施設研究ニュース

2019年8月号

既設無塗装橋梁における補修・補強部材の 高力ボルト摩擦接合方法

1.はじめに

 無塗装橋梁とは耐候性鋼材を使用した橋梁です(図1).耐候性鋼材は,鋼材表面に環境遮断機能を有する緻密なさび層を形成し,そのさび層が腐食の進行を抑制する特殊な鋼材です.無塗装橋梁は塗装の塗替えが不要であるため,メンテナンスフリーと流布されたこともありましたが,実際には一般の橋梁と同様に変状が生じるため,適切な維持管理が必要です.無塗装橋梁が鉄道において供用されはじめてから40年が経過し,近年,一部の橋梁において疲労き裂等の変状が生じ始め,特に補修・補強のニーズが高まっています.

 鋼橋梁において,疲労き裂等の変状に対し補修・補強部材を接合する場合は,一般に,現場での施工管理のしやすさから高力ボルト摩擦接合を使用します.高力ボルト摩擦接合を用いる際は,接合面に存在するさび層を完全に除去し鋼素地を露出させる必要があります.しかし,耐候性鋼材の内層さび(図2)は非常に硬く,大掛かりな機材を用いても完全に除去することが困難です.そこで,耐候性鋼材の内層さびを除去せずに,その内層さびを活用して補修・補強部材を高力ボルト摩擦接合する方法を開発しました.

2.高力ボルト摩擦接合に「活用できるさび」と「活用できないさび」

 耐候性鋼材の内層さびには,高力ボルト摩擦接合に活用できないさびもあります.耐候性鋼材のさびは,飛来塩分の多い環境や,常時湿潤する構造部位では,期待したさび層が形成されないことがあるため,環境や部位ごとに状態が異なっています.状態の良いさびを形成した耐候性鋼材の内層さびは,凹凸が小さく,平滑で硬いという特徴があるのに対し,状態の悪いさびを形成した耐候性鋼材の内層さびは,凹凸が大きく,板厚が減耗しており,脆いという特徴があります.凹凸が大きく,脆いさびを接合面に用いる場合は,必要な接合部の耐力を確実に確保することは困難です.したがって,高力ボルト摩擦接合に活用できるさびは,状態の良いさびを形成した耐候性鋼材の内層さびである必要があります(図3).「さび外観評点」1)を用いることで,耐候性鋼材のさびの外観から,さびの状態の良し悪しを判断することができます.

3.耐候性鋼材の浮きさび除去

 耐候性鋼材のさび層は浮きさびと内層さびで形成されています(図2).内層さびの表面に存在する浮きさびは非常に脆いため,接合部の耐力を低下させる可能性があります.したがって,高力ボルト摩擦接合に内層さびを活用するためには,浮きさびを除去する必要があります.
 浮きさびの除去にはカップブラシを用います(図4).カップブラシを用いることで,容易に施工ができ,施工者の技量によらず,一定の品質で内層さびを露出することが可能となるためです.

4.補修・補強部材の接合面処理とすべり係数

 すべり係数とは,接合部の耐力の算出に必要な係数であり,接合面処理方法により異なります.したがって,必要な接合部の耐力を確保するためには,適切な接合面処理とすべり係数の把握が必要となります.補修・補強部材の接合面には,無機ジンクリッチペイント(以下,無機ジンクという)の塗布,またはブラスト処理を行います(図5).

 一般に補修・補強部材を工場で製作する場合には無機ジンクを適用しますが,補修・補強部材を現場で加工する場合にはブラスト処理を適用する場合もあります.無機ジンクの塗布,またはブラスト処理により得られるすべり係数を図6に示します.接合面にブラスト処理を行う場合は,部材表面にさびが生じるほどすべり係数が低下する傾向にあるため,部材表面にさびを生じさせないように管理する必要があります.

 状態の悪いさびを形成した耐候性鋼材に高力ボルト摩擦接合を行う場合は,接合面の内層さびをすべて除去する必要があります.補修・補強部材の接合面には,無機ジンクまたはブラストに接着剤を併用する必要があります(図5).このときのすべり係数は0.4~0.6程度2)となります.

5.内層さびを活用した高力ボルト摩擦接合の耐久性

 内層さびを活用した高力ボルト摩擦接合の耐久性は,経年により向上する傾向にあります(図7).耐久性向上の理由は,経年により接合面のさびが進行し,接合面がよりすべりにくい状態に変化するためです.

6.まとめ

 内層さびを活用した高力ボルト摩擦接合方法を紹介しました.この方法は,耐候性鋼材の内層さびの除去を不要とするため,従来よりも手間とコストの削減が可能な方法です.

