第179回 鉄道総研月例発表会:最近の車両技術

最近の車両関係の研究開発


車両制御技術研究部 部長 潤賀 健一

 地球温暖化防止のための京都議定書が、今年2月初旬に発効した。対外的に約束したCO2をはじめとする温室効果ガスの低減が求められる。他の輸送機関に比べ鉄道は環境にやさしく、かつ大量輸送が可能である。とはいえ、省エネルギー、リサイクル、省保守をはじめ周囲環境に対する各種の配慮など、より環境に対するやさしさへの対応が求められている。ここでは、車両関係の省エネルギーの話題と、最近の研究開発のトピックスをいくつか紹介する。


超電導主変圧器の開発


車両制御技術研究部(駆動制御) 研究室長 秦   広

 主変圧器は車両に搭載される機器の中でも最も重い。最近進展して、ケーブルや発電機などが試作、試験されている状況にある超電導技術を用いて車両用主変圧器の小型・軽量化を図る研究開発を行っている。巻線にビスマス系高温超電導線材を用い、これを液体窒素で冷却する構造である。ビスマス系線材は銅の10倍以上の電流密度が可能で、損失も小さくできる可能性がある。



燃料電池を適用した鉄道車両の開発


車両制御技術研究部(動力システム) 主任研究員 山本 貴光

 水素エネルギーを利用するクリーンな電源として燃料電池の開発が急速に進められている。鉄道総研では環境に優しい鉄道を目指し、この燃料電池を駆動用電源とした燃料電池車両の研究開発を行っている。これまでに30kW級燃料電池システムを試作し、実際に通勤電車で使われているものとほぼ同じ仕様の台車を車両試験台にて速度50km/hまで駆動させることに成功した。本発表ではこの試験結果と今後構内走行試験を行うために現在試作中である試験電車の概要について紹介する。



非線形ロバスト制御理論による滑走制御


車両制御技術研究部(ブレーキ制御) 副主任研究員 山崎 大生

 空気ブレーキシステムには,空圧特性の強い非線形性やブレーキ材の摩擦係数の変動がある.これまで,これらに対してロバストな制御理論に基づく滑走制御系の設計はなされていなかった.そこで非線形ロバスト制御理論により非線形性や摩擦変動に対して頑丈な滑走制御系を設計し,シミュレーションを用い従来の制御手法との性能比較を行い,優位性を検討したので報告する.



振子制御に関わる乗り心地評価法


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 白戸 宏明

 振子車両に関わる乗り心地評価指標の中に、緩和曲線乗り心地評価指標と列車酔い評価指標というものがある。これらの評価指標は、何れも走行中の列車内で被験者や一般旅客が乗り心地を評価した結果から得られたもので、車両床面上の加速度とロール運動から算出でき、振子制御に関わる定量的な乗り心地評価を可能にするものである。本発表では、この評価指標の概要と、実際の適用例について報告する。



次世代振子制御システムの開発


車両構造技術研究部(走り装置) 研究員 濱田 寿弘

 制御付き振子車両の性能と乗り心地の向上を図るため,GPS測位情報と軌道の曲率照合,車輪回転数累積の3方式の利点を組み合わせた地点検出,人間工学的な乗り心地評価指標を最良にする振子パターン,その振子パターンによる車体傾斜を実現する応答性の高い振子アクチュエータなど,すべての要素を刷新した次世代振子制御システムを開発した。本発表では,次世代振子制御システムの概要と性能評価について報告する。



効用図を利用した鉄道車両用台車の最適設計手法


車両構造技術研究部(車両運動) 副主任研究員 城取 岳夫

 鉄道車両用台車の諸元決定の際に、候補となるすべての設計案の乗心地と横圧を数値計算し、横軸に乗心地、縦軸に横圧をプロットした効用図を作成する設計支援試作システムについて述べる。設計者が、この図を参考にトレードオフを検討し、諸元を決定することができる。候補となるすべての設計案の数は膨大になるが、設計則に従い候補を絞り、並列計算を行うことで計算時間短縮を試みた。今回は、在来線用台車の適用例を紹介する。



側面衝突時の車体変形特性評価


車両構造技術研究部(車両強度) 副主任研究員 沖野 友洋

 車両の側面衝突では、車端隅部同士が衝撃するため衝撃力が集中的に作用し、被害が大きくなることが懸念される。そこで、標準的な軽量ステンレス鋼製車体構造を対象として、中間車の車端隅部の台枠・側構え・妻構えからなる部分車体構造を試作して衝撃試験を実施した。同時に、衝撃試験および実車相当の衝突条件で数値解析を実施した。この手法により、側面衝突時の車体変形特性を評価し、安全性向上策を検討した。




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