第234回 鉄道総研月例発表会: 人間科学に関する最近の研究開発

人間科学分野における最近の研究開発

人間科学研究部 部長 鈴木 浩明

鉄道をさらに安全で快適な交通手段としていくためのヒューマンファクタ研究の最近の取組み事例を紹介する。主なトピックは、鉄道従業員のヒューマンエラーが関与する事故の防止、列車の乗り心地評価法、旅客への情報提供技法、ヒューマンシミュレーション技術の活用などである。


運転士の異常時対応能力向上プログラムの開発

人間科学研究部 安全心理 研究室長 井上 貴文

事故発生時、その原因が運転士に把握できない場合や、運転士自身に起因する事故の場合など、運転士は不安やショックから、普段できるはずの通常の事故措置ができなくなることがある。また、所定の運転に戻した場合でも安心して2次的なエラーを起こすこともある。そのような異常時の体験ができるよう、列車運転シミュレータ上で課題を作成し、シミュレータ運転中の行動や心理状況の変化を「見える化」してフィードバックする異常時対応能力向上のための教育・訓練プログラムを開発した。本発表ではプログラムの内容および利用法を紹介する。


指差喚呼によるエラー防止効果の体感ソフトウェアの開発

人間科学研究部 安全心理 主任研究員 重森 雅嘉

日常業務の中で指差喚呼のエラー防止効果を体感することは難しく、指差喚呼が形骸化してしまうこともある。このような形骸化を防ぎ、指差喚呼の正しい実施を促すために、指差喚呼を伴った場合と伴わない場合の課題成績をフィードバックすることにより、指差喚呼のエラー防止効果を体感できるソフトウェアを開発している。今回は、指差喚呼の5つのエラー防止効果の検証研究とこの結果を基に作成したソフトウェアの内容を紹介する。


輸送障害時の旅客向け案内放送の改善

人間科学研究部 人間工学 副主任研究員 山内 香奈

人間科学研究部 人間工学 副主任研究員  山内 香奈 輸送障害に遭遇して間もない利用者を対象にアンケート調査を行った結果、「運転再開見込みの案内」が優先改善事項であることがわかった。そこで、見込み情報の“正確さ”と“提供タイミング”に関して利用者を対象とした室内実験を実施した。その結果、正確さに欠ける情報であっても提供タイミングを早めることや、事前に見込み情報の性質と事業者の提供方針を利用者に伝えておくことが利用者評価を高めることなどを明らかにしたので、一連の研究成果について紹介する。


設備情報と交通流シミュレーションを用いた踏切の安全性評価手法

人間科学研究部 安全性解析 主任研究員 松本 真吾

踏切の安全性評価では、従来から踏切の設備台帳等の情報に基づき安全性を評価してきた。しかし支障多発踏切への現地調査により、踏切前後の交通流動を考慮する必要性が判明した。そこで踏切下流の交差点による先詰まりや踏切直近での右折による滞留等を考慮し、踏切支障率を定量化する交通流シミュレーションシステムを開発し、安全性評価精度を向上した。そこで踏切安全性評価手法とシミュレーションシステムについて紹介する。


保線作業におけるヒューマンエラーのリスク評価手法

人間科学研究部 安全性解析 副主任研究員 羽山 和紀

事故の発生には複数のヒューマンエラーが発生し、その防止にはエラーに影響する複数の要因の検討が必要である。そこで、現状の作業や職場管理の改善点を的確に洗い出すための手法として、保線作業を対象としてヒューマンエラーを防止するためのリスク評価手法および管理方法の開発研究に取り組んできた。ここでは、インシデント等の事例分析データから抽出したエラーパターンや背景要因を用いた評価手法とその結果例を紹介する。


運転室の体格適合性の改善

人間科学研究部 人間工学 主任研究員 斉藤 綾乃

男性乗務員の体格向上や女性乗務員の増加により、運転室が対応すべき体格差は大きなものとなっている。そこで、幅広い体格の乗務員を対象とした現状の満足度把握調査を行い、その結果得られた体格不適合を改善するための検討を実施した。ここでは、アンケート調査結果およびそれを基にした改善案の検討事例を紹介する。


長時間乗車における鉄道車両用腰掛の快適性

人間科学研究部 人間工学 主任研究員 白戸 宏明

鉄道車両用腰掛の快適性評価は人間の主観評価により実施されているが、その評価は実際の乗車時間に比較して短時間で実施されている。しかし、優等車両では長時間乗車する旅客が多く、時間経過による腰掛の快適性評価の必要性がある。そこで車内快適性シミュレータおよび試験列車における長時間乗車試験を実施したので、試験結果およびそれから得られた快適性評価の変化の要因について報告する。



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