第287回月例発表会 軌道技術に関する最近の研究開発

軌道状態のモニタリングに関する最近の研究開発

軌道技術研究部 部長 古川 敦

軌道は列車の繰り返し走行や日照、降雨等によって状態が変化していくため、定期的なモニタリングが不可欠である。軌道状態を把握する代表的な装置として軌道検測車があるが、近年では検査の効率化・高品質化を目指して新しい装置・システムが開発されている。本発表では、このうち軌道変位やレール凹凸等の軌道形状および分岐器状態のモニタリングに関する鉄道総研の最近の研究開発、および海外の動向を報告する。


塑性域を考慮したレール締結ばねの疲労耐久性の評価

軌道技術研究部 軌道構造研究室 副主任研究員 玉川 新悟

近年、国内で線ばね形レール締結装置が普及している。線ばねには、使用時に塑性変形するものがあり、弾性域での適用を前提とした従来の手法ではその疲労耐久性を十分に評価できない。そこで、塑性域で使用する線ばねの疲労耐久性の評価手法を構築することを目的として、塑性変形する線ばねに適用可能な耐久限度線図を提案し、塑性域での疲労試験結果と比較することでその妥当性を確認した。また、一例として提案した限度線を用いた疲労耐久性の評価を行った。本発表では、これらの検討結果について報告する。


細粒土混入率が高いバラスト軌道における補修方法の開発

軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 副主任研究員 中村 貴久

長期間にわたって道床交換が行われていないバラスト軌道は、細粒土混入率が高く、タイタンパ等でのつき固め補修ではすぐに軌道沈下が再発してしまい、補修効果が持続しない。そこで、バラストの細粒土混入率が高い箇所において、道床交換を行わずに補修効果の持続が期待できる補修方法として,生分解性ポリマーを用いたポリマー安定処理工法を開発した。本報告では、実物大模型試験および現地試験施工により、本工法の補修効果について検討したので紹介する。


既設線における軌道スラブ水平変位拘束装置の開発

軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 研究員 薮中 嘉彦

スラブ軌道の突起コンクリート(以下、突起とする)は、軌道スラブの水平変位を拘束する部材である。経年等により劣化・損傷した突起に対して、営業線の保守間合で抜本的な補修・補強を行うことは困難である。そこで、営業線においても簡易に敷設が可能で、かつ既設の突起と同等の機能を有する軌道スラブ水平変位拘束装置を開発し、線区によって異なる軌道スラブの敷設状況に対応した取付方法を提案したので紹介する。


テルミット溶接部の表面きず発生原因とその防止策

軌道技術研究部 レール溶接研究室 主任研究員 寺下 善弘

近年、営業線で折損に至る溶接部の数は1万口当り0.5件程度と信頼性が高くなったテルミット溶接法であるが、内部欠陥よりも表面きずで不良判定される事象が多く報告されている。特に新品レールと腐食や摩耗のある経年レールとの溶接施工時に、表面きず発生事例が散見され、再溶接を余儀なくされている。ここでは、表面きずの発生原因を解明し、防止策を提案するために実施した試験の結果について報告する。


固有振動によるレール軸力測定手法

鉄道力学研究部 軌道力学研究室 副主任研究員 浦川 文寛

ロングレールに作用する軸力は夏季の張り出し、冬季のレール破断に繋がる可能性があるため、適切に管理しなければならないが、軸力の測定は難しく、レールの温度と伸縮量により間接的に管理しているのが現状である。これまでにロングレールの軸力を定量的かつ簡易に測定する手法として、固有振動による測定法が検討されてきたが、十分な測定精度が得られていない。本研究では、固有振動による軸力測定精度の向上のため、軌道の有限要素解析により測定精度に影響する因子を抽出し、誤差の補正方法を検討した。また、実軌道にて本手法による軸力測定を実施し、その有効性を検証したので紹介する。


高頻度軌道検測データの軌道変位管理への活用方法

軌道技術研究部 軌道管理研究室 研究員 佐野 弘典

従来より、JR等では軌道変位等の検測には専用車両が用いられているが、近年では営業車両に軌道検測装置を搭載した高頻度検測が可能となり、今後は更に普及していくことが予想される。このような高頻度検測の実現により、軌道や構造物等の状態評価の精度向上や予兆管理によるリスク低減が期待できるが、膨大なデータを処理する必要があるため、その方法や活用法の確立が課題である。そこで、実際に得られた高頻度検測データを分析し、その適切な処理・活用方法を検討した結果について報告する。


複数台の保守用車の効率的な運用を考慮した軌道保守計画モデル

軌道技術研究部 軌道管理研究室 室長 三和 雅史

これまでに、軌道変位やレール凹凸の推移を予測し、マルタイ(MTT),レール削正車の運用を考慮した保守計画の作成モデルを構築した。しかしながら、本モデルでは1台のMTT等の運用を考慮して保守計画を作成する場合を想定しており、複数台のMTT等を複数保線区で共用し広域に運用するような場合には適用できなかった。そこで、複数台のMTT等の運用を考慮した保守計画モデルを構築し、また本モデルを発展させて、道床交換用の保守用車の運用計画モデルも構築した。本発表では、モデルの概要と試算による検証結果を報告する。



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