施設研究ニュース

2022年10月号

Web版PCまくらぎ化計画策定ツールの開発

1.はじめに

地域鉄道や下級線区,側線などに多く存在する木まくらぎ構造を有するバラスト軌道では,まくらぎやレール締結装置の連続不良に伴う動的な軌間拡大により,軌間内脱線が発生することがあります.鉄道事業者によっては長年使用されている木まくらぎが数多く敷設されていることなどから,軌間内脱線は近年においても度々発生しており,この軌間内脱線の防止策の1つとして PCまくらぎ化(木まくらぎのPCまくらぎへの交換)が促進されています1). このような背景から,鉄道総研ではこれまでにPCまくらぎ化の計画を検討・策定可能なデスクトップ版ツールを開発し1,2),地域鉄道事業者を中心にご利用いただいてきました3).しかし,開発したツールは,データベースシステムを使用することなどから,初めて操作する方やコンピュータの専門知識がない方にはインストールや操作が難しく,実用展開に向けた大きな障害となっていました.そこで,このような問題を解消するために,既開発ツールのWeb版を開発したので紹介します.

2.Web版PCまくらぎ化計画策定ツールの概要

図1に開発したWeb版ツールのシステム構成を,図2に画面の一部を示します.ユーザ(ツール使用者)は,検討条件を定義するcsvファイルをWebブラウザ上で選択することで,次章に示すPCまくらぎ化計画に関する検討結果を得ることができます.本ツールでは,既開発のデスクトップ型ツールのデータベースシステムの一部を利用して,まくらぎや締結装置,レール等の軌道構造物の諸元値や,代表的な車両の諸元値等は予め設定されます.さらに,事業者固有の軌道構造物や車両の諸元値に関しては,ネットワーク外から見えないように,ツールの利用者が任意に追加できるようにしました. 開発したツールは,Webサーバに設置することで,ユーザは特別なインストール作業を必要とせず,インターネットに接続されたパソコンのWebブラウザから利用可能とする予定です.また,本ツールは,Windows Serverを含むWindows系OSを動作環境としており,セキュリティ面で不安と考えるユーザを想定して,既存のデスクトップ版と同じようにインターネットに接続されない1台のパソコン内での完結した動作も可能です.ほかにも,社内等のローカルネットワークを介することにより,本ツールを1台のサーバPCにインストールすることで,同一ネットワーク内の各PCではインストール作業をすることなく利用することができます.

3.PCまくらぎ化計画策定ツールの機能

PCまくらぎ化計画策定ツールには,デスクトップ版とWeb版に共通して「①PCまくらぎ化の優先度算定・曲線選択」,「②部分PCまくらぎ化割合の検討」の機能があります. 図3に,「①PCまくらぎ化の優先度算定・曲線選択」の機能における,PCまくらぎ化の優先度算定および曲線選択の考え方を示します.線形諸元,軌道構造等の軌道側条件や,車両・運転条件を入力し,『鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造』のバラスト軌道の設計法における4つの安全性の照査指標から,安全性評価の結果である優先度を曲線別に算定します(図4). 「②部分PCまくらぎ化割合の検討」の機能では,木まくらぎの連続不良本数と軌間拡大量の関係から,部分PCまくらぎ化(数本に1本の割合で行うPCまくらぎ化)におけるPCまくらぎの割合を検討することが可能です(図5).

4.おわりに

開発したツールは鉄道技術推進センターのサイト上で公開予定です.本ツールの活用等に関する技術支援も受け付けていますので,ご興味のある推進センター会員様は,推進センターまたは下記担当までお問合せ下さい.

参考文献

1) 運輸安全委員会:運輸安全委員会ダイジェスト第28号,https://www.mlit.go.jp/jtsb/bunseki-kankoubutu/jtsbdigests/jtsbdigests_No28.html(最終アクセス日2022年9月2日) 2) 三和雅史,金丸清威,片山雄一朗:木まくらぎ軌道のPCまくらぎ化計画を支援する,RRR,Vol.74,No.9,pp.20-23,2017 3) 鉄道総合技術研究所 鉄道技術推進センター:鉄道技術推進センター報2019年9月号,No.135 ※鉄道技術推進センター会員は会員用サイトから閲覧可(https://www.rtri.or.jp/tecce/)

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 昆野修平 担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 斉藤大樹

