11.強風時における列車の安全性評価

[車両の運動特性]

 余部事故以降の研究によって、車両に作用する空気力は、車両形状と橋梁や築堤などの線路構造物形状とに依存すること、また走行車両と風との角度(風向角)に依存することが明らかになりました。これらの空気力学的な知見と車両の運動に関係する要因を精査し、転覆限界風速を算出する詳細計算式を提案しました。詳細計算式は、従来の国枝式と同様に、車両に作用する力の静的なつり合いの関係から転覆限界風速を求めるものですが、空気力や重心変位等の考え方が異なります(表1)。
 また、詳細計算式を動的解析に拡張したシミュレーションプログラムを作成し、実車を用いた検証試験によりその妥当性を確認しました(図1)。さらに、実務に適用できるように、詳細計算式と動的解析の結果を比較検討し、車両の動特性の影響を詳細計算式に加味して転覆限界風速を評価する手法を提案しました。

[車両の空力特性]

 複数の車両形状と線路構造物形状とを組み合せた風洞試験を行い、車両に作用する空気力(横力、揚力、モーメント)を評価し、それらの係数を求めました。表2はその一例で、対象となる車両形状、線路構造物に対して、表の中から類似の車両形状、線路構造物形状を選択することにより、空気力係数が推定できます。
 空気力の各係数は、転覆限界風速の算出に活用できます。

  • 表2 空気力係数一覧表の例

[強風特性]

 橋梁や築堤などの線路構造物近傍の風速計で観測される風速と、詳細計算式による転覆限界風速の評価位置での風速との関係(最大瞬間風速の風速比)を、風洞試験と現地観測の結果をもとに算出しました(図2)。この風速比を用いて、風速計で観測された風速から、転覆限界風速の評価位置での風速を推定することができます。
 また、各地の風観測データから、短時間に風速が急増する頻度を統計的な特性値として取り出しました。この特性値を用いて、規制区間を走行中の列車が受ける風の強さがある値以上となる可能性を定量的に評価することができます。

  • 図2 転覆限界風速の評価位置での風速を1.0としたときの風速計位置での最大瞬間風速の比の例(築堤のケース。風は線路に対して90度)

[安全性評価]

 車両の運動特性・空力特性ならびに強風特性の各知見にもとづき、車両や線路の諸元などの違いに応じて強風に対する安全性を定量的に評価する手法を構築しました。この手法では、規制区間を走行する列車が、(急激な風速増加に起因して生じる)転覆限界を超える風速に遭遇する確率(遭遇確率)を提案しました。遭遇確率は線区の列車運転本数密度に比例し、沿線の強風発生確率と規制風速や規制区間の通過時分ならびに運行再開までの様子見時間を基に算出します。
 この指標によって、強風が車両走行に及ぼす影響を定量的に評価することができます。例えば、抑止風速を大きく緩和しても徐行発令風速を下げれば安全性が低下しない等の検討が可能になるとともに、車両や線路の諸元が転覆限界風速に対して不利な条件であったとしても、有利な諸元の場合と同等の安全性となるように徐行や防風柵による対策水準を決定することができます(図3)。

  • 車両、線路の諸元および対策の転覆限界風速に対する影響度の評価例(影響度を転覆限界風速の増加または減少の程度で示す)