第232回 鉄道総研月例発表会: 輸送情報技術に関する最近の研究開発

最近の輸送情報技術の研究開発

輸送情報技術研究部 部長 後藤 浩一

輸送情報技術に関する研究開発においては,鉄道事業の各種業務において情報通信技術を積極的に活用することにより,運営効率,利便性,安全性,サービス品質等の向上を図ることを目指して活動を進めている。本発表では,将来に向けた研究開発課題として実施してきた「動的デマンド推定に基づく輸送計画の効率化」,「鉄道における高速大容量情報通信技術の開発」,「設備管理業務へのセンシング技術・ITの適用」を含め,最近の研究開発の概要を紹介する。


設備保守効率化のための対話型データ計測・記録システム

輸送情報技術研究部 設備システム 副主任研究員 宮下 美貴

多くの設備保守検査では,検査データを現場で一旦野帳等に記録し,事務所で改めてシステムに入力している。本研究では,検測車等でカバーしきれない現場での手動計測作業の負荷軽減を図るため,キロ程管理と付加センサ等による計測エラーのチェック,過去のデータ・安全度判定利用による要注意箇所の検出等の機能を有する対話型データ計測・記録システムを開発し,その有効性を確認したので報告する。


貨物鉄道による物流費用低減及び環境負荷削減効果の計測手法

輸送情報技術研究部 交通計画 主任研究員 国権

我が国の陸上貨物輸送はトラック輸送が圧倒的に占めているが,鉄道輸送にモーダルシフトした場合,輸送費用の低減や二酸化炭素の排出削減といった効果があると考えられる。そこで,貨物鉄道の有効性を定量的に評価するため,本報告では,荷主の貨物輸送状況,貨物駅の地域影響範囲,地域と鉄道線区を結ぶ関係などの実態を分析し,貨物鉄道による陸上貨物輸送の物流費用低減(経済的効果)やCO2排出削減(社会的効果)などの効果を計測する手法を紹介する。


顧客満足度の観点による列車ダイヤの評価

輸送情報技術研究部 運転システム 主任研究員 平井 力

列車ダイヤに対する顧客満足度をより高めていくため,利用者の満足度を定量的に把握することが求められている。本研究では,アンケート調査結果から,満足度に関係する個別要因は9つに分類され,このうち,満足度に大きな影響を与える項目は,列車本数,正確さ,混雑度,速さであることを明らかにした。また,この結果に基づいて,列車ダイヤに対する満足度予測式を作成し,現行ダイヤと改正ダイヤ案のそれぞれに対する満足度予測値を試算し,作成した式について,利用者の不効用を表わす別の尺度との比較を行なったので報告する。


乗務員区所の最適配置アルゴリズム

輸送情報技術研究部 運転システム 研究員 加藤 怜

貨物列車は長距離にわたる運行や夜間の運行が多いため,乗務員区所の配置箇所により乗務員運用の効率は大きく左右される。これまで,運用計画作成担当者により特定区所を対象とした改廃の検討は行われてきたが,必要となる輸送量を最重要視した場合における区所配置箇所の全面的な見直し検討は,乗務員運用をすべて白紙状態から作り直す必要があるため作業量の面から困難であった。それに対して,数理最適化技術を用いて,最適な区所配置箇所の提案および各区所の乗務員行路案の作成を同時に行うアルゴリズムを開発したので,その概要を報告する。


乗務員運用が列車ダイヤの頑健性に及ぼす影響の研究

輸送情報技術研究部 運転システム 副主任研究員 浅見 雅之

乗務員運用計画,運用整理案の作成において,一つの乗務行路の中で列車間の乗継時間を短く設定した場合,前列車の遅延発生時に後列車も遅延することに繋がる。本研究では,そのような事態の発生を抑えるため,休憩・待機時間の付与という点に着目し,乗務員の要員数・勤務(拘束)時間を一定とする条件の下で,ダイヤの頑健性および乗務効率性を向上させる運用作成手法を考案し,実線区のダイヤに適用した結果,実際の就業規則等の制約条件に沿った解が得られることを確認したので,その内容を報告する。


輸送障害に遭遇した旅客の経済損失評価法

輸送情報技術研究部 交通計画 室長 武藤 雅威

人身事故などで輸送障害が発生すると,乗車中,もしくは乗車予定の旅客に対して,時間や費用の損失を与える。本研究では,この時に旅客が経路迂回するか,運転再開まで待つかの選択行動を迂回運賃の概念を加えてモデル化し,詳細な迂回経路選択動向を把握した。また,モデルの時間と運賃のパラメータ比を用いて輸送障害時の時間評価値(円/分)を算出し,その時間評価値と,全旅客が待たされた総影響時間との積で算出される総損失額で示す経済損失評価指標を提案したので報告する。


ダイヤ乱れ時における予測情報提供試験

輸送情報技術研究部 旅客システム 主任研究員 深澤 紀子

ダイヤ乱れ時において旅客が行動選択をするための,判断材料となる情報の提供が望まれている。これらダイヤ乱れ時の情報提供では,到着予想時刻など予測を含む不確実な内容を含まざるをえず,その適切な提供方法の検討のため,被験者試験を実施した。本報告では,日常的に起こりうる小規模な乱れ発生時を仮定し,情報の提供手法に関する評価ならびにその情報を受けての被験者の列車選択行動について,試験結果を報告する。



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