3.巨大地震時の残存耐力を考慮した構造物の安全性評価手法

 現行の設計基準では、大変形領域での構造解析の困難さおよび余震に対する配慮から終局限界を安全側に評価しています。しかし、マグニチュード8を超える巨大地震が発生した場合には、現在の設計基準で用いている標準地震動よりも大きな揺れが発生すると想定され、より合理的な評価方法が必要となります。そこで、巨大地震を対象として、余震の影響も含めた構造物の耐震性を評価するための手法を提案しました。
 微小変形理論から有限変形理論に定式化を変更するとともに、コンクリートの剥離や鉄筋の座屈など各要素の大変形領域での現象を考慮できるファイバーモデルを開発しました(図1)。これにより部材が耐力を失う領域までの挙動を評価できます。
 次に、部材の損傷が進行する過程において、その損傷状態に応じた剛性を用いた固有値解析を逐次実施することで、構造全体系が不安定となる状態を探索するアルゴリズムを提案しました。従来は、構造物を構成するどれか1つの部材でも終局点に達すると、その状態を構造物の終局と定義していましたが、本手法により、部材単位ではなく構造全体系として終局状態を新たに定義し、巨大地震に対しても合理的に評価できるようになりました。ただし、巨大地震では相当大きな余震の発生可能性が高いため、余震の影響に対しても配慮する必要があります。そこで、耐震性能残存率スペクトルというノモグラムを導入し、本震のみならず余震に対しても安全性を確保できていることを確認するための実務的照査方法を提案しました。これにより、巨大地震における余震までを考慮した合理的かつ高精度な耐震診断が可能になりました。