規設計の構造物に対して本格運用が開始されました．また，開削トンネルに関する基準の改訂作業を関連研究室と協力し着実に進めます．平成24年度「首都圏等の鉄道の地震対策に関する検討会」で取りまとめた「土構造物の耐震診断の手引き（概略診断編）」を発刊し，普及を目指します．

（２）研究開発

　当研究室は14研究開発テーマを主務研究室として，9研究開発テーマを関連研究室として担当します．今年度は，「鋼矢板閉塞による既設構造物の液状化対策効果の解明」，「高架構造物の常時状態監視手法の実用化」，「狭隘箇所における石積み壁の耐震補強工法の開発」などの多岐に亘るテーマを重点的に進捗させとりまとめます．また，新たにスタートさせた災害復旧，グラウンドアンカー補強斜面，地盤抵抗特性評価，盛土のり面の遮水特性に関する研究開発テーマも確実に推進させる予定です．

（メンバー：篠田昌弘，西岡英俊，中島進，阿部慶太，佐名川太亮，佐藤武斗，小林克哉，島田貴文，佐々木徹也，松浦光佑，藤井公博，名取努，長尾洋太，雪岡剛哲，谷賢俊，小湊祐輝，成田浩明）

　トンネル研究室では，鉄道トンネルの設計，施工，維持管理に関する様々な研究開発を担当しています．今年度は，以下のような課題を中心に研究開発に取り組んでいます．

（１）技術基準類の整備

　「鉄道構造物等設計標準」のうち，開削トンネルに関連する技術基準類について，性能照査型設計体系への移行へ向けて，関連研究室と協力して基準ならびにマニュアル類の改訂作業を推進します．さらに，山岳トンネルとシールドトンネルの技術基準類についても，改訂作業を開始します．その他，トンネル覆工のはく離，はく落問題など，維持管理標準に関係する検討を行っています．

（２）研究開発テーマの推進

　鉄道トンネルの維持管理および設計に関する研究を，関連研究室と協力して実施しています．維持管理に関するものとしては，山岳トンネルの経済的な補修・補強法の開発やシールドトンネルの健全度評価法の開発を行います．設計に関するものとしては，線路下トンネルでのエレメント推進時の地盤への影響評価法の開発などを行います．

　この他，新幹線トンネルの設計・施工法や，既設トンネルの健全度評価と対策，近接施工対策，地震対策，地盤振動対策など，トンネルの設計，施工，維持管理に関する様々な問題について，受託・コンサルティングを随時実施しています．

（メンバー：焼田真司，野城一栄，津野究，中村智哉，仲山貴司，嶋本敬介，森瀬喬士，西山和宜，牛田貴士，伊藤直樹，富樫陽太）

　建築研究室では，鉄道建築分野の計画・構造・環境に関する技術開発に取り組み，鉄道システムの安全性，利便性・快適性，経済性の向上を目指しています．本年度は，旅客上家の耐震診断ツールや駅の吊り天井の耐震設計ツールの作成に向けた研究を推進します．また，駅における旅客の移動特性の新しい計測手法の開発と大規模な駅空間を対象とした案内放送の制御技術の開発を開始します．さらに，既往の評価技術を活用し，鉄道車両における快適性評価に関わる課題にも取り組んでいきます．

【安全分野】鉄道建築物の地震対策では，旅客上家の耐震性能評価，駅の吊り天井耐震化手法に関する研究開発を推進します．また，ホーム転落防止設備に関する設計要件をとりまとめます．

【旅客サービス分野】旅客流動シミュレーションの機能向上を目指し，従来マクロ的に把握していた駅の旅客流動について，個人の移動特性計測手法の開発を開始します．また，大規模な駅空間における音響特性の把握と音響シミュレーションの精度向上に取り組み，大空間を対象とした駅案内放送の音響実験手法の確立を目指します．さらに，鉄道車両の温熱環境評価手法の深度化を図ります.

