第361回 鉄道総研月例発表会

日時 2023年07月18日(火) 13:00~17:00
場所 日本工業倶楽部会館2階 大会堂
主題 信号技術および情報通信技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

13:00~13:10
列車運行の省力化・省人化に向けた最近の研究開発

 コロナ禍による旅客の減少および少子化・高齢化による労働力不足等の課題がある中、鉄道の持続的発展のためには、列車運行に係る省力化・省人化が求められる。これには、デジタル技術の活用により、現状の係員が行っている作業の自動化や支援、そして少ない設備と要員での列車運行の実現が必要である。本発表では、RESEARCH 2025 において取り組んでいる「列車運行の自律化」を中心に、列車運行の省力化・省人化に向けた研究開発の方向性について報告する。

<参考文献>
 鉄道総研報告 Vol.36 No.8「信号通信分野における研究開発の動向」

発表者
信号技術研究部 部長 新井 英樹

13:10~13:30
カメラとLiDARによる列車前方支障物検知手法の開発

 駅間や構内における運転士の支援のため、車載のカメラやセンサで、列車前方を監視するシステムへの適用を目指して、線路内の支障物検知手法を開発した。要件整理によりカメラとLiDARの組合せ、およびカメラ2台からなるステレオカメラが支障物検知に適したセンサであることを明らかにし、これらのセンサ構成による検知手法の開発および試験環境や車上での性能評価を実施した。本発表では開発手法の概要と性能評価結果について報告する。

発表者
情報通信技術研究部 画像解析研究室 研究員 影山 椋

13:30~13:50
自律運転のための車上での状態情報集約・リスク評価手法

 指令員・乗務員の負担軽減や異常発生時の柔軟な運行の実現を目標に、鉄道の自律運転の実現に取り組んでいる。自律運転では、従来の自動運転で実現されている加減速制御の自動化に加え、進路制御や運行判断を車上で自動的に実施する。そこで、運行判断を実現するために必要な沿線や車両の状態情報を集約する基盤として、鉄道ダイナミックマップを開発した。本発表では鉄道ダイナミックマップを用いた状態情報の集約と、状態情報を基にしたリスク評価手法について報告する。

発表者
信号技術研究部 列車制御システム研究室 副主任研究員 太田 佑貴

13:50~14:10
地上設備簡素化のための車上からの進路構成に基づく列車制御

 地上設備の削減による低コスト化・省メンテナンス化や遅延回復の迅速化などの全体的な運用の効率化を目指し、列車自身が自律的に停止位置と走行速度を判断して走行する自律的な列車運行制御システムの開発を行っている。このシステムにおいて、列車自らが判断して安全に走行するために必要となる機能である、車上にて着発時刻に基づいて走行パターンを作成する機能と、車上から進路と転てつ機・踏切などの地上設備を直接制御する機能について報告する。

発表者
信号技術研究部 列車制御システム研究室 主任研究員 北野 隆康

14:10~14:25
休憩

14:25~14:45
小規模遅延時を対象としたリアルタイム省エネ運転アルゴリズム

 小規模遅延時に、間隔調整等のために駅で抑止する停車時分を、走行時分と停車時分に適切に再分配することで、省エネとなる運転整理ダイヤをリアルタイムに作成する手法を開発した。提案手法では、走行時分延長による力行電力量の削減と、力行とブレーキのタイミング合わせによる回生電力量の増加を、同時に処理するアルゴリズムとした。営業線を対象としたケーススタディを実施し、最大で2.2%の省エネ効果が得られることを確認したので報告する。

発表者
信号技術研究部 運転システム研究室 研究員 国崎 愛子

14:45~15:05
実使用環境を想定した信号設備の振動耐久試験条件

 信号設備の振動耐久性に関する規格(JIS E 3014)は、昭和40年代に実施された測定結果に基づいて制定されたが、制定後の列車速度の向上や新工法の軌道、構造物の導入等に伴う使用環境条件の変化が反映されていない。そこで、現在の信号設備の使用環境調査や振動加速度測定結果の分析等により、信号設備が一般的な使用環境下で晒される振動加速度を明らかにした。その結果を基に実使用環境を想定した振動耐久試験条件を提案したので報告する。

