第117回 鉄道総研月例発表会:鉄道地上設備材料の最近の展開

酸性雨などの酸によるコンクリートの劣化診断


材料技術開発推進部(無機材料) 技師 上田 洋

 コンクリートは、空気中の炭酸ガスや酸性雨、酸性河川水、下水などの酸によって劣化を生じるが、従来はこれらの識別が困難であった。本研究では、酸の強さに応じて生成する特有成分(Fe,Al,Mg)の濃縮層を調べることによって、(1)コンクリートが酸の影響をうけているかどうかの判定、(2)炭酸ガスによる影響(炭酸化)と酸性雨などによる影響との識別、(3)酸劣化を生じた場合の劣化程度の判定、を可能にし、適切な補修方法を選定できるようにした。今回はこれらの概要について報告する。



塩化物イオン吸着剤を活用した補修法の実施とその効果


材料技術開発推進部(無機材料) 技師(主席) 飯島 亨

 近年、品質の低下により、海砂を使用したり、海岸線に位置するコンクリート構造物では、鉄筋腐食による劣化が顕在化している。これらの構造物では、多くの塩分が内在しているため被覆などの一般的な補修では早い時期に再変更を生じてしまう例が少なくない。そこで、コンクリート中の過剰な塩化物イオンを吸着し、防錆効果のある亜硝酸イオンを放出する「塩化物イオン吸着剤」を考案し、この吸着剤を活用した補修法を開発した。本発表では、この補修法の実施とその効果について紹介する。



スラブ軌道補修用合成樹脂てん充材の開発


材料技術開発推進部(有機材料) 技師 鈴木 実

 スラブ軌道は、敷設延長が2,700kmにのぼり、保守の省力化の面で大きく寄与しているが、初期の敷設から約30年が経過した現在、一部に補修を必要とする損傷がみられる。てん充層損傷部の隙間に対しては、ポリウレタン系の合成樹脂てん充材による補修が行われていたが、5mm未満の小間隙の補修は困難であった。本報告では、5mm未満の小間隙補修用に新たに開発した合成樹脂てん充材の開発経緯および評価試験について報告する。



耐シェリング用ベイナイトレールの開発


材料技術開発推進部 金属材料 技師(主席) 佐藤 幸雄

 シェリング損傷の発生を抑制してレールの長寿命化を図るために、レール材質の変更によって摩耗を適度に促進させてシェリング損傷の発生起点となる金属疲労層を自己除去するタイプの新型レールの研究を進めてきた。ここでは、開発を進めてきたベイナイト鋼製レールの材料特性、摩耗試験および転がり接触疲労試験等の室内試験結果、さらに複数の在来主要幹線で実施している敷設試験の途中結果について報告する。



マンガンクロッシングの簡易な探傷法


材料技術開発推進部 主幹 柏谷 賢治

 マンガンクロッシングの解体検査作業に対する省力化および精度向上のため、損傷形態を把握し、それに合った探傷法を考案し、素人が迅速にかつ確実に探傷できる探傷を開発した。高低二周波数渦流探傷法を採用した小型軽量のもので、取扱いが極めて簡便である。さらに、可動レールの三点曲げ疲労試験を行って、亀裂進展特性を調べ、この探傷器を用いた場合の検査周期を明らかにした。



既設電車線路鋼構造支持物の延命化


材料技術開発推進部(有機材料) 主任技師 江成 孝文

 架空電車線を支持する鋼構造支持物は設備数量の増大や更新工事の煩雑さから、当初の計画寿命を越えて使用される傾向にある。ここでは、塗装鋼支持物およびメンテナンスフリーを目的として採用された溶融亜鉛めっき鋼支持物について、腐食環境別に耐用年数を推定した。さらに、現行より耐久性が高い防食塗装系の適用を実構造物試験塗装等により検討し、厳しい腐食環境において60年以上の使用を可能とする防食管理方法を提案する。



トロリ線材料としての析出強化銅合金の耐久性評価


材料技術開発推進部(金属材料) 主任技師 青木 純久

 車両高速化に伴って高いトロリ線強度が要求されつつあるが、これに対応して高強度、高導電率のCu-Cr-Zr系析出強化型銅合金を適用した”PHCトロリ線“が開発されている。このトロリ線が長期の使用に耐えるために必要な諸特性を満足するかどうかについて、10000時間までの耐熱性試験(硬さによる評価)、クリープ試験(やや過酷な温度、応力条件下におけるクリープの伸び測定)、平面曲げ疲れ試験海岸環境下でのばくろ腐食試験などを行い、材料面からの耐久性の検討を行った。これらの試験の結果、各特性について良好なあるいは特に問題のない特性を示すことが明らかになったので、結果を報告する。


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