1.車輪踏面熱き裂発生の原因解明と判定手法

 車輪踏面熱き裂は、踏面ブレーキを使用する一部の車両の車輪踏面に発生するき裂損傷です。このき裂が発生すると頻繁な車輪転削が必要となり車輪寿命も短くなります。しかし、使用状態での踏面観察は難しく、また試験機で再現された例が無いため発生原因や発生条件は不明確で、対策も確立されていませんでした。
 踏面ブレーキによる熱負荷とレールとの接触負荷を実物車輪に繰返し与えることにより、実車で見られるものと同様の熱き裂の再現に成功しました(図1)。熱き裂発生部の材料組織とき裂破面を詳細に調査することで、き裂進展時の温度とその進展特性を解明し、さらに数値解析によりブレーキ時の内部応力状態を推定しました。これらの知見を活用し、熱き裂の発生機構を実証するため実物車輪を用いた検証試験を実施し、踏面熱き裂が「踏面ブレーキによる熱応力(残留応力)」と「車輪とレールの間の駆動力(接線力)」の2つが主因となって発生・進展することを確認しました。
 この結果に基づき、温度上昇による車輪鋼の強度変化を考慮し、内部応力による疲労破壊および引張破壊の発生限界条件を算出することで、車輪踏面熱き裂の発生の有無を「車輪最高温度」と「車両減速度」から判定する発生判定図を作成しました(図2)。これにより、車両諸元に応じ、踏面熱き裂の発生リスクを定量的に評価できるようになりました。これらの成果は、制輪子の改良やブレーキ制御の最適化等、踏面熱き裂対策を考慮した車両のブレーキ装置の設計に活用できます。