災害ハザードマッピングシステムの開発

1.はじめに

 鉄道沿線で発生する可能性がある自然災害に関する様々な情報を一元的に表示し,可視化することができれば,自然災害に対する線区の特徴を把握し,弱点箇所を容易に抽出できるようになるので,より効率的な防災対策の策定に役立つと考えられます.そこで,土砂災害,強風災害,雪崩災害,落石災害を対象として,災害の素因(地形,植生など),外力(降雨,風速など)の大きさ,災害の発生しやすさを評価し,これらの情報を一元的に表示できる災害ハザードマッピングシステムを開発しました.

2.災害ハザードマッピングシステムにおける情報処理の流れ

 開発した災害ハザードマッピングシステムにおける情報処理の流れを図1に示します.まず数値標高モデル(Digital Elevation Model; DEM)を準備します.これは,対象エリアを等間隔の格子に区切り,各格子の標高データを保存したデータです.航空レーザ測量を実施して作成したり,国土地理院が公開している基盤地図情報から入手したりすることができます.次に,降水量や風速等の外力を,局地気象シミュレーション1)やアメダス等での観測データから評価します.そのうえで,これらの外力を入力として,各災害に関する耐力・危険度評価を実施します.ここで,災害発生に関する地形的な素因,たとえば斜面の傾斜等を数値標高モデルを用いて計算し,耐力・危険度評価において考慮することもできます.最後に,これらの評価結果を地理情報システム(Geographical Information System; GIS)上にハザードマップとして一元的に表示します.

  • 図1 災害ハザードマッピングシステムにおける情報処理の流れ
    図1 災害ハザードマッピングシステムにおける情報処理の流れ

3.危険度評価手法の概要とハザードマップの表示イメージ

 図2にハザードマップの表示例を示します.地形や概略の線路平面図の上に,危険度などの評価結果を重ねて表示することができます.各災害の評価方法の概要は以下の通りです.

 土砂災害について,斜面表層の崩壊のしやすさを次の2手法で評価できます.まず一つ目の手法(手法①)では,表層崩壊の発生に関わる素因である傾斜や植生等の条件を解析し,これらの素因に基づいて表層崩壊の可能性を評価します.次に二つ目の手法(手法②)では,降雨時の斜面中での水の流れを考慮して,斜面の相対的な安定性を求めます.手法①は素因のみに基づく簡易で広範囲を対象とした評価,手法②は降雨を考慮したより詳細な評価ですので,1次スクリーニングとして手法①を,これにより危険性が高いと判断された斜面を対象としたより詳細な検討に手法②を適用できます.

 強風災害に関しては,転覆限界風速2)を超える強風が発生する再現期間(何年に1度,そのような強風が発生するかという指標)を評価します.まず局地気象シミュレーションを実施して強風の再現期待値を求め,次に線路構造物の種別や車両等から求められる転覆限界風速と比較することで,転覆限界風速を超える強風の再現期間を評価しています.

 雪崩災害については線路での雪崩災害発生の可能性を評価します.まず斜面上での雪崩の発生確率を求め,次に発生地点から線路までの雪崩の到達確率を求め,これらのデータから線路での雪崩災害の発生確率を評価しています.

 落石災害については,まず地形の特徴から露岩と判断される箇所を抽出し,次にモンテカルロシミュレーションにより露岩から線路までの落下岩塊の到達確率を評価します.

  • 図2 災害ハザードマッピングシステムの表示イメージ
    図2 災害ハザードマッピングシステムの表示イメージ

4.災害ハザードマッピングシステムの活用

 本手法により災害が発生する可能性が相対的に高い範囲を把握できるので,現地調査が必要な箇所の抽出,あるいは対策工を設置する範囲や優先順位の検討等の資料として活用することができると考えています.鉄道事業者のみなさまに試用していただきながら,実用化に向けた改良を行っていく予定です.

参考文献

1) 福原隆彰:数値シミュレーションを用いた面的な気象情報の取得方法,第288回鉄道総研月例発表会

2) 日比野有,石田弘明:車両の転覆限界風速に関する静的解析法,鉄道総研報告,Vol.17,No.4,pp.39-44,2003

(記事:地質研究室 浦越拓野)

バラスト軌道の軌道支持剛性評価方法におけるまくらぎ支持ばね係数に関する基礎的検討

1.はじめに

 鉄道総研ではバラスト軌道の軌道補修の高品質化を目的として,道路舗装や盛土の施工管理に用いられている小型FWD1)を応用したバラスト軌道の軌道支持剛性評価方法の開発を進めています.

 この方法は,小型FWD試験(図1)から得られる最大荷重と最大変位から算出するまくらぎ支持ばね係数と,最大荷重と最大変位が発生した時の時刻の差から算出する応答変位遅延時間を評価指標として用いています(図2).つき固め補修前後における各評価指標の増減により,軌道支持剛性を評価します.

