第139回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する最近の成果と今後の展望

鉄道総研における自然災害防止に関する研究開発の概要


防災技術研究部 部長 野口 達雄

 過酷な自然条件にさらされている日本では、毎年各地で様々な自然災害が発生している。国土全域に敷設された鉄道も例外ではなく、古くより多くの災害にみまわれており、鉄道の安全・安定輸送を確保するためには自然災害を防止することが重要な課題である。ここでは、鉄道に係る自然災害を防止するために鉄道総合技術研究所が実施している研究開発の最近の成果や今後の課題について概説する。


雪崩発生検知システムの開発


防災技術研究部(気象防災) 主任研究員 飯倉 茂弘

 雪崩発生時の適切な列車の運転抑止と迅速な点検・除雪作業を支援する雪崩発生検知システムを開発した。本システムは、雪崩の発生を検知する機能に加えて、発生した雪崩の規模に応じた4段階の警報を出力する機能を有している。このため、列車の運転抑止に有用であるのみならず、警報レベルに応じて現地の線路除雪作業や点検作業の必要性の有無、及びそれらの作業規模等を早期に判断することができる。



小規模落石を対象とした新型落石防護工とその耐荷力


防災技術研究部(地盤防災) 主任研究員 佐溝 昌彦

 鉄道沿線で発生する落石災害は比較的小規模なものが多く、対策としては落石止柵が多く用いられている。このため、効率的に落石を捕捉する落石防護工の開発が望まれている。ここでは、落石防護工に利用されている金網の耐荷力を定量的に評価するとともに、新たに開発した変形性能が良く、エネルギー吸収効率の高い伸長ネットを用いた新型落石防護工について、それらの変形性能やエネルギー吸収能力を確認するために実施した載荷試験の結果について紹介する。



のり面防護工を施工した斜面の耐雨性に関する新しい評価基準


防災技術研究部(地盤防災) 研究室長 村 石 尚

 盛土や切取ののり面の崩壊防止のために、のり面防護工を施工して耐雨性を高めることが行われる。のり面の侵食や小規模な表層の滑動に対する抵抗力としてののり面工の効果は明確になっていない。ここでは、のり面防護工が施工されていない斜面の崩壊限界雨量を予測する既開発の斜面評価基準に対し、のり面防護工の耐雨効果を点数化し、防護工が施工されている斜面でも危険度評価が可能な新しい手法について紹介する。



打音によるトンネル覆工の新しい検査システム


防災技術研究部(地質) 主任研究員 榎本 秀明

 鉄道トンネルの全般検査に用いられている打音検査は、調査者の技量による精度のばらつきが多く、その記録が残らない等の問題がある。そこで鋼球による打撃音を壁面に押し当てたマイクで収録しパソコンで評価・記録する観測手法を開発し、巻厚や空洞・剥離に関する評価基準を提案した。さらに、この観測手法を採用した天端付近まで安全に効率よく検査できる打音検査システムを試作し、評価手法の検証と機能確認を目的とした現地実験を行った。



風による車両の脱線転覆に関する研究開発の現状と今後の構想


防災技術研究部(気象防災) 主任研究員 今井 俊昭

 強風に対する車両走行の安全性を検討することを目的として、余部事故から現在に至るまで、車両に働く空気力の推定、車両が転覆しうる風速の算出、自然風の性質を把握することなどを柱として行ってきた研究開発の成果を総括する。また、今後の実施を予定している研究開発として、自然風下の車両の働く空気力を推定するための試験や、強風監視や対策の最適化を目的とするいくつかの研究開発項目についてその構想を紹介する。



将来型地震防災システムの構想


防災技術研究部(地震防災) 副主任研究員 佐藤 新二

 現在様々な機関において高密度な地震観測システムが整備され、日本中どこで地震が起きてもより的確に地震をキャッチする体制が整いつつある。更にこれらの観測情報(ナウキャスト地震情報等)をリアルタイムに発信する計画がある。これらリアルタイムの情報が活用できれば、独自の地震防災システムを持たない事業者にも、汎用性の高い早期警報システムを提供することができる。本発表では本研究の全体計画を紹介するとともに、ナウキャウスト地震情報等を用いた地震の規模や被害推定の新しい手法やネットワークシステムの構想について述べる。

              
第139回月例発表会のページに戻る

HOME RTRI ホームページ

Copyright(c) 2001 Railway Technical Research Institute