参考文献

1)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)鋼・複合構造物pp.152-153
2)名取他:腐食部材の添接板補強に関する研究,土木学会論文集,No.682/I-56,pp.207-224,2001

執筆者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 金島篤希
担当者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 小林裕介,岡本大

慣性正矢軌道検測装置の光飛び対策法の開発

1.はじめに

 慣性正矢軌道検測装置は実用化されて,およそ10年が経ちます.図1に示すように,本装置は検測ユニットを車両の台車や車体に適切に設置することで軌道変位を測定できます.そのため,軌道検測車のような専用車ではなく,営業車両を用いた高頻度な軌道変位の測定および検査が可能となります.一方で,検測ユニットとレールとの相対変位の測定には,レーザ変位計と反射鏡とで構成された2軸レール変位検出装置(以下,「2軸変位計」という.)を使用していますが,伸縮継目や分岐器の測定と降雨・降雪などの気象条件下での測定では,レールを適切に検知できなくなる「光飛び」という現象が発生して,正確な軌道変位を測定できないことがあるという課題があります.

 そこで本研究では,2軸変位計に使用されているセンサの詳細な挙動を測定・分析し,ソフト対策として,光飛びの発生や測定値への影響を小さくするセンサの制御方法を開発しました.また,降雨・降雪の条件で2軸変位計への水滴等の付着による光飛びを想定し,ハード対策として,既存の装置に着脱可能な汚れ防止カバーを提案しました.

2.2軸変位計の制御方法と光飛びの発生要因

 本装置の検測ユニットには,図2に示すようにセンサが内蔵されており,ジャイロと加速度計により検測ユニットの空間上の位置を求め,2軸変位計により検測ユニットとレールとの相対位置を求めることで軌道変位を測定しています.

 2軸変位計は反射鏡の角度を1 ms(1000Hz)ごとに制御することで,車両の走行に伴って検測ユニットとレールとの相対位置が変化した場合でも,レールの決められた位置を追従し,上下変位,左右変位を求めます.ただし,2軸変位計の追従動作において,レーザの光路に介在物が存在する場合や,レールを追従できなくなった場合を想定して,①ホールド処理(一定時間反射鏡を固定してレール検出後に制御動作を復帰)と②スキャン処理(ホールド処理後に反射鏡の角度を変化してレールを探す)の制御を行っています.

 光飛びの発生箇所や条件を整理するために,0.25 m間隔の軌道変位データを分析した結果,伸縮継目・分岐器では,レールの形状変化を追従している過程で発生することが確認されたため,センサの制御方法を見直すことにしました.また,降雨・降雪時の光飛びの多くは,図3に示すように2軸変位計の測定窓部のレーザを投受光するガラス面に付着した水滴や汚れの影響によると考えられたため,付着防止を目的とした汚れ防止用カバーを検討しました.

3.センサの制御方法の開発(ソフト対策)

 センサの制御方法を見直すために,検測ユニット内に新たにデータロガーを設置して,伸縮継目や分岐器を測定する際の2軸変位計のセンサの動作を高サンプリングで測定しました.分析結果の一例として,伸縮継目や分岐器のレールの形状変化箇所における光飛び発生時のセンサの挙動を図4に示します.レールの形状変化箇所での追従動作中に,レーザがレールを乗り移る地点で,変位計の出力が変動したデータをホールド処理しており,ホールドのタイミングが適切ではないために光飛びが発生していることがわかります.

 このように2軸変位計のセンサの挙動を分析し,センサ制御方法について,①測定値に対するメディアンフィルタの適用,②ホールド処理の改良,③スキャン処理の改良などを行いました.運用中の装置に制御方法を実装して効果を確認した結果,図5のようにホールド処理を適切に行うことで,測定値への影響は改善され,レールの形状変化箇所での光飛びの発生を8割程度減少できることがわかりました.

4.汚れ防止カバーの開発(ハード対策)

 降雨・降雪時の光飛びの対策として,現在の車体装架型装置の2軸変位計のレーザ投光部の構造を変更することなく,ガラス面への汚れの付着を防止する方法として,図6に示すようなレーザの光路のみを開口部とする汚れ防止カバーを製作し,流体シミュレーションと風洞試験により走行時における内部の風向と流速を確認しました.

 2軸変位計の構造A(上下変位の測定窓部)について,汚れ防止カバー設置前後の流体シミュレーションと風洞試験の結果の比較を図7に示します.その結果,汚れ防止カバーを設置することにより,測定窓部内の流速は低下し,風向はガラス面から外側に向かうように改善されており,光飛びを抑制する効果が期待できることがわかりました.