気象レーダーを利用した雨/雪及び雪の乾/湿の推定

1.はじめに

鉄道の雪害は大雪の時にのみ発生するわけではありません.雪害の種類によってはその性状(乾いているか,湿っているか)によって発生のしやすさが変わることが知られています.例えば架線やパンタグラフへの着雪は湿った雪が降っているときに発生しやすいといわれています.このため首都圏や京阪神など豪雪地帯に指定されていない地域では,少ない降雪であってもパンタグラフへの着雪等により大きな輸送障害が生じることがあります.首都圏のような非豪雪地域での降雪は気温0 ℃付近で降ることが多いため,雨か雪か,あるいは雪の中でも湿っているか乾いているか判別することは,雪の性状によって発生しやすい雪害に備えるために重要となります. 現在行われている雨/雪または雪の乾/湿の判別は,簡易的に気温による閾値が利用されています(例えば0℃未満は乾いた雪,0~1℃は湿った雪,1℃以上は雨など).しかし,実際には気温だけでは雨か雪か,あるいは雪が乾いているか湿っているかを判別することはできません.これは,厳密には上空から降ってくる雪片の大きさや,落ちてくる間の熱収支によって,降水粒子が融けきっているか,あるいはどの程度まで融けているかが決まるためです.そこで,地上だけでなく上空の降水粒子を観測して,雪片が融け始める高度(0℃高度)を推定することが重要となります.本研究では上空の降水粒子を観測できる気象レーダーを利用して,その観測値から0℃高度を推定し,落下中の融解過程の計算を行うことで雨/雪および雪の乾/湿を判別する方法を開発しました1)

2.開発した手法

本研究で開発した手法では,①上空の0℃高度を気象レーダーを利用して推定し,②雪片の融解モデル2)で0℃高度から落下する雪片の融解を計算することで地上での降水の形態(雨/雪,雪の乾/湿)を求めます(図1).②のモデルを計算するために①で推定する0℃高度が必要となります. 気象レーダーは上空に浮かぶ降水粒子(雨粒や雪片など)を探知する観測機器で,ある仰角をもって水平方向にアンテナを回転させて情報を取得します.レーダーから離れるほど高い高度を観測するため,降水が雪から雨に変わる層(融解層)を電波が通過するところで,観測値の分布に「ブライトバンド」とよばれる特徴的なドーナツ状の領域(図2)が見られます.図2はレーダー反射強度の分布に現れたブライトバンド(暖色系の領域)の例です.この特徴を示す高度を検出することで,降水粒子が融解している高度(融解層)とその上端(0℃高度)を推定します. 気象レーダーで推定した0℃高度を入力値とすることで,雪片の融解モデル2)の計算が可能となります.このモデルでは,0℃高度から落下する雪片と周囲の大気との熱収支を解くことで,地上での重量含水率(粒子の重さにおける水の割合,以下,含水率)を求めることができます.含水率が1であれば全て雨滴,0であれば全て乾いた雪,その間は融解中の粒子(湿った雪)が混ざっていることを示します.これにより地上での降水の形態を,含水率を使って定量的に表現することが可能となります.

3.地上での降水粒子の観測と検証

開発した手法の検証のため,降水粒子の画像を取得して種類ごとに個数や形状に関する情報を得ることができる機器3)を使用し,観測を実施しました.図3に取得した降水粒子の画像の例(a,b,c)と,5分間ごとの全粒子の個数に対する種類(雨滴,融解粒子,雪片)ごとの割合(d)を示します.例に示した画像では,図3 (a)は雨滴,(b),(c)は固体降水(雪)であることが分かります.また,(b),(c)は輪郭の滑らかさから(b)が融解粒子(湿った雪),(c)が雪片(乾いた雪)へと分類できます.この事例では,すべての時刻で気温は0~1 ℃であったため,先述した気温だけの判別では全て湿った雪であると判定されることとなります.しかし,実際には雨,湿った雪,乾いた雪の占める割合が時間帯によって大きく変化していたことが明らかになりました(図3(d)). この事例を対象に,気象レーダーによる0℃高度の推定,およびそれを入力値とした雪片の融解モデルの計算を実施し,地上での降水粒子の含水率の時間変化を求めました(図4). 21:00~22:00は雨であったものが22:00以降湿雪となっていることが確認できます.図3(d)の個数の割合と直接比較できるものではありませんが,定性的には降水の種別の変化を示せていることが確認できました. このように開発した手法を利用することで,気温だけを利用する方法に比べて詳細にかつ量的に地上での雨/雪および雪の乾/湿の判別が可能となりました.これによって雪害対策の実施要否の判断などを的確に行うことが期待できます.

