第228回 鉄道総研月例発表会:鉄道における動的システムの最適化に向けて

鉄道のダイナミクスに関する最近の研究

鉄道力学研究部 部長 石田 弘明

鉄道においては列車の走行に伴い、走行安全性、振動、騒音など、ダイナミクスに関する種々の問題が発生する。また、架線/パンタグラフ、車輪/レールなどの接触部では、摩耗・損傷といった鉄道固有の課題の解決が強く求められている。鉄道総研では、これら力学的な現象を把握するための実験・計測方法の開発、走行安全性向上、環境との調和、保守コスト低減のための設備改善手法の提案など、動的システムの最適化を目指した研究を進めている。本発表では、最近の研究開発の状況と今後の取り組みについて概説する。


模型走行実験によるスノープラウの排雪抵抗力評価方法

鉄道力学研究部 車両力学 研究員 中嶋 大智

スノープラウを新たに開発するにあたってプラウへの作用力、排雪性能等を検討するため、模型実験結果から実車スノープラウの排雪抵抗力を評価する方法を新たに考案した。提案手法では、相似則を用いることで模型縮尺に応じた速度換算を行い、従来の面積比から換算する手法に比べて高速域まで高い精度で計算することができる。縮尺の異なる模型プラウによる排雪実験を行い、提案手法の妥当性を検証したので報告する。


まくらぎから道床に伝わる動的荷重の測定技術

鉄道力学研究部 軌道力学 研究員 浦川 文寛

レールからまくらぎに伝わった列車の動的荷重は、まくらぎ下面において砕石層との接触点を介して道床に伝えられる。まくらぎと道床間の荷重伝達のしくみを解明するために、超薄型の動荷重センサをまくらぎ下面に多数敷き詰めた「センシングまくらぎ」を開発した。本発表では、「センシングまくらぎ」を使った測定方法と軌道での測定結果について紹介する。


軌道と床版をフローティング構造にしたサイレント鋼鉄道橋の開発

鉄道力学研究部 構造力学 研究員 渡辺 勉

鋼鉄道橋は、部材が薄板構造であるため振動しやすく、構造物騒音が大きくなる傾向を示す。そこで、本研究では、鋼鉄道橋の構造物騒音対策として、軌道と床版を防振材により弾性支持した新しい形式の低騒音鋼鉄道橋を開発した。本発表では、その構造の概要と、列車走行試験により得られた低減効果について紹介する。


可変剛性ばねを用いたパンタグラフ動特性制御による集電性能向上手法

鉄道力学研究部 集電力学 研究員 山下 義隆

パンタグラフと架線の間に作用する接触力変動の周波数成分のなかには、列車走行速度と架線金具の空間的出現周期によって決まる成分が含まれる。本発表では、この接触力変動成分を、パンタグラフのばね剛性を可変にすることによって低減する方法を紹介し、数値シミュレーション結果および模型実験結果を報告する。


車輪踏面と内軌頭頂面間の潤滑手法

材料技術研究部 摩擦材料 主任研究員 伴 巧

鉄道車両が急曲線を通過する際に車輪とレール間で発生する横圧は、レールの波状摩耗、車輪フランジの摩耗などを促進させる要因となる。これらを抑制するために、車輪踏面とレールの内軌頭頂面間に車上から摩擦緩和材を供給する装置(FRIMOS)を開発し、検証試験を実施してきた。本報告では、装置およびこれまで得られた試験結果を紹介するとともに、最近取り組んでいる地上側からの水系潤滑剤供給に関する研究状況をあわせて紹介する。


台車の改良による地震時の車両走行安全性向上

鉄道力学研究部 車両力学 研究室長 宮本 岳史

地震時における車両の走行安全性を高めることは、鉄道システムにおいては最重要課題の一つであり、その一環として、新幹線電車の一車両モデルを用いて各種検討を行っている。本発表では、左右動ダンパ、ストッパ、空気ばね等の台車諸元を変えることで、地震時の走行安全限界が向上することを示す。また、クラッシャブルストッパや高速度高減衰ダンパの採用など、地震時の走行安全性向上策とその効果の程度について、解析結果を報告する。


地震時車両走行安全性に関するフラジリティ曲線の算出

鉄道力学研究部 構造力学 主任研究員 曽我部 正道

地震対策の効果を検討するためには、精度の高い投資判断を可能とする鉄道全体のリスク評価システムの構築が必要不可欠となる。しかしながら、鉄道高架橋上における地震時車両走行安全性に関するフラジリティ曲線(地震動指標に対する被害発生確率)については、これまで十分な検討がなされておらず、その実態もよく分かっていない。このような背景から、本研究ではモデル線区に対して数値解析を行い、フラジリティ曲線の算出を試みたので紹介する。



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