第170回 鉄道総研月例発表会:最近の材料技術

最近の鉄道材料の研究開発動向


材料技術研究部 部長 辻村 太郎

 材料技術は、鉄道を構成する車両、構造物、軌道、電車線などに共通する基盤的な技術である。鉄道が提供するサービスが安全性の確保を前提としながら、高速化、多様化することへの対応、さらに他輸送機関との競争・協調を進めるために、鉄道材料には性能と経済性の両立が今まで以上に求められてきている。ここでは、エコ、ナノなどの新しい材料開発の動きを紹介し、当方が近年取組んでいる鉄道材料の研究開発について概説する。


コンクリート用断面修復材の接着耐久性向上ATS


材料技術研究部(コンクリート材料) 研究室長 佐々木 孝彦

 劣化部を除去して修復する工法が広く用いられている。修復材の接着強度はコンクリートとの密着度合と強度に影響され、前者は強く押しつけることができる吹付け工法ほど良く、これは単位容積質量が指標となることが判った。また、修復材の水分がコンクリートに吸われて強度が発現しない現象には、施工時下地処理としておよそ15〜20%の樹脂分を含有する乳剤散布が有効であることと保水率が0.5以上の修復材の使用が望ましいことが判った。



水量指数によるコンクリートの水セメント比推定法


材料技術研究部(コンクリート材料) 副主任研究員 上原 元樹

 水セメント比が大きいとき、コンクリート中に板状の大きな水酸化カルシウム結晶が生じ、水セメント比が小さいときは微粒の水酸化カルシウム結晶が生じる。この水酸化カルシウムの大きさを粉末X線回折で見積り、試料中の骨材量等で補正した値(水量指数)と水セメント比との相関を検討した。その結果、水量指数は水セメント比と良い直線関係を示し、これを指標として硬化コンクリートの水セメント比を推定できることがわかった。



コンクリート接着性防水シート


材料技術研究部(防振材料) 副主任研究員 矢口 直幸

 地下構造物を構築する際、内部への漏水を防止する目的で防水シートが敷設されている。しかし、それらの防水処理を実施しても漏水を完全に防止することは困難となっている。そこで、敷設後に打設される躯体コンクリートと化学的に接着する樹脂を開発し、その樹脂を用いることにより、防水シートに局所的な損傷等が生じた場合でも、漏水の発生が抑制可能となるコンクリート接着性防水シートを開発し、その性能を評価した。



損傷力学に基づくレール鋼の疲労特性解析


材料技術研究部(摩擦材料) 主任研究員 岩渕 研吾

 損傷力学は、材料の損傷、疲労、寿命の解析手法の一つとして、工学的な問題への適用が図られている。レールの寿命予測への適用を目指して、普通レールから切出した試験片による材料試験を行い、解析に必要な損傷および疲労挙動の材料定数を決定した。これらを用いて、同材質の角棒の3点曲げ疲労寿命予測を行い、実験的に求めた寿命と比較した。現段階ではまだ低サイクル疲労領域の結果であるが、両者は良い一致を示した。



車両用転がり軸受の疲労度評価


材料技術研究部(潤滑材料) 研究室長 池田 博志

 鉄道車両の走り装置軸受は安全走行を確保する重要な部品である。軸受は、荷重を支えながら回転を案内する機械要素であるが、内外輪の軌道面を転動体が転がることにより、それぞれの材料は疲労する。疲労度の評価が可能となれば、継続使用可能か否かを判定することができる。そこで、超音波顕微鏡を用いて軸受材料表面を伝搬する弾性表面波の音速を測定し、疲労度を推定する方法を試みた。その他の疲労度評価法も併せて紹介する。



気動車用エンジン油の交換周期適正化


材料技術研究部(潤滑材料) 主任研究員 中村 和夫

 気動車の効率的なエンジンメンテナンスを実現するためには、エンジン油の劣化特性と寿命期間を見いだし、その交換周期を適正に設定することによって、エンジンをトラブルなく良好な状態に保つことが重要である。そこで、気動車の検査周期延伸を契機に、実際に運行された気動車のエンジン油の劣化分析およびエンジン内部の状態評価を行い、エンジン油の適正な交換周期を提案した。



カーボン系すり板の新たな装着方法


材料技術研究部(摩擦材料) 研究室長 久保 俊一

 現行のカーボン系パンタグラフすり板では、すり板の舟体への装着方法として、すり板を鋼製さやに納め、これを舟体に固定する方法が用いられている。この方法では、さやに納めた部分が無駄となって軽量化・薄型化が難しいため、形状や質量の制限が厳しい高速車両用の低騒音型パンタグラフ等に取り付けることは困難である。そこでこれらのパンタグラフにもカーボン系すり板を取り付けられるような、新たな装着技術を検討した。



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