参考文献

1) 高見ら:冬期の降水形態の判別を目的とした偏波レーダーを用いた 0℃ 高度推定手法. 土木学会論文集 B1 (水工学),76(2), I_205-I_210,2020 2)Suzuki et al.:Microphysical features of solid/melting particles by ground-based direct observations for the GPM/DPR algorithm development. In 2016 IEEE IGARSS) (pp. 3941-3944),IEEE,2016 3) Matsuo, T.,& Sasyo, Y.:Melting of snowflakes below freezing level in the atmosphere. Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II, 59(1), 10-25,1981

執筆者:防災技術研究部 気象防災研究室 高見和弥

可動式ホーム柵支持部の設計の手引き及び設計計算例

1.はじめに

従来,ホームドア等の支持部の設計は,明確な基準がなく,鉄道事業者の判断に委ねられてきました.今後,更なるホームドア等の普及促進には,合理的な設計の知見やノウハウの共有が必要です.特に,腰高の可動式ホーム柵(以下,ホーム柵)は,機器底部を既設ホームに固定する片持ち構造で,想定する群集推力等の外力がホームの補強を左右するため,実態に即した外力の設定が必要とされてきました. こうした背景から,設計実務がより適切・効率的に行われるように,ホーム柵の使用環境も踏まえた合理的な設計手法を検討するため,令和2年8月に国交省及び鉄道総研が事務局として,「可動式ホーム柵の設計に関する検討会」を設置しました.検討会は,有識者,鉄道事業者等で構成され,全4回の検討会を経て,令和3年12月に「可動式ホーム柵支持部の設計に関する手引き」を取り纏めました.

2.手引きの特徴

手引きの構成を図1に示します.本手引きの主な特徴は以下の通りです. (1) 性能照査型設計法を適用し,従来から多く使用されている許容応力度法による設計の考え方も併記しました. (2) 日常的にホーム上で想定される旅客の行為,及び対象ホーム以外のホームやホーム上家等の周辺工作物が及ぼす環境条件を考慮し作用の状態(通常時,異常時)を設定しました. (3) 群集推力,風荷重の作用の特性値を提示しました.群集推力は,入場規制等の駅構内のソフト対策も考慮した上で,ホーム上の旅客の行為及び電動車椅子の衝突など,実際の使用環境を考慮した設定を可能としました.風荷重は,ホーム柵が建築駅舎内に存在するため,建築基準法施行令が示す設定方法を準用し,地域別の風特性,防風柵等遮蔽物の設置状況等に応じた,きめ細かい設定を可能としました. 更に,実務で参照できる参考資料として,作成した手引きを基に,盛土式ホームおよびRC一体型ホームのホーム柵支持部の設計計算例(案)を作成しています.以降では,群集推力と風荷重の特性値の考え方について紹介します.

3.群集推力の特性値

通常時の群集推力は,特性値および作用点をホーム柵の寸法・形状等により適切に設定するものとしました.また,通常時の群集推力の特性値は,ホーム上が人為的に管理される点も含め,日常的に想定される旅客の行為から,旅客が押す行為等の作用と電動車椅子の衝突による作用の特性値としました. 旅客が押す行為等の作用の特性値は,人1人が力一杯押す行為を想定して1.0kN/mとしました(表1).また,電動車椅子の衝突による作用の特性値は,電動車椅子が速度2 km/hで衝突したときを想定した点荷重2.3 kNを用い(表2),設定するものとしました.例えば図2のように筐体部2m,両側可動部2m,ホーム柵支持部2点のホーム柵先端への衝突を想定すると,支持部に4.6kNの反力が生じるため,特性値は1.5 kN/mとなります.なお,従来,多く使用されてきた特性値2.5kN/mは,ホームの入場規制を行わず密集状態が想定される場合などの最大級の作用として,「異常時」と位置づけ,駅の特性に応じて用いるものとしました.

4.風荷重の特性値

ホーム柵に作用する風荷重の特性値は,周辺工作物等の設計条件(構造条件や設計耐用期間等)を勘案して設定するものとし,一般には建築基準法施行令第87条および平成12年建設省告示第1454号に示されている10分間平均風速に対する値としました. これにより,設置される地域や高さ別の風特性等に応じて風荷重をきめ細かく設定できるようにしました.なお,従来,多く使用されてきた特性値3.0kN/m2(一律)は,特に風の強い地域等で想定される最大級の作用として,「異常時」に位置づけ,設置環境や条件に応じて用いるものとしました. 更に,ホーム上家や防風スクリーン等の周辺の遮蔽物の有無等に基づき風荷重を設定できるようにしました.これは,風洞試験で確認した風力係数Cfに基づくもので(図3,図4),詳細は,既報(施設研究ニュースNo.376 2021.12.1)でも紹介していますのでご参照ください.

5. おわりに

本稿では,作成した手引きの特徴と,特に群集推力と風荷重の考え方について紹介しました.本手引きおよび設計計算例は,鉄道技術推進センターのホームページからご覧になれますのでご参照ください.

執筆者:構造物技術研究部 建築研究室 山本昌和 担当者:構造物技術研究部 建築研究室 清水克将,石川大輔

発行者:中村 貴久 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】 編集者:深野 雄三 【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地盤防災】