第157回 鉄道総研月例発表会:材料技術の研究開発

最近の材料技術の話題


材料技術研究部 部長 上山 且芳

 材料技術研究部では、既存の材料や材料技術の鉄道への新たな適用、新材料や新技術の導入を念頭に、各種鉄道用材料の高機能化、耐久性評価と長寿命化のための研究開発を行っている。最近では、特に「鉄道の役立つ機能材料の開発」をより積極的に進めることで材料開発を目指す活動への重点化を図りつつある。ここでは、材料技術研究部における研究開発の現状とその動向を概説する。


高温超電導バルク体の開発とその応用


材料技術研究部(超電導応用) 研究室長 藤本 浩之

 高温酸化物超電導材料を応用した超電導技術を鉄道へ適用するために、超電導バルク体の開発とその応用を検討している。超電導バルク体の応用開発を推進するためには、超電導特性(臨界電流密度)と材料特性(機械的強度)などを向上させる高性能化と大型化が目標となる。本報告では、バルク体の作製条件の検討と特性評価の結果、および超電導バルク磁石などへの応用の可能性について概要を紹介する。



車両用主変圧器への適用を考えた高温超電導コイル


材料技術研究部(超電導応用) 主任研究員 上條 弘貴

 鉄道車両に搭載される主変圧器の超電導化の可能性について検討を進めている。巻線に銅やアルミに代わり電流密度を大きくできる高温超電導テープ線を使用し、絶縁油が不要で極低温の液体窒素により冷却する高温超電導変圧器では、従来の主変圧器と異なった巻線構造が必要になる。そこで、一次および二次巻線を模擬した2種類の Bi 系高温超電導コイルを試作し、電流−電圧、交流損失などの通電特性を測定したので報告する。



在来線における増粘着材噴射の滑走防止効果


材料技術研究部(摩擦材料) 副主任研究員 具嶋 和也

 増粘着材噴射は現在、新幹線電車における降雨時の非常ブレーキ距離の延伸防止、在来線の勾配区間を走る電車、気動車の落ち葉等による空転の防止、機関車における砂まきの代替等に実用化されている。今回、在来線の滑走検知再粘着装置を持つ E127 系電車と当該装置を持たない 485 系電車について、降雨、降霜あるいは降雪時の滑走時に増粘着材噴射をおこない、その滑走防止効果を確認した結果について報告する。



すり板及びブレーキライニングのリサイクル


材料技術研究部(摩擦材料) 研究室長 辻村 太郎

 消耗部材であるカーボン系すり板や銅系焼結合金製ブレーキライニングに含まれる銅などの金属成分の分離回収条件についての基礎的検討を行った。その結果に基づき、発生量が比較的少ないこれら消耗部材をリサイクルさせる現実的な方法として、銅精錬プロセスを選定し、当該プロセスの転炉への投入により銅などの金属を資源としてリサイクルできることを確認した。



車両用塩化ビニル製床材のリサイクル


材料技術研究部(防振材料) 研究員 伊藤 幹彌

 ゴム、プラスチック等の高分子材料は鉄道でも広く利用されている。特に鉄道車両では、車内環境の快適性向上等の観点から内装材としての利用も多い、しかし、これら材料が廃棄された場合、現状では確立されたリサイクル方法がなく、大部分は産業廃棄物として埋立処理されていた。そこで、車両内装用の床材に使用されるポリ塩化ビニルを用いてリサイクル試験品を作製し、各種試験の結果から特性、利用可能性を明らかにした。



生分解性グリースの鉄道用分岐器への適用


材料技術研究部(潤滑材料) 副主任研究員 曽根 康友

 開放系で用いられる潤滑油類は、使用箇所から流れ出て周辺環境に影響を与える可能性がある。鉄道用潤滑油類の環境対応の一環として、分岐器床板で使用される潤滑剤に、生分解性の素材を適用することを試みた。その結果、高い生分解性を有するほか、潤滑性能に問題がなく、床板から流出しにくい等の特長を持つ分岐器床板用生分解性グリースが得られたので紹介する。



鉄筋腐食に関するコンクリートの診断と補修工法


材料技術研究部(コンクリート材料) 研究室長 佐々木 孝彦

 コンクリート中の鉄筋は、中性化による pH の低下あるいは除塩の不十分な海砂の使用や飛来塩分により導入される塩化物イオンにより腐食する。発錆塩化物イオン量による劣化原因の特定の考え方、かぶりコンクリートの性状を考慮する自然電位補正法による鉄筋腐食度推定法、コンクリート中の過剰の塩化物イオンを低減すると同時に鉄筋腐食抑制成分を放出する塩分吸着材を活用した断面修復工法など、鉄筋腐食に関して総研が開発した診断技術、補修技術を述べる。


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