地盤調査の信頼性向上を考慮した杭の鉛直支持力評価

1.はじめに

 【平成24年版 鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物】(以下,H24基礎標準)の改訂では,杭の設計鉛直支持力算定方法について,異なる杭工法でも同一の信頼性を確保できるように載荷試験データベースに基づく信頼性設計法による見直しがなされました.また,載荷試験等を行って信頼性を高めた場合には設計鉛直支持力を引き上げられるという考え方も盛り込まれました.しかしながら,ボーリング間隔を密にするといった地盤調査の信頼性向上効果を実務上で簡便に反映させる方法は未提案でした.本記事では,杭の設計鉛直支持力にこのような信頼性向上効果を反映させる方法を紹介します.

2.杭の設計鉛直支持力の基本的な考え方

 H24基礎標準では,杭の設計鉛直支持力は,ある一定の信頼性(目標信頼性指標βa)で要求性能に応じた基準変位を下回るために必要な支持力として,基準支持力(特性値)に地盤抵抗係数(部分安全係数)を乗じて求めることとしています.そして,この地盤抵抗係数は図1に示すように,基準変位における支持力発揮率の平均値μと変動係数V ,および目標信頼性指標βaから次式で算定されます.

  • 式(1)     (1)

 ここで,平均値μと変動係数V は,杭工法別の載荷試験データベースの統計処理結果を用いることで,異なる杭工法の間でも同等の信頼性が確保されています.この変動係数V には,杭同士の品質の違いによるばらつきの他にもボーリングを転用して設計することによる誤差の影響が含まれます.よって,概念的にはボーリング間隔を密に実施するなどして地盤調査の信頼性を向上させた場合や,フーチング等で一体化された群杭で杭同士のばらつきが相殺される効果が期待できる場合など,変動係数V を小さく評価できれば設計鉛直支持力を引き上げることができます.ただし,H24基礎標準ではその具体的な算定方法までは示されていませんでした.

  • 図1 地盤抵抗係数の基本的な考え方
    図1 地盤抵抗係数の基本的な考え方

3.信頼性向上効果の反映方法

 地盤抵抗係数の算定においてこれらの信頼性向上効果を反映するため,本検討では変動係数V を式(2)に示すように要因別に細分化することとしました.

  • 式(2)     (2)

 ここでV1:杭の施工法に応じたばらつき,n:群杭として一体化される杭の本数(使用性以外ではn = 1とする),V2:N値から地盤の強度特性を推定する変換誤差,V3:地盤の空間変動です.

 V2およびV3は,本来は地盤固有の値となりますが,本検討ではV2は文献1)を参考としてV2=10%(N値から内部摩擦角φへの変換誤差)とし,V3は文献2)を参考として地盤調査位置からの距離ΔLに応じた値としてV3min=18%(ΔL≦5mの場合)~V3max=45%(ΔL≧50mの場合)としました.そして,杭工法別の施工品質(ばらつきの程度)に対応する特有の値となるV1は,載荷試験データベースでの統計値として得られる変動係数Vtestから以下の式(3)で逆算しました.

  • 式(3)     (3)

 なお,変動係数を細分化して再計算する際の統計処理では,特に平均値μが小さい範囲での評価精度を高めるために,統計処理上で対数正規分布を仮定して行いました(H24基礎標準では自然数正規分布を仮定).

4.地盤抵抗係数の算定結果

 群杭本数nおよび地盤調査位置からの距離ΔLをパラメーターとした表1の4ケースについて3.に示した方法により場所打ち杭の使用性・長期支持性能の地盤抵抗係数を算出した結果を図2に示します.また,比較のため,H24基礎標準・解説図15.3.3.2-1の地盤抵抗係数も併記します.

 まず,信頼性が最も低いCase-DでもH24基礎標準(図中①)よりも大きな地盤抵抗係数となっているのは主に対数正規分布を仮定したことによる推定精度向上効果です.Case-Dからnの増加やΔLの減少により信頼性が向上するほど地盤抵抗係数が大きくなり,Case-A~CではH24基礎標準の短期支持性能(図中②)を上回ることがわかります.実務上は本検討に示す方法で詳細に地盤抵抗係数を算出するのはかなり煩雑となるため,便宜的には表2に示す条件(Case-B,Case-Cに相当)を満足する場合には,長期支持性能の照査に用いる地盤抵抗係数を1ランクアップできる(=短期支持性能の値を用いてよい)という扱いとすることができます.

