第276回 鉄道総研月例発表会:浮上式鉄道とその技術の応用に関する最近の研究開発

浮上式鉄道とその技術の応用に関する最近の研究開発

浮上式鉄道技術研究部 部長 長嶋 賢

 浮上式鉄道の研究開発としては将来を見据え、次世代高温超電導材料の超電導磁石への適用や地上コイルの保守に関する研究を行っている。また、超電導技術やリニアモータ技術を在来方式鉄道へ応用するものとして、フライホイール装置や磁気冷凍、非接触給電、車内低周波磁界評価の研究開発を実施しており、これらの開発状況について紹介する。


希土類系高温超電導線材を用いた小型5テスラ超電導磁石の開発

浮上式鉄道技術研究部 低温システム研究室 研究員 水野 克俊

従来のニオブチタン線を超電導磁石に用いるには極低温まで冷却する必要があり、超電導磁石の小型化や冷却装置の消費電力低減の妨げとなっていた。高温、高磁場環境での通電特性に優れる次世代希土類系高温超電導線材を磁気浮上式鉄道に適用できれば、超電導磁石の冷却系およびその電源系を大幅に小型軽量化できる。ここでは、希土類系高温超電導線材の浮上式鉄道への適用可能性を実証すべく、実機と同等の磁場を発生する小型5T超電導磁石を製作したので報告する。


電磁波検出による推進系地上コイルの新たな絶縁診断手法

浮上式鉄道技術研究部 山梨実験センター所長 鈴木 正夫

浮上式鉄道用地上コイルは、長期間の屋外使用に加え、膨大な数が必要となるため、高い信頼性が要求される。さらに推進系コイルでは、特別高圧機器としての絶縁安定性が重要となる。ところが、リニアモータの構成要素である当該コイルへは、車両走行に伴うモータとしての負荷が存在しないと変電所から所定の加圧ができず、現地での絶縁診断が困難な状況となっている。ここでは、地上コイルを在姿状態で効率的に評価可能な新たな絶縁診断手法について開発状況を紹介する。


自己給電機能を持つ浮上式鉄道用異状検知センサの開発

浮上式鉄道技術研究部 低温システム研究室 主任研究員 田中 実

浮上式鉄道の高速走行時の安全を確保する上では、地上コイルなどの沿線設備の状態監視が重要である。しかし、多くのセンサを沿線に設置する場合、電源線や信号線の配線が必要となり、これらの配線が省略できればコスト低減や信頼性向上となる。そこで、浮上式鉄道特有の磁場環境を利用して、列車がセクションと呼ばれる区間を通過する短時間に自己給電を行い、振動加速度と温度を自律して監視し、データを無線送信できる異状検知センサを開発したので紹介する。


非接触給電システムの鉄道車両への適用

浮上式鉄道技術研究部 電磁システム研究室 主任研究員 柏木 隆行

ハイブリッド気動車やバッテリートレインなど蓄エネルギ媒体を持つ車両が実用化されつつある。蓄エネルギ媒体が車両重量に占める割合は大きいが、多頻度の充電を行う事で搭載量の削減が図れる。また、これらの車両に非接触給電を適用することで、容易かつ安全に多頻度の充電を行うことが可能になる。一方で、非接触給電は接触給電に比較し、損失が大きいという課題があり、この低減が必須となる。ここでは、非接触給電を鉄道に適用する際に損失低減を図る構成について紹介する。


鉄道車両の低周波磁界の評価方法

浮上式鉄道技術研究部 電磁システム研究室 主任研究員 加藤 佳仁

近年、国内外で低周波磁界に関する規制・規格化が進められている。鉄道総研では、超電導磁石から発生する磁界についてこれまでに測定手法や磁気シールド等のノウハウを蓄積してきた。そこで、このような技術を応用して、在来方式鉄道車両における低周波磁界の推定法、評価法を検討した。ここでは、国内外の低周波磁界に関する動向を解説するとともに、磁気シールドや車両構体構造を考慮して構築した鉄道車両磁界の解析モデル、国際ガイドラインに基づいた評価方法等について紹介する。


フライホイール蓄電装置用超電導磁気軸受の開発

浮上式鉄道技術研究部 低温システム研究室 副主任研究員 荒井 有気

近年、回生電力の有効利用などのために、電力貯蔵装置が適用され始めている。鉄道総研では、長寿命・省メンテナンス・低損失が期待される、超電導フライホイール(FW)蓄電装置を開発している。低温容器の中に配置された、超電導コイルと超電導バルク体の間の電磁力で非接触浮上支持させる構造を提案し、小型の高温超電導磁気軸受によるFWの完全非接触浮上・回転を確認した。また、電鉄向けに必要と試算された20kNの電磁力を発生させる高温超電導磁気軸受を製作し、この発生電磁力下での完全非接触浮上・回転を確認したので報告する。


鉄道車両内空調用磁気冷凍機の開発

浮上式鉄道技術研究部 低温システム研究室 副主任研究員 宮崎 佳樹

鉄道車両内空調の省エネルギの観点から、現行の蒸気圧縮式冷凍に代わり得る方法として、磁気熱量効果を用いた冷凍技術の開発を進めている。磁気冷凍において、圧縮膨張冷凍サイクルにおける「作動ガス」の役割を担うのは、「磁気作業物質」と呼ばれる磁性体である。この磁気作業物質として、これまで室温領域の磁気冷凍の評価に多く用いられてきたガドリニウムと、新たに注目されはじめたランタン−鉄系材料での検討を行ったので紹介する。




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