地山改良型ロックボルトによるトンネルの補強

1.はじめに

 山岳トンネルでは,経年による劣化や地圧の作用等によってトンネルの変形を生じる場合があり,対策の一つとしてロックボルト補強工法が適用されています.一般的に採用される通常のロックボルト補強工法は,例えば地山が著しく破砕している場合,十分な定着力を確保できないため適用できないという課題があります.また,ロックボルト施工後も地山の劣化が続き,緩やかな変形が継続することもあります.これらの課題を解決するため,筆者らは,破砕した地山でも適用可能で,地山の改良機能を有する「地山改良型ロックボルト補強工法」を開発しました.本稿では,開発工法の概要と鉄道総研盛土試験場で行った試験施工の結果を紹介します.

2.地山改良型ロックボルト補強工法について

 側壁の押出しといった変状が発生するトンネルでは,一般的にトンネルから離れた地山は比較的健全であるものの,トンネル近傍の地山は劣化して緩んでいます.開発した地山改良型ロックボルト補強工法は,図1に示すように,一本のロックボルトで,先端側の健全な地山に対しては膨張モルタルでしっかりと地山に定着させ,口元側の緩んだ地山に対してはウレタン系の注入材料で地山を改良するものです.緩んだ地山の物性値を向上させるとともに地山劣化そのものを抑制することが期待でき,山岳トンネルの長寿命化のための効果的な補強工法になると考えています.

  • 図1 地山改良型ロックボルト補強工法の概要
    図1 地山改良型ロックボルト補強工法の概要

3.実験の概要

 地山改良型ロックボルト補強工法の性能を確認するため,鉄道総研の盛土試験場において,試験施工を実施しました.写真1および図2に示すように,まず,砂質土・粘性土の2種類の盛土材料にて盛土造成しました.盛土造成中に,外径φ76mmのケーシングをあらかじめ設置しておき,盛土造成後に脱管することで,ボーリング削孔の代わりとしました.脱管後のボアホールに対し各種ロックボルトを施工し引抜試験を行いました.引抜試験後に盛土上面から掘り起こしによる改良状況の確認を行いました.

 試験ケースを表1に示します.比較検討のため,従来工法や改良部材料に膨張モルタルを使用したケースも実施しました.地山改良型ロックボルトの施工手順は図3に示すとおりです.

  • 写真1 試験実施場所(鉄道総研 盛土試験場)
    写真1 試験実施場所(鉄道総研 盛土試験場)
  • 図2 ロックボルト 試験配置図
    図2 ロックボルト 試験配置図
  • 表1 試験ケース
    表1 試験ケース
  • 図3 地山改良型ロックボルトの施工手順
    図3 地山改良型ロックボルトの施工手順

4.実験結果

①引抜き試験結果

 引抜試験の最大引抜荷重はボルトの降伏耐力180kNに設定しました.引抜試験の結果,全ケースにおいて180kNの引抜きに耐える確実な定着を確認しました(図4).

  • 図4 引抜試験結果(軸力分布図)
    図4 引抜試験結果(軸力分布図)

②改良状況確認試験結果

 定着部においては,膨張モルタルを用いたケースは確実に充填されていました.一方,従来工法のドライモルタルでは先端部に一部欠損箇所がみられました.改良部においては,写真2に示すとおり模擬地山の亀裂相当部分に優先的にウレタンが浸透していることを確認しました.また,パッカーを越えての逆流はあまり見られず,パッカーが有効に機能していることを確認しました.

 今回の実験結果から,地山改良型ロックボルトは,従来の定着効果だけでなく,地山改良効果も得ることができると考えられます.

  • 写真2 掘り起こしによる改良状況確認結果
    写真2 掘り起こしによる改良状況確認結果

5.おわりに

 本研究では,山岳トンネルの維持管理において,破砕した地山でも適用可能で地山改良効果のある地山改良型ロックボルト補強工法を開発しました.今後は,実トンネルでの試験施工や数値解析による評価等を実施し,地山改良型ロックボルト補強工法を確立させ,手引きとしてとりまとめる予定です.

※本研究は,国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

(記事:トンネル研究室 森瀬喬士)

小型FWDを用いた軌道支持剛性評価方法の現地測定試験

1.はじめに

 バラスト軌道では,タイタンパを用いたつき固め保守作業を効果的に行うために,つき固め作業の仕上り状態を力学的に評価する方法が求められています.そこで,舗装の健全度診断や盛土の締固め管理等に用いられている小型FWDを用いて,現地にて定量的かつ簡易な方法で軌道支持剛性を評価する手法を開発しました1)(図1).本評価方法は,小型FWDを用いた落重試験をレールもしくはまくらぎ上で行い,得られる最大荷重と最大変位より軌道支持剛性を算定して,各まくらぎの支持状態を評価します(図2).

 本研究では,営業線において小型FWDを用いた現地試験を行い,つき固め保守前後の軌道支持剛性と軌道変位の関係を検討したので,報告します.