  • 表1 試算パラメーター
    表1 試算パラメーター
  • 図2 場所打ち杭の地盤抵抗係数の算出結果
    図2 場所打ち杭の地盤抵抗係数の算出結果
  • 表2 使用性・長期支持性能の設計鉛直支持力の信頼性向上が期待できる条件
    表2 使用性・長期支持性能の設計鉛直支持力の信頼性向上が期待できる条件

5.おわりに

 本記事では,地盤調査を密に実施する,あるいは群杭構造とするなどの対策により信頼性を向上させた効果を考慮して設計鉛直支持力を大きく評価する方法について紹介しました.当面の実務上の取扱いとしては,使用性の長期支持性能の設計鉛直支持力の照査が杭長の決定ケースとなっている場合においては,表2の条件を満足するように地盤調査等を追加して設計の合理化(長期支持性能に用いる地盤抵抗係数の1ランクアップ)を図ることができます.なお,地盤抵抗係数をH24基礎標準・解説図15.3.3.2-1に示される値ではなく,3.に示した方法により詳細に計算して設計を行う場合には,現時点では設計プログラム等が未対応であることから事前に下記担当者までご相談いただきますようお願いいたします.

参考文献

1) 大竹雄,本城勇介:地盤構造物設計における変換誤差の定量化,土木学会論文集C(地圏工学),Vol.70,No.2,pp.186-198,2014

2) 松井謙二,落合英俊:地盤の不確定性を考慮した摩擦杭基礎の支持力評価,土木学会論文集,No.445/Ⅲ-18,pp.83-92,1992.3

(記事:基礎・土構造研究室 西岡英俊)

経年PCまくらぎの耐荷力評価

1.はじめに

 プレストレストコンクリート製のまくらぎ(以下,PCまくらぎという)は,1950年代ごろから導入が始まり,輸送の高速化・快適化に欠かせない近代軌道の重要な構成要素となっています.PCまくらぎの寿命は概ね30~50年程度と考えられており,膨大な本数のPCまくらぎが敷設されているため計画的な維持管理が必要です.そこで,営業線に敷設されていた経年PCまくらぎに対して各種試験を行い,PCまくらぎの力学的な性能評価を行うとともに,耐荷力低下に対する各種パラメータの影響を把握するために,数値解析による検討を実施しました.本稿ではそれらの結果について報告します1,2)

2.検討方法

 図1にJIS-3号まくらぎの概要を,表1に材料諸元を示します.調査対象としたPCまくらぎは,異なる線区から収集されたJIS-3号PCまくらぎ165本で,経年は1~50年程度です.試験内容は,JIS E1201およびJIS E1202に基づくPCまくらぎの曲げ耐荷力試験,JIS A1108に基づくコンクリートコアの圧縮強度試験,JIS A1149に基づく静弾性係数試験およびPC鋼材の残留プレストレス試験です.なお,PC鋼材の残留プレストレス試験は,PCまくらぎ端面を研磨してすべてのPC鋼材の長さを測定した後,PC鋼材をはつりだして収縮量を測定することで算出しました.

 図2にFEMによる数値解析モデルを示します.PCまくらぎのコンクリートやPC鋼材をはじめとする各種パラメータの影響を検討するために,構造解析ソフトウェアLS-DYNA(Version R7.1.1)を用いてFEMによる数値解析モデルを構築しました.解析に用いた実際の材料諸元は表1のカッコ書きの値としました.これらの値は,コア圧縮試験や静弾性係数試験に基づき,後述する曲げ試験結果と整合するように定めたもので,設計値とは異なります.コンクンクリート及びPC鋼より線の材料非線形性については,鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造3)に基づいて定めました.

  • 図1 JIS-3号PCまくらぎの概要
    図1 JIS-3号PCまくらぎの概要
  • 表1 材料諸元
    表1 材料諸元
  • 図2 FEMによる数値解析モデル
    図2 FEMによる数値解析モデル

3.検討結果

 図3に曲げ試験結果を示します.同図より,累積通過トン数(以下,通トンという)の増加とともに,ひび割れ発生荷重および曲げ破壊荷重が右肩下がりに低下する傾向が認められました.プレテンション式とポストテンション式を比べると,ポストテンション式の方が耐荷力低下の度合いが大きいことがわかります.また,凍害が発生していたPCまくらぎについては,コンクリートの材料的な劣化により,少ない通トンでもJISの規格値を下回りました.これはコンクリートと鋼材の付着機構などの違いによるものと推察されます.

