車両技術開発事業部 部長 岡本 勲
鉄道総研では車両に関する技術開発として、@速度向上や乗心地向上をめざした走り装置の性能向上や車体曲げ振動の抑制、A車体傾斜装置、輪軸操舵装置付台車、車輪直接駆動電動機、狭軌新幹線車両、軌間可変台車など新しい車両システムの開発、B車両の力行やブレーキシステムのインテリジェント化、C種々のシミュレーション技術の開発や制御技術の車両への応用、D車両保守に関連した 新しい強度検査、メンテナンス技術の開発などを進めている。このような鉄道総研における最近の車両技術開発の動向を紹介する。
車両技術開発事業部(車両システム) 主任技師 芳賀 一郎
在来線の次世代振子車両用として、新しい車体傾斜機構を備えた台車を開発した。この台車は、油圧式強制振子と連接方式を採用し、空気ばねを屋根付近の高さに配置する構造とするとともに、輪軸操舵機構を組み込み、曲線高速走行時の内軌側輪重抜け防止、横圧低減を図っている。本発表では、この台車と車体傾斜機構の構造を中心に、車体モックアップと定置傾斜試験装置による曲線模擬走行試験などについて述べる。
車両技術開発事業部(電気動力) 主幹技師 松岡 孝一
当所では次世代の電気車の動力システムとして、車輪一体形主電動機の開発を進めている。これは従来用いられている歯車装置を無くして、車輪を直接駆動する方式であり、そのシンプルな構造から、種々の応用が考えられている。これまでに第一段階の主電動機モデルの試作から始めて、実機による単体での性能試験、試験電車に取り付けての走行試験等を進め、その性能の確認と改良を図ってきた。最近の試作・試験結果等により、車輪一体形主電動機の開発の現状を紹介する。
基礎研究部(車両運動) 主任研究員 藤本 裕
「車体間ヨーダンパ」が500系で実用化されたが、さらに効果的な車体間防振装置の構成を検討するため、実車の左右振動モードと振動低減効果の関係を解析した。まず、実車の測定結果から、トンネル区間と明かり区間の高速列車の左右系振動モードを求めた。そこで左右振動モードと車体間装置のエネルギー消費量の関係を調べ、実車の振動モードに適した車体間防振装置を検討した。その結果、トンネル区間では左右方向の車体間ダンパによる振動低減効果が期待できることなどを示した。
車両技術開発事業部 主任技師 杉森 昌樹
都市圏での混雑緩和対策として、車体断面形状等の工夫により車内通路幅を大きく拡幅し、従来車より、吊り革数が40個以上増えた幅拡大車両を試作した。当車両は、車両/建築限界間にある余裕距離を若干活用しており、車両周辺物への擦れ違い時の接近量増加について、所内ループ線で実施した偏積条件における速度向上試験時の車体変動量をもとに、従来車と比較する。また、車両試験台での加振試験等の車両特性から考察、評価する。
車両技術開発事業部(駆動制御) 技師(係長) 小笠 正道
電気ブレーキのみで電車を停止させることができれば、高減速度化による運転時隔短縮、乗心地改善、ブレーキ操作性向上による乗務員負担の軽減、摩耗粉塵の低減、ブレーキシュー交換に関わる保守の軽減、機械ブレーキ装置の軽量・簡素化などの効果が期待できる。
JR工場構内で、電気ブレーキのみで電車を停止させるための実車試験を行った。ブレーキシステムは現状のものを用い、インバータ制御のみ変更を加え、電気ブレーキによる停止を問題なく実現した。現状のブレーキシステムを用いた、"停止までの電気ブレーキ"の実用化見通しを得たので、今後本線走行試験を行う予定である。
車両技術開発事業部(ブレーキ制御) 主幹技師 長谷川 泉
在来線の最高速度は非常ブレーキ距離600mを前提としている。そのため在来線車両の最高速度130km/hを140km/h化するためには車両のブレーキ力を増強するほか、雨天時の低粘着状況に対処することが必要である。そこで滑走制御方法を改善し、最大のブレーキ効果を発揮させる方策を開発した。その結果、140km/hからの非常ブレーキ距離は散水条件下で平均485mを得た。この結果からブレーキ力強化と滑走制御方法の改善だけで速度向上の可能性が得られたので開発経過と今度の展開を述べる。
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