  • 図1 軌道支持剛性の測定状況の例
    図1 軌道支持剛性の測定状況の例
  • 図2 軌道支持剛性の測定例(荷重-変位関係)
    図2 軌道支持剛性の測定例(荷重-変位関係)

2.現地試験

 つき固め保守前後の軌道支持剛性とその後の高低変位進みの関係を検討するため,マルチプルタイタンパ(以下,MTTという)によるつき固め保守を行う前後に,小型FWDによる軌道支持剛性を測定しました.

 実施した現地試験のうち,本報告では高架橋上で測定した2箇所を示します.軌道諸元は,レール種別が60kgレールのロングレール,まくらぎ種別がPCまくらぎ,道床厚が200mmであり,締結間隔が581mmです.本現地試験では,小型FWDの測定をまくらぎ両端部で実施し,測定延長は測定区間①がまくらぎ73本分,測定区間②がまくらぎ40本分です.

3.軌道支持剛性と軌道変位の関係

 現地測定により得られた軌道支持剛性の分布と高低変位の相関性を検討したところ,隣接したまくらぎ5本分で移動平均処理した軌道支持剛性の分布と5m弦高低変位に,現地試験を実施した全ての箇所において一定の相関関係が見られたことから,以下ではそれらの関係を用いて整理することとしました.

3.1 つき固め保守前の軌道支持剛性

 図3および図4に,MTTによるつき固め保守前の高低変位波形と軌道支持剛性の分布を示します.どちらの測定箇所においても,高低変位波形と軌道支持剛性の分布形状は類似しており,沈下する方向に高低変位が生じている箇所では軌道支持剛性も小さいことがわかります.以上より,高低変位の変化に応じて軌道支持状態は変化し,沈下した箇所の軌道支持剛性は小さくなり,沈下していない箇所の軌道支持剛性が高くなる傾向を示すことを確認しました.

  • 図3 軌道変位と軌道支持剛性の関係<br>(保守前・測定箇所①)</br>
    図3 軌道変位と軌道支持剛性の関係
    (保守前・測定箇所①)
  • 図4 軌道変位と軌道支持剛性の関係<br>(保守前・測定箇所②)</br>
    図4 軌道変位と軌道支持剛性の関係
    (保守前・測定箇所②)

3.2 つき固め保守後の軌道支持剛性

 図5および図6に,MTTによるつき固め保守後の高低変位波形と軌道支持剛性の分布を示します.高低変位波形は保守後数日(4~7日)が経過したものと保守後3ヶ月が経過したものです.高架橋上で測定したどちらの箇所でも,保守後数日で高低変位が大きくなっている箇所において,保守3ヶ月後にその振幅が大きくなっていることから,沈下進みは保守後数日で高低変位が大きい箇所でさらに増大する傾向を示すと考えられます.図5では,位置15m~30mの範囲で軌道支持剛性が全体的にやや小さく,また振幅が大きくなっており,保守3ヶ月後の高低変位は増大していることがわかります.図6では,全体的に軌道支持剛性の振幅が小さく,高低変位も小さいことがわかります.また,どちらの測定箇所においても,施工直後の軌道支持剛性の分布と保守3ヶ月後の高低変位は類似した形状であり,軌道支持剛性から高低変位進みの大きい箇所を予測できることがわかりました.

 図7に軌道支持剛性の標準偏差と高低変位の標準偏差の関係を示します.これより,両者は相関関係にあり,軌道支持剛性の標準偏差が大きくなると保守後の高低変位が大きくなることがわかります.以上より,つき固め保守後の軌道支持剛性の標準偏差を小さくするように施工管理することで,保守後の沈下進みを小さくできると考えられます.

  • 図5 軌道変位と軌道支持剛性の関係<br>(保守後・測定箇所①)</br>
    図5 軌道変位と軌道支持剛性の関係
    (保守後・測定箇所①)
  • 図6 軌道変位と軌道支持剛性の関係<br>(保守後・測定箇所②)</br>
    図6 軌道変位と軌道支持剛性の関係
    (保守後・測定箇所②)
  • 図7 5m弦高低変位の標準偏差と軌道支持剛性の標準偏差の関係
    図7 5m弦高低変位の標準偏差と軌道支持剛性の標準偏差の関係

4.まとめ

 現地測定より,つき固め保守後の高低変位の標準偏差と軌道支持剛性の標準偏差は相関関係にあることがわかりました.また,軌道支持剛性の標準偏差を小さくするようにつき固め保守を行うことで,保守後の沈下進みを小さくできると考えられます.

【参考文献】

1)伊藤壱記,中村貴久,佐野禎:FWDを用いた軌道支持状態の評価に関する研究,日本鉄道施設協会誌,pp.60-63,2014.2

(記事:軌道・路盤研究室 中村貴久)

サンプリングモアレ法に基づくコンクリート構造物のひび割れ計測

1.はじめに

 近年,列車の高速化に伴い,PRC橋梁の共振現象が懸念されており,共振によりひび割れの進展や疲労が問題となる可能性があります1).しかしながら,PRC部材に発生するひび割れは,列車非在線時には閉じてしまい,従来の目視による検査のみでは定量的な確認が困難です.現在,画像計測に基づきコンクリート構造物の変位やひずみを非接触で計測する手法に関する研究が数多く行われていますが,列車走行時にPRC部材に発生する動的なひび割れを高精度で検出する手法はまだ確立されていません.そこで,このような微細なひび割れの幅や位置を動的に計測することを目的として,サンプリングモアレ法2)を応用したひび割れ検知手法を開発するとともに,本手法による動的なひび割れ幅の計測精度の検証を行いました.

