第242回 鉄道総研月例発表会:鉄道のダイナミクスに関する最近の研究開発

鉄道のダイナミクスに関する最近の研究開発

鉄道力学研究部 部長 石田弘明

鉄道は電車線、車両、軌道、構造物など多くの設備から成り立つシステムである。そこでは、列車走行や地震等の外乱により、走行安全性・信頼性に関わる課題が発生し、システムの劣化・損傷が進む。本発表では、これら鉄道のダイナミクスに関する課題の解決に向け、鉄道総研が取り組んでいる実験・計測手法の開発、現象の解明と評価・予測手法の研究、動的性能の改善手法の研究開発について概説する。


アクティブ制御によるパンタグラフの接触力変動低減手法

集電力学 副主任研究員 山下 義隆

鉄道車両のパンタグラフが架線と良好な機械的接触を維持するためには、両者の間に作用する接触力変動を極力小さくすることが必要である。その一手法として、パンタグラフに空気圧アクチュエータを実装し、パンタグラフと架線との間に作用する接触力変動を低減するためのアクティブ制御手法に関する研究を実施している。本発表では、この制御手法の概要と、定置試験結果による制御効果を紹介する。


画像処理技術を活用したパンタグラフ接触力測定手法

集電力学 研究員 中村 幸太郎

パンタグラフの接触力測定は、舟体という限られた空間の中に測定用のセンサを組み込む必要があるが、種々な制約によりセンサを組み込むことが難しい場合がある。そこで、本研究では画像処理技術を活用して組み込むべきセンサを減らす、あるいはセンサを組み込む必要のない接触力測定方法を提案した。そして、実機パンタグラフを用いた加振試験により、提案した手法による接触力測定精度を検証し、画像処理技術を用いた接触力測定が可能なことを明らかにしたのでその内容について紹介する。


大変位する車両2次サスペンションの性能試験

車両力学 副主任研究員 飯田 浩平

これまで地震時の車両挙動をシミュレーションや実台車加振実験を用いて調査してきた。振動性能を決定づける車両諸元は、通常走行の範囲内で性能を決定しているが、著大地震時に2次サスペンションは、この範囲を超え大きく変位する。そこで、大型振動台上で地震時の2次サスペンションの動きを再現し、そのときの空気ばねやダンパの性能を測定するための試験機を開発した。この試験機を紹介し、実験によって得られた大変位時の2次サスペンションの性能を報告する。


車両用地震時脱線防止対策左右動ダンパの開発

車両力学 副主任研究員 鈴木 貢

通常走行に悪影響を及ぼさない方法で台車の構成要素を改良することにより、鉄道車両の地震時走行安全性を向上することのできる地震対策部品を開発した。車両に大きな変更を求めることなく、低コストに地震時走行安全性を向上することができる地震対策左右動ダンパを提案・試作した。試作した地震対策左右動ダンパを大型振動台上での実台車加振実験に供し、輪重ゼロとなる加振振幅を求める実験と、実験結果に基づいたシミュレーション解析により地震時走行安全性向上効果を確認したので報告する。


レール横裂進展予測モデルの開発と適切なレール探傷周期の決定手法

軌道力学 研究員 辻江 正裕

レールの安全性を評価する上で、レール折損を引き起こす恐れのある横裂の進展を精度良く解析することは重要である。これまでのき裂進展解析手法は、き裂が進展する度にメッシュを再分割して解析を行う必要があり、またき裂面の形状にも制約があるため、解析手順や精度に多くの課題がある。そこで本研究では、従来手法における問題点を回避する、メッシュフリー法による解析手法を提案した。そして提案手法による3次元弾性解析モデルの開発ならびに横裂の進展解析を行い、解析結果をもとに探傷周期の検討を行ったので、それらについて報告する


道床の振動低減に効果的なまくらぎ構造の提案

軌道力学 研究員 浦川 文寛

バラスト軌道の塑性沈下は、列車通過によって生じる動的な荷重と振動がまくらぎを介して道床に伝わることで促進される。本研究では、道床への荷重と振動の伝播特性を把握するため、PCまくらぎの実験モーダル解析と、営業線での動的応答測定を行った。さらに、実験・測定で得られた知見を基に、有限要素法解析により道床の振動低減に効果的なまくらぎ構造の検討を行った。本発表では、これらの実験、測定および検討の結果を紹介する。


岩盤斜面評価用非接触振動計測システムの提案

構造力学 主任研究員 上半 文昭

鉄道沿線の岩盤や浮石の安定性評価は地表踏査による目視観察で行われてきたが、近年、非破壊検査手法の適用が試みられるようになった。中でも地震計を設置して岩塊の振動特性を調べる手法が定量的な安定性評価手法として期待されているが、危険な急崖斜面上での作業量が多い点が課題である。そこで、同手法の効率化、安全化を目的として、レーザを用いた遠隔非接触振動計測技術の適用を検討し、岩盤斜面計測システムのプロトタイプを開発したので報告する。



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