第281回月例発表会 鉄道の地震工学分野における最近の研究開発

鉄道地震工学研究センターの活動と役割

鉄道地震工学研究センター センター長  室野 剛隆

巨大地震では震災リスクが、広範化かつ複雑化する傾向がある。このような課題に対処し、より安全・安心な鉄道を実現するために、鉄道地震工学研究センターを発足させた。センターでは、地震発生から構造物・電柱・走行安全性まで幅広い分野に関する研究リソースを『集約』して研究開発を行うとともに、わが国唯一の鉄道地震工学の『拠点』を目指して、鉄道地震アーカイブスの整備や人材育成、地震発生時の復旧技術支援などを行うこととしたので紹介する。


直下地震を対象とした地震早期検知に関する基礎的検討

鉄道地震工学研究センター 地震解析研究室 研究員 宮腰 寛之

地中地震計のP波しきい値超過による警報出力手法を提案した。地中と地表の地震動の関係を最大振幅で評価し、早期地震警報として利用可能な精度で、地中P波から地表S波を予測できることを示した。また、地中地震計による警報の有効範囲は約20kmであり、首都圏を対象とした場合、現在の地中地震計の設置箇所で問題ないことを明らかにした。本手法と現行手法(P波検知、B−Δ法等)を併用することで、直下地震に対して、より早く確実な警報出力が可能であることを、実データを用いて確認したので報告する。


本震後の余震発生に伴う地盤の再液状化挙動の評価 

鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室 研究員 上田 恭平

2011年東北地方太平洋沖地震では、本震時に液状化が発生し、さらに本震の約30分後に発生した余震により再液状化が生じて被害が拡大した。そこで、地盤中の過剰間隙水圧の上昇と消散を同時に考慮できる地盤解析法を開発し、本震後の余震発生に伴う地盤の再液状化挙動について検討した。その結果、本震後に0.5程度の過剰間隙水圧比が残っている状態で余震が作用した場合には、規模の小さい余震でも再液状化が発生する可能性が高いことを確認した。本報告では,これらの解析結果について紹介する。


負剛性摩擦ダンパーの開発とハイブリッド実験による制震性能の検証

鉄道地震工学研究センター  地震応答制御研究室 主任研究員 豊岡 亮洋

平成24 年に改訂された「鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震標準)」では、設計想定以上の地震に対して構造物等が破滅的な状況に陥らない設計を行う「危機耐性」の考え方が導入され、この危機耐性を確保する方法の一つとして制震構造が推奨されている。本報告では、地震時の構造被害に関係する絶対応答を低減可能な負剛性制震を対象に、従来構造よりも容易に実構造に適用可能な負剛性摩擦ダンパーを開発するとともに、数値計算と載荷を連動したハイブリッド実験により制震効果を検証した結果を紹介する。


構造物の耐震に関する最近の研究開発     

構造物技術研究部 部長 谷村 幸裕

鉄道総研ではこれまで、橋梁、高架橋、盛土、トンネルなどの鉄道構造物に関する耐震性能評価技術、耐震対策技術について様々な研究開発を実施してきた。1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震,2011年東北地方太平洋沖地震などの被害を踏まえ、将来の発生が想定されている南海トラフや首都圏直下などの巨大地震への対策として取り組んでいる最近の耐震に関する研究開発について紹介するとともに、今後の動向について展望する。


CFT部材の曲げ耐力・変形性能の評価と補修技術の開発

構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 副主任研究員 斎藤 雅充

コンクリート充填鋼管(CFT)部材は、部材寸法や施工上の制約下でも適用可能な一方、耐震設計に用いる非線形モデルの適用範囲や、損傷した部材の補修方法が課題となっている。本研究では、CFT部材の載荷試験より、適用範囲拡大が可能となる曲げ耐力・変形性能算定法などのモデル化手法を提案した。損傷部材の補修方法としては、鋼管の局部座屈を抑える手法を提案し、十分な変形性能を有することを載荷試験により確認した。本発表では、これらのモデル化手法、補修方法について紹介する。


既設土留め擁壁の耐震補強法の開発 

構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 副主任研究員 中島 進

もたれ壁,石積み壁などの古い形式の土留め擁壁は,大規模地震時に崩壊の可能性がある。本発表では,振動台実験により基礎・壁体が不安定化して転倒破壊するもたれ壁と,積み石の抜け出しから構造崩壊に至る石積み壁の地震時破壊メカニズムを詳述する。また,得られた破壊メカニズムを考慮して,提案した崩壊防止ネットと地山補強材を併用した耐震補強工法の効果を把握した上で,提案工法の補強設計法を紹介する。


既設斜角橋台の耐震診断法の開発 

構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 主任研究員 西岡 英俊

斜角を有する橋梁は,地震時に桁が鈍角側から鋭角側に向かう方向に回転し,支承を破壊して落橋に至る被災事例が報告されている。本発表では,1/20スケール模型を用いた水平2次元加振実験結果から,斜角橋台では,橋台自体が壁前面方向(すなわち橋軸方向とは傾いた方向)に変位することで,その上に載る桁を鋭角側にさらに大きく回転させるという破壊メカニズムを明らかとした上で,耐震診断の際にその影響が無視できなくなる条件を簡易に診断する手法を紹介する。



第281回月例発表会のページに戻る

HOME RTRI ホームページ
Copyright(c) 2014 Railway Technical Research Institute