施設研究ニュース

2020年3月号

レール波状摩耗の進展過程を考慮した経済的なレール削正方法

1.はじめに

 レール波状摩耗は,図1に示すように,車両の繰り返し走行に伴ってレールに規則的な波長の凹凸が形成される現象で,騒音・振動などの要因になっています.そこで,顕在化したレール波状摩耗に対しては,レール削正やレール交換によって凹凸除去が行われていますが,これらは何ら根本的な対策ではないために,同じ区間でレール波状摩耗は再発生を繰り返すことから,鉄道事業者はその保守に苦慮しています.そこで本研究では,レール波状摩耗の進展過程を考慮した経済的なレール波状摩耗の削正方法を検証しました.以下に,進展過程モデルの概要と,レール削正コストの検証結果の例を紹介します.

図1 レール波状摩耗の例

2.レール波状摩耗の凹凸の進展過程

 営業線のレール波状摩耗が発生している曲線において,継続してレール凹凸を測定した結果,レール凹凸の進展過程は,図2に示すように,形成期,成長期,飽和期の3段階でモデル化でき,この傾向はロジスティック曲線に代表される成長曲線で数学的に表現できることがわかっています1).このように,レール波状摩耗の進展過程を数式で表現できるようになったことで,レール削正方法,すなわち,削正後の凹凸除去の程度や,削正時期等が,レール削正のコストに与える影響を試算できるようになりました.

図2 レール波状摩耗の進展過程モデル

3.削正後の残存凹凸が削正コストに与える影響の検討

 まず,削正後の残存凹凸が削正コストに与える影響について検討しました.試算条件は,図3に示すように,1000万トン(10MGT)で飽和凹凸0.2mmに達する成長曲線を仮定し,削正後の残存凹凸を2.5~50%で変化させました.なお,削正は,16頭式の削正車によって行われるものとし,凹凸除去のみの削正と,削正後の転動音を抑制するための仕上げパス(2パス)を追加した2パターンについて,検討しました.
 図4に,試算結果として,残存凹凸と一定期間の削正コストの関係を示します.一定期間の削正コストは,削正周期と必要パス数の積から求めることができます.同図より,凹凸除去のみの場合,仕上げパスを考慮した場合の何れにおいても,残存凹凸が30%以下の条件においては,残存凹凸が小さいほど,削正コストが少なく,経済的な削正となることがわかります.これは,残存凹凸を小さく施工することで,一回の削正パス数は増加しますが,削正周期の延伸効果の方が大きいためです.

図3 標準成長曲線と削正後の残存凹凸
図4 残存凹凸と一定期間の削正コストの試算例

4.削正時期が削正コストに与える影響の検討

 次に,前節の結果を踏まえ,残存凹凸は小さい方が経済的であることがわかったことから,残存凹凸を固定した上で削正時期が削正コストに与える影響を検討しました.試算条件は,図5に示すように,前章の検討と同じく1000万トンで飽和凹凸0.2mmに達する成長曲線を仮定し,削正後の残存凹凸は2.5%で固定し,削正時期を飽和凹凸の20~200%で変化させました.
 図6に,試算結果として,削正時期と一定期間の削正コストの関係を示します.なお,同図には,断面修復を考慮した2つの条件も示しています.これは,長期間削正をしない場合にレール頭部が扁平になることがありますが,削正効率を向上させるために削正の初期にGC部とFC部を削正し,断面形状を修復するパスを一定の割合で考慮したものです.同図より,仕上げパスを考慮する場合は,早期の削正はかえって削正コストを増加させることがわかりました.これは,凹凸除去パスよりも,凹凸除去に寄与しない仕上げパスの割合が増加するためです.一方で,断面修復を考慮した場合は,断面修復に必要なパス数の程度にもよりますが,一定期間の削正コストは,飽和凹凸に達する時期付近に削正することで,最も経済的になる傾向があることがわかります.
 以上の検討結果を踏まえると,レール波状摩耗の削正は,凹凸の進展過程が飽和期に達した後,残存凹凸が小さくなるように,すなわち形成期の初期にまで凹凸を除去するように削正することで,削正周期の延伸効果が大きく,経済的な削正が実現できることがわかりました.

図5 標準成長曲線と削正時期
図6 削正時期と一定期間の削正コストの試算例

5.まとめ

 レール波状摩耗の進展過程を考慮した経済的なレール波状摩耗の削正方法を提案しました.今後は,レール波状摩耗が削正コストのみならず,道床修繕コスト等に与える影響について考慮し,レール波状摩耗の保守が軌道保守費に与える影響について多角的な検討を進める予定です.

参考文献

1) 田中博文,三和雅史:レール波状摩耗の定期測定による凹凸進みモデルの検証,日本機械学会年次大会,No.G2900204,2017.