 これまで実験線および営業線で検討を行い,各評価指標の経時変化でまくらぎ下の支持状態を把握できることが確認されていましたが,営業線において高低変位の変化がわずかであるにもかかわらず,つき固め補修直後からまくらぎ支持ばね係数が低下していく傾向にあることがわかっていました2)

 そこで軌道支持剛性評価方法のさらなる深度化のために,まくらぎ1本分の実物大軌道模型を用いて基礎的検討を行ったので報告します.

  • 図1 軌道上での小型FWD試験の状況
    図1 軌道上での小型FWD試験の状況
  • 図2 小型FWD試験の評価指標
    図2 小型FWD試験の評価指標

2.実物大模型試験

 まくらぎ1本分の実物大軌道模型は,基準粒度範囲内のバラスト(以下,新品バラスト)を使用して在来線のバラスト軌道を想定して,バラスト道床を十分に締固めた後(密度1.60t/m3),タイタンパーによるつき固め補修を行いました.また道床厚は150,200,250mmの3段階としています.検討対象がまくらぎ1本分であるため,前述の評価指標のうち,まくらぎ支持ばね係数のみを扱っています.

 載荷は荷重振幅5~85kN,載荷周波数5Hzで合計30万回の繰返し載荷を行い,その前後および途中で小型FWD試験(荷重:7kN程度)と両レールに対する静的載荷試験(荷重:軸重相当80kNまで)を実施しました.図3に小型FWD試験におけるまくらぎ支持ばね係数を示します.小型FWD試験はまくらぎの中央および両端,両レール上で実施し,その平均値を示しています.バラスト道床の道床厚によらず,繰返し載荷

 直後(1万回後)にまくらぎ支持ばね係数が低下する傾向を示しています.浮きまくらぎ状態とならないまくらぎ1本の本試験においてもこれまでと同様の傾向が得られました.

 次に図4に静的載荷試験の結果(道床厚150mm)を示します.荷重-まくらぎ変位関係の往路(載荷)に着目すると,繰返し載荷前は概ね線形ですが,繰返し載荷後は非線形性が強くなっていることがわかります(図4(a)).ただし列車の軸重相当では同等の剛性となりました.この傾向は他の道床厚のケースでも見られ,繰返し載荷後に0~40kNの範囲の荷重レベルで往路の剛性が低下しました.バラストの要素試験3)においても同様の剛性変化が示されており,実物大模型を用いた本試験においてもこの傾向が捉えられました.

 小型FWD試験において繰返し載荷直後にまくらぎ支持ばね係数が低下したのは,載荷荷重が7kN程度であるため,バラストの締固めに伴う非線形性の影響を受けたためと考えられます(図4(b)).静的載荷試験で得られた非線形性の傾向については,列車の軸重相当までの衝撃載荷試験を行いさらに検討を進める予定です.

  • 図3 小型FWD試験の試験結果
    図3 小型FWD試験の試験結果
  • 図4 静的載荷試験の結果(道床厚150mm)
    図4 静的載荷試験の結果(道床厚150mm)

3.FEM解析

 バラスト道床の道床厚の違いによる影響についてさらに検討を行うため,前章の試験を対象に3次元線形FEM解析を行いました.軸重相当80kNの静的載荷試験を想定し,路盤剛性をパラメータとしています.図5より土路盤上では路盤剛性の増加に伴いまくらぎ支持ばね係数が増加していますが,各路盤剛性に対してはほぼ同値であり,土路盤上では道床厚の影響は小さいと考えられます.一方,コンクリート路盤の場合,道床厚150mmのケースで250mmのケースの1.6倍となりました.路盤剛性が高いとバラスト道床のばね係数の影響が大きくなり,まくらぎ支持ばね係数にこの影響が顕著に表れたためと考えられます.

  • 図5 FEM解析の結果(80kN時)
    図5 FEM解析の結果(80kN時)

4.おわりに

 今後は小型FWD試験の結果と列車荷重下の軌道支持剛性との関係を深度化していくため,軌きょうを用いた室内実験を行い,まくらぎ支持ばね係数に加えて応答変位遅延時間の観点からも検討を進めていく予定です.なお本研究の一部は,国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

【参考文献】

1)土木学会舗装工学委員会編:FWD及び小型FWD運用の手引き,2002

2)伊藤壱記 他:FWDを用いた軌道支持状態の評価に関する研究,日本鉄道施設協会誌,pp.60-63,2014.2

3)石川達也 他:大型繰返し三軸試験による道床バラストの変形特性の検討,土木学会論文集No.575,pp.169-178,1997.9

(記事:軌道・路盤研究室 谷川光)

車体と構造物の簡易な接触解析法

1.はじめに

 現在,大規模地震動により鉄道車両が脱線した場合でも,その車両を隣接する線路や線路外部に逸脱させないための各種逸脱防止装置1)の開発が進められています.これら逸脱防止装置の性能を評価する際には,脱線後を含めた一連の車両挙動を把握しておくことが重要です.これまで,主に数値解析を用いた検討2)により,脱線後における基本的な車両挙動が明らかにされつつありますが,図1に示すような車両の各部位(例えば,ギアケースや車両側逸脱防止装置,車体)が軌道や構造物等の地上設備に接触する影響についてはほとんど検討が行われていません3).そこで本研究では,まず,車体と構造物の接触に着目し,その接触現象を効率良く表現可能な接触モデルを構築しましたので紹介します.