5.おわりに

 本研究では,慣性正矢軌道検測装置で発生している光飛びの発生を抑制するために,ソフト面とハード面の対策を開発しました.ソフト対策については,既存の装置に順次実装を進めているところです.また,ハード対策については,軌道検測に非接触のレーザセンサを用いる場合は類似の光飛び現象が生じる可能性があるため,今後の装置設計において紹介した方法で検討することにより,軌道検測の信頼性を向上したいと考えています.

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 坪川洋友
担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 石川智行,須藤雅人

S型弾直軌道の設計・施工の手引き

1.はじめに

 鉄道総研が2016年度に開発した図1に示すS型弾性まくらぎ直結軌道(以下,「S型弾直軌道」とする.)は,コンクリート道床の肩部を不要とするスリムな形状を特徴としています.これは,まくらぎの側面に設けられている突起(せん断キー:Shear Key)によって,横圧などの横方向の荷重を支持できるためです.また,短繊維補強コンクリートをコンクリート道床に用いることで,ずれ止め筋以外の補強鉄筋が不要なこと,さらに型枠の設置が容易なことも特徴として挙げられます.これらの特徴を有していることから,S型弾直軌道では施工コストの低減と施工期間の短縮が可能となっています1)

 S型弾直軌道を新設する際には,鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造(以下,「軌道標準」とする)2)に準じた性能照査を行うものとしています.また,S型弾直軌道を施工する際の「型枠の固定方法」,「ずれ止め筋の設置位置」,「コンクリートの取り扱い」等は,従来の弾性まくらぎ直結軌道と異なります.そこで,S型弾直軌道の設計および施工の参考となるように,新たに設計・施工の手引きを作成しました.ここでは,本手引きに示されている性能照査について概要を紹介します.

2.コンクリート道床の性能照査の概要

 S型弾直軌道に限らず,新しく軌道を新設する場合には,軌道標準に準じて安全性および使用性の性能を照査する必要があります.軌道標準では,軌道部材の性能を個別に照査することで,軌道構造としての性能も照査したものとしてよいとしています.S型弾直軌道でも同じ考え方に則り,コンクリート道床に対して個別に性能を照査しています.性能照査の手順は図2に示す通りであり,作用によって生じる設計応答値が,材料の強度特性から求まる設計限界値以下である場合,性能を満足するものとしています.

 コンクリート道床に対する性能照査の具体的な方法は,本手引きの付属資料に掲載されている試設計に示されています.試設計の条件は表1に示している通りであり,例えば輪重,列車本数,環境条件などを施工する区間の条件に応じて適宜修正することで,性能照査を行うことが可能です.

3.コンクリート道床の設計限界値の算出

 試設計の条件を新設する区間の条件に変更することで,S型弾直軌道のコンクリート道床の性能照査が可能であると2章で紹介しました.しかし,実際にはコンクリート道床の設計破壊耐力および設計ひび割れ耐力はコンクリート道床の厚さ,まくらぎ間隔およびまくらぎ幅によって変化するため,個別に算出する必要があります.本手引きでは,ひび割れの進展を考慮した図3に示すような解析モデルを用いた非線形有限要素解析を用いて上述した耐力を算出しています.

 ただし,非線形有限要素解析を実施するには,時間と労力が必要です.そこで,まくらぎ間隔とまくらぎ幅を組み合わせた3ケースに対して,コンクリート道床の厚さを80mm~380mmとした非線形有限要素解析を事前に実施しました.ここで,まくらぎ間隔は,表2に示すようにレール締結装置の性能照査の条件によって定められるものです.また,まくらぎ幅は用いるレール締結装置によって決定されます.

 非線形有限要素解析で得られた結果は,一覧として本手引きの付属資料にまとめています.解析結果の一例として,e1883(座面式)に対するレール直角方向(目地部)の耐力と道床厚さの関係を図4に示します.道床厚さが80mm~380mmの範囲内であれば,図4に示した耐力と道床厚さの関係から,線形補間により,容易に耐力を算出することができます.

4.おわりに

 S型弾直軌道の手引きに記載されている設計方法について概説し,コンクリート道床の性能照査を簡易に行えることを紹介しました.施工編には,S型弾直軌道を施工するための手順や詳細等が示されています.本手引きを参照いただき,S型弾直軌道の導入の一助になれば幸いです.

参考文献

1)谷川等:施工が容易で低コストなS型弾性まくらぎ直結軌道の開発,鉄道総研報告,Vol.31,No.12,pp.23-28,2017.12
2)国土交通省鉄道局監修 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造,2012

 本研究は,国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 高橋貴蔵

発行者:楠田 将之 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:相川 明  【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 軌道力学】