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 田中博文
担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 三和雅史

鉄道高架橋の境界部の地震時相対変位の簡易推定手法

1.はじめに

 高架橋の設計において,鉄道構造物等設計標準・同解説(変位制限)(以下,変位制限標準)により,振動変位と不同変位の2つを照査し,軌道面に発生する変位を一定以下に制限することで高架橋が保有すべき地震時走行安全性を担保しています.図1に,不同変位の概念図を示します.隣接高架橋の種類に応じて,目違い,平行移動,折れ込みの三種類に対して照査しますが,建設年代が古い既設高架橋は低降伏震度であるためL1地震時でも非線形化する可能性があり,線形を前提とする変位制限標準の手法(以下,既存法)が適用できない課題がありました.そこで,本研究では非線形挙動まで考慮した高架橋の不同変位の推定法の提案を目的に,高架橋境界部の地震時相対変位の簡易推定手法について数値解析を用いて検討しました.

図1 不同変位の概念図

2.非線形化が高架橋境界部の相対変位に及ぼす影響

 不同変位の照査は,高架橋の形式によって照査指標が異なります.張り出し高架橋の場合は境界部の相対変位である目違い量を,桁式高架橋の場合は境界部の相対変位をスパン長で無次元化した角折れを照査します.本研究では,目違い,角折れの共通の量である相対変位を評価対象としました.
 図2に,検討に用いたモデルの概要図を示します.まず,高架橋は1自由度にモデル化します.その際の非線形ばねに必要なパラメータは実構造の統計調査によって得られた値を用います.次に,地震動をモデルに入力し,高架橋の時刻歴応答変位を算出します.図3に,隣接する高架橋の相対変位の概要を示します.図3(a)に,隣接する高架橋が逆位相の挙動を示す場合の高架橋i,jの変位,iとjの相対変位の時刻歴波形を示します.図から,相対変位は各高架橋の応答変位の和となることが分かります.図3(b)には,隣接する高架橋が同位相の結果を示します.図から,高架橋iとjの応答は同じであるため相対変位が0になることがわかります.この特徴から,隣接する高架橋の等価固有周期の比と,無次元相対変位DRDに着目します1)
 図4(a),(b)に,等価固有周期比と,種々の設計地震動による線形・非線形時の無次元相対変位DRDの関係を示します.図の横軸は等価固有周期比,縦軸は無次元相対変位DRDを示します.等価固有周期比は,隣接する高架橋の等価固有周期の比を無次元相対変位DRDは構造物間の相対変位の最大値dijmaxを,各構造物の最大変位dimax,djmaxの絶対値の和で除した値です.図4(a)から構造物が線形応答の場合が増加と共にDRDは増加し,完全逆位相になる時の1.0に漸近することがわかります.図4(b)から高架橋が非線形化した場合もが増加すると共にDRDは増加しますが,線形時に比べてDRDが低下する傾向にあることがわかります.これらの結果から等価固有周期比と無次元相対変位DRDは相関が高いことがわかります.

図2 モデル化の概念図
図3 隣接する高架橋の相対変位の概要
図4 等価固有周期と無次元相対変位の特徴

3.簡易推定手法の提案

 等価固有周期比βを用い,無次元相対変位DRDを推定する手法を提案します.DRDの算出にあたり,各構造物の最大変位dimax,djmaxは,設計図書等から入手可能です.相対変位の最大値dijmaxは,式(1)に示す提案する推定式を用います.

 ここでの,ρijは構造物iとjの変位の相関を示す係数です2).図5に,推定式を用い算出したDRDの推定値,図2のモデルを用い,時刻歴応答解析の結果から得られた解析値の関係を示します.ここで推定値は,解析から得られた構造物の最大変位を用いて算出しました.図5は非線形時の結果です.推定値は,上記の提案法の他に,既存法も参考として示しています.提案法は既存法に比べて高精度で推定でき,最大で±30%程度で推定できることが分かります.また,既存法は,非線形化した場合,推定誤差が大きいため適用困難であることも分かります.

図5 簡易推定手法の精度

4.まとめ

 本研究では,一般的な鉄道のRC高架橋を対象に,高架橋が非線形化した場合の不同変位を簡易に推定する手法の構築を目的に,数値解析に基づく検討を行いました.本研究では支承等の拘束の影響を無視し,1自由度モデルに基づく検討を基に,境界部の相対変位を推定する手法を提案しました.

参考文献

1)成田顕次,徳永宗正,曽我部正道:非線形性を考慮したRC高架橋の不同変位の地震時応答の推定手法,コンクリート工学年次論文集,Vol.41,No.2,pp.871-876,2019.
2)Der Kiureghian A.: A Response Spectrum Method For Random Vibrations, Report No, UCB/EERC-80/15, U. of Calif., Berkeley, 1980

執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 成田顕次
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 徳永宗正

中きしみ割れ発生メカニズムの解明

1.はじめに

 在来線の一部線区において,「中きしみ割れ」と呼ばれる形態の損傷(図1)が,内軌頭頂面で確認されています.しかし,中きしみ割れについては,発生状況や発生メカニズムが明らかとなっていません.そこで本研究では,中きしみ割れの発生状況ならびに発生メカニズムについて検討しました.