【環境分野】列車走行に伴う地盤振動シミュレーション技術の深度化を目指すとともに，電力エネルギーのネットワーク制御手法の開発に取り組みます．

　また，鉄道建築や鉄道沿線環境に関わる課題について，コンサルや受託等を実施していきます．

（メンバー：伊積康彦，山本昌和，清水克将，辻村壮平，石突光隆，三木広志）

　軌道構造研究室は，レール，レール継目部，レール締結装置，分岐器，伸縮継目などの軌道材料やロングレールの座屈安定性評価に関する研究・開発，軌道構造関係のコンサルティングおよび受託業務などを担当しています．今年度は，以下の研究開発テーマを中心に取り組みます．

（１）レールおよびロングレール関係

・熱処理レールのき裂進展速度の実験的評価

・レール損傷時の軌道条件による徐行条件の検討

（２）レール締結装置関係

・レール締結装置の性能評価法の高精度化

（３）分岐器関係

・分岐器におけるモニタ情報の活用法

・トングレールの動的変形が走行特性に及ぼす影響

・軌道部材の寿命を考慮した輪重・横圧限度値の設定法

　この他，分岐器構造を考慮した走行シミュレーションの開発，脱線防止ガードの性能評価，地域鉄道に対応したロングレール化の検討なども行います．軌道の部材やロングレール等の軌道構造に関することでご相談等ございましたらお気軽にご連絡ください．

（メンバー：片岡宏夫，及川祐也，弟子丸将，西宮裕騎，細田充，玉川新悟，清水紗希，塩田勝利，松崎秀樹，平出壮司，吉田敏幸，庄野真也，西本晋平，永井明則，杉野満）

　軌道・路盤研究室は直結系軌道（スラブ軌道，弾性まくらぎ直結軌道，既設線省力化軌道），バラスト軌道，路盤・路床（列車荷重を受ける地盤）等の研究開発を担当しています．主にコンクリートを専門として直結系軌道を担当するメンバーと土質・地盤を専門としてバラスト軌道を担当するメンバーで構成されています．今年度は敷設年数が経過した軌道を効率的にメンテナンスする手法やバラスト軌道の耐震性評価を中心に，以下の研究開発テーマに取り組みます．

【直結系軌道】

・経年したスラブ軌道てん充層の状態評価法と補修工法の開発，軌道スラブの限界状態評価

・短繊維補強コンクリートを用いた低コスト弾性まくらぎ直結軌道の開発

・低廉な既設線省力化軌道の開発

・速度向上のための新幹線用防振スラブ軌道の基礎検討

・ケミカルプレストレスコンクリートを用いた軌道部材の長寿命化

【バラスト軌道】

・ＦＷＤ（重錘落下試験装置）を用いた簡易な軌道支持剛性評価手法の開発

・橋台裏における地震時の座屈安定性評価

・曲線区間の道床流動対策及び道床更換後における初期沈下量の評価

・細粒土混入バラスト区間における効率的な補修方法の開発

（メンバー：桃谷尚嗣，高橋貴蔵，中村貴久，薮中嘉彦，渕上翔太，野村清順，谷川光）

　軌道管理研究室は，「車両が軌道上を走行した際に発生する現象の把握・予測・改善」をキーワードに，レール表面の微細な凹凸から波長100m程度までの軌道変位（軌道狂い）の測定（See），評価（Think），保守計画（Plan），保守作業（Do）に関わる研究開発を担当しています．

　今年度は，以下のテーマについて重点的に実施する予定です．

（１）分岐器の材料状態や動的な軌間・平面性変位の検査装置の開発

　分岐器の材料状態検査に用いるための，比較的低コストで，またレール像の撮影データから，レール断面測定と欠陥の画像取得を同時に行う装置を開発します．一方，軌道変位を静的にしか得られない路線において，より正確に動的な軌間の測定値が得られる，営業車搭載可能な検査装置も開発します．

（２）地域鉄道向けの軌道構造改良計画システムの開発

　既設線の軌道構造改良において，軌道部材の種類等を選択する際には，強い構造を選択すると改良費は増えるが軌道変位保守費は減少するという関係の考慮が必要です．そこで，軌道構造設計標準の考え方や軌道変位進みの予測モデルを応用し，軌道構造改良計画の策定を支援するシステムを開発します．

（３）その他の研究開発等

　波状摩耗の発生・成長メカニズムの解明と管理法の検討を行います．また，軌道変位等の検査データを活用した効率的な保守計画法等についても検討を行います．

（メンバー：三和雅史，矢澤英治，坪川洋友，田中博文，矢坂健太，山口剛志，片山雄一朗，金丸清威，吉田尚史）

　レール溶接研究室は，ロングレール化のためのレール溶接技術，レール損傷部に対する補修溶接技術，レールおよびレール溶接部の非破壊検査に関する分野を担当しています．主に溶接を専門とするメンバーで構成しており，今年度は，以下の研究テーマを重点的に実施します．

