第123回 鉄道総研月例発表会:架線・パンタグラフ系の技術開発

トロリ線波状摩耗の発生機構


基礎研究部 研究主幹 真鍋 克士

 トロリ線に発生する波状摩耗は性能を大きく損なうことから、その防止策が求められている。これまで観測されている波状摩耗の波長はパンタグラフのすり板間隔の整数分の1に近い。ここではこのような波長の摩耗が成長する力学的機構として、トロリ線を伝播する波動の干渉と考えると観測されている波状摩耗の特徴が説明できること、波状摩耗を防止する基本として2点接触を緩和することが有効であることを述べる。



トロリ線の波動低減による集電系の性能改善


基礎研究部(集電力学) 室長 網干 光雄

 本研究は、高速集電における重要な課題の一つである離線の発生を低減することを目的とし、トロリ線とパンタグラフ間の接触力変動の要因を明らかにするとともに、これを低減するための実用的な手法を提案する。特に、トロリ線波動の励起、伝播、反射等の現象とこれらがパンタグラフの接触力変動に与える影響等を理論解析、基礎実験及び現車走行試験等により明らかにし、集電系の動的性能の改善手法を確立することを目指す。



在来線交流用高速対応シンプル架線の開発


電力技術開発推進部(電車線構造) 主任技師 鈴木 顕博

 在来線交流区間では、ちょう架線が鋼より線 St90mm2、トロリ線がCu110mm2で張力が各1トンのシンプル架線と、高速運転区間の一部にちょう架線を St135mm2・2トンとして振動を抑制したヘビーシンプル架線が採用されている。近年、ちょう架線に引っ張り強度の高い鋼より線を使い、従来の太さ St90mm2のまま張力を2トンに引き上げることが可能となり、この経済的に振動抑制を図ったシンプル架線の性能について述べる。



剛体電車線の高速走行特性


電力技術開発推進部(電車線構造) 技師(主席) 清水 政利

 架空式剛体電車線は、カテナリ架線と比較して省メンテナンス、トンネル断面縮小可能等の有利な特長があるが、走行速度は普通鉄道構造規則で 90km/h 以下に制限されている。今後の地下区間の快速化等による速度向上のニーズに対応するため、平成6年度より「電気関係技術基準調査・研究会」において高速化に関する調査研究が実施され、その一環として走行速度を 160km/h(支持点間隔 7m以内)まで向上できることを確認した。本研究は運輸省からの国庫受託の一環として行なわれたものである。



トロリ線ろう付け部の健全性の検討


電力技術開発推進部(電車線構造) 技師(係長) 菅原 淳

 トロリ線は以前、製造技術上の理由から、ろう付けにより長尺のものを製作していた。ところが昨年、ろう付け部でトロリ線が破断する事故が2件続けて発生した。そこで、ろう付け部のサンプルを約20例採取し、元素分析、金属組織観察、引張試験、捻回試験を行い健全性を検討した。その結果、事故品を含め、接続に銀ろうではなくりん銅ろうを用いたものがあること、りん銅ろうでは、長期間に使用に伴い接合面に沿って腐食が進行することがあり、疲労の起点となる可能性があることが明らかになった。



き電線検査ロボットの開発


電力技術開発推進部(集電管理) 技師(主席) 佐藤 勇輔

 電車線路設備においてき電線、ちょう架線等の保守は目視検査、寿命管理のため正確な診断がされていない。そこで、手動で測定できるこれらの線条類の劣化判定装置を開発した。さらに、保守の効率化を目的として劣化判定装置を組み込んだ自走型の検査ロボットを試作し、この検査ロボットが支持点を通過できるような構造に支持点クランプを改良した。き電線検査ロボットの性能を確認するために基礎試験、現地試験を行った結果から実用化の見通しが得られたので、これらについて述べる。



カーボン系すり板の摩耗特性


材料技術開発推進部(摩擦材料) 主任技師 久保 俊一

 在来線ではカーボン系すり板の導入が進められている。カーボン系すり板は、トロリ線の摩耗を少なく抑えることができるため、保守経費削減が期待できる。一方、カーボン系すり板の使用線区、車種の多様化に従い、すり板の更なる高性能化も望まれている。そこで、すり板材料の開発、改良を進めるために、定置試験および現車試験により、すり板の摩耗特性を検討した。本発表ではカーボン系すり板の摩耗特性と材質改良の方向性について述べる。



パンタグラフの接触力測定法


基礎研究部(集電力学) 主任研究員 池田 充

 パンタグラフとトロリ線との接触力変動は集電性能を表す代表的指標であるとともに、トロリ線摩耗に直接関係する量でもあり、精度良い測定が重要である。従来の測定法では舟体の弾性変形が顕著になる約 60Hz以上の周波数で測定精度が低下する。そこで舟体の複数位置における加速度を測定することにより、より高い周波数においても精度良い接触力測定を可能にする手法を開発したので、その原理と実際の測定例について紹介する。


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