第261回 鉄道総研月例発表会:構造物の耐震に関する最近の研究開発

構造物の耐震に関する最近の研究開発

構造物技術研究部 部長 舘山 勝

 橋梁や高架橋、盛土や土留め壁、トンネル、建築上家といった鉄道構造物に関する耐震性能評価技術、耐震対策技術について、各種の研究開発を行ってきた。ここでは、今回の東北地方太平洋沖地震のような巨大地震への対応を含め、最近の耐震に関する研究開発について紹介するとともに、今後の動向について展望する。


鉄道路線の地震時安全性の簡易評価法の提案と適用例

構造物技術研究部 耐震構造研究室 室長 室野 剛隆

 近年,我が国は地震活動期に入ったとされ、今後想定される地震に対して鉄道の安全性をいかに確保するかが極めて重要な課題となっている。そこで、断層から想定される地震を距離減衰式等を用いることで簡易に予測するとともに、その地震に対する構造物群および走行車両の安全性について地表面加速度、地震動の卓越周期、構造物の降伏震度、構造物の周期の4つパラメータのみを用いて、線区全体でマクロに評価するための手法を紹介する。


耐震補強されたRC柱の変形性能評価法と高架橋への適用例

構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 主任研究員 岡本 大

 これまでの耐震補強効果の検討は、じん性率を用いて柱単体を対象として評価しており、構造物全体の性能評価を行うことはできなかった。そこで、代表的な耐震補強工法について、補強部材の変形性能を、曲げモーメントと部材角の関係により定量的に評価する方法を提案し、構造物全体の性能評価を可能とした。ここでは、補強部材の変形性能評価法を紹介するとともに、駅部の多層ラーメン高架橋を対象に補強が必要な部材を抽出し、効果的かつ経済的な耐震補強を検討した例について紹介する。


アーチ型鋼材を用いたラーメン高架橋の梁補強工法の開発

構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 主任研究員 田所 敏弥

 都市部のラーメン高架橋においては,建設から多くの歳月が経過しているため,耐久性や耐震性の観点から梁補強が必要となる場合がある。そこで,ラーメン高架橋の梁を対象にアーチ型鋼材を用いた効果的な補強工法を開発した。本開発では,補強した梁を模擬した試験体による載荷試験を行い,曲げおよびせん断力に対する補強効果を検討し,補強設計法を提案した。また,実大の梁を補強した試験体による載荷試験を行い,所定の補強効果を有することを確認した。さらに,本工法の設計,施工に関する指針を作成したので,その内容について紹介する。


ピボット支承を有する旧式鋼橋の耐震評価法と簡易補強法

構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 主任研究員 池田 学

 ピボット支承(鋼製の凹凸球面を組合せた支承)を有する旧式鋼橋は、都市内の幹線道路や鉄道と交差する箇所に多く用いられ、大規模地震時の安全性確保は重要である。そこで、地震時の評価法が不明であったピボット支承に着目し、撤去品を用いて交番載荷試験を行い、耐力・変形性能の評価法を提案した。また、桁の斜角をパラメータにした地震応答解析を行い、その地震時挙動への影響を明らかにした。さらに、簡易補強法を提案し、その効果を地震応答解析で明らかにしたので、その内容について紹介する。


補強盛土一体橋梁による構造物境界の耐震性の向上

構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 主任研究員 小島 謙一

 補強盛土一体橋梁は、支承部がなく桁と橋台が一体化したインテグラル橋梁と補強土橋台を複合させた新しい構造形式であり、従来のインテグラル橋梁の弱点であった橋台と背面盛土境界部を補強土構造とすることにより、構造物境界の耐震性が飛躍的に向上している。ここでは、動態計測や実物大載荷試験等により、本構造形式の特性を明確にしたのでその内容について紹介する。


構造変更による鋼桁・橋台形式の既設橋梁の耐震補強技術

構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 室長 神田 政幸

 橋台は盛土端部に位置する抗土圧構造物でありながら、他方は橋梁・高架橋群に連なる構造境界部に位置する構造物である。従来の橋台部は、背面盛土から常に土圧を受け、地震時には橋台の傾斜や背面盛土の沈下が生じる弱点箇所となっていた。ここでは、鋼桁・橋台・盛土の一体構造化による補強方法を提案し、実物大試験橋梁を用いた施工実験のほか、起振器試験や地震規模を想定した正負交番水平載荷試験により耐震補強効果を検討したのでこれを紹介する。


既設山岳トンネルの地震対策工の効果とその選定手法

構造物技術研究部 トンネル研究室 主任研究員 野城 一栄

 山岳トンネルは一般に地震に強い構造物といえるが、軟弱な地質や強い地震動、弱い構造など条件が重なった場合は地震により被害を受けることがある。既設山岳トンネルの地震対策としては、裏込注入、ロックボルト補強(アーチ、路盤)、内面補強、インバートなどがあるが、これらの対策についてはこれまで経験的に選定・設計がなされてきた。本研究では、模型実験と数値解析により、これらの対策工の効果について定量的評価を実施し、対策目的別の対策工選定手法を示した。ここでは,既設山岳トンネルの地震対策工の効果とその選定手法について報告する。


線路上空建築物の方杖型制振ダンパによる耐震補強効果

構造物技術研究部 建築研究室 主任研究員 山田 聖治

 線路上空建築物は耐震壁等の耐震要素の配置が困難な一方、十分な耐震性を持たせる必要があるため、有用な耐震補強法を整備しておくことが重要となる。そこで、列車運行や旅客流動に支障しない線路階の隅角部に、方杖型制振ダンパを設置する耐震補強についてその効果を検討した。具体的には、大型振動台を用いた動的加振実験と実構造物を想定した解析的検討を実施し、応答性状の把握やARXモデルによる動特性の変動(付加減衰量)の評価を行った。ここでは以上の検討から得られた知見について報告する。


橋梁−電車線柱連成系の地震応答特性の解明と評価方法

構造物技術研究部 耐震構造研究室 研究員 坂井 公俊

 橋梁−電車線柱連成系の動的相互作用を明らかにするための検討を行った。その結果、構造物が塑性化する前の弾性状態の周期と電柱が共振して大きな応答を示す可能性があることや、橋梁のロッキング変形が電車線柱の応答を増大させる可能性があること、を明らかにした。さらに動的相互作用の影響を考慮した電車線柱の簡便な耐震評価法を提案するとともに、過去の地震被害に対して提案手法を用いることで、手法の妥当性を検証したので報告する。




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