第365回 鉄道総研月例発表会

日時 2024年01月17日(水) 13:30~17:00
場所 日本工業倶楽部会館2階 大会堂
主題 電力技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

13:30~13:45
電力技術に関する最近の研究開発

 新型コロナウイルス感染症の影響による輸送需要の減少と少子高齢化の状況を踏まえ、鉄道事業においては安全性の向上を最優先の課題としつつ、DX(デジタルトランスフォーメーション)による鉄道の生産性向上が求められている。また、脱炭素社会の実現に道筋をつけるGX(グリーントランスフォーメーション)関連の法制度が成立し、再生可能エネルギーの活用など、脱炭素化への具体的な取組も求められる。ここでは、これらの課題解決に寄与すると考えるものを中心に、最近の研究開発成果について報告する。

<参考文献>
・重枝秀紀:持続可能な社会に貢献する電力システムの研究開発,鉄道総研報告,Vol.35,No.12,pp.1-4,2021
・重枝秀紀:鉄道総研の研究開発最前線 電力技術研究部,RRR,Vol.79,No.6,pp.8-12,2022
・重枝秀紀:鉄道の電力設備の信頼性を向上する,RRR,Vol.79,No.6,pp.14-17,2022

発表者
電力技術研究部長  重枝 秀紀

13:45~14:10
脱炭素に向けた地上蓄電装置と車載蓄電装置の充放電統括制御手法

 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、鉄道分野においても省エネ、再エネ利用の取り組みを加速させる必要がある中で、蓄電技術を積極的に活用していくことが期待される。そこで、直流電気鉄道における複数の地上蓄電装置と車載蓄電装置の充放電を統括制御する手法を考案し、列車運行電力シミュレータに実装した。各蓄電装置の充放電量のばらつきを抑えて蓄電可能な電力量を増やし、再エネ電力のより効率的な利活用につながる電力需給調整が実現できることをシミュレータで確認したので報告する。

発表者
電力技術研究部 き電研究室 主任研究員(上級)  小西 武史

14:10~14:35
車上・地上間での電流照合による地絡検知手法の基礎検証

 異なる系統間のデータを共有可能な統合分析プラットフォームを活用し、地絡検知に必要となる車両の集電電流や位置データと地上変電所からの供給電流データを、高精度に時刻同期可能な電流計測装置を通じて蓄積できるシステムを構築した。1列車・1変電所という基礎的な条件で検証試験を行い、設備正常時において車上・地上の双方の電流値を精度良く照合可能であること、100A程度の高抵抗地絡を模擬した試験において、開発した地絡検知アプリにより1分以内に地絡検知可能であることを確認したので報告する。

<参考文献>
・森本大観,樋口靖展,赤木雅陽:大電流のアークを伴う直流高抵抗地絡の検出手法,鉄道総研報告,Vol.34,No.9,pp.41-46,2020
・流王智子,河村裕介,羽田明生,栗田いずみ:分野をまたがる鉄道メンテナンスデータの統合分析プラットフォームの開発,鉄道総研報告,Vol.36,No.8,pp.51-56,2022

発表者
電力技術研究部 き電研究室 主任研究員  赤木 雅陽

14:35~15:00
カルマンフィルタによる架線・パンタグラフ間の接触力推定手法

 架線・パンタグラフ間の接触力は、集電性能を評価する上で重要な指標である。従来の接触力測定手法では、パンタグラフ舟体に生じる加速度と歪に校正係数を乗じることで接触力を求めるが、校正係数の同定誤差や変動、および加速度・歪の計測誤差に起因して測定精度が低下する場合がある。そこで、パンタグラフの解析モデルに基づく接触力推定手法として拡大状態方程式に基づくカルマンフィルタを適用した。本発表では、シミュレーションと加振試験に基づいて手法の妥当性を検証したので報告する。

