第227回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する最近の研究開発

防災技術に関する最近の研究開発

防災技術研究部 部長 木谷日出男

鉄道沿線で発生する多様な形態の災害に対する危険度評価、対策工の設計、状態監視技術、運転規制基準の評価および警報システム等の研究開発は、鉄道の安全と安定輸送の根幹を担う技術項目である。ここでは、鉄道総研が取り組んでいる防災技術に関する研究開発成果の中から最近の話題を紹介するとともに、今後の展望について解説する。


増水時における橋脚の固有振動数の抽出方法と評価システム

防災技術研究部 地盤防災 主任研究員 佐溝昌彦

河川増水時には、洗掘によって橋脚基礎の安定性の低下が懸念されるため、列車の運行を抑止することがある。しかし、運行再開の可否を判断する際に基礎の安定性をより簡易かつ安全に確認する方法が求められている。そこで、増水時の振動から求まる固有振動数の変化から基礎の安定性を評価する手法の開発を進めてきた。本報告では、橋脚の微動から固有振動数を得る具体的な方法および遠隔地からでも制御可能にした健全性評価システムについて紹介する。


降雨時の斜面崩壊に対する時間的・場所的安定性評価手法

防災技術研究部 地盤防災 主任研究員 布川 修

降雨時の斜面崩壊は、降雨によって変化する斜面内部の地下水変動に大きく依存する。凹凸を持つ斜面の地形に対して、地下水高さは降雨状況によって時間的にも場所的にも変化することから、地下水変動を計算するモデルを作成した。さらに、力学的な安定計算を地下水変動と同時に計算することで、計算範囲とする斜面のうち最も安定性が低下する箇所を抽出することを可能とする安定性評価手法の開発を進めてきた。本報告では、計算モデルの概要と解析事例について述べる。


岩石の引張強度と風化程度に着目した落石危険度評価

防災技術研究部 地質 副主任研究員 長谷川淳

剥落型落石の発生危険度を評価するためには,岩石が岩盤斜面から剥離する際に形成される剥離面が有する強度を調査する手法が有効である.この剥離面にはせん断力,摩擦力,引張力が作用していると考えられるが,鉄道沿線での発生事例の多い数メートル程度の規模の岩石が岩盤斜面から剥離して発生する落石では引張力が卓越すると考えられる.そこで,岩石の引張強度と風化程度に着目した落石危険度評価を検討したので報告する.


不均質な砂質土地盤の地質調査法

防災技術研究部 地質 主任研究員 川越 健

砂質土地盤は一般にその地質構造や物性値のばらつきなどの点から不均質性が高く,そのことが建設時や供用後の構造物の安定性に影響する場合がある.そこで,物性値のばらつきが構造物に与える影響について透水係数を例にとりあげて検討し,その結果を踏まえて砂質土地盤の不均質性を地層区分と物性値のばらつきの観点から整理した.本発表ではこれらの成果と,その成果を踏まえて検討した地盤の調査法の考え方について概要を紹介する.


早期地震検知・警報のための新しい震源指標

防災技術研究部 地震防災 主任研究員 山本俊六

現在、緊急地震速報で配信される地震規模に関する情報はマグニチュードのみであり、利用者はこの情報を使用して揺れの強さを推定している。ところが、マグニチュードは本来地震動の長周期成分を表すのに適した指標であり、それ以外の周期帯域の揺れの推定に最適な指標ではない。そこで、震度や応答スペクトルを高精度に推定するための新しい震源指標を提案し、推定精度や速報性を検証したので報告する。


架線着霜の発生条件と予測手法の開発

防災技術研究部 気象防災 主任研究員 鎌田 慈

架線着霜対策の一つである霜取列車は、気象データをもとに経験的な運行判断が行われてきた。架線着霜の発生メカニズム等が解明されていないため、その効果を定量的に把握できていない。そこで、現地観測により架線着霜発生時の気象条件を整理し、室内実験を通して架線周囲の水蒸気濃度が過飽和となって霜が発生するというメカニズムを解明した。このようなメカニズムに基づいて、夕刻の気温、湿度と翌朝の予想天気、予想最低気温から霜の発生を精度よく予測する手法を考案したので紹介する。


気象情報を用いた雪崩警備時期の決定方法

防災技術研究部 気象防災 主任研究員 飯倉茂弘

鉄道沿線において雪崩危険斜面の抽出と雪崩警備時期を客観的な指標に基づいて判定することを目的として、雪崩警備方法の検討を行った。既往の研究事例を参考に、雪崩の発生に影響する要因の統計分析を行い作成したスコア表を用いた採点方式により危険斜面を抽出する方法を提案した。また、警備期間については、気温と降水量から積雪深および斜面積雪の安定度を推定し、これらを指標として警備が必要な期間を決める方法を提案した。本発表では、検討したこれらの方法を紹介する。



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