第108回 鉄道総研月例発表会:世界鉄道研究会議(WCRR'97)の報告

世界鉄道研究会議の意義と今後の課題


理事 佐藤 泰生

 世界鉄道研究会議(WCRR)は、総研5周年記念国際講演会を契機に、発展的に開催されているもので、(1)鉄道技術の研究開発(R&D)を主題とした唯一・総合的な国際会議、(2)鉄道技術の研究開発関係者の世界的な協調・連携を図る、(3)総研の研究者の国際的な地位の向上とレベルアップ、が主たる意義である。WCRRは、1994年欧州、1996年米国、1997年(今回)欧州(イタリア・フィレンツェ)と既に3回開催され、次回は東京で1999年秋に開催される予定で、準備が開始されている。



鉄道経営と国際協調 (Session-A)


構造物技術開発事業部(橋梁) 技師 田中 寿志

 政策と管理(A1)、戦略と協調(A2)、顧客のインターフェイス(A3)、貨物(A4)のセッションについて報告する。研究開発の目標を設定するための鉄道の将来像、施設の保有・管理と列車運行を行う経営主体を分離した場合の問題、国際技術協力の例、情報システムを用いた顧客とのインターフェース、貨物輸送の活性化についての発表があった。



軌道・橋梁関係 (Session-B)


軌道技術開発推進部(レール溶接) 技師(主席) 辰巳 光正

 本Bセッションでは、軌道の構造、検査、保守1及び2、並びに橋梁・高架橋・トンネルの構造及び保守の6つの小セッションに分かれ、口頭、ポスター合わせて61件が発表された。日本からの発表が16件と最も多く、開催国のイタリアがこれにつづき9件であった。なお、本セッションの最優秀口頭発表として、JR西日本の「山陽新幹線300km/h運転のための経済的な軌道保守」が、ポスター発表でも同社の「人的感覚による検査からの脱却」が選ばれた。



電力関係 (Session-C)


電力技術開発推進部(き電システム) 技師(係長) 兎束 哲夫

 電力関係では、各国ともライフサイクルコスト低減を意識している。き変電では、き電方式の提案、既存き電設備の改良、車両内外の電磁界密度測定、き電回路の計算方法等、様々な内容が発表された。電力分野でも環境に対する配慮が必要になってきたことがわかる。集電では、高速走行試験のための集電計測・架線検測装置に関する発表が多い。イタリア、ドイツでトロリ線の摩耗測定の研究が、また各国でアクティブパンタグラフの研究が進められている。



信号・通信関係 (Session-C)


輸送システム技術開発推進部(信号) 技師 福田 光芳

 信号通信分野に関して3つのセッションが開かれた。「新しい列車制御システム」のセッションでは、ETCS/ERTMSや日本のディジタルATC応用システムのプロジェクトの発表があった。「信号コンポーネント」のセッションでは、信号技術に関する各種研究開発の発表があり、また、「信号と通信」のセッションでは、移動体通信を鉄道にいかに応用するかについて論じられた。これらの発表の概要について紹介する。



車両関係 (Session-D)


車両技術開発事業部(駆動制御) 主任技師 川口 清

 今日の車両は多様な技術要素と幾多の機器で構成され、インバータ制御や振子台車といった新技術の導入も盛んである。さらに車両は欧州統合や民営化に伴う国際的業界再編の中で流通する商品としてC/PやLCC面で変革点を迎えている。この背景の下、車両(D)部門のセッションと内容は専門化・特化する傾向にある。今回は計算モデル、車両保安、電動機制御、ブレーキ、台車、モニタリング、車両材料、システム設計の8つで構成された。D部門の口頭発表はこの会議においても最多の49件であった。(全体の3割、従来分類法で前回並の4割相当)。ポスターを含む108件の論文の主な概要を紹介する。



安全と人間科学関係 (Session-A)


基礎研究部(安全心理) 主任研究員 福田 久治

 D2(車両安全システム:口頭発表6件、ポスター発表1件)およびA5(人間科学関係:口頭発表6件、ポスター発表9件)について報告する。前者では欧州統合や民営化に対するシステマティックで全体的な安全への取り組みとして、鉄道ネットワーク、経済分離、車両転用に対する安全の保証等、後者では最近のパソコン技術を活用した3D/ハイブリッドモデル、VR(バーチャルリアリティ)による訓練シミュレータ等が提案されている。



環境・騒音関係 (Session-E)


材料技術開発推進部(金属材料) 技師 永友 貴史

 セッションEでは環境問題を取り上げており、4つのテーマ(E1:環境、E2:騒音、E3:地盤振動、E4:空力)に分類されている。本報告では主にセッションE1で発表された5件についてその内容の概略を述べ、セッションE2の内容について簡単に触れる。また、ポスターセッションで発表された件名についても簡単に紹介する予定である。



欧州における鉄道研究開発体制の概要


企画室(国際) 主幹 田中 裕

 欧州統合の動きの中、あらゆる分野での統合・標準化が進められている。また、21世紀に向けた欧州経済圏の強化を目的としたプロジェクトが平行して進行中である。鉄道技術についても同様であり、ここでは、欧州連合の科学技術開発基本計画の下、新技術開発プロジェクトの実施等によって、技術力・輸送力向上や鉄道網統一に向けた作業を進めている。鉄道技術研究開発関連の国際協力機関につて、その概要を説明する。


第108回 鉄道総研月例発表会

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