第124回 鉄道総研月例発表会:ヒューマンファクタから見た安全性・快適性

鉄道における最近の人間科学研究の取り組み


基礎研究部(人間工学) 室長 四ノ宮 章

 鉄道における人間科学研究は、その目的から安全性向上と快適性向上の研究に大別される。ここでは、前者については、ヒューマンエラーに起因する事故の防止対策に関する研究の動向や事故時の被害軽減対策といった、新たな観点からの研究への取り組み等、後者については、乗り心地評価など車内快適性に関わる研究の進展やユニバーサルデザインの観点からの旅客設備評価の研究への着手等について概説する。



運転適性検査の判定基準の妥当性に関する検討


基礎研究部(安全心理) 主任研究員 喜岡 恵子

 運転適性検査の1つである識別性検査の合否の判定基準は、業務内容により異なる。施設及び電気係員についての判定基準は、在来線よりも新幹線の方が高い。しかし、作業環境を比較すると、一般に、列車の運転を行わない夜間の作業時間帯に施工する新幹線の作業の方が安全性は高いと考えられる。施設及び電気係員の判定基準の妥当性について、作業内容的側面から、また、検査成績と安全性に関する指標との関連性の側面から検討した。



運転士の眠気などの発生の現状


基礎研究部(安全心理) 主任研究員 井上 貴文

 大手民鉄(地下鉄を含む)9社の運転士および指導運転士に質問紙調査を実施し、眠気、ぼんやり、疲労などによる覚醒レベル低下の発生の状況、および眠気等の発生要因について運転士がどのように見ているか等を明らかにした。眠気などが1仕業に1回以上生じている者が 51.1%を占めた。発生要因については、食事、睡眠、体調など自分に係わることがもっとも関係深いとされ、時刻、室内温度、勤務種別などがそれに次いでいた。



作業の継続時間の長さと負担


基礎研究部(人間工学) 研究員(係長) 澤  貢

 列車運転作業における疲労・単調効果等を捉えるための手法の開発の一環として、実験的作業実態の中で、一継続時間の長さの違いが、作業者の心身に及ぼす影響を検討した。その結果、作業に対して努力を必要と感じる等の作業条件に敏感な作業者では、自己の心身状態を最適にコントロールすることが難しく、ストレスを受けながらもほどほどに対処(心的エネルギーの配分)する傾向が示された。



低速における列車衝突時の乗客の安全性


基礎研究部(人間工学) 研究員 田中 綾乃

 万が一の事故に対する被害軽減対策を目的として、事故条件と被害の関係を解明する研究に着手した。この中で衝撃時の人体挙動は重要な情報となるが、事故記録などからこれを得ることには限界がある。このため、実験用台車に人体ダミーを搭載し、指定した速度で剛体壁に衝突させる装置を開発した。これまでにいくつかの乗車姿勢で衝撃を受けた場合の高速度カメラ映像および人体ダミー各部の加速度などの人体挙動データを獲得した。



車体傾斜車両の曲線走行時の乗り心地評価


基礎研究部(人間工学) 主任研究員 鈴木 浩明

 モックアップ車両を用いた定置試験や車体傾斜車両での現車試験によって、傾斜制御法の違いが被験者の快−不快に及ぼす影響を検討し、曲線走行時の乗り心地を評価する新たな指標を提案した。この指標は、ロール角速度と角加速度を併用した日本の従来の評価法に、振動分の影響を考慮したヨーロッパ規格(案)の評価法を加味したものであり、曲線区間の乗り心地の程度を乗客の姿勢(立位・座位)別に総合的に評価することができる。



車両走行時における座席評価手法


基礎研究部(人間工学) 主任研究員 白戸 宏明

 車両走行時のような振動環境下における鉄道旅客用座席の評価については、人間−座席系の振動計測を行う等の手法により主観的評価を補足する方法を試みてきた。この手法により得られたデータを多変量解析することによって、従来の評価項目に対する重み付けを試みた結果と、より客観的な評価指標として、座席の振動伝達率を周波数により重み付けする方法の妥当性について検討した結果を報告する。



自動券売機のユーザビリティ評価


基礎研究部(人間工学) 研究員 藤浪 浩平

 自動券売機は、鉄道利用者のほとんどが使用する自動化機器であり、その利用者も極めて多様である。駅施設のバリアフリー化が進むことで、ますます利用者層が広がることが考えられる。そのためユニバーサルデザイン等の視点を含め、使いやすさ、分かりやすさの問題点を把握することが重要となる。このような観点から自動券売機のユーザビリティー評価のポイントについて紹介する。


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