電力ニュース

2022年12月号

気象情報・地形情報を用いたがいし汚損度推定手法(その2:精度検証結果と手法の活用例)

 前号の電力ニュースNo.119(2022年9月号)で、明かり区間におけるがいし汚損度推定手法の推定アルゴリズムをご紹介しました。今回は、本手法の推定精度検証結果と活用例をご紹介します。

 鉄道総研の勝木塩害実験所におけるがいし汚損度の実測値と推定値について、発生確率をプロットしたものを図1に示します。また、一般的に設備の汚損区分を決定する目安である発生頻度5%の汚損度1)と、対応する汚損区分を示します。同図から、実測値の近似直線を引き、近似直線の発生頻度5%となる汚損度(図1の黒い□)と、推定値から求めた発生頻度5%汚損度(図1の赤い□)が概ね一致することを確認しました。さらに、別の地点(太平洋側に面する湾岸)においても実測値および推定値の発生頻度5%汚損度が概ね一致することを確認したことから、本手法は任意区間の汚損区分設定に適用できる推定精度を有するものと判断しました。

 本手法の活用例として、モデル線区の汚損区分を細分化したものを図2に示します。現状では全ての区間で「塩害地区」と設定されているところを、図2の右側に示すように、汚損度の実態に合わせて汚損のリスクが低い箇所(ここでは中汚損区間と表記)と高い箇所(特殊区間と表記)、というように区分を細分化することができます。これにより、例えば、汚損のリスクが低い箇所はがいしの清掃周期を延伸する、汚損のリスクが高い箇所はがいし磁器部に撥水剤を塗布する、などといったがいし汚損の実情に合った耐汚損設計や保全を行うことが可能となります。

[参考文献]

  • 1) 電気協同研究会:配電設備の耐塩性向上対策、電気協同研究、第51巻、第3号、1996

(記事: 集電管理 臼木 理倫)

回生電力吸収と余剰PV電力吸収を両立する地上蓄電装置の制御

 電力ニュース2021年12月号でお伝えしたように、「2050 年までに脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現」の目標が掲げられ、2030年の電源構成の見通しとして、従来20~22%程度の目標であった再生可能エネルギー(以降再エネ)の比率が36~38%程度に引き上げられました。鉄道電力分野においても太陽光発電(PV)の余った電力を積極的に受け入れるなど、再エネのさらなる活用を図ることが不可欠と考えられます。一方、現在のところ、直流電気鉄道で導入されている地上蓄電装置は、主に回生電力吸収を意図した省エネのために導入されていますが、これに加えて余剰PV電力を吸収しやすいように制御することで、さらなる鉄道の低炭素化に貢献することが期待されます(図1)。

 そこで、回生電力吸収と余剰PV電力吸収の両立を図る地上蓄電の新たな制御方式を検討しました。今回提案するのは、図2に示すように、従来のき電電圧に応じた従来の充放電制御に加え、(1)交流側からの充電制御、(2)充電率(以下SOC)の調整機能を付加する方式です。

 電圧が充電開始電圧 (Vc)よりも高くなると電車の回生電力が生じたと判断して充電、逆に電圧が放電開始電圧 (Vd)よりも低くなると電車加速が生じたと判断して放電する点は従来と同様です。電圧が高くもなく低くもない状態、すなわち従来における待機状態において、余剰PV電力を交流側から充電するように制御します。また、蓄電装置のSOCを適切に制御するため、予め定めた目標のSOCよりも高い場合はVdを上げることにより放電を促し、逆に目標のSOCよりも低い場合はVdを下げることにより放電を抑制します。

 提案制御の効果について、通勤線区を意図したモデル線区に2MWのPVと6MWhの蓄電装置、提案制御を適用した場合の運転電力シミュレーションを行いました。結果例を図3に示します。蓄電装置の実績SOCは余剰PV電力の充電を意図した目標SOCに従って推移し、提案制御が有効に機能しています。また、蓄電装置の充放電電流は、従来の回生・力行に伴う充放電と日中の余剰PV電力の充電とが重畳した波形となります。

 回生電力吸収量は従来制御と提案制御の両者とも同様の結果でした。一方、従来制御では余剰PV電力は3MWhで蓄電装置がない場合とほぼ同様であるのに対し、提案制御では1.3MWhとなり、1.7MWh(57%)のPV電力積極活用(=化石燃料由来電力の使用の削減)につながりました。

 今後も低炭素化に資する鉄道電力システムの検討を進めていく予定です。

(記事: き電 小西 武史)

在来線パンタグラフの横風揚力特性に着目した割り込み事故防止策

 パンタグラフが走行中に強い横風を受けた際に割り込み事故が発生する場合があります。本稿では、その要因として横風を受けた場合のパンタグラフ揚力(以下、揚力)の増加に着目し、割り込み事故と揚力の関係、および、割り込み事故防止策について検討した結果をご紹介します。

 図1に風洞試験において在来線パンタグラフの揚力特性を確認した結果を示します。図1(b)は、走行速度を60km/hに固定したうえで、様々な地形条件を想定した側方からの吹上角φ(以下、横吹上角)を設定して、横風風速に対して揚力をプロットした結果を示しています。ここで、揚力の限界値は電力ニュース118号(2022年4月)に掲載した方法を用いて、一般的な直線区間の風速30m/sにおけるトロリ線偏位を当てはめて算出した値を記載しています。本図より、横吹上角φによっては、運転規制風速以下の風速においても、揚力が限界値を超過する場合があることがわかります。また、図1(c)は舟体の有無による揚力の比較図を示していますが、本図より、舟体の影響により大きな揚力が発生していることがわかります。