発表者
信号技術研究部 信号システム研究室 副主任研究員 押味 良和

15:05~15:25
無線を利用した鉄道車両の状態情報伝送ネットワーク

 車上機器の動作状態や異常検知センサの情報等を無線ネットワークで運転台へ集約するためには、車両の増解結に対応し同一列車の車両間でネットワークを構成する必要がある。そこで、列車の編成情報や指令線の信号等、利用できる情報に応じたネットワーク構築手法を提案した。本発表では、提案した手法の概要を説明するとともに、車両内に設置した異常検知センサの検知情報を運転台まで伝送するシステムの実装例について報告する。

発表者
情報通信技術研究部 通信ネットワーク研究室 研究員 細川 雄太

15:25~15:45
大都市圏における鉄道輸送サービスと沿線居住意向の関係

 近年、特に大都市圏において鉄道沿線居住者の維持・増加を図るため、鉄道事業者は輸送サービスの向上施策を実施している。しかし、路線の輸送サービスと沿線への居住意向との関係についての知見の蓄積は進んでいない。そこで、それらの関係を明らかにするための調査と分析を実施した。輸送サービスごとの沿線居住意向への影響を定量的に分析するとともに、利用者属性による影響の違いについて検討したので報告する。

発表者
情報通信技術研究部 情報解析研究室 研究室長 深澤 紀子

15:45~16:00
休憩

16:00~16:20
監視カメラを用いた踏切しゃ断かん折損検知手法の開発

 近年、踏切道内の安全確保を目的として、都市圏を中心に踏切監視カメラの導入が進んでいる。このような状況を踏まえ、踏切監視カメラの画像から、しゃ断かんの塗装に特有の縞模様の周波数成分を抽出することにより、しゃ断かん折損を早期に検知する手法を開発した。本発表では開発手法の概要と、鉄道総研および鉄道事業者の訓練施設内の踏切における性能評価の結果について報告する。

<参考文献>
 RRR Vol.80 No.2「踏切監視カメラを用いてしゃ断かんの折損を検知する」

発表者
情報通信技術研究部 画像解析研究室 研究員 影山 椋

16:20~16:40
車両側面カメラを用いた安全確認支援装置の開発

 一部ワンマン運転区間で運用が始まっている車両側面カメラ映像のさらなる活用として、AIによって自動で旅客の接近を運転士に通知する安全確認支援および乗降人数のカウントを行う装置を開発した。従来と比較して処理が10倍高速なAIを開発し、リアルタイムで人、頭部、車いす、ベビーカー、白杖の検知を可能とした。さらに、開発した装置は車載のための耐振動性を満たしており、車両側面カメラを搭載した車両に追加設置することで、車上処理によるリアルタイムな支援機能の導入を可能としたので、報告する。

<参考文献>
 RRR Vol.80 No.2「車両側面カメラの映像からホーム上の安全確認を支援する」

発表者
情報通信技術研究部 画像解析研究室 研究員 合田 航

16:40~17:00
列車折返し時の整備作業計画の自動作成手法

 整備作業ダイヤとは、優等列車のターミナル駅や車両基地での折返し時に、車内清掃などの各種整備作業を行うため、複数の整備対象列車へ複数の作業班を割り当てた作業計画である。現状では担当者が手作業で作成しており、多大な労力を要している。そこで、数理最適化手法の1つであるタブーサーチを適用し、効率の良い整備作業ダイヤを数分程度で自動作成可能な手法を開発した。本発表では、現行の整備作業ダイヤと比較を行い、開発手法の有効性を確認したので報告する。

発表者
信号技術研究部 運転システム研究室 研究員 小久保 達也