第110回 鉄道総研月例発表会:車両の台車関連技術

ブレーキ時の車輪/レールの粘着力の挙動


車両技術開発事業部(駆動制御) 技師(主席) 上杉 卓正

 レールの湿潤状態における滑走現象を把握することは、滑走制御の最適化を図る上で重要なことである。今回、鉄道総研と北海道旅客鉄道株式会社殿とで共同開発した「マルチモード式滑走再粘着制御」を、西日本旅客鉄道株式会社殿の681系電車に適用し、試験を実施したので、そのときの制御の様子と粘着の挙動について、接線力係数の考え方から解析した結果を報告する。



空転時の車輪/レールの粘着力の挙動


車両技術開発事業部(駆動制御) 技師(主席) 山中 章宏

 レール湿潤時等の厳しい粘着力条件下において、空転発生時に粘着力の有効利用を図り加速力損失を低減するために、空転現象を粘着現象面から解析することは空転再粘着制御方法のあり方を方向付ける上で重要である。空転現象の解析を行うことの意義とその手法に触れ、さらにこれまで各種の試験で計測された代表的な空転データについて、接線力係数を中心とした面から解析した結果を紹介する。



台車駆動系自励振動の理論解析


基礎研究部(車両振動) 主任研究員 南 秀樹

 鉄道車両の力行中に発生する自励振動について、台車系と駆動系の連成振動モデルを使用した安定性の解析法を示した。電気機関車を例に安定性解析を行い、台車系振動によって引き起こされる輪軸の接地荷重変動が自励振動発生の原因となることが分かった。またこのとき、輪軸とレールとの間の摩擦係数には、安定から不安定に遷移するときの臨界値が存在し、この臨界値の大きさと台車系、駆動系の諸元との関係を調べることにより、安定となる領域を明らかにした。



上下系セミアクティブサスペンションの基礎試験


車両技術開発事業部(車両情報制御) 技師 菅原 能生

 現在の鉄道車両用台車の主流であるボルスタレス台車に振動制御用の上下アクチュエータを実装するにあたっては、台車−車体間の水平方向変位量が大きいために実装方法の工夫が必要であった。そこで、アクチュエータ上部に摺動面をもたせることによって上記問題を回避する空気バネ内臓型アクチュエータを試作した。本発表ではこのアクチュエータの構造、およびこのアクチュエータとセミアクティブ制御用油圧回路を組み合わせて行った特性試験の結果について報告する。



台車枠溶接部の新しい強度評価法


車両技術開発事業部(強度検査) 技師(主席) 織田 安朝

 鋼製溶接構造である台車枠では、溶接部表面の強度が現行のJIS方式により評価されてきたが、疲労損傷の起点となることのある溶接部裏側(ルート部)や梁裏面に存在する溶接部の評価はされていない。そこで、溶接部近傍の表面母材部の応力値から、破壊力学的手法および日本鋼構造協会疲労設計指針を用いて、現行評価法のこのような問題点の解決法を検討し、その具体的な適用方法を提示する。



中実車軸超音波自動探傷装置の開発


車両技術開発事業部(強度検査) 主任技師 養祖 次郎

 新幹線の中実車軸は交番検査時に超音波による手動式の探傷検査が従来から行われています。その作業には移動、セッティングの他に目視によるブラウン管の複雑な波形の識別という経験を必要とする内容が含まれています。したがって、作業を合理化するうえでも、万が一にきずが発生した時の見落としを防ぐ意味でも自動化が必要でした。そのニーズに応え開発した中実車軸の交番検査用超音波自動探傷装置について述べます。



車輪一体型主電動機の衝撃試験


車両技術開発事業部(電気動力) 主任技師 秦 広

 界磁に永久磁石を適用し、輪軸と一体になった直接駆動式の主電動機の試作を行った。この主電動機は、駆動装置での損失や界磁の銅損がないので高効率、駆動装置の保守が不要になる、主電動機の回転数が低下するので低騒音という特徴がある。しかし、主電動機がばね下になるため、その機械的強度が懸念された。そこで、分岐器やレール継目での衝撃を模擬する衝撃試験装置により、試作した主電動機の試験を行い、100万回の衝撃に主電動機が耐久性を有することを確認した。



中空糸膜方式除湿装置の開発


車両技術開発事業部(ブレーキ制御) 主幹技師 長谷川 泉

 鉄道車両の空気ブレーキ用除湿装置として、高分子材料の水蒸気分離膜に着目し、従来の除湿装置とは全く原理を異にする除湿装置を開発した。中空糸膜を利用した除湿装置は、電源が不要でシンプルな構造であるが相対湿度30%以下の低湿度が得られる。従来の除湿装置と比較すると、重量約1/3、コスト約2/3で、メンテナンス性の優れた除湿装置を実用化した。ここでは開発のポイント、動作原理、使用実績、今後の展望を述べる。


第110回 鉄道総研月例発表会

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