 図4および図5にコア圧縮試験および静弾性係数試験結果をそれぞれ示します.同図より,コア供試体の圧縮強度はコンクリートの設計基準強度49.1N/mm2を上回り,また静弾性係数についても設計標準の値33kN/mm2と概ね同等以上でした.

 図6にプレテンション式3号PCまくらぎの残留プレストレス試験の結果を示します.図より,残留プレストレスは60%~150%の範囲でばらつくことがわかりました.

 図7にPCまくらぎの曲げ試験での荷重変位曲線について,試験結果と解析結果の比較を示します.対象PCまくらぎは,経年1年の3号プレテンション式PCまくらぎです.図より,解析結果は試験結果と概ね一致することがわかります.

 本解析モデルを用いて,PC鋼材およびコンクリートの各種諸元が耐荷力低下に及ぼす影響について検討を行いました.その結果を図8に示します.解析(有効鋼材0本)とは腐食などにより最外縁鉄筋がすべて有効に機能しなくなった状態,解析(コン強度33)とはコンクリート強度および静弾性係数が設計相当の値である状態を想定しました.解析(有効鋼材0本)は経年PCまくらぎの実態に比べると極端な例ではありますが,腐食等に起因する有効PC鋼材量の減少やコンクリート強度および静弾性係数の減少等により,PCまくらぎの耐荷力が経年とともに低下することがわかりました.

  • 図3 JIS-3号PCまくらぎの曲げ試験結果
    図3 JIS-3号PCまくらぎの曲げ試験結果
  • 図4 コア圧縮試験結果
    図4 コア圧縮試験結果
  • 図5 静弾性係数試験結果
    図5 静弾性係数試験結果
  • 図6 残留プレストレス試験結果(3PR)
    図6 残留プレストレス試験結果(3PR)
  • 図7 PCまくらぎの荷重変位曲線(正曲げ)
    図7 PCまくらぎの荷重変位曲線(正曲げ)
  • 図8 PC鋼材・コンクリートの影響
    図8 PC鋼材・コンクリートの影響

4.まとめ

 経年PCまくらぎの実態調査により,通トンと各種力学的性能の関係を明らかにするとともに,数値解析により,各種パラメータが耐荷力に与える影響を評価しました.今後は,走行列車による疲労や衝撃の影響について検討していく予定です.

参考文献

1) 箕浦慎太郎,渡辺勉,鈴木大輔,上半文昭:営業線PCまくらぎの摩耗性状とその耐荷力への影響に関する検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.37, No.2, pp.1345-1350, 2015

2) 箕浦慎太郎,渡辺勉,曽我部正道,清水裕介:経年PCまくらぎの耐荷力低下に関する検討,土木学会全国大会第70回年次学術講演会,V-167,2015

3) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善出版,2004.

(記事:構造力学研究室 箕浦慎太郎)

レール締結装置のアンカーボルトの腐食に対する安全性の評価

1.はじめに

 近年,直結8形レール締結装置のアンカーボルト(図1)について,断面減少を伴う腐食の発生が報告されています.腐食によってボルトに破断や軸力低下が生じた場合,軌間拡大につながることが懸念されます.そこで,アンカーボルトの腐食性状を調査するとともに,腐食したアンカーボルトの安全性を検証しました.

  • 図1 直結8形レール締結装置のアンカーボルト
    図1 直結8形レール締結装置のアンカーボルト

2.アンカーボルトの腐食性状の調査

 アンカーボルトの腐食が確認された営業線において,締結装置の外観観察を行いました.その結果,レールやタイプレート,板ばねなどの締結部材に顕著な腐食は認められませんでした.一方で,敷設から約9年が経過したボルトでは,図2に示すように円筒部から不完全ねじ部にかけて顕著な腐食が確認されました.また,ボルトを抜き取った後の埋込栓内部には泥状の堆積物や滞留水が確認され,ボルトの腐食箇所は堆積物や滞留水が接触する箇所と一致することがわかりました.なお,埋込栓内部のねじ部に腐食は見られませんでした.