発表者
鉄道力学研究部 集電力学研究室 主任研究員  小林 樹幸

15:00~15:20
休憩

15:20~15:45
実フィールドにおけるトロリ線の摩耗形態調査結果

 トロリ線やすり板など集電材料の摩耗低減対策を提案するためには、摩耗現象の解明が重要である。これまで定置試験により摩耗形態の細分化やその発現条件が解明されているが、その妥当性確認には実フィールドとの整合性をとる必要がある。そこで、駅構内を含む実フィールドから撤去したトロリ線について、摩耗形態とその発現条件について調査した結果、定置試験で観察された摩耗形態とほぼ同様であることを確認した。本発表では、実フィールドの摩耗形態と各摩耗形態が発現する速度条件について報告する。

<参考文献>
・山下主税:通電下における集電材料の摩耗メカニズム,鉄道総研報告,Vol.31,No.2,pp.35-40,2017
・山下主税,根本公紀:摩擦熱に起因するトロリ線とすり板の機械的摩耗形態の分類,鉄道総研報告,Vol.35,No.12,pp.11-16,2021

15:45~16:10
張力調整装置の伸縮量増大に関する現象解明

 電車線が受ける外力や温度変化に伴う張力調整装置の伸縮が可動限界に達すると、適切な張力を維持できなくなる可能性がある。従来、張力調整装置の伸縮量が増大する現象について様々な検討がなされているが、より精度の高い現象解明が望まれている。そこで、数値計算により電車線路設備の各種条件が張力調整装置の伸縮量へ与える影響を定量的に評価する手法を提案し、現地試験によりその妥当性を確認した。これにより、張力調整装置の伸縮量を増大させる要因およびその程度を明らかにしたので報告する。

発表者
電力技術研究部 電車線構造研究室 副主任研究員  佐藤 宏紀

16:10~16:35
深層学習モデルを用いた電車線金具の異常検出手法

 電車線の保全につながる外観検査の効率化には、車両屋根上に搭載したカメラで取得した電車線画像の活用が有効である。特に設備点数が多い電車線金具の異常は、ボルト脱落など局所的なものが多く、異常検出の精度向上が求められている。そこで、電車線画像から金具の検査対象部位を抽出したうえで、深層学習モデルを用いて局所的な異常を検出する手法を提案した。所内において4種類の形状異常を模擬した電車線金具の画像に対して本手法を適用し、90%以上の精度で異常検出が可能であることを確認したので報告する。

<参考文献>
・根津一嘉,松村周,網干光雄,庭川誠,川畑匠朗,田林精二:ステレオ画像計測とレーザー測距を併用した架線の非接触位置測定手法,鉄道総研報告,Vol.28,No.10,pp.29-34,2014
・松村周,根津一嘉,薄広歩,川畑匠朗,渡部勇介:電車線非接触測定装置の在来線車載試験による性能検証,鉄道総研報告,Vol.34,No.9, pp.11-16, 2020
・松村周,根津一嘉:画像とレーザーを用いて電車線を検測する,RRR,Vol.74, No.7, pp.16-19, 2017

発表者
電力技術研究部 集電管理研究室 主任研究員  松村 周 

16:35~17:00
支線と架空電線による高架橋上に設置された電柱の地震対策

 高架橋上の電柱の地震対策の1つに、線路両側の電柱をビームで接続する門形化がある。門形化は、線路直角方向の振動低減には効果があるものの、ビームの質量が付加されることで線路方向の電柱固有周期が長周期化して高架橋と共振し、電柱に作用する荷重が大きくなる恐れがある。そこで、線路方向の電柱地震対策として、電柱に支線を設置するとともに、架空電線を電柱に剛結支持して電柱の固有周期を短くし、高架橋との共振を抑制する手法を提案したので報告する。

発表者
電力技術研究部 電車線構造研究室 主任研究員  常本 瑞樹

※本発表会の資料の著作権は鉄道総研に帰属します。
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