第121回 鉄道総研月例発表会:都市鉄道

プロジェクトの経緯と成果概要


技術開発事業本部(都市鉄道担当) 主幹 富井 規雄

 都市圏輸送における輸送サービスの改善は、鉄道事業各社の重要課題となっている。また、運政審や運技審においても、都市圏輸送改善が近い将来に向けての優先技術開発課題として答申されている。このような背景から、総研は 95年7月都市鉄道プロジェクトを設置し、輸送需要、駅構造、運転制御、車両について、関連要素技術の開発およびそれらを総合した新しい都市鉄道システムの検討を進めた。ここでは、プロジェクトの経緯と成果の概要について報告する。



停車時分短縮のための駅構造評価システム


構造物技術開発事業部(建築) 主任技師 青木 俊幸

 列車の駅における停車時間は、乗降人員が最大となる扉の人数で決まる。列車の1扉ごとの乗降人員(乗降分布)は、階段の位置に大きく依存するが、この乗降分布と階段や改札口の位置等の関係を解明し定量的に評価する手法を開発した。また、混雑等の条件により乗降に要する時分は異なるので、乗車率等と乗降所要時分との関係を解明した。
 これらの手法を統合し、階段配置を変えたり、列車の停止位置を変更した時の停車時分を予測できる「駅構造評価システム」を開発した。



旅客流動を考慮した列車運行シミュレーション


輸送システム開発推進部(計画システム) 技師 平井 力

 大都市圏における通勤時間帯に列車遅延が発生すると、列車間隔が広がり、駅ホーム上の旅客数が増大する。列車の乗降人数が増えると、必要な乗降時間も増加するので、遅れて到着した列車の発車時刻が更に遅れる。このような遅延増大を回避するため、列車間隔をなるべく等しくするような調整(時間調整)が行なわれている。本件では、将来的に乗客数等の情報が得られるようになった場合を想定した時隔調整アルゴリズムを提案し、シミュレーション実験でその有効性を確認した。



輸送需要シミュレーション・システムと混雑度分析


技術支援部 主幹 小野 耕司

 大都市圏の鉄道線区を対象に、輸送需要の予測を行なうシステムを開発した。本システムの特長として、@混雑度のモデル導入、A駅アクセス部分の精緻化、B駅乗換え部分の精緻化、C利用者・事業者便益評価指標の出力、がある。また、混雑度のモデル導入のための通勤・通学者対象に混雑度等に関する意識調査を実施した。本発表では、シミュレーション・システムの概要および使用例と混雑度に関する意識調査の分析結果について述べる。



電気ブレーキのみで電車を停止させる制御


車両技術開発事業部(駆動制御) 技師(係長) 小笠 正道

 電気ブレーキのみで電車を停止させることができれば、高減速度化による運転時隔短縮、乗心地改善、ブレーキ操作性向上による乗務員負担の軽減、摩耗粉塵の低減、ブレーキシュー交換に関わる保守の軽減、機械ブレーキ装置の軽量・簡素化などの効果が期待できる。
 JR工場構内で、電気ブレーキのみで電車を停止させるための実車試験を行った。ブレーキシステムは現状のものを用い、インバータ制御のみ変更を加え、電気ブレーキによる停止を問題なく実現した。現状のブレーキシステムを用いた、"停止までの電気ブレーキ"の実用化見通しを得たので、今後本線走行試験を行う予定である。



摩擦ブレーキのフィードバック制御


車両技術開発事業部(ブレーキ制御) 主幹技師 長谷川 泉

 鉄道車両用空気ブレーキは摩擦力をブレーキ力として利用している。摩擦力は制輪子押付力と制輪子摩擦係数の積であるが、水の介在、制輪子温度、速度等によって摩擦係数は変動する。そのため押付力すなわちブレーキシリンダ圧力を制御対象とする従来のブレーキ装置ではブレーキ力を正確に制御することはできなかった。そこでディスクブレーキについてブレーキ力検出方法を検討し、フィードバック制御を導入することによって摩擦ブレーキ力を適切に制御する方法を開発したので報告する。



輸送能力向上のための次世代通勤車両(幅拡大車両)


車両技術開発事業部 主任技師 杉森 昌樹

 都市圏での混雑緩和対策として、車体断面形状等の工夫により車内通路幅を大きく拡幅し、従来車より、吊り革数が40個以上増えた幅拡大車両を試作した。当車両は、車両/建築限界間にある余裕距離を若干活用しており、車両周辺物への擦れ違い時の接近量増加について、所内ループ線で実施した偏積条件における速度向上試験時の車体変動量をもとに、従来車と比較する。また、車両試験台での加振試験等の車両特性から考察、評価する。


第121回月例発表会のページに戻る

HOME RTRI ホームページ

Copyright(c) 1999 Railway Technical Research Institute