（１）テルミット溶接部の内部きず発生要因の解明

　線路内における新旧レールのテルミット溶接施工では，レール底部領域に収縮割れ，凝固割れ等の内部きずが発生することがあり，この場合，再溶接を余儀なくされます．本研究では，これら内部欠陥の発生因子を定量的に把握するため，テルミット溶接部の凝固シミュレーションの確立に取り組んでおり，発生防止策の提案を最終目標としています．

（２）レール疲労き裂検知技術の開発

　シェリング等に伴うレール損傷を未然に防止するためには，レール中に存在するき裂の状態を的確に把握し，き裂の程度に応じた適切な措置を講じる必要があります．なお，現状では，超音波探傷を定期的に行うことでき裂の状態監視を行っていますが，本研究では，検査の効率化およびき裂状態が急変した場合の早期検知を図るため，疲労き裂の進展状況を常時監視できる手法について検討します．

　その他，レール溶接技術者の技量検定試験，各種講習会を通じての技術支援，レール溶接部の損傷原因調査等，コンサルティング業務も迅速かつ的確に行います．レール溶接およびレール探傷に関する問題があれば，当研究室にご相談ください．

（メンバー：山本隆一，辰巳光正，寺下善弘，柿崎陽太，工藤慎悟）

　気象防災研究室では，主として風災害，雪氷害などの気象災害の防止・軽減に向けた研究開発を行っています．今年度については，風災害関係のテーマ4件，雪氷害関係のテーマ4件などを進めます．また，今年度から開始した鉄道の減災・防災を目的とした分野横断的なプロジェクトテーマの一環として，ドップラーレーダを用いた気象観測を開始し，得られたデータと気象モデルとを組み合わせて突風や局地的強雨などの気象外力を面的にかつ詳細に把握するとともに短時間予測に向けた研究課題に着手します．その他の強風災害に関するテーマでは，風速計観測値の時空間代表性の評価に関する課題，短時間に急変する突風状の風速変動特性の解明に向けた課題を進めます．雪氷害に関するテーマでは，斜面積雪の安定性評価手法の確立に向けた課題として，気象要素を用いた積雪性状の推定手法の開発や融雪水の積雪底面流出量の推定精度の向上に向けた課題に取り組んでいます．また，他の研究室との連携課題として，車両に働く空気力の評価手法，架線の着氷霜障害防止，冬期ブレーキ力評価などに関する各課題に取り組んでいきます．これらの研究開発の他，当研究室では強風，降・積雪や融雪に起因した災害調査や風速計の設置位置に関する技術指導などのコンサルティング業務や，鉄道沿線での気象観測や降・積雪観測，雪崩危険度評価，現地試験結果の評価，新潟県南魚沼市にある塩沢雪害防止実験所の各種の試験装置を用いた試験などの受託業務を行っております．

（メンバー：飯倉茂弘，鎌田慈，荒木啓司，福原隆彰，宍戸真也，谷本早紀，佐藤亮太［国立在勤］，高橋大介［塩沢在勤］）

　地盤防災研究室では，斜面災害や河川災害に関する研究や土工設備，河川設備の維持管理技術に関する研究開発を進めています．以下に今年度実施する主な研究テーマをご紹介します．

　斜面災害関連のテーマのうち，「地震動の影響を受けた盛土の降雨耐力回復手法」では，地震によって亀裂が生じた盛土の適切な降雨耐力回復方法の提案を目指して研究を進めています．また，「融雪水による斜面の不安定化現象の解明」では，気象防災研究室と協同で，融雪期における斜面災害の発生危険度を適切に評価する方法を提案するための研究に取り組んでいます．また，「橋台背面の路盤陥没対策に適用する注入工法の開発」では，橋台背面盛土の沈下対策として有効な注入工法の開発に取り組んでいます．さらに，今年度新たにふたつのテーマがスタートし，このうち「のり面工の耐雨性効果の定量化方法」では，対策事例の分析や実験を通してのり面工の効果の定量化に取り組みます．また，「変状石積み壁の簡易補強工法の開発」では，変状が生じている石積み壁の補強対策の確立に取り組みます．

　また，河川災害関連のテーマとして，「増水時の地盤内応力変化に着目した橋りょうの不安定化メカニズムの解明」では，橋脚基礎の洗掘メカニズムを明らかにすべく実験および解析に取り組んでいます．さらに，「局地的短時間強雨等による災害に関する減災技術」のなかで，都市部の鉄道を対象として線路の浸水被害をシミュレートする手法の開発に取り組んでいます．

　当研究室では，研究開発以外に斜面災害および河川災害に関するコンサルティングや，斜面の耐降雨性評価をはじめとする受託業務を行っております．何時でもお気軽にご相談ください．

