第283回月例発表会 鉄道の地震工学分野における最近の研究開発/鉄道施設用材料に関する最近の研究開発

鉄道地震工学研究センターの活動と役割

鉄道地震工学研究センター センター長  室野 剛隆

巨大地震では震災リスクが、広範化かつ複雑化する傾向がある。このような課題に対処し、より安全・安心な鉄道を実現するために、鉄道地震工学研究センターを発足させた。センターでは、地震発生から構造物・電柱・走行安全性まで幅広い分野に関する研究リソースを『集約』して研究開発を行うとともに、わが国唯一の鉄道地震工学の『拠点』を目指して、鉄道地震アーカイブスの整備や人材育成、地震発生時の復旧技術支援などを行うこととしたので紹介する。


構造物の耐震に関する最近の研究開発

構造物技術研究部 部長 谷村 幸裕

鉄道総研ではこれまで、橋梁、高架橋、盛土、トンネルなどの鉄道構造物に関する耐震性能評価技術、耐震対策技術について様々な研究開発を実施してきた。1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震,2011年東北地方太平洋沖地震などの被害を踏まえ、将来の発生が想定されている南海トラフや首都圏直下などの巨大地震への対策として取り組んでいる最近の耐震に関する研究開発について紹介するとともに、今後の動向について展望する。


直下地震を対象とした地震早期検知に関する基礎的検討

鉄道地震工学研究センター 地震解析研究室 研究員 宮腰 寛之

地中地震計のP波しきい値超過による警報出力手法を提案した。地中と地表の地震動の関係を最大振幅で評価し、早期地震警報として利用可能な精度で、地中P波から地表S波を予測できることを示した。また、地中地震計による警報の有効範囲は約20kmであり、首都圏を対象とした場合、現在の地中地震計の設置箇所で問題ないことを明らかにした。本手法と現行手法(P波検知、B−Δ法等)を併用することで、直下地震に対して、より早く確実な警報出力が可能であることを、実データを用いて確認したので報告する。


負剛性摩擦ダンパーの開発とハイブリッド実験による制震性能の検証

鉄道地震工学研究センター  地震応答制御研究室 主任研究員 豊岡 亮洋

平成24 年に改訂された「鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震標準)」では、設計想定以上の地震に対して構造物等が破滅的な状況に陥らない設計を行う「危機耐性」の考え方が導入され、この危機耐性を確保する方法の一つとして制震構造が推奨されている。本報告では、地震時の構造被害に関係する絶対応答を低減可能な負剛性制震を対象に、従来構造よりも容易に実構造に適用可能な負剛性摩擦ダンパーを開発するとともに、数値計算と載荷を連動したハイブリッド実験により制震効果を検証した結果を紹介する。


既設斜角橋台の耐震診断法の開発

構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 主任研究員 西岡 英俊

斜角を有する橋梁は,地震時に桁が鈍角側から鋭角側に向かう方向に回転し,支承を破壊して落橋に至る被災事例が報告されている。本発表では,1/20スケール模型を用いた水平2次元加振実験結果から,斜角橋台では,橋台自体が壁前面方向(すなわち橋軸方向とは傾いた方向)に変位することで,その上に載る桁を鋭角側にさらに大きく回転させるという破壊メカニズムを明らかとした上で,耐震診断の際にその影響が無視できなくなる条件を簡易に診断する手法を紹介する。


鉄道施設用材料に関する最近の研究開発

材料技術研究部 部長 曽根 康友

鉄道を支える構造物、軌道、電力等の施設の機能向上、長寿命化、保守軽減のためには、設計施工技術の向上だけでなく、使用されている材料自体の性能向上や劣化抑制が必要である。ここでは、振動低減、疲労損傷検知などの機能を持つ材料の施設への適用とレールの疲労層評価技術の検討、コンクリート構造物の維持管理に関する材料技術の状況について紹介するとともに、超電導材料の基礎的な材料開発とその送電線への適用に関する取り組みの状況など、今後の展望について解説する。


コンクリートの品質が水分浸透性状に与える影響

材料技術研究部 コンクリート材料研究室 研究員 鈴木 浩明

コンクリート構造物にみられる劣化現象の多くは水が関与しており、特に鉄筋腐食を防ぐ点でコンクリート表層における水分挙動を知ることは重要である。しかし、鉄筋のかぶり深さに関する検討は多くなされているものの、コンクリートへの水分浸透性状について論じた例は少ない。ここでは、基礎的検討として配合と養生の違いに着目し、コンクリートの品質と水分浸透深さおよびその時間依存性についての検討内容を紹介する。


高炉スラグ微粉末を使用したコンクリートの中性化速度の評価

材料技術研究部 コンクリート材料研究室 主任研究員 鶴田 孝司

現在の中性化促進試験では,実環境における高炉スラグ微粉末(BS)を使用したコンクリートの中性化深さを過剰に見積もることが懸念される。そこで,中性化の条件を変えた試験を行い,BSを使用したコンクリートの物理化学性状と中性化速度との相関を検討した。本発表では,これらの検討をもとに,現在の促進中性化条件による試験結果と実環境におけるBSを使用したコンクリートの中性化速度との関係などについて紹介する。


X線フーリエ解析によるレール転がり疲労層評価

材料技術研究部 摩擦材料研究室 主任研究員 松井 元英

これまで困難であったレール転がり疲労層最表面から内部に至るまでの広範囲における組織形態の定量分析を達成する目的から、新しいX線解析手法を適用した分析手法について検討した。その結果、本X線解析手法で最表面から内部に至るまで評価可能であった。また、得られるX線結晶粒径と転位密度(塑性ひずみ量の尺度)がレール転がり疲労層内で大きく変化することが明らかとなり、これらが、転がり疲労に伴う材料組織の変質程度を評価する指標として適用できる可能性を見出したのでその内容について紹介する。


ノーズ可動クロッシング用き裂検知システムの開発

材料技術研究部 防振材料研究室 副主任研究員 坂本 達朗

高マンガン鋼製ノーズ可動クロッシングの維持管理にあたり、き裂の検査方法は主に目視や浸透探傷法などであり、多大な労力を要する。また、当該部材のき裂進展特性について十分な知見が得られていない。そこで、き裂を効率的に検知できる手法の確立を目的として、き裂発生の懸念される可動レール部におけるき裂進展特性を評価するとともに、有用と考えられるき裂検知手法について検討した。その結果、鋼橋用に開発したき裂検知性能を有する導電性塗料を活用したき裂検知システムを開発したので、その内容について紹介する。



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