第189回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する研究開発

防災技術に関する研究開発


防災技術研究部 部長 藤井 俊茂

 ここ数年、過去に経験しなかった集中豪雨や強風、増加する上陸した台風の数、さらには地震などによって、日本の鉄道界では甚大な被害が発生しつつあり、この傾向が今後も続くことが懸念される。そこで、安全で安定した鉄道輸送に少しでも貢献できるように、鉄道総研が現在取り組んでいる、自然災害の発生防止と被害の軽減を目的とした研究開発の一端を紹介します。


数値情報を利用した災害危険斜面抽出法


防災技術研究部(地質) 主任研究員 太田 岳洋

 従来、自然災害の発生に関わる地形、地質、地下水条件、植生や人工改変等環境条件は、空中写真等により定性的に評価されてきた。今回、自然斜面の不安定性の定量的な評価方法について、数値標高データと衛星画像を用いて検討した。その結果、数値標高データから計算される地形の起伏に関する属性と、衛星画像から得られる植物の活性度に関する指標とを組合せることによって自然斜面の不安定性を評価・抽出する方法を開発した。



斜面崩壊規模の予測手法と崩土の衝撃力特性


防災技術研究部(地盤防災) 副主任研究員 布川 修

 鉄道沿線の斜面が崩壊し、崩壊した土砂が線路脇に施工された柵を破壊して線路内に流入する災害が発生することがある。このような災害に対して効果的な対策工を策定するためには、斜面の崩壊規模や崩壊した土砂が柵等に与える衝撃力等をあらかじめ予測しておくことが必要である。そこで、斜面崩壊データの解析と模型実験により、斜面の条件(高さ、勾配等)を与えることによって崩壊規模を予測する手法と、崩壊した土砂の衝撃力とを検討したのでそれらの結果を報告する。



河川増水時の橋脚振動特性


防災技術研究部(地盤防災) 主任研究員 佐溝 昌彦

 増水時における橋脚基礎の安定性を橋脚の振動性状の変化を捉えて評価する手法の開発を目的として、複数の実橋脚において橋脚の天端に設置した振動センサで微振動の長期計測を行った。今回、得られた微振動データから、低水時と増水時における橋脚の振動性状の違いを明らかにした。また、微振動データから橋脚の固有振動数を求める手法についても検討した。それらの結果を報告する。



石積壁の耐震補強工の開発


防災技術研究部(地盤防災) 研究室長 杉山 友康

 鉄道沿線に構築されている石積壁は、構造の実態や地震時における変形や倒壊に到るメカニズムが明確でないことから、耐震補強対策が行われていないのが現状である。そこで、地震時における石積壁の変形・倒壊メカニズムの解明と、新しく開発した補強工の効果の確認を目的として、模型の石積壁を使用した振動台実験を行った。ここでは、これらの実験結果と補強工を実施するときの施工方法と施工手順について報告する。



地震時の運転規制指標と鉄道被害との関係


防災技術研究部(地震防災) 研究員 岩田 直泰

 地震時の運転規制には従来から最大加速度値が用いられてきたが、近年、地震被害との相関がより高いと言われる地震動指標(計測震度やSI値)の採用が検討されつつある。この地震動指標値の検討に資するため、最大加速度と計測震度やSI値との関係を定量的に明らかにした。更に、近年の被害地震のデータをもとに、早期地震警報の被害範囲推定方法を修正し、修正した方法による被害範囲と地震動の大きさとの関係を定量的に明らかにした。



線路構造物形状に応じた効果的な防風対策工


環境工学研究部(空気力学) 主任研究員 種本 勝二

 近年の車両の軽量化や高速化は強風時の列車の転覆限界風速の低下に繋がるため、安全性の見地から、強風対策の見直し、強化が必要となりつつある。ここでは、強風時にも安定した輸送を提供するため、ハード対策としての防風柵に関して、車両に働く空気力の低減効果の風洞試験結果、防風柵の実施例を述べる。さらに、車両に対する防風効果を有し、かつ防風柵が取り付く構造物への風荷重を低減しうる新しい防風対策工について紹介する。



風速変動の統計的な特性の解明と運転規制への展開


防災技術研究部(気象防災) 研究室長 今井 俊昭

 強風規制区間を列車が通過し終わるまでの数分間に生じる風速が分かれば、列車の運行上有益であるが、風速を予測できないのが現状である。そこで、国内の数箇所における長期間の風速データを基に、風速変化量に関する特性を調べた。短時間に生じる風速変化量の実態を紹介するとともに、風速変化量の特性を強風時の運転規制へ展開する際の考え方について述べる。




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