（メンバー：太田直之，布川修，渡邉諭，高柳剛，欅健典，宮下優也，阪東聖人，湯浅友輝）

　地質研究室は，鉄道施設の建設・保守に関連した地形・地質および材料の問題に関する研究開発，受託，コンサルティングを行っています．具体的には斜面防災，トンネルの建設・供用時の変状問題，土木工事に係る地下水問題，地盤振動，道床バラストの石質に関する問題などに取り組んでいます．

　今年度実施する主なテーマを紹介します．「局地的短時間強雨等による災害に関する減災技術」では，関連研究室や大学と連携しながら大規模土砂災害についてソフト対策による減災を目指し，発生場所の予測やメカニズムの推定ならびに検知方法の開発を行うための基礎的な検討を開始しました．「地質の3次元構造がトンネルの安定性に及ぼす影響の評価」（トンネルと共同）は最終年度のテーマで，地質とトンネル変状の関係に基づき地質条件によるトンネルの設計･管理手法の提案を目指します．また，同じく最終年度のテーマである「火山噴火が鉄道に与える影響の把握」では，火山噴火に伴う諸現象の鉄道に対する影響程度を検討する上での着目点や課題を明確にすることを目指します．「地盤振動低減に対する影響要因の定量的評価」（建築，トンネル，騒音解析，構造力学と共同）は，地盤振動に対する影響要因の抽出，影響度の評価ならびにシミュレーション手法改良による予測精度の向上を目指します．「浸透流を考慮した掘削残土からの浸出水の水質予測手法」では，掘削残土処分場からの浸出水の水質予測手法の提案を目指し，引き続き実験や解析を行っていきます．これらのテーマを推進しながら，災害にも迅速に対応することを心掛けておりますので，関連技術に関するお問い合わせも含め，お気軽にご連絡ください．

（メンバー：川越健，横山秀史，長谷川淳，浦越拓野，石原朋和，西金佑一郎）

　軌道力学研究室では，車両・軌道・構造物，レール・車輪あるいは機械・土木工学等の様々な面からの境界問題と相互作用を扱っており，鉄道の将来に向けた研究開発「バーチャル鉄道試験線の構築」の中でシミュレータの機能向上とそれらの連成による統合的な解析手法を構築することを目標として「バラスト・路盤構造に関する実用大規模モデルの構築」に取り組んでいます．

＜車輪／レールのトライボロジー＞

　秋季に車輪とレールの間に落葉が介在する場合の，粘着力低下メカニズムを解明し，増粘着法を検討します．また，白色層を起因とするレールシェリングの予防削正基準について検討します．その他，急曲線における横圧に起因する諸問題を解決するために開発した車上または地上から内軌頭頂面と車輪間の摩擦を緩和するシステム（FRIMOS）の普及を目指すとともに，地上用の摩擦緩和材を改良します．

＜軌道のダイナミクスと塑性変形（沈下）＞

　実際のバラスト構造を正確に再現可能な，バラスト粒状体と路盤に関する大規模実用解析モデルを検討し，車輪～路盤における動的相互作用を評価可能なシステム構築を目指します．また，離散体モデル等を用いてバラスト軌道劣化対策工を検討します．さらに，ロングレール軌道の数値解析モデルにより，固有振動特性を利用したロングレール軸力測定法を検討します．

（メンバー：名村明，相川明，陳樺，河野昭子，辻江正裕，浦川文寛，谷本啓）

　構造力学研究室は，走行安全性向上，維持管理，災害低減，環境調和，トータルコスト低減を可能とする構造物や軌道のあるべき姿を追求することを主な研究目的とし，これを実現させるために必要なシミュレーション解析技術や測定評価技術の構築，解析や実験に基づく構造開発に取り組んでいます．

（１）シミュレーション解析による評価技術の向上

　地震時における車両走行安全性をはじめ，脱線車両の挙動や車輪と軌道部材の衝撃挙動，脱線後の被害低減対策の効果，軌道と構造物との地震時動的相互作用，列車走行による地盤振動と構造物音など動的課題を評価できる解析プログラムの開発を行っています．

（２）測定評価技術の構築

　構造物や岩盤斜面の現地測定の効率化・高度化を目的としてレーザ計測や画像計測を応用した非接触測定システムの開発を行っています．高速化に対する構造物の安全性評価の高精度化のための構造物の部材振動特性評価技術の開発や，PCまくらぎの劣化・損傷の検査技術の研究にも取り組んでいます．