図1 中きしみ割れの外観

2.中きしみ割れの発生状況調査

 はじめに,中きしみ割れの発生状況を明らかにするために,現地調査を実施しました.その結果,中きしみ割れの発生は,振子車両が多く走行する線区(以下,「振子線区」とする)の半径400~800mの曲線区間で確認できました.一方,振子線区の半径1000m以上の曲線区間や非振子線区においては,中きしみ割れの発生は確認できませんでした.本調査の範囲内においては,中きしみ割れは,振子線区の半径400~800mの曲線区間において発生する形態の損傷であると考えられます.なお中きしみ割れ発生箇所は,バラスト軌道やスラブ軌道,無道床橋梁上など,軌道構造には関係なく,その発生が確認されました.
 レール頭頂面を起点とするき裂の発生には,レール頭頂面に作用する応力に加え,摩耗進展とも密接な関係があります.そこで,各調査箇所における内軌頭頂面の摩耗量を測定しました(図2).中きしみ割れ発生箇所として,振子線区の半径600mの曲線区間,中きしみ割れが発生していない箇所として,非振子線区の半径600mの曲線区間における摩耗量をプロットしました.その結果,中きしみ割れ発生箇所(振子線区)においては,未発生箇所(非振子線区)に比べて内軌頭頂面の摩耗量が少ないことが確認できます.
 中きしみ割れの発生ならびに進展に影響を及ぼしたと考えられる,車輪/レール間に作用した応力の履歴を確認するために,中きしみ割れが発生したレールについて,頭頂面表層における断面組織を観察しました.その結果,図3に示すように,中きしみ割れが発生したレール頭頂面においては,列車進行方向に塑性流動が確認できます.したがって,曲線内軌に発生する中きしみ割れは,通過する車輪との転がり接触に起因する,列車進行方向に作用する縦クリープ力が大きく寄与していると考えられます.

図2 摩耗量測定結果
図3 断面組織観察結果

3.車輪/レール接触解析

 中きしみ割れの発生メカニズムを検討するために,車輪/レール接触解析を実施しました.中きしみ割れ発生状況に基づき,中きしみ割れの発生を確認した箇所(Case1),ならびに比較のために振子線区で中きしみ割れが発生していない箇所(Case2)を対象に行いました.なお車両モデルについては,振子線区においてのみ中きしみ割れの発生が確認できたことから,振子車両をモデルとしたほか,車両の影響についても検討するため,中きしみ割れ発生箇所における非振子車両のモデル(Case3)についても検討を行いました.解析条件を表1に示します.
 中きしみ割れの発生には,内軌の摩耗量ならびに縦クリープが影響していると考えられることから,輪重や車輪/レール接触面に作用する縦クリープ率について検討を行いました.
 輪重については,図4に示すように,Case1およびCase2では外軌側に高い値の輪重が作用していることが確認できます.これは軌道条件が曲線区間であることに加え,車両モデルが振子車両であるため,車体重心が曲線外方へ移動した影響が考えられます.曲線半径1200mのCase2では,外軌と内軌の左右輪重比がおよそ6:4であるのに対し,曲線半径600mのCase1では,外軌と内軌の左右輪重比がおよそ7:3でした.また内軌に載荷する輪重の値は,曲線半径の小さいCase1のほうがCase2よりも10kN程度低いことが確認できました.同じ曲線半径における車両形式の影響として,Case1ならびにCase3の結果を比較すると,内軌に載荷する輪重の値は,振子車両であるCase1のほうが非振子車両であるCase3よりも10kN程度低いことが確認できました.これらの結果より,図2に示す中きしみ割れ発生箇所と未発生箇所における摩耗量の違いは,図4に示す内軌に作用する輪重の差が影響していると考えられます.
 内軌側の車輪/レール接触部に発生する縦クリープ率の解析結果については,図5に示すように,振子車両において,曲線半径の短いCase1で約0.4%の縦クリープ率が発生している結果となりました.またCase2における結果と比べると,その値は2倍程度であることが確認できました.このような差が出た要因として,曲線半径の短いCase1においては,左右の車輪における輪径差が著大となったことが考えられます.一方,同じ曲線半径における非振子車両での条件であるCase3については,約0.2%の縦クリープ率が発生している結果となりました.このような結果となった要因として,非振子車両の車輪(φ860mm)に比べて振子車両では小径車輪(φ810mm)を採用していることが考えられます.つまり,車輪径の差が影響し,Case1においては発生する縦クリープ率が著大になったと考えられます.

表1 解析条件
図4 解析結果(輪重)
図5 解析結果(縦クリープ率)

4.まとめ

 本研究では,中きしみ割れの発生状況ならびに発生メカニズムについて検討しました.今後,中きしみ割れの進展を抑制する対策法およびその効果について,検討する予定です.

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 辻江正裕
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 陳樺,木村成克(現JR東日本)
    材料技術研究部 摩擦材料研究室 松井元英,西村英典

発行者:楠田 将之 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:佐藤 祐子 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 コンクリート構造】

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