 次に、横風により揚力が増加するメカニズムについて、流れの数値シミュレーションにより検討を行った結果を図2に示します。ここで、風向角は走行速度60km/h、横風風速25m/s、横吹上角15°に相当する角度に設定しています。上段図より、横風による揚力増加は、舟体底面で流れがよどむことによる圧力上昇に加えて、舟体上面に発生する強い斜め渦の影響で局所的な圧力低下が生じることが原因であることがわかりました。そこで、その対策として、舟体上面に開口部を設ける対策を適用した結果、下段図のように開口部を貫通する流れによって、舟体底面側の圧力上昇が緩和されるとともに、舟体上面側の斜め渦の生成が抑制され圧力低下を抑えられることがわかりました。この結果を踏まえ、風洞試験において実物大の舟体模型に本対策を適用して揚力測定を実施した結果、図3に示すように横風がない通常走行時の揚力には影響を与えることなく、横風を受けた場合の揚力を効果的に低減できることを確認しました。本対策はパンタグラフ側で実施可能な強風時の割り込み事故防止策として有効な対策であると考えています。

(記事: 集電力学 光用 剛)

国内外のトロリ線中間接続について

 トロリ線が局所的に摩耗した際に、在来線では摩耗箇所を部分的に張替えて中間接続を設けています。一方、新幹線では中間接続を設けずドラム全体を張替えるため、修繕コストの削減が課題となっています。これに向けて、鉄道総研では新幹線用トロリ線の中間接続について検討を進めています。ここでは、国内外の中間接続について調査した結果と所内試験での基礎検討結果について報告します。

 国内外の中間接続の動向を表1に示します。国内の在来線におけるトロリ線の接続工法は、ダブルイヤー接続、スプライサ接続、常温圧接(プロテクタ金具併用)があります。新幹線の本線では中間接続を設けないことになっています。フランス国鉄(SNCF)の高速線では2010年以前にスプライサ接続を行っていましたが、スプライサ箇所でのトロリ線疲労破断等を経験し、ドラム全体の張替に切り替わりました[1]。また、スペイン国鉄(RENFE)では1992年の高速線の開業以来、2010年時点で張替実績がなく、張替基準も作成されていないようです[1]。パンタグラフに純カーボンすり板を使用しているため、トロリ線の摩耗が少ないことが背景としてあります。

 現在、海外含め高速線では中間接続を設けていませんが、中間接続の導入は修繕コスト削減に有効であると考えており、鉄道総研では高速線への導入に向けた課題を整理しています。接続箇所では、接続金具による局所的な質量増加や剛性変化に加えて、新旧トロリ線突き合わせ箇所のしゅう動面凹凸や施工時に形成させるトロリ線の屈曲等が生じ(図1参照)、これらが複合的にトロリ線ひずみや離線等の集電性能に影響すると考えられます。

 まず基礎検討として、金具質量の影響を確認するため、所内集電試験装置にて、トロリ線にスプライサ接続を想定した付加質量(1.8kg)を加えて走行試験を行いました(図2参照)。図3に、走行速度200km/hにおける取付位置毎のトロリ線ひずみの測定結果を示します。付加質量を加える(付加質量無:黒×マーカに対し、付加質量有:赤丸マーカの結果を比較する)とひずみが増加し、取付位置が支持点手前5mの時に最大のひずみを記録しました。また、支持点を挟んで±5mに1点ずつ付加質量を取り付けた場合(緑菱形マーカ)も測定し、各位置に単独で取り付けた場合と比べ、ひずみが微増することを確認しました。

 トロリ線ひずみは、走行速度200km/hから急に増加する傾向があり、今後、トロリ線凹凸による影響等、多様な観点から中間接続の検討を進め、適用可能区間を明らかにしていきます。

[参考文献]

  • [1] TER 編:鉄道における環境に配慮した電車線のメンテナンスに関する調査報告、電気学会技術報告第1235 号、p.12-13、(2011)

(記事: 電車線構造 中島 祐樹)

【ワンポイント講座】電車線コネクタのひずみ周波数特性

 電車線コネクタ(以下、コネクタとよびます)のリード線には軟銅より線や平編銅線などの曲がりやすい電線が用いられていますが、リード線が繰り返し曲げられるために課題となっているのが疲労です。列車通過などに伴う架線振動によってリード線の疲労が進むと素線切れが生じ、最悪の場合は断線してしまいます。この講座では、コネクタに加わる振動の周波数とその際に生じるリード線のひずみの関係について紹介します。

 何らかの物理量と振動周波数の関係を周波数特性と呼びます。コネクタリード線ひずみの 周波数特性は、コネクタの「形状」によって異なります。ここで、形状にはコネクタの種類やコネクタの高さ(トロリ線イヤーからちょう架線クランプまでの距離)などが該当します。周波数特性は、トロリ線把持部に正弦波振動を加えたときのリード線ひずみと周波数の関係を、構造解析や実験を用いることで求めることができます。図1は、コネクタの種類によるひずみ周波数特性の比較であり、図2は同じ種類のコネクタでも高さが異なる場合のひずみ周波数特性比較です。これらの図より、リード線のひずみ応答値は複数のピークを持ちますが、ピークが発生する周波数や大きさは種類や高さなどの形状によって変化することがわかります。これは、リード線の長さや勾配などで固有振動数やばね定数が変化するためです。

 図1や図2は鉛直方向の振動に対するひずみ周波数特性ですが、水平方向の振動についても別の周波数特性があります。現状のコネクタは、これらの周波数特性を考慮して設計されていませんが、様々な周波数の振動が発生する現場において耐疲労性を発揮するためには、ひずみのピークがどの周波数にあるかを把握しておくことが大事と考えます。

[参考文献]

  • 1) 小原拓也、山下主税:令和4年電気学会全国大会講演論文集、5-142、pp.238-239 (2022)

(記事: 集電管理 小原 拓也)