2.基礎技術開発
 山梨実験線には、建設当時の超電導磁石を前提として、信頼性を重視した地上コイルを投入しましたが、国立研究所で行う基礎技術開発においては、コスト低減のために大幅に簡略化した地上コイルと、これに対応できる耐振動特性に優れた超電導磁石の開発を進めています。また、地上コイル樹脂の機械的疲労強度評価にも取り組んでいます。

(1)簡略地上コイル対応超電導磁石の開発
 超電導磁気浮上式鉄道に関する現在の最大の技術開発課題であるコスト低減策の1方法として、ガイドウェイに敷設する地上コイルの簡略化を検討しています。そのためには、簡略化した地上コイルに対応できる性能をもった超電導磁石の開発が必須です。その要求される性能とは、目標重量の範囲内で、走行時における耐振動特性が設計基準内の振動レベルであり、かつ振動に伴う低温領域での発熱が搭載する車載冷凍機の冷凍能力を超えないことです。これまで、簡略地上コイルを模擬した超電導磁石の電磁加振試験、超電導コイル単体の機械加振試験および解析を通じて、増加する変動磁界および超電導磁石の変動力に対応して、下記の性能向上策を提案しました(図6)。
1)外槽剛性の向上により、内槽・配管等の振動を低減する。
2)上下荷重支持体剛性の強化により、超電導磁石全体の共振周波数を走行速度領域から避ける。
3)荷重支持材部の内槽補強により、超電導コイルの発生歪みを均一化して振動による発熱を抑える。

 これらの対策を実証するため、既存の超電導磁石に上記の改良を加えて、電磁加振試験を実施し、所期の目標を達成できることを確認しました。今後は山梨実験線における走行試験で、その性能向上を実証する予定です。


図6 簡略地上コイル対応超電導磁石

(2)地上コイル樹脂の機械的疲労強度評価
 超電導磁気浮上システムに使用する地上コイルは、鉄芯のない空芯コイルであるため車上の超電導磁石との間に働く繰り返し電磁力を保持するためにコイルを樹脂で一体モールドする必要があります。従って、地上コイルのモールド樹脂には絶縁材の役割に加えて機械強度部材としての機能が要求されます。特に、推進コイルは高電圧環境で使用されるため絶縁性能に優れたエポキシ樹脂が選択されています。
 しかし、エポキシ樹脂をはじめ高分子材料の機械的疲労特性については、十分に検証されていません。地上コイルは変動応力と平均応力が同時に作用した状態で使用されるにも関わらず、高分子材料の分野では、一般的に平均応力σm=0における疲労強度試験結果が整理されているのみであり、地上コイルの強度設計に必要な複合応力条件下での疲労限度線図が得られていませんでした。そこで、山梨実験線推進コイル用エポキシ樹脂についてテストピース試験を重ね、新たに疲労限度線図を作成しました。
 今回得られたエポキシ樹脂の疲労限度線図は下に凸の曲線となり(図7)応力比R(最小応力/最大応力)によっては従来適用されていた直線に比べ応力限界が低下することも分かりました。これまでできなかった平均応力条件下での疲労強度評価がこの線図により可能となり、この結果を今後の地上コイル設計に反映していく予定です。


図7 エポキシ樹脂の疲労限度線図



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