2.ひび割れ計測システムの概要

 図1にひび割れ計測システムの概要を示します.本システムは,主に高精度な変位計測に用いられるサンプリングモアレ法2)を応用したシステムです.計測装置は小型カメラ,三脚,ノートPCで構成され,計測現場までの持ち運びや設置が容易です.

 図2に計測で使用するターゲット及びカメラを示します.計測では格子状のターゲットを使用します.分解能は格子状ターゲットの隣り合う黒い正方形の間隔(ピッチ)の1/500です.後述するように,本システムではひび割れに追随するターゲットの形成方法として,スタンプを用いることも提案しました.計測には220万画素で最大170fpsでの撮影が可能なCMOSモノクロカメラを使用しました.

 図3にひび割れ計測及び可視化手法の概要を示します.サンプリングモアレ法を用いて,撮影したひび割れ発生前後の画像からターゲット領域内の相対変位を高精度に計測し,その差を求めることで微小なひび割れを検知し,さらには可視化することが可能なアルゴリズムを開発しました.

  • 図1 ひび割れ検知システムの概要
    図1 ひび割れ検知システムの概要
  • 図2 計測で使用するターゲット及びカメラ
    図2 計測で使用するターゲット及びカメラ
  • 図3 ひび割れ検知手法の概要
    図3 ひび割れ検知手法の概要

3.PRC供試体を用いたひび割れの計測・可視化の検証

 図4に繰り返し載荷試験時の様子を示します.本検証では,実際のPRC橋梁に列車通過時に発生するひび割れ計測の可能性を検証するために,図4に示すようにPRC供試体を用いた繰り返し載荷試験を実施し,載荷時と非載荷時にプレストレスにより開閉する微小なひび割れの静的・動的な計測を実施しました.本検証ではターゲット形成用スタンプを用いて,供試体側面のスパン中央部付近を中心にターゲットを形成しました.載荷方法は,まずPRC供試体を200kNまで静的に載荷・除荷し,その後20kN~200kNの範囲で5Hzで載荷しました.撮影時のフレームレートについては,静的載荷・除荷中には5fpsで,動的載荷中には50fpsで撮影しました.静的載荷・除荷時および繰り返し載荷時において,供試体最下端部でのひび割れ幅の計測と,供試体側面に発生したひび割れの可視化を行いました.

 図5に静的載荷後のひび割れの可視化結果を,図6に供試体中央に発生したひび割れ(図5中ひびわれ②)の静的載荷試験時の相対変位と載荷荷重の関係をそれぞれ示します.これらの図より,撮影範囲内では3本のひび割れが発生する様子と,ひび割れが鉛直上向きに進展していく様子が確認でき,本システムを用いて静的載荷時のひび割れの発生位置の可視化とひび割れ幅の計測が可能であることが確認されました.

 図7は,繰り返し載荷時に供試体中央部に発生したひび割れ(図5中ひび割れ②)の供試体最下端部でのひび割れ幅の時刻歴波形の計測結果です.この図より,繰り返し載荷時の微細なひび割れの動的計測が可能であることが確認できます.

  • 図4 繰り返し載荷試験概要
    図4 繰り返し載荷試験概要
  • 図5 PRC供試体のひび割れの可視化結果<br>(静的載荷後のひび割れ可視化状況)</br>
    図5 PRC供試体のひび割れの可視化結果
    (静的載荷後のひび割れ可視化状況)
  • 図6 載荷荷重と相対変位の関係<br>(ひび割れ②の最下端部)</br>
    図6 載荷荷重と相対変位の関係
    (ひび割れ②の最下端部)
  • 図7 繰り返し載荷試験中のひび割れ幅<br>(ひび割れ②の最下端部)</br>
    図7 繰り返し載荷試験中のひび割れ幅
    (ひび割れ②の最下端部)

4.おわりに

 ひび割れ検知システムを開発するとともに,繰り返し載荷試験時にPRC部材に発生する動的かつ微小なひび割れの可視化や幅の計測が可能であることを確認しました.今後は本システムを用いて橋梁や高架橋等の実構造物の計測を実施するとともに,遠距離計測手法やカメラの振動抑制手法の開発を行う予定です.

【参考文献】

1) 曽我部ら:共振領域におけるコンクリート鉄道橋の動的設計法に関する研究,土木学会論文集,No.724,I-62,pp.83-1002,2003.

2) 玉井ら:サンプリングモアレ法による土木構造物の変位・変位角・振動数等の計測,建設コンサルタンツ協会近畿支部研究発表会論集,N0.46,pp.112-1~112-6,2013.

(記事:構造力学研究室 箕浦慎太郎)