 次に,ボルトの腐食量を把握するため,営業線内から経年ボルトを回収し,断面積の測定を行いました.結果として,円筒部の断面積は,腐食前の標準断面積314mm2に対して最大で21%減少しており,不完全ねじ部の断面積は,おねじの有効径から計算した断面積265mm2に対して最大で18%減少していることを確認しました.

  • 図2 敷設から約9年後のボルトの外観(さびを除去した状態)
    図2 敷設から約9年後のボルトの外観(さびを除去した状態)

3.引張強度に関する検討

 引張強度に関する安全性を検証するため,回収した経年ボルト16本と新品ボルト4本について引張試験を行いました(図3).引張試験で得られた破断荷重を図4に示します.破断荷重は,経年ボルトで267~279kN,新品ボルトで281~290kNでした.ここで,製造時の当該ボルトの保証強度は265kNとなります.また,当該ボルトの締結時の発生軸力は70~90kN程度です.経年ボルトは,いずれも上記の保証強度を上回り,発生軸力に対して十分な強度を有しています.このため,現状の腐食量に対しては,引張強度上の問題はないことを確認しました.

  • 図3 引張試験の状況
    図3 引張試験の状況
  • 図4 引張試験結果
    図4 引張試験結果

4.疲労強度に関する検討

 疲労破壊に関する安全性を検証するため,経年ボルトを用いて当該締結装置を組み立て,設計荷重を100万回繰り返し載荷する疲労試験を行いました(図5).結果として,載荷中のレールは安定した挙動を示し,疲労試験後のボルトにき裂などの変状は認められませんでした.また,腐食したボルトの発生応力と腐食による強度低下を想定した疲労限度を比較したところ,発生応力は疲労破壊に対して十分な余裕があることがわかりました.以上の結果より,現状の腐食量に対しては,疲労破壊の観点から安全上の問題はないことを確認しました.

  • 図5 疲労試験の状況
    図5 疲労試験の状況

5.アンカーボルトの交換と腐食対策

 現状よりも腐食が進行した場合,更なる強度低下が予想されるため,計画的なボルトの交換が望まれます.ボルトの交換は,残存強度に対して一定の安全率を確保した上で実施するのが望ましいと考えます.図6は,断面積の減少率毎に,作用軸力に対する残存強度の比を安全率として試算した結果を示しています.試算方法の詳細は文献1)に記載しています.一例として,引張強度について常に2.0以上の安全率を確保する場合,ボルトの交換目安となる断面積の減少率は30%程度となります.この場合,疲労強度についても同等以上の安全率を確保できます.

 ボルトを交換する際には,費用対効果を考慮した上で,腐食対策を施したボルトに置き換えることが望ましいと考えます.鉄道総研では,当該ボルトの腐食対策として,熱収縮チューブと金属フレーク積層形表面処理(エポキシ樹脂塗装併用)を組み合わせた方法を提案しています2).熱収縮チューブは,加熱によって収縮する厚さ0.4mmのプラスチックチューブであり,図7に示すようにボルトの腐食範囲を被覆することで,ボルトの緊解時に生じる防錆被膜の物理的損傷を防護することを目的としています.本チューブの有効性は,営業線に試験敷設を行い確認しています.また,表面処理は,現行の防食処理の代替法として選定したものであり,室内試験においては現行品以上の防食性を有する可能性があることを確認しています.ただし,室内試験は実際のボルトが晒される環境を十分に模擬したものではないため,現地での試験敷設等を行う必要があります.現在,提案した上記の対策法を組み合わせたボルトを営業線へ試験敷設し,長期間にわたる有効性を調査しています.引き続き調査を行い,結果を随時報告する予定です.

  • 図6 断面積の減少率と安全率の試算結果
    図6 断面積の減少率と安全率の試算結果
  • 図7 熱収縮チューブによる被覆
    図7 熱収縮チューブによる被覆

参考文献

1) 玉川新悟,永井明則,弟子丸将,片岡宏夫:腐食したレール締結装置のアンカーボルトの安全性の検証,土木学会第70回年次学術講演会,2015年9月.

2) 坂本達朗,鈴木実:レール締結装置のアンカーボルトの腐食対策法の開発,新線路,第69巻,第9号,2015年9月

(記事:軌道構造研究室 玉川新悟)