5.運転士の異常時対応能力向上プログラム

 運転士は、事故発生時にその原因を特定できなかったり、運転士自身によるエラーが発端であったりすると、心理的な不安やショックから普段ならできるはずの処置ができなくなったり、所定の運転に戻ったところで安堵や気の緩みから2次的なエラーを起こしたりします。
 そこで、列車運転シミュレータ上でそのような心理的動揺が擬似体験できるエラーの誘発事象を組み込んだシミュレータ課題を作成しました。図1(a)はある事業者の実線区を模擬して作成した課題の1例で、走行中、滅灯している@の信号機の喚呼位置標手前で車掌から急病人の連絡を受け、滅灯に気づかず信号冒進をした際の緊張感を体験させる課題です。
 閉そく信号機が2基連続して滅灯しており、その先に先行列車がいます。そのため、@の信号機の滅灯は本来注意信号なので、❶ฺのATS地上子によって速度を45km/h以下に抑えられます。運転士18名中15名が滅灯している@の信号機を越えて停止し、連続2基の信号機@Aの滅灯に気づかなかった運転士も1名いました。
 異常時対応能力を向上させるために重要な点は、擬似体験で自分の失敗に気づかせることです。シミュレータ課題における力行ノッチ位置・ブレーキハンドル等の運転行動の指標とATS動作情報等の運転環境に関する指標を対応づけて提示する可視化システム図1(b)を組み込んだことにより、運転士に自分の失敗の状況を正確に理解させ、納得させることができます。