  • 図1 車両の各部位と地上設備の接触
    図1 車両の各部位と地上設備の接触

2.車体と構造物の接触モデルの構築

 本接触モデルは,鉄道総研開発の「新幹線車両と鉄道構造物との動的相互作用解析プログラムDIASTARS III2)」を改良することで構築しました.DIASTARS IIIでは,車体,台車枠,輪軸を剛体と仮定し,これら剛体をばねとダンパで結合するマルチボディーとして車両をモデル化します.また,構造物は任意の構造形式を有限要素法によりモデル化可能です.DIASTARS IIIでは,脱線前の車両挙動に加え,脱線後に有道床軌道上を走行する場合等の車両挙動も表現することが可能です.

 図2に,本研究で構築した車体と構造物の接触モデルに関する概念図を示します.本接触モデルでは,マルチボディー車両モデルに配置した任意の接触検知点と,構造物側有限要素の節点情報から構成した接触面との間に作用する力を,ペナルティ法で計算します.これにより,従来のシェル要素やソリッド要素を用いた有限要素同士の接触解析と比較して,はるかに高速に走行車両と構造物間の動的接触現象を表現することが可能です.また,ペナルティ法に用いる接触ばねには,実物大の部分模型実験や詳細な有限要素解析から得られた結果を反映することで,様々な部材同士の接触を表現することもできます.

 本解析手法の妥当性に関しては,脱線までの車両挙動については実物大車両模型を用いた振動台実験により既に検証されています.また,車体と構造物が接触した際の車両挙動については実物大実験等により検証することが困難ですが,実験結果や解析結果4)を用いて車体と構造物間の接触ばね定数を定めることで,本解析手法の妥当性を確保します.

  • 図2 車体と構造物の接触モデルの概念図
    図2 車体と構造物の接触モデルの概念図

3.解析事例

 上記の解析手法を用いて,下路桁上を走行中の新幹線車両が正弦波状の地震動を受けて脱線した場合の試計算を実施しました.図3に解析条件を示します.車体側の接触検知点は,構造物との接触が想定される位置(車体先頭及び後尾の2箇所に,高さ方向に10点ずつ)に配置しました.また,車体と構造物間の接触ばねは,実物大輪切り車体(在来線)に対して実施された静的載荷試験4)の結果を,新幹線車両長に換算して用いました.

 図4に時刻歴波形の例を示します.約3.5秒で車両が脱線し,輪軸がスラブ上へ落下していることが確認できます.またその後,接触検知点4と接触面が計3回接触を繰り返していることが分かります.図5に1回目の接触時刻における車両の挙動及び接触力の分布を示します.車両が若干ローリングとヨーイングをしながら構造物に接触していますが,それに対応した接触力分布が得られていることが確認できます.

  • 図3 解析条件
    図3 解析条件
  • 図4 時刻歴波形の例(加振振動数:1.0Hz,振幅:0.16m)
    図4 時刻歴波形の例
    (加振振動数:1.0Hz,振幅:0.16m)
  • 図5 車両挙動と接触力分布(t=3.8秒)
    図5 車両挙動と接触力分布(t=3.8秒)

4.おわりに

 今後,本接触モデルを台車系及び輪軸系に拡張し,より詳細な脱線後の車両挙動を予測するとともに,各種逸脱対策工の効果の定量化を図る予定です.

参考文献

1) 柳川秀明:軌道における地震時の新幹線脱線対策,第210回鉄道総研月例発表会,講演集,pp.1-4,2008.

2) 後藤恵一,曽我部正道,田辺誠,浅沼潔:脱線後の車輪と軌道の接触モデルに関する研究,鉄道力学論文集,No.15,pp.132-139,2011.

3) 葛田理仁,児玉真一,金元啓幸,宇治田寧,西山幸夫:1/10模型車両による側壁誘導試験と数値シミュレーション,鉄道総研報告,Vol.28,No.12,2014.

4) 沖野友洋,宇治田寧:側面からの接触荷重に対する車体強度特性評価,鉄道総研報告,Vol.25,No.8,pp.23-28,2011.

(記事:構造力学研究室 後藤恵一)