（３）新構造の開発

　軌道およびRC床版にフローティング構造を採用することにより構造物騒音を低減できる新形式サイレント鋼鉄道橋の開発などを行っています．

（メンバー：上半文昭，渡辺勉，後藤恵一，徳永宗正，箕浦慎太郎，松岡弘大）

　地震解析研究室は，地震時の早期警報や地震発生直後の地震動・被害予測等のソフト的なアプローチから，鉄道における地震被害低減や早期運転再開に資する研究開発，受託業務，コンサルティング業務を行っています．

　早期警報に関連する研究テーマでは，リアルタイム・準リアルタイムで活用できる公的機関の地震情報を用いた効果的な早期警報手法の開発，沖合で観測された津波波形を用いて鉄道への津波の影響を精度良く推定する即時システムの開発，工事振動が地震データに与える影響の検証や評価法などの検討を行います．また，地震動・被害予測に関連するテーマでは，地下構造や構造物の揺れを考慮した地震時の運転規制に向けた研究開発を行います．

　このほか，受託業務として，鉄道の早期地震防災システムの整備や地盤調査，コンサルティング業務として，地震計の設置・移設や地震時の運転規制に関する調査・解析等を行っています．また，事業推進室や協力会社と連携して，早期地震警報の利用促進を図るための各種PR活動を行っています．

　地震解析研究室は，常時微動から地震動まで，地盤の揺れを扱う専門家集団として現場のご要望に対して迅速にお応えしたいと考えておりますので，よろしくお願いいたします．

（メンバー：山本俊六，岩田直泰，津野靖士，是永将宏，岡本京祐）

　地震における影響を精緻に評価するには，地中から地表に至るまでの地震波をより詳細に求めることが大切になります．地震動力学研究室は震源で発生した地震波の基本的な特性から，地盤等に与える影響に至るまでの幅広い領域（増幅などを考慮した地震動の特性の評価や地震波により発生する液状化現象の評価・対策など）の研究開発を行っています．

　今年度は「鉄道構造物のレジリエンスの評価」，「リアルタイム波形予測を考慮した地震災害のシミュレータ」，「耐震設計における表層地盤の評価」，「脈状改良による液状化対策」のテーマに取り組みます．地震ハザードやリスクを踏まえ将来を見据えた問題から，実際の設計の課題，対策工法の検討といった現実的な問題まで，地震時における地盤挙動に対して幅広くアプローチを行っていきます．

　また，鉄道技術推進センターや構造物技術研究部と連携を取り，耐震標準における設計地震動の設定方法や開削トンネル等の地盤内構造物の地震時挙動等，実務的な検討も実施しており，設計業務等への成果の反映，技術的な対応を進めていきます．

（メンバー：小島謙一，井澤淳，坂井公俊，田中浩平，荒木豪，石川太郎）

　地震応答制御研究室では，構造物のみならず，その影響を受ける電車線柱や走行車両までを含めた鉄道システム全体の地震応答を評価するための技術開発を行います．そのため，幅広い分野のメンバーで構成されています．

（１）地震対策技術の開発

　鉄道システムの地震に対する「耐震裕度」の向上，さらには想定外地震に対しても破局的な状態に陥らせないための「危機耐性」の向上に向けての技術開発に取組みます．

　耐震裕度の向上については，鉄道構造物に適用可能な免震技術・制震技術の開発を行います．特に負剛性摩擦ダンパーについては，ほぼ実用化の目途が立っており，試計算等により実展開を図ります．また，危機耐性の向上については，自重補償機構や超連続基礎構造物等の開発を継続します．

（２）革新的なシミュレーション技術の開発

　材料の亀裂および破壊進展を評価可能な新しい解析法の開発に関しては，昨年度までに理論構築を行い，今年度は鉄筋コンクリート部材への適用拡大を図ります．これにより，従来の解析では評価が困難であった設計上の終局以降の挙動を評価可能になります．

（３）耐震設計法に関する技術開発および技術基準へのサポート

　地盤と基礎の非線形動的相互作用による入力損失効果および逸散減衰の評価など，設計の合理化に向けた研究開発を行います．また，「鉄道構造物等設計標準（耐震設計）」については，平成24年に改訂され，昨年度から本格運用になりました．鉄道事業者の間で混乱が発生しないように適切にサポートをします．

（メンバー：室野剛隆，豊岡亮洋，原田智，飯田浩平，川西智浩，清水克将，本山紘希